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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年11月号
IT(情報技術)革命を考える
広範な国民連合神奈川代表世話人 竹田
四郎
IT革命の裏側
最近「IT革命」の言葉が踊っている。日本政府も米国なみに長期安定した経済再生を図ろうと躍起である。ITも便利、効率的だが、恐ろしい落し穴もある。その穴をふさいだ上で十分に利用し、利便性を楽しむようにしたい。
ITとはパソコンや携帯電話等を使って情報をやり取りする最近大流行の技術である。十年前はコンピューターは大型で大学の研究機関や特殊な団体しかもてなかったが、小型化し、価格も安くなり、役所、学校、小企業、家庭にまで普及するようになった。通信線と機器のあるところ、国境を越え、誰とも、好きな時間に、居所で、瞬時に、通信や情報交換をし、保存、印刷できる仕組みになっている。毎日のマスコミでも、雑誌でもその利点だけの大宣伝が行われている。
ITが便利だということは、それの使用において、まったく自由、無制約ということである。旧来のほとんどすべての枠・規制・慣習などを打ち壊してしまう。国境も信頼・信用関係も秩序にも縛られはしない。世の中の上下、従属の関係も水平関係にしてしまう。旧秩序を壊してしまうということではまさに革命といえるだろう。数知れぬ落し穴を含んでいる。企業幹部の不正、背任、欠陥商品の内部告発にもつかえるが、犯罪の温床にもなる。使用者全部にモラルが厳しく求められるが、言うはやすく、行うは難い。
今後インターネットで商品やサービスを売買する取引が多くなろう。インターネットには勿論、売買にもクレジットカードの使用が必須となる。登録名やカード番号を解読悪用され、被害を生ずることがある。年間の被害は百五十億円から二百億円といわれているが、実際は六、七百億円にも上っている。また注文していないものが送り届けられたりする。
金融の不安定要因
ITがもっとも発展している分野は金融、証券の世界だろう。アメリカでもそうだったし、日本でもこの業界では早くからIT機器が導入された。バブル崩壊後、金融機関の不良債権化、国際競争の激化、コスト削減などでIT革命は進んだ。同時にグローバル化で国境の壁が取り払われた。投資資金は一日一兆ドル以上も世界中をかけ回っている。儲かるとなれば一瞬にして資金は集中し、危ないとなれば撤退し、市場の動きも激しい。これまで以上に不安定要因を抱えることになる。今まではお金の取引には必ず、印鑑や署名(サイン)を必要とした。電子取引では特別の措置が必要となる。そのために「電子署名及び認証業務に関する法律」、「電子公証制度」もできて、電子商取り引きの安全性を確保する改正は一応行われたが、実際には活発に動いていない。特許権、著作権のことでも無断、無料の使用のことでいざこざは絶えない。
所得格差の拡大
これから企業対企業(B2B)、企業対消費者(B2C)の電子取引は活発になっていく。政府は高齢化社会の福祉財源として消費税率の大幅引き上げを考えているが、電子取引では実態が把握できず、課税が困難になる。アメリカ州政府では小売売上税の課税は困難だとしている。また金融自由化の中では所得の把握も、所得課税は難しくなる。タックスヘイブン(税金避難地)など利用される。所得再分配による福祉国家政策など幻になる。
雇用の面についてはすでに厳しいが、各人にIT機器を持たせればトップと社員との連絡は直接取れて中間管理職は不用となる。また企業間の部品調達など直接メーカー同士の注文発注となり、電子カンバン方式が採用される。商社、中間卸、倉庫などは不必要となり、余剰人員が排出される。ITで雇用創出がいわれるが、過大宣伝の恐れがある。
デジタルデバイド(情報格差)という言葉がたびたび見られる。情報に対するアクセス環境の優劣が所得格差を決定する。すなわちネットワークへのアクセス環境が優位にあるものは多くの情報に接触でき、社会的優位を確保できるが、競争劣位にあるものは情報を取得できず、劣位に甘んじなくてはならない。ITは急速に格差を拡大し、富の偏在、社会の階層分化に拍車がかかり、緊張関係をもたらす。国連開発計画の「グローバリゼイションと人間開発」(一九九七年)によれば、世界の五分の一の最富裕国の所得の世界総所得に占める割合は八六%に対し、五分の一の最貧国は一%に過ぎない。この割合は一九七三年は四四対一、九二年には七二対一から今日まで広がった。本年五月、国連事務総長は国連社会経済理事会に対し、インターネットが社会の分極化をもたらすと警告を発している。また金子勝慶応大教授によれば、「世界の二百人の金持ちの純所得額は、一九九四年は四千四百億ドルであったが、九八年には一兆四百二十億ドル、わずか四年間に二・四倍に増えた。日本でも資産や所得の格差は拡大傾向にある」と警告している。
導入だけに躍起の森政権
十年前にバブルがはじけて、長期不況に陥った。この間二百兆円以上の国債を発行し、公共事業に投資したが景気回復せず、その効果に国民批判が集中し、自民党は総選挙に大敗し、これに代わるものとしてIT戦略を選んだ。森首相は九月下旬の国会冒頭の所信表明演説で「日本新生のもっとも重要な柱はIT戦略、豊かな国民生活と競争力を実現する鍵。五年後には世界のIT最先端国家にする。全国民がインターネットを使えるようにする」と断言した。来年度末までに公立小中高校に教員一人に一台、二〇〇五年までに児童・生徒五・四人に一台(現在一五・三人に一台)のパソコンが行き渡るよう、また技術習得のための費用等を今次補正予算に相当多額計上し、来年度からは大幅増額する気配だ。
しかし学校現場では対応もできていない。社会全体としても安全、不正防止、格差解消の準備も体制もない中で、導入だけを焦ることは結局バラまき政治になる。
生産拡大なるか?
政府はIT革命による景気回復に期待をかけているが、幻に終わる危険性もある。九〇年代の米国経済を分析した篠原三代平・東大名誉教授は「投資加速」は見られたが、「生産加速」は見られなかったと苦言を呈している。また米GE会長兼CEOジャック・ウェルチ氏も「いまはなんでもかんでもデジタル化だが、工場でものをつくることに関心を持つ人がこの先い続けるのか心配だ」とかたっている。いつも柳の下にドジョウはいない。
先進国アメリカはIT関係の技術については多くを独占している。オペレーションシステム(OS)もインターネット網、その他の特許でもほぼ独占に等しい。そのうえこの世界ではドル、英語などが物を言う。ITは国境を越えて、その暴力を振るう。この独占力が貿易の壁や規制の網を破って突き進む。ITは各国の経済、金融、商取引、医療、文化、思想までグローバリズムに巻き込んでいく。その中軸をなすニューエコノミーの市場原理主義が各国の経済社会を食い尽くしていく。極端な格差の社会を作る。