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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年9月号
 

財界の露骨で身勝手な要求が通った産業再生法


不公平税制をただす会代表幹事・税制経営研究所長 谷山治雄


 8月13日に閉会した通常国会ではガイドライン関連法案をはじめ、右傾化というか軍国主義への傾斜を感じさせる法案が次々と可決されました。産業再生法も、その一つです。 産業再生法は、日本の産業構造を経済戦略会議の答申で出されているアメリカ型の競争社会に構造改革し、資本主義の市場原理を貫徹することが基本になっています。
 過剰設備、過剰債務、過剰雇用の3つの過剰を切り捨てて、利益が上がる産業構造にして国際競争にうち勝つとのことが軸になっています。税制等の特別措置を含めて、大企業がリストラをやりやすくする露骨な大企業・財界支援の法律です。

 設備廃棄で大幅な減税

 税制の問題、商法改正に伴う企業の構造改革の問題、ベンチャー企業の育成という3つの柱がありますが、税制のことを中心にお話しします。
 産業再生法の一番の目玉は、40兆円とも80兆円とも言われる過剰設備廃棄の問題です。現行法でも設備の廃棄は経費として計上すれば法人税を減らすことができます。例えば10億円の利益が出ている会社が、20億円の設備をスクラップする場合は20億円の欠損金が出るわけで、10億円の利益から引けるわけです。
 産業再生法でどう変わるか。まず第1に赤字が出たら、前年にさかのぼって法人税を戻すことができる。つまり10億円利益が出た会社が、20億円の設備を廃棄する場合、1年で破棄すると10億円の赤字になる。そこで、前年に10億円の利益が出ていれば、さかのぼって10億円の廃棄損として計算できることになり、法人税が戻ってくるという特例措置。黒字企業でも、この方法なら税金を払わなくて済みます。
 また設備廃棄に伴う欠損金の繰り延べ期間を現行の5年から7年に延長した。例えば50億円の設備を廃棄する場合。毎年7億円ずつ利益が出ている会社が、毎年7億円ずつ廃棄損を計上すれば5年間は法人税を払わなくてよい。産業再生法では7年に延長して、6年目に7億円の廃棄損、7年目に8億円の廃棄損が計上でき、7年間も税金がゼロになる。
 2番目は、特定の新規の設備投資は特別償却を認める。例えば、50億円の新規設備投資をした場合、18%の特別償却、つまり9億円多くの償却を認める。すると利益が減り税金が少なくて済む。特定の設備投資をした場合は特別償却で税金をおまけするというものです。
 この法律の特徴は、どの企業でも特例措置を適用されるわけではありません。生産性向上やリストラの計画などを企業が政府(通産省)に出して許可されないと特例措置が受けられない。つまり、助ける企業と切り捨てる企業を政府が振り分ける、政策誘導です。特定の産業、特定の企業のみを優遇するものです。苦しんでいる中小企業はまず問題にされないでしょう。

 分社化でも減税

 次に分社化の問題ですが、いくつかあります。
 例えば親会社が持っている土地などを現物出資して子会社を作ることができます。ただ商法には資本の充実という原則があって、不良債権などの現物出資は認めないことになっています。裁判所が検査役を派遣して検査する。ところが、そういう検査をやめてしまう。どうなるかというと、不採算部門を子会社にする場合、不良債権を現物出資したり、リストラ対象の従業員を送り込むことが可能になる。リストラの一つです。
 逆の意味の分社化もあります。儲かっている部門を分社化して子会社をつくる場合は、非常にいい土地や値上がりしそうな株を現物出資する。親会社の帳簿上では10億円の土地となっている土地を現物出資しても、時価20億円ならば差額の10億円は税金がかかる。現行法なら4割程度の税金ですが、それをやめようというのが今度の法律です。さらに、子会社をつくれば登録免許税がかかりますが、この税金を半減する。
 産業界にすれば銀行救済には政府が60兆円も用意しているんだから、産業界にもやってくれということなんです。まさに大企業の露骨な要求をそのまま法律にした内容です。露骨な大企業優遇なのに、マスコミもあまり指摘しない。

 資産の買い換えでも減税

 そのほかにも、資産(土地、建物機械装置等)の買換えの場合にも課税の特例があります。産業再生法で認定を受けた企業が、例えば、ある会社がもっている工場を20億円で売って、新たな工場をつくるために別な土地を20億円で買えば、大幅に税金をまけるというものです。全額まけると行きすぎだから、80%免除するという特例措置です。
 この特例措置を使って、人減らしのリストラをする企業が出てくると思います。現在の工場は中高年が多くて相対的に人件費がかかる。そこで通勤できないような場所に土地を買い換えて工場をつくる。当然、中高年の人たちは通勤できないから人員整理が出来る。そして新しい土地で、若年層など人件費の安い人たちを雇う。とんでもない話です。
 自社株譲渡の優遇税制というものもあります。自分の会社の株を譲渡するとき税金を優遇する。例えば、上場会社なら額面5万円の株が時価で50万円と仮定します。よく働く従業員にはボーナスとして、額面の5万円で自社株を買う権利をあげるということです。差額の45万円には税金をかけない。時価50万円の自社株を5万円であげる。リストラの反対で、企業に対する忠誠心を強めようという作戦です。

 企業も銀行も儲かる債務の株式化

 過剰債務の問題では、債務の株式化が出来るようにする。例えば、ある企業が銀行から10億円借りたが、それが不良債権化したとします。銀行は不良債権として処理すれば税金は安くなる。しかし、あまりたくさんの不良債権を処理すると銀行の評価が落ちるという面があります。一方、借りていた企業は債務免除利益ということで税金がかかります。
 企業の資本金が10億円だとすると、10億円増資して資本金を20億円にする。その株を銀行にもってもらう形にして、10億円の借金を10億円分の株券にかえる。これが債務の株式化です。企業は増資したので債務免除利益は発生せず税金はかからない。銀行は不良債権より株券でもったほうが得です。もし企業が利益を上げれば株価は上がり損はしない。逆に、企業が倒産したら持っている株券をその時に損金とすればよいわけです。これも無茶苦茶な話です。

 頼りにならないセーフティ・ネット

 経済白書では280万人と言われる過剰雇用の問題。過剰雇用については、今回の法律には直接は書いてありません。しかし、政府がセーフティ・ネットを充実するから、企業に対して首切り・人減らしを奨励しています。セーフティ・ネットとは何か。リストラで失業した労働者に対して職業訓練所等を作るので、それらを通じて再就職の努力をしなさいということです。再雇用を保障するわけではない。その程度のものです。

 アメリカ型の競争社会は良いか

 そもそも3つの過剰と言われているうち過剰債務は、不良債権ですからある程度金額が分かると思います。
 しかし、過剰設備ついては問題が多い。経済白書では需要と供給の差(需給ギャップ)から推測しています。過剰設備には二つの側面がある。一つは需要が少ないと言うこと。賃金が低くて国民の購買力がないということ。もう一つは国際競争力との関係もあります。少なくても、需要を高めれば過剰設備問題はかなり解決するのに誰も指摘しない。
 過剰雇用の数字は上場企業200社の調査からの推計ですから正確なものとは言えません。これから少子高齢化社会になりますので労働人口はあまり増えない。いまどんどん首を切られているのは、熟練度をもった中高年層です。労働者の基本的人権の問題であると同時に、十年先の日本経済の技術の問題など考えるとマイナスだと思います。
 国際競争力を強化しなければといいますが、日本の自動車など大企業は依然として大黒字です。さらに競争力を強めるとは一体どういうことなのか、考える必要があります。それをしないで、3つの過剰を切り捨てて、企業の利益をさらに上げて、アメリカ型の競争社会にすることが国民にとって良いことなのか。
 産業再生法も含めて、どんどん首切りをやったり賃金を抑えれば確かに個別の企業は利益が上がる。その企業は繁栄するかもしれません。しかし、大量の失業者が出たり、全体的に賃金が下がれば購買力はさらに下がり、国民経済としては成り立たない。経済白書でもリストラのジレンマと言っています。
 現在、アメリカは数年来の好景気と言われています。大量の首切りをやって企業の利益を上げてきた。雇用が増えたと言っても、労働者は失業と転職の繰り返しで、低賃金のパートなど不安定雇用が急速に増加しており、その結果、貧富の格差が拡大しています。アメリカの好況の本質は株価上昇によるマネーゲームの経済、バブル経済です。マネーゲームを続けるために、世界中の資金をアメリカに集中する必要がある。日本の金利を異常に低く抑えているのもそのためです。何かの拍子に株価が暴落したら一気に崩壊する危険性があります。みせかけの繁栄です。
 いまでも300万人をこえる失業者がいるのに、さらに大量の首切りを奨励する。政府がめざすアメリカ型の社会が、大多数の国民にとっていい社会とはとても思えません。

 消費税率の大幅引き上げ

 大企業の優遇税制には続きがあります。次は連結納税制度をやろうとしています。例えば、親会社は黒字、子会社は赤字とします。現在は別々に決算していますが、親会社と子会社の決算を一緒にして子会社の赤字を親会社の黒字で相殺するやり方です。そうすれば親会社は黒字でも税金を大幅に減らせる。税制調査会で論議して、早ければ来年から実施される可能性があります。
 さらに税制調査会で検討されているのが外形課税です。現在は利益があれば課税する。外形課税は給料、支払った利息などに課税するやり方です。赤字や黒字に関係なく課税でき、給料をたくさん払うと税金が重くなる仕組みです。つまり、外注に切り替えたり、リストラ首切りをするほど税金が安くなる。外注への切り替えやリストラ首切りを促進するものです。中小企業にとってはとんでもないものですが、赤字や黒字に関係なく課税できるので財政危機に苦しむ自治体は賛成しています。
 法人税は引き下げられ、世界最低水準になりました。地方税も含めてもアメリカと同じくらいです。今回の産業再生法でも大企業優遇税制がつくられました。その上、連結納税制度なども含めて実施されれば、大企業からの法人税がますます税収減になり、国家財政は苦しくなります。どうするか。政府の方針は明確で、消費税率の引き上げです。経済戦略会議では、2003年に10%にする必要があると言っています。竹中平蔵氏(経済戦略会議委員)は14%、政府税調の加藤寛会長は18%が適正税率だと言っています。消費税率を引き上げるというと反対されるので、福祉目的税にするというのが政府の方針です。
 今回の産業再生法は露骨な大企業優遇であり、その犠牲になるのはリストラ首切りされる労働者、疎外され淘汰される中小企業です。いま検討されている税制改革の流れは、その方向を加速させるものであり、最後的には消費税率の大幅引き上げという形で一般国民の肩に重くのしかかってくる。こうした方向は許せるはずがありません。国民全部が怒りの声をあげる必要があると思います。
(談・文責編集部)