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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2000年1月号
代表世話人年頭メッセージ

覇権と反覇権の間の
自主・平和・民主の新千年紀


武者小路公秀


 覇権と反覇権との攻防戦のうちに世紀・千年紀の転換点を迎えている。
 反覇権の最も輝かしい勝利は、シアトルでの世界貿易機構(WTO)に対する広範な市民勢力によるデモの盛り上がりと、これに伴って起こった予定された農業製品貿易の自由化などの諸決定の不成立であった。これには、日本も、農業が特に生態系に微妙に影響する産業であるという正論を吐いて、市民勢力に味方したが、その背後の意図については問わないことにしよう。とにかく、全世界の広範な社会層を搾取・排除する自由放任・賭博場経済のネオリベラル路線に、ある種の逆風が吹き始めている。日本政府はさらにアセアン諸国の支持を得て、国際通貨基金(IMF)の次期事務局長に、アジア通貨基金案などで米国の不興をかった、大蔵省の反ネオリベラル路線の闘士である榊原氏を推薦していることも、この逆風を吹かせるのに貢献している。しかし、同氏の主張は、これを悪用すれば、日本中心の地域覇権を確立する経済的な大東亜共栄圏構想に利用されかねない。
 20世紀末の反覇権の風は、覇権側の正論が邪魔な人民の側から見て、平和にも民主にもつながらない『自主』勢力や、新しい覇権を確立しようという思惑をもつ大国主義勢力にも、有利に吹いている。
 かつてグラムシは、民衆の支持を得られる神話や価値を操って、かなり広範な覇権連合を造っていたファッシズムに対する広範な人民の反覇権連合をつくることを主張していた。今、米国を中心とし、西欧と日本との協力を得ているグローバルな覇権連合は、平和と民主主義、人権など、世界の民衆が支持している普遍価値を使ってその覇権戦略を正当化している。たとえば、コソヴォでのアルバニア系市民の殺戮のかどで、ミロシェヴィッチ大統領を処罰するために、NATOによるセルビアの空爆を行った。空爆の間、コソヴォの地上戦でますます多くのアルバニア系市民が殺され、戦後は、セルビア系市民への報復殺人が絶えていない。人権は本来、ヨワイ立場の人間の安全と自主性を守るものなのに、米国はその覇権の敵を裁き処罰する普遍的な原理に作り変えた。
 これに対して、内政不介入という自主性原則を正しく主張して、ロシアと中国が反覇権のために立ちあがったことは、自主・平和の立場から大変よかった。しかし、その後、テロ、ならず者国家、イスラム原理主義を平和と民主主義と人権の敵とする米国の論理を借用して、ロシアは今チェチェン民族の処罰的な大虐殺を敢行している。覇権連合も反覇権国もともに正義の名で人民を殺している。自主・平和・民主のために広範な反覇権連合を組もうとするとき、誰が敵か味方か大変わかりにくい中で、グラムシ流の「陣地戦」いや「諜報戦」のうちに新世紀、新千年紀を迎えることは、一休の言うように「めでたくもあり、めでたくもなし」である。