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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』1999年7月号
新農基法の公聴会に参加して
秋田県農民 坂本進一郎
国会議員への質問は慎むように!
6月15日、参議院農林水産委員会は、仙台市で公聴会を開いた。公述人は5人。私もその1人として呼ばれていった。たいていこういう席に呼ばれるのは、農業士といった肩書きのついた人だが、私のように無位無冠の人間が呼ばれたのは、各党の推薦制のせいであった。だから、公述人の意見は政党好みの形で微妙に違っていたのを各公述人の発言を聞いて私は感じた。
会場に入った瞬間、私は一瞬緊張した。というのは、質問者を含めた国会議員9名がズラッと目の前に並び、それと相対峙するかっこうでわれわれの座る席がつくられ、何だか被告席に座らされたような感じをもったからである。しかし、それもすぐ慣れた。
公聴会の方法は、1人15分ずつ話して、そのあとに自民、民主、公明、共産、社民の各党議員から15分ずつの質問が行われる方法がとられ、時間的には物足りない気がした。
野間赳(自民党)委員長があいさつして、いよいよ公聴会が始まったが、委員長から「私共に対する質問は慎むように」と釘をさされたのには「あれっ」と思った。私は次期WTO交渉では、前回EUが牛肉、とり肉、豚肉をセットにしたセクター論で国境措置の代替措置を行ったということをチラッと聞いていたので、日本も米、小麦、大豆の穀物を一本化したセクター論で臨めないのかと思ったからである。というのは、今、小麦は620万トン輸入され、その半分はアメリカからのものである。もし、それ故、小麦と米がセットに勘定されれば、ミニマム・アクセス米はなくなるので、国境措置の代替になる。だから、その辺のことを聞きたかったのだ。結局、このことについては先に述べたように、時間の制約もあって、ついに発言する機会なく終わってしまった。
発言要旨
さて、参議院の事務局から、公述人になってくれと言われたが、発表の持ち時間は1人15分という短い時間と聞いて、これではあれもこれも言うことはできはない。そこで、私は10年来の主張であるデ・カップリング(直接所得補償、正確には不足払い)の実現に的を絞って訴えることにした。なぜ、デ・カップリングなのか、発言主旨は次の通り。
「まず、私は大潟村の15ヘクタールの専業農家だが、今日専業農家ほど、米自由化や食糧法という矢つぎ早の農民つぶし策(農業つぶしではない)によって意気消沈している。何しろ、米価は食糧法後、1俵当たり5000円、1農家当たり500万円くらいの減収となった。さらに関税自由化、減反強化が追い打ちをかけ、明日の営農計画が立たないのが、実情であり、一口に言って多くの入植者は、極度の情緒不安定にある」。
「そこで、今回淡い期待をもって、新農基法を読んだが、消費者ニーズとかの言葉が踊っていて、一読して気の抜けたビールという感じがした。それは市場原理万能でやっていけばいいので、日本の農民がつぶれようが、安いものを輸入すればいいということで、『農業を国民経済の中にしっかり位置づける哲学』がなく、その結果、この農基法には肝心の農業・農民が出てこないからである」。
「独立国の要件は、国民が安心して暮らしていけることだが、そのためには日本の食料が安全かつ安定的に入手できるシステムが必要である。グロバリゼーションによって国家主権が脅かされている今日、国家主権の大きな部分を占める『食料主権』の概念の復活を、私は今日の公聴会で何よりも訴えたい。というのは、アメリカの圧力によって今、41%まで自給率は下げられ、真の独立国とは言えないからである」。
「私は食料主権回復の証として、政府の責任つまり予算措置によって、自給率を50%に上げることを要望したいと思う。自給率向上が決まってくると、次は農地の確保と農業経営の安定が必要になってくる。その農業経営は、先述のように、米価が下げられた上、減反を委託すれば200万円も委託料(とも補償費)がとられ、さらに意外や意外、昨年からできた稲作安定対策(通称、稲経)がわれわれを苦しめている。というのは、これまで米価を構成していた自主流通米助成金が、稲経の予算にまわされ、その分米価は下がり、その稲経によって苦しめられている」。
「そこで、デ・カップリングを要求する。その理由は、稲経のように農民に負担を強いるやり方ではなく、例えば、米価2万円というふうに補償してもらいたい。米価を2万円にするのに、自主流通米600万トンで計算すると、あと3000億円くらいの追加予算で間に合うのである。そうなればわれわれは、こんなに苦しまなくても済む。次に、アメリカの大豆の5割、トウモロコシの6割は遺伝子組み替えによって作られ、ヨーロッパは不買運動を始めたので、遺伝子組み替え食品は日本にどっと押し寄せてくるであろう。食料主権の中には、安全なものを食べる権利も含まれている。この際、転作奨励金を米並みに補償して、大豆の自給率を上げるべきだ」。
「デ・カップリングの財源はないと政府は言うが、そんなことはない。農水予算の52%を占める不要不急の公共事業費を削れば、十分捻出できるはずである。関税自由化になろうが、ミスマム・アクセス米を続けようが、農民にとっては去るも地獄、残るも地獄なのだから、国内対策、つまりデ・カップリングをEUのようにやって欲しい」。
感想と問題点
自給率については、公述人4人まで期せずして50%を明記せよと訴えたのは印象に残った。また、食生活の乱れが米離れを起こしている。だから、日本型食生活の回復を行うため、小中学校の教科書で教えるべきだし、学校給食の回数も増やすべきだと生産者、消費者の公述人から出された。ここで驚いたのはマクドナルドの戦略だ。マクドナルドは、30年ワンサイクルの考えで日本の食習慣を変える戦略を組み、28年前に5軒あったハンバーガー店は、今や日本全国に5500店もあるという。これは何を意味するか。これこそ食生活の乱れを意味する。そして、この乱れと共に国民医療費が増えているという公述人の証言もあった。
一方、公述人に対する国会議員の質問は、デ・カップリングに集中した。何に対して所得補償するのか、線引きをどうするのかといった質問まで出された。デ・カップリングを提言すると必ずこの種の質問が出る。そして私は困ってしまう。そこで私は、ドイツ、フランスの歴史的経緯を説明(EUのデ・カップリングは、実に4分の1世紀の歴史がある)し、EUでは実に、53%までが条件不利地になっている。家族農業をどのように守るかという視点がはっきりしているからで、日本でも農業・農民に対して血の通った政治を行おうとすれば、補償額、線引きの問題はおのずと答えは出てくるのではないか、と私は答えた。
ある国会議員から、株式会社の農業参入にもメリット、デメリットがある。それを踏まえてどう思うかという質問があったが、公述人は一様に、株式会社の農業参入を拒否した。私は、水社会という日本の文化を破壊する結果になると警告した。
国会議員からは熱心な質問が相次ぎ、予想以上に手応えを感じたが、時間が足りず、突っ込んだやり取りまでいかなかった。農業の再生は、次の時代の日本をどうつくり変えるか。つまり、ゼネコン奉仕型とアメリカへの従属の経済をどう作り替えるかにかかっている。農業問題だけをとり出して論じても空回りにしかならない、ということを今回の公聴会では強く感じた。