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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年4月号
 

食料自給率45%の実現は可能か

農業潰しに黙っていられない秋田県委員会    坂本進一郎


  3月24日に閣議で食料自給率を10年後には、45%(カロリーベース)にすると発表した。しかし、私はこの発表に今ひとつ信用できないでいる。なぜか。
 その理由は、これまで政府は事あるごとに、自給率低下に歯止めをかけると言い続けてきたが、その舌の根も乾かないうちに、毎年末に発表される「食糧自給表」では低下し続け、今や39%(41%というのは古米50万トンを加えた数字で偽装工作の数字である)になってしまった。しかも、今回自給率を上げると言いながら、これまで実施してきた学校給食への米飯の10%補助金を打ち切ってしまった。このように39%になったのは、自給率向上の裏付けとなる予算を何ら講じてこなかったからである。これでは、私だけでなく多くの人も不信を抱くのは当然というものではなかろうか。
 小麦、大豆、さらに米でも儲かるものであったら、農民はこれまで生産に大いにいそしんできたことであろう。だが市場原理(総自由化)のかけ声のもとに軒並み農産物価格を下げられ、いま農村・農民は前回の第二次大戦に例えるなら、焼け野原寸前にきたといえよう。例えば、総自由化の攻撃のもとに、ウルグアイ・ラウンド開始時の1986年に農産物輸入額は3兆円だったのに、その12年後のWTO体制下では4兆6000億円と1・5倍に達しているのである。
 このような状況の中で、この5年の間に米価も1俵1万円弱も下がり、われわれ専業農家を直撃している。そして、毎日の生活が青色吐息で、将来にそこはかとない不安を感じている昨今である。北海道農業は、日本農業の行方を占うバロメーターと言われる。その北海道の新篠津農協と千歳農協を昨夏訪問した。いずれの農協も離農者が多く、農地価格が下がっても買い手がないのだという。北海道はEU並みの面積を持ちながら、離農・倒産が多いということは、それだけ血の通った農政がないがしろにされてきたということなのであろう。両農協で聞いたところでは、離農の要因は、後継者不足、借金、先行き不安の順ということであった。そこで「数年前、北海道農業条例ができたが、この条例は農民に影響がありますか」と聞いたところ、「米価下落でこの条例もどこかに飛んでしまった」という。何か身につまされる話であった。
 今回このような中で、やっと重い神輿をあげて、今までの「自給力」向上から「自給率」向上という言葉そのものを復活させ、かつ5年毎に点検見直すとしたことは、何となく評価してもいいような気はしている。前回の大戦は、すでに昭和19年11月の時点で敗戦は決定的であったが、本土決戦で敵を撃退できるとウソをつきながら、最後まで国民を引っ張っていき、焼け野原になった。今の農村・農民も昭和19年11月の時点をすでに通りこして、敗戦の8月15日に近づきつつある。その時に、このまま放っておくと10年後には、自給率が38%まで下がると見込まれ、そこで国民の不安の声に押され、「不承不承」であっても、焼け野原寸前の原っぱに「自給率向上」という「金字塔」の看板が、かすかにゆらめきだしたのを感じ、私はいささかの農業復権の期待を寄せている。
 とは言っても、本当に自給率向上を実現するには、おそらく並大抵ではない努力が必要であろう。ところが多くの農民の要求は50%であったが、それを45%にした。しかも、自給率向上は、生産者、消費者、自治体が取り組むべきだと強調され、政府の責任は棚上げされ、ここに政府の及び腰が伺われる。今度の発表では、なぜ自給率が下がってきたのかの分析もなく、さらに現状の貿易制度を前提に45%自給率の目標を立てたが、この二つははっきりさせる必要があるのではないだろうか。
 なぜ自給率が下がったのか。第一番目の理由は、アメリカの言うグローバリゼーション、つまりアグリビジネス多国籍企業にとって都合のいい市場原理(WTO体制)に組み込まれたからである。アメリカ従属の中では、日本はグローバリゼーションの優等生といっていい。そのことがアメリカとの密約によって、不必要なミニマム・アクセス米を買い続けている理由でもある。95年から始まったミニマム・アクセス米の輸入は99年までに約300万トンに達したが、何に使われたか政府発表がないので分からない。半分以上は業務用・主食用に使われたのではないかと言われる。ミニマム・アクセス米の統計表をじっと眺めていると、アメリカからの米がちょうど半分になるように輸入されていることに気がつく。日本政府がいかにアメリカ政府に神経を使っているかが伺われる。
 WTO体制との関係で見落としてならないのは、スーパーとコンビニだ。WTO体制というのは、長い流通を通ってくる間に出所不明、かつ遺伝子組み換えのようなわけの分からないものを食べさせる体制になっている。新食糧法施行後、スーパー、コンビニでは米は「食料」というより「商品」として扱い、一方で農民から米を安く買いたたき、他方では「安かろう悪かろう」という米が出回って、米消費減退の一因になっていると言われる。
 自給率の下がった理由の二番目は、大企業・銀行優先策及び、公共事業依存と農村崩壊とは連動しているということがあげられる。例えば、農業予算を見ればわかるように、半分は公共事業になっている。ウルグアイ・ラウンド合意の時、86〜88年を基準に国内助成額を、2000年度までに20%減らすと約束したが、95年度まで米麦の価格を下げたので、その約束は達成した。しかし、その後も下げ続けた結果、2000年度には50%減になると見込まれている。確かにアメリカやEUもそれぞれ74%、38%減らしたが、一方では「緑」「青」の政策を使って、アメリカは2倍、EUは5倍と直接所得補償を伸ばしたので、大規模農業が有利になるという問題はあるものの、日本ほど農民は困っていない。
 ところが日本は、価格支持、所得支持費を減らした分、公共事業費に回した。というより「先に公共事業ありき」のために価格支持費が減らされたといっていい。公共事業費の最大の使い手は、構造改善局で同局次長出身者は自民党から出馬し、自民党と構造改善局の官僚は、不要不急の農道空港、道路、ダムなどの公共事業を推進し、ゼネコンは公共事業費の見返りとして、自民党政治を応援することをやってきた。この結果、今、構造改善局汚職事件が新聞紙上をにぎわしているが、一向に改まりそうにない。我々は10年来、このような農水省は「土木省」になり下がり、我々農民を見捨ててきたと叫び続けてきたが、この点について農民の怒りも小さいと、土木偏重の図式の中で我々は怒りを通りこして、あきらめを感じている。まさに、「農政栄えて、農業滅ぶ」。これが今の農政の現状であろう。
 次に、自給率の下がった理由は、国境措置がはずされたからである。もし、次期WTO交渉で、大幅な関税引き下げが行われれば、45%の目標は吹き飛んでしまう。今の貿易ルールは輸出国中心で公正・公平のルールには程遠い。公平・公正のルールに改めるべきであろう。一説によるとEUは、牛肉・豚肉・鶏肉を一括したセクター論によって、肉類の輸入トータルを認めさせたという。日本も主食の米・大豆・豆類を一くくりのセクター論にすれば、麦は620万トンも輸入しているのだから、ミニマム・アクセスは不要になる。農水省は情報公開しないので、マスコミ諸氏にEUのセクター論の真偽の確認を頼んでいるが、私には今のところ確認の術がない。
 最後に自給率向上は、例えば米価2万円の基準にして、そこまで所得補償をするということで農家のやる気を起こさせなければ、本当に焼け野原になってしまうであろう。