国民連合とは月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場 集会案内 出版物案内トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年10月号
 

小さな電器屋は訴える
この国の政治、何とかならんのか

全国電機商業組合連合会会長 福田 勝亮



 野放しの資本主義は弱肉強食

 司馬遼太郎さんは「資本主義を野放しにすれば、猛獣と同じで食い合いになる」と言った。
 政府が規制緩和だと言って法律をどんどん改正し、必要以上に規制緩和を進めたから、大型店が次々に出店し、野放し状態になった。司馬さんの言ったとおりで、今では猛獣と同じ食い合い、弱肉強食の争いになっている。
 ある大型店は、他店のチラシを持ってきたら、それよりさらに3%安くすると宣伝している。すると別の大型店が、うちはそれより5%安くすると言い出す。エアコンは50%値引きだ、それならこっちは52%引き、いや53%だ、54%だ、55%だと。
 これでは殺し合いと変わらず、小さな電器屋はひとたまりもない。真綿で首を絞めるように徐々にやっていけなくされて、苦しみながら死んでいく。
 標準価格も何だということになる。消費者を欺瞞するようなことをやっていても、公正取引委員会は何も言わない。人の命は地球よりも重いと言うのだから、こんな殺し合いをしないように、法律で規制するのが国の役割ではないのか。
 大型店の野放しは、住民の生活環境もこわしている。杉並区にドン・キホーテという1万平米くらいの大きなディスカウント店ができる。環状7号線では一番渋滞の激しい所で、ここに何百台という駐車場を作って深夜営業までやる。深夜に車で大勢の客が集まり、周囲の住民はその騒ぎで夜も眠られない。こんなものを許したらどうなるかくらい、分かるはずだ。
 しかし、住民が反対運動に立ち上がっても、今の法律では深夜営業を止めろと言えない。罪があっても罰がない。警察もいいかげんだが、本家本元の政府は大きなところでもっといいかげんだ。

 子どもの未来は輝いているか

 NHKのドラマ「すずらん」では、「いつの時代でも子どもの未来は輝いていなければならない」というせりふが出てくる。あれは本当にいい言葉だ。だが、今の子どもは未来が輝いて見えるだろうか。
 子どもは親の背中を見て育つと言われている。だが、子どもらの鏡でなくちゃいけない親たちは、明日を考える余裕すらなく、毎日、殺し合いも同然の激しい競争をしている。そういう親しか見ていないわけだから、子どもが未来に夢や希望をもてるはずがない。子どもらは、家庭で人間としての教育を受けず、学歴優先社会の仕組みの中で、塾に通い、ペーパーテストだけの教育に追われている。
 そういう教育の結果がどうなるか。ペーパーテストの成績だけが優秀な者が、役人として出世していく。社会経験が乏しく、現場で苦労している者の気持ちもわからない役人が、法律を作っているのだ。
 街を歩くと、ヤマンバ(山姥)と言うそうだが、頭と口を真っ白にし、せっかくのきれいな顔を真っ黒に焼いた少女が、上げ底の靴で闊歩している。上げ底の靴で死んだ人もいる。業界も業界で、こんな危険な靴でも売れればいいという発想で、販売を自粛しようともしない。
 世の中がおかしくなっている。神奈川県警に大変な不祥事があったように、こんな世の中になったのは、政治にも問題がある。

 政治家の発想が間違っている

 日本経済を支えてきたのは中小零細の企業だ。だが、小さい企業は今、不安でいっぱいだ。
 銀行は小さい企業になかなか金を貸さない。小さい企業は倒産するからだと言う。大きいのを野放しにするから、小さいのがどんどん倒産するのだ。政治家は銀行の貸し渋りだと言うが、なぜ倒産するのか、その原因を根っこから断とうとはしていない。
 大企業が大きくなってきたのは中小や零細の企業を喰ってきたからだ。例えば電器屋では、メーカーと小売りの間に卸をする問屋があった。これが全部つぶれてしまった。大きいのがこれをみんな喰ってきたからだ。小さいのがつぶれてしまえば、大きいのは喰うものが無くなり、赤字になっていく。今度は大きいのがつぶれて失業者が街にあふれ、景気がますます悪くなる。
 社会の仕組み、根本の構造が悪いのだ。その肝心なところに手をつけず、公共投資をやり、どんどん金を貸せば景気が回復するという政治家の発想が間違っている。
 政府は中小企業基本法を改正すると言っている。改正案が出ていないので、詳しいことは分からないが、優秀なベンチャーを支援し、他は知らんと見殺しにするという考え方のようだ。優秀なベンチャーだと、誰が判断するのか。優秀じゃないと選別されて、見殺しにされる方はたまったものではない。
 中小がどんな状態か、どんな不安を持っているか、どんな支援をしなければならないか、国会議員が地元をまわってみれば、すぐにわかるはずだ。だが、中小企業基本法の改正には、中小の不安が反映されていない。その不安を払拭する政策が出ていない。

 アメリカ一辺倒ではだめだ

 日本は経済敗戦国だ。バブルがはじけて、経済では敗戦という危機的状態にある。
 日本をバブルにしてはじけさせた当時の大蔵大臣は宮沢喜一で、後に総理大臣になった。そのもとで大蔵大臣をやっていた橋本龍太郎が総理大臣になって、景気はさらに悪くなった。彼らは日本をこんなにしたいわば張本人、そういう人を大蔵大臣に引っ張りだして、またこの円高だ。
 円が1円あがれば、ソニーは年間で300億円、松下や東芝は50億円も赤字が増える。現に東芝は250億円の黒字予想だったのが100億円のマイナスになった。日本経済はドルにふりまわされている。
 それにもかかわらず、日本の政治はアメリカ一辺倒で向こうばかり向いている。向こうはドル札を自分で刷っているから、どうにでも調整できるが、そのドルに換算しなきゃならん日本はどうにもならない。小渕首相はじめ全ての政治家がアメリカ一辺倒で、目がアメリカにばかり向いているところに問題がある。
 これからの日本はアメリカ一辺倒ではなく、ヨーロッパや中国とか東南アジアをもっとしっかり見て、それらの国とも力を合わせていくことが大事なことではないのか。ベトナムでは給料が日本の百分の一だから工場を持っていけばもうかる。そんなやり方ではもうダメなんだ。
 日本の国を憂えた司馬遼太郎は、日本は完全に消えてしまったと言った。バブル崩壊で1000兆円と言われた日本の不動産が一瞬にして消えた。その責任を誰も取らない。こんな国は他にない。罪を犯しても罰がない。大きいのはやりたい放題やって、あとの責任はとらない。
 日本人はなぜ怒らないのか。少なくとも60年安保のころは、大学生や若者にまだ元気があった。今の大学生や若者にはその元気が見えない。国会にデモして揺さぶり、何とかしようという元気のある者がいない。みな頭でっかちになって度胸がない。そういう社会になってしまったのだろうか。
 ただの空論じゃなく、われわれはひどい体験をし、その結果が出ている。その結果を踏まえて、坂本龍馬や西郷隆盛のような人間が出てこなくてはいけない。
(談・文責編集部)