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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年11月号
 

目前に迫った次期WTO交渉
食料・安全・環境問題は国民的な課

全国農業協同組合中央会農政部長 小橋暢之


十一月のWTO閣僚会議

 一九九三年十二月に合意したガットのウルグアイ・ラウンド交渉でもそうでしたが、WTO(世界貿易機関、九五年発足したガットにかわる機関)の次期交渉も、農業交渉が軸になると思います。十一月三十日から十二月三日までシアトルで行われるWTOの閣僚会議と、その宣言が重要な意味を持ちます。
 一九八六年に南米のウルグアイで閣僚会議がもたれ、ガットのウルグアイ・ラウンド交渉がスタートしました。しかし、八六年の閣僚会議宣言には、日本の主張はほとんど反映できず、スタートの時点から不利な状況に追い込まれました。
 十一月の閣僚会議では次期WTO交渉の目的、性格、期間、交渉分野などが決められるわけですが、宣言にわれわれの主張がどれだけ反映させられるのか、大きなポイントです。
 その宣言の第一次草案が十月に出されましたが、アメリカの言いなりに近い内容です。これに対して、日本、EUなど八ヶ国が共同で対案を出しました。それを受けて出された第二次草案は、第一次草案も生かしつつ、八ヶ国共同提案も併記する内容です。十一月の閣僚会議で一つにする作業が行われます。その閣僚会議に向けて、日本のNGOも、各国のNGOもシアトルに集まる。今回の閣僚会議はオブザーバー参加が認められています。全中として代表十五名のオブザーバー登録しています。日本のいろんな団体も登録、おそらく世界中から三万〜四万人のNGOがシアトルに集まると思います。

農業交渉をめぐる争点

 アメリカなど農産物輸出国は、将来の関税はゼロに、輸出補助金は全廃せよ、など徹底した自由化を進めようとする主張。日本やEUなど八ヶ国提案の立場は、輸出国の農業も輸入国の農業も、あるいは先進国の農業も途上国の農業も、共存していけるような公平で公正なルールを主張。かつ農業のもっている多面的な機能、あるいは食料安全保障への配慮などを主張しています。徹底した自由化(関税率の引き下げ、農業保護の削減、アクセスの改善など)を求めるグループと、農業の多面的な機能に立脚した農業政策を求めるグループがぶつかっています。さらに加盟国が増えた途上国の要求も大きな声になってくると思います。

日本農業とWTO交渉

 日本の食料自給率は年々低下していますが、その背景が以前と最近では違ってきています。一九六〇年当時、カロリーベースで八〇%あった食料自給率が、五〇%に低下した主要な要因は、エサ、小麦、大豆などの原料作物を輸入する方向に転換したためです。八〇年代以降の自給率の低下は農産物の自由化、市場開放が大きく影響しています。現在は、四一%まで低下しています。
 九三年の合意後、農業の国際化が進む中で、国内農業を健全に存続させるために、三年間をかけて新農業基本法制定運動を展開してきました。今年八月に、食料・農業・農村基本法(新農基法)が制定されました。新農基法には、国民の食料確保は、輸入や備蓄との組み合わせが必要だが、国内生産を基本にするという食料安全保障の理念が出ています。同時に、農業は多面的な機能を果たしているので、農村の活性化をはかる。今後、新農基法に基づいた基本計画をつくり自給率向上目標を設定して、政策を展開する。今年から、麦と大豆の国内振興を本格的にやることになっています。
 ところが、日本が麦や大豆などを振興していく場合、生産振興政策のために補助金の投入も必要です。その場合、WTOでそれは認めないという方向であっては、国内で決めた政策が実行できません。ですから今度の交渉では、食料の安全保障にかかわるような自給率の低い作物については、生産刺激を行ってもWTO協定上も認めるべきだという議論をする必要があるわけです。
 一方で、日本の米は依然として需給が不均衡です。国内消費が低下していく中で、生産調整(減反)をしていますが、余っている状況があります。ところが、関税化に移行する中で、マニマム・アクセスが入ってきています。マニマム・アクセスというのは、関税化に移行した品目のうち輸入量が国内消費の三%に満たない品目は、三%から五%(三%からスタートして二〇〇〇年に五%)のミニマム・アクセスを実施する。これが合意内容で、各国がそれに相当する品目については実施している。日本は特例措置を選択したので、ミニマム・アクセスの量が四%〜八%というペナルティを受けました。
 その反面、関税化に移行した品目については八六年当時の内外価格差を関税相当量としてよいという合意があります。日本の米のミニマム・アクセスを八%まで実施してしまうと、二〇〇一年以降も毎年〇・八%ずつ拡大しなければならなくなる。そこで、昨年関税化に踏み切りました。八六年当時の国内卸売価格と輸入価格の差をもって関税率とした。計算すると、一〇〇〇%におよぶ関税率になります。
 アメリカなどは次期交渉で、この関税を大幅に引き下げようとねらっています。高い関税を一気に低くするマキシマム・タリフ(最高関税)という考え方です。第一次草案にも、第二次草案にも、その文言が入っています。例えば、農産物の最高関税を五〇%にし、そして次期交渉ではその五〇%の最高関税を下げる交渉をする、という議論です。この議論については、絶対認められません。
 内外価格差とは、輸出国と輸入国の農業の格差をあらわしたものです。農産物の生産は、各国の地理的・自然的条件などで大きな開きがあります。例えば、アメリカ大陸で大規模に生産するのと、日本で生産するのとでは価格に大きな差がでるのは当然です。各国農業の違いを認めたからこそ、内外価格差を関税率に設定することが合意された。アメリカなどが主張するマキシマム・タリフ論は、この精神を否定するもので、絶対に認めることはできません。
 さらにミニマム・アクセスというのは、各国の需給の実態とあっていません。日本の米は相当の減反をやっているに余っている。にもかかわらずミニマム・アクセスでさらに余剰になる。余っているのになぜ輸入しなければならないのか、減反を受け入れている農家の率直な声をもとに、需給の実態にあうように改善を要求していきたい。

食料・環境に関わる問題

 日本は、年間四兆円をこす農産物を輸入する世界最大の食料純輸入国です。食料自給率はカロリーベースで四一%という数字も、先進国の中でも異常な低さになっています。これは長い間の工業重視の貿易政策のひずみです。
 大量の食料輸入がいつまでも可能とは思えません。例えば、近いうちに中国がWTOに加盟することになると思います。WTOに加盟すれば、好むと好まざるとにかかわらず、中国は農産物の市場開放をせざるをえない。輸入量がない場合にはミニマム・アクセスで一定の量を入れなければならない。中国は日本とは十倍も規模が大きいわけですから、ミニマム・アクセスといっても十倍の規模になる。そうなれば、国際的な農産物需給はひっ迫し、農産物価格は急上昇する。農産物を買えない途上国が数多く出てきて、いま以上に食料不足が加速することになります。
 国連食糧農業機関(FAO)の食料サミットで、世界の飢餓人口(八億人)を半減すると確認されました。しかし、飢餓人口は減らないどころか、自由貿易や市場原理の促進で、逆に増えています。シアトルの閣僚会議に参加するNGOの大半が、そういう問題意識をもっています。過度の貿易優先は、環境破壊につながり、農業資源を枯渇させるという考え方が広がっています。
 もう一つ、次期WTO交渉で大きな問題になっているのは、遺伝子組換え作物(GMO)をめぐる問題です。これは三つの分野があります。
 第一は、遺伝子組換え体の知的所有権をめぐる問題です。アメリカの巨大多国籍企業が支配しつつあります。ところが、それらの遺伝資源つまり原種の大部分は途上国が原産です。先進国が途上国から原種を持ち出した上、遺伝子組換え種子を独占して途上国に売るやり方は、二重の略奪・新植民地主義だと途上国は非難しています。
 第二は、遺伝子組換え体の安全性、植物検疫制度をめぐる問題です。例えば、安全性が疑われているBTコーンは、日本もEUも輸入禁止にしています。WTO協定上は、各国が国民の健康を保全するために各国独自の検疫制度は認められています。多国籍企業を抱える国は、全部自由化すべきだというのが主張です。
 第三は、表示・規格をめぐる協定の問題です。日本では、最終食品の中で遺伝子組換え作物を使用した場合、義務表示が決まりました。多国籍企業を抱える国はWTO協定の内国民待遇を根拠に差別であると主張しています。しかし、消費者には知る権利があります。この問題をめぐっても激しい対立があります。
 この三つの問題で交渉してルールをつくらなる必要があります。われわれは、消費者の知る権利を重視する立場で、国際的なルールをつくるべきと考えています。
 WTO農業交渉は、農産物貿易の自由化を目的にすべきではありません。食料、安全、環境などにかかわりますので、農家だけでなく、全国民、全人類の問題です。そういう角度から、JAとして九月二十八日に国民の皆さんへのアピールを発表しました。ご理解をいただき、国民的な合意形成をすすめたいと思っています。    (談・文責編集部)