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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年4月号
 

生産者・消費者の意見を反映する
遺伝子組み換え食品の安全評価を


日本NGO委員会代表まとめ役  伊庭みか子


遺伝子組み換え食品の安全基準

 3月中旬に千葉市で食品規格(コーデックス)委員会のバイオテクノロジー応用食品特別部会が開かれました。
 もともと遺伝子組み換え食品の安全評価という特別部会でしたが、アメリカの思惑でバイオテクノロジー応用食品の特別部会になりました。ヨーロッパではバイオ応用食品=遺伝子組み換え食品という理解です。厳密に言えば安全評価のガイドライン、分かりやすくいえば、遺伝子組み換え食品の世界統一の安全基準をつくるということです。
 コーデックス委員会は、世界保健機関(WHO)と世界食糧農業機関(FAO)の合同の規格委員会です。ウルグアイ・ラウンドで、世界の食品の国際基準を一律にする協定ができ、コーデックス委員会がその基準を決める機関になりました。コーデックス委員会は2年に一度総会を開きますが、バイオ応用食品部会として、来年7月の総会まで中間報告、2003年7月の総会で最終的に決めることになっています。
 コーデックス委員会の本部はFAOに小さなオフィスがあるだけで、研究所はありません。誰がどこで規格を決めているのか。各規格部会は、それを受け持っている担当国(主催国)があります。その主催国が全部、経費も出す。例えば、チョコレートはスイス、肉はアメリカ、柑橘類はブラジルという具合です。スイスの代表団の半分以上はネッスル社です。それぞれ国がお金を出して主催する。自分の国にとって重要な産業を受け持っているわけです。ところが今回のバイオ応用食品の産業が世界的に上位でなく、しかも食料純輸入国の日本が主催国になりました。
 コーデックス委員会は、必ずしも公正ではありません。以前、コーデックス委員会の代表団を調べたことがあります。それぞれの規格部会によって違いますが、農薬残留規格部会の場合、日本の代表団の大半は農薬などの企業、アメリカも30名のうち20数名が企業。コーデックス委員会の加盟国は165ヶ国ありますが、今回のバイオ応用食品特別部会も33ヶ国しか参加していない。ほとんどが先進国、開発側の国です。途上国の参加よりも先進国の企業の参加者が何倍も多いという状態があります。したがって、各国の議会を飛び越して企業が中心になって決めているという批判が出ています。今回のバイオ応用食品の特別委員会には、幕張で開かれていた「アメリカ食品フェア」に参加したアメリカの産業界の人々がそのまま残って参加したので、アメリカの日程に合わせたという見方もあります。

何が議論されたか

 今回の会議は2003年7月の最終決定に向けた議論の内容について、各国がそれぞれ主張を出し合うものでした。いくつかの問題で議論になりました。
 一つは「追跡可能性」、分かりやすく言えば「因果関係証明性」です。何か事が起こったときに、原因となった食品がどこの国のどの農場で生産されたのかを追及できるようにしておく。これが追跡可能性といわれているものです。遺伝子組み換え食品は100%安全だとは証明されていないので、因果関係がきちんと証明できるように前もって規則を決めておく必要があるということです。
 遺伝子組み換えはどんどんエスカレートして、ハドメがきかない方向に進んでいます。いま一番出回っているのはバクテリアです。土の中にいる微生物の遺伝子を組み込むものが多い。除草剤でも死なない微生物の遺伝子を大豆などに組み込む。また害虫が食べると、体の中で毒素ができる性質をもった微生物の遺伝子を作物に組み込むと殺虫性の作物ができます。バクテリアは、空気でも感染するので食べたり、交配しなくても感染します。環境に対して、どういう危険性が及ぶか分かりません。人間にも環境にも100%安全だとは言い切れません。イタリアやフランスなどが追跡性を主張しました。追跡性の問題が議題にのぼることになりました。
 これと関連して「予防の原則」というのがあります。予防の原則とは、99%安全でも、残り1%の安全性が証明されなければ危険だとみなして対策を講じる。対策には輸入禁止とか、表示の義務化、分別管理、栽培禁止などいろいろあります。予防の原則はヨーロッパが主張しています。これに対してアメリカや日本などは危険原則です。危険性が100%証明されない限り、99%灰色でも安全だという考え方です。
 もう一つ、「実質同等」という言葉があります。味、色、におい、その他の基本的性質が同等なら非遺伝子組み換え作物と同等だとみなす。これがアメリカの主張です。ところが、遺伝子組み換えは、調べなければならないことがたくさんあります。何世代に渡った場合の影響という問題もあります。ですから、ヨーロッパなどはもっと厳密に定義し、時間をかけて評価すべきだと主張しています。
 安全性評価に関する2つの作業部会が設置されることになりました。一つはドイツが議長国で科学的な分析方法を検討、もう一つは日本が議長国で一般原則など、消費者問題を検討することになりました。日本では、6〜7月と11月に作業部会が開かれることになりましたが、担当の厚生省が財政的に十分な独自予算がとれなければ、非常に限られた人たちだけの、しかも密室の作業部会になる可能性があります。規格部会はすべて、生産国が議長国で、それぞれの国の産業界の利益追求が目的だと批判されてきました。この特別委員会は、消費国(食糧輸入国)が議長をつとめるはじめての部会です。日本の産業にとって利害関係があるとすれば、外食産業、食品加工業界、飼料・油業界です。大豆は96%、トウモロコシは98%輸入しています。原材料を大量にしかも安定価格で確保するために緩やかな国際基準を望む日本の産業界からの圧力があるのではという懸念があります。作業部会に消費者の声をどう反映させるかが問われてくるでしょう。

急速に増加する遺伝子組み換え

 遺伝子組み換えの商業栽培はアメリカで九六年に始まりました。害虫抵抗性のトウモロコシ(0・8%)と除草剤耐性の大豆(2%)で、試験栽培程度でした。ところが、ここ数年で急速に作付け面積が拡大しました。アメリカの大豆の半分以上、カナダの菜種も半分近くになっています。知らないうちに、私たちの食卓に急速にのぼり始めています。
 これまで産業界と政府は、遺伝子組み換えは安全だ、実質同等だから消費者は黙って食べろ、という言っていました。ところが遺伝子組み換えについての消費者の懸念が高まってきたので、逆に非遺伝子組み換えの市場はもうかる、売りたいという動きになっています。
 昨年、ドイツが主催国になっている特別用途食品の部会で有機食品の国際基準が決まりました。有機農産物の市場が拡大し、付加価値をもった市場として登場してきた。有機農産物(食品)は非遺伝子組み換え食品としても売れるので、国際基準ができれば、大企業も市場に参入しやすくなります。そういう産業界の要求も背景にあります。一方、遺伝子組み換えは、大規模大量生産がしやすいので、加工用原材料などの大量消費市場は遺伝子組み換え作物で、付加価値食品は非遺伝子組み換えで利益を上げたいという産業界の思惑があります。
 遺伝子組み換え作物と一般の作物を最初から分別せず混ぜることによって組み替え作物が普通の食品として売られ始めました。そして今日、大量の遺伝子組み換えが出回る中で、普通(非遺伝子組み換え)の大豆が付加価値をもった大豆として売られているのです。こうすれば産業界は誰も損をしない。高い種子を買わされる現場の生産者と、高い大豆を買わされる消費者につけを払わせる構図が最初からできていたと思います。
 アジアでは、とくに害虫抵抗性のトウモロコシなどの試験栽培が98年のインドを皮切りに急速に広がっています。アジアでは、遺伝子組み換え作物を規制する法律がない国が多く、巨大メーカーのモンサント社やノバルティス社が、アジア各地で勝手に栽培しています。タイでは97年に害虫抵抗性のタバコの栽培を阻止できましたが、途上国での遺伝子組み換え作物の栽培が急速に広がりつつあります。
 モンサント社が日本でも、二年半前から「ラウンドアップレディクラブ」というものをつくり、各地でクラブに入った農家をホテルなどに集めて、大々的に講習会をやっています。ラウンドアップとは除草剤の名前、レディは耐性という意味です。つまり除草剤耐性です。契約栽培農家が増えています。栽培契約書には、種をとってはならない、他の農家に分けてはいけないなど、細かに契約内容が書かれています。販売した種子会社や開発したモンサント社が、いつでも通知なしに立ち入り調査できる契約になっています。花粉や作物を調べて、開発した遺伝子が入っていたという理由で契約違反としてモンサント社が農家を訴えた件数は、アメリカとカナダだけで一万件をこえたという報告もあります。
 日本でも来年からラウンドアップ耐性の稲が作られます。農家は毎年、種を買わなければならない。自家食用に保存していても、種もみ用と判断されて訴えられることになります。またラウンドアップという除草剤しか使ってはならない、一年に何度使うかまで契約書に書いてあります。農家の創意工夫は必要なくなります。つまり、遺伝子組み換え種子は、安全性や生態系など環境の問題以外にも農家の自立を妨げるという問題もあるのです。

生産者、消費者の存在を示した

 政府間の「コーデックス委員会バイオ応用食品部会」に並行して、生産者、消費者、市民によるイベント「コーデックスNGOフォーラム・インちぱ」を開催しました。主催は二月末に設立した日本NGO委員会です。集会と八百人が参加したデモ行進、消費者・生産者の交流、国産大豆による豆乳づくり実演など様々なイベントを行いました。特別部会の吉倉議長が会議の中で、「消費者の懸念を反映できなければ、この会議は成功したことにはならない」と発言したそうです。私たちNGOの意見を無視できないという反映だと思います。十七日には、特別部会の議長と厚生省宛に「消費者・生産者の意見を反映した民主的で透明な『安全性評価』を」求める要望書を提出しました。
 日本NGO委員会は、2月中旬に呼びかけを始め、2月29日に設立。加入者数は、62団体と145人の個人です。短期間でしたが、多くの団体や個人の賛同を得られました。とくにJA関係から農民連まで農業者が顔を連ねてくれた。それだけ農家も関心を持ちはじめたことだと思います。これまで消費者中心であった遺伝子組み換え食品に対する取り組みに、生産者のグループが参加してくれたことが一番の成果であり、有意義だったと思います。
 「安全で安心できる食料システム」は、食料の生産者と消費者の積極的な参加がなければ実現できません。日本NGO委員会として今後どうするかは議論して決めたいと思いますが、生産者、消費者、市民が力を合わせて、特別部会に生産者と消費者の声を反映させる努力をさらに強める必要があると考えています。
         (文責編集部)