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自主・平和・民主のための広範な国民連合
『日本の進路』地方議員版34号(2007年2月発行)

インタビュー

新型交付税の見直しを

立命館大学助教授 森 裕之 


 新型交付税は、昨年7月に前竹中平蔵総務相の私的諮問会議として設置された「地方分権21世紀ビジョン懇談会」(座長:大田弘子・特命担当大臣・経済財政政策)の報告書で提起され、安倍政権の下で2007年度から実施されることになった。来年度は地方交付税の1割程度(約1兆5000億円)を新型に移行するが、3年後には5兆円規模に拡大する。この新型交付税制度の導入は、地方自治体、とりわけ小規模自治体の存亡にかかわる重大な制度転換であった。昨年12月25日、全国町村会と全国町村議会議長会は新型交付税は「小規模な団体が犠牲になる」と懸念を表明し、実施に際しての十分な配慮を緊急要請した(参考資料参照)。新型交付税の問題点について、森裕之・立命館大学政策科学部助教授にお話を伺った。(文責・編集部)

 
 格差を助長する新型交付税

 前小泉政権が推進した三位一体改革は、補助金の削減と税源移譲、交付税の改革を進めるということでした。補助金削減と税源移譲まできたので、交付税については別枠で削っていくという方向が非常に強かったわけです。そういう中で地方6団体の要求もあり、金額は減らされましたが地方財政制度そのものは維持するということで2006年度まできました。その段階では地方交付税も大幅に減らされたが、制度としては維持されました。しかし、今度は交付税制度自体を変えていこうという動きが強まり、その第一段階が新型交付税だと思います。
 現行の地方交付税の算定はきめ細かに決められています。例えば教育費でも、スクールバスが出ている場合は補正係数をかけて必要経費に入れてある。あるいは除雪が必要な地域は各行政需要項目に補正をかける等、大変きめ細かに設定されています。
 ところが、それを面積、人口から割り出し、簡素化するという新型交付税が出てきた。これを試算してみると、農村部は交付税が激減します。財政力の強い都市部ほど増えます。地方交付税は基本的に財政力の弱いところを補って配分されるという性格のものです。いまいろんな格差があります。個人の格差、自治体の格差があり、その格差が新型交付税でさらに大きくなっていくことは間違いありません。
 いま新型交付税の陰に隠れていますが、新しく地域振興費というのが基準財政需要額の項目として設定されています。これも人口と面積で計算されているので、新型交付税とそう大きく変わらないものになっていく可能性があります。
 来年度の新型交付税では、段階補正と土地の種別補正等があり、宅地が一番高い、その次は農地、林地だと、それぞれ係数をかけて算出します。もともと地域振興費に似たものとして企画振興費というのがありましたが、これは農村部の地域振興を支えるかなり大きなものとして位置づけられ交付税の算定項目にありました。
 例えば第一次産業の就業者率が高いところほどこの企画振興費というのは割り増しされ、若者の定住率が低いところほどたくさん交付税を出すという形のものだった。しかし、例えば安倍政権が出している「頑張る地方応援プログラム」というのがありますが、これは明らかに従来の交付税の仕組みと逆の仕組みです。つまり、出生率が高いところほど、たくさん交付税が配分され、就業率も上がるところほど交付税がいく。成果が上がったところほどお金を出すという方向です。過疎が進んでいるところはますます切り捨てられことになります。若い人がいないところで出生率が上がるということはあり得ません。
 そういう交付税を政策本位に利用するというのは大変問題で、例えば出生率が高いということは少子化対策を積極に行う自治体を優遇するということです。ところが一方で、高齢者福祉に非常に力を入れている自治体は多いわけです。この政策について国として優劣をつけることになります。それは補助金でやるべき話であって、最低限の住民サービスを支える財源であるべき交付税を、そういった国の政策を誘導する手段として使うべきではないと思います。

 自治体が金融機関に支配される!破綻法制化

 例えば国土計画は、戦後ずっと均衡ある発展・公平性を重視した政策をとってきたと思います。そのために交付税制度もあって、地方のサービスを支える固有の財源として手厚くしてきたという歴史があります。それを逆の方向に、つまり効率のいいところに財政が流れていく方向に国土計画も変えてきています。構造改革特区なども同じ発想で、自治体の財源を引き下げておいて、国にとって非常にいいと思えるところに予算をつけ規制緩和を行う。地方分権の時代だといいながら、実質的には政策誘導する形で逆行している側面も否定できないと思います。
 「21世紀ビジョン懇談会」の論議で問題なのは破綻法制です。これは三位一体改革の中では放置されていた問題ですが、例えば公営企業金融公庫なども廃止されるし、これからは地方公共団体が地方債を発行して民間の金融機関から借りることになると思いますが、厳しい状況に追い込まれると思います。そうすると、自治体の財政能力に応じて金利も違うなど、借りる条件が違うという方向に変わってきます。財務状態を良くするというのが自治体にとって非常に重要な課題となります。例えば財源を生まない福祉とか教育は削っていくという可能性があります。
 また、行き詰まった地方自治体では貸し付けた金融機関が財政・政策に口を挟むことになりかねない。「21世紀ビジョン懇談会」の報告では破綻法制の議論も出ていましたが、 例えば負債を抱えた自治体の資産を売却する場合、保育施設が駅前の一等地にあるので非常に高く売れるとする。財務的な観点からいうと、売却することが効率がいいということにおそらくなると思いますが、駅前の保育所というのは、その地域の働く親御さんにとって、非常に重要な施設かもしれない。そういった住民の要求がどこまで反映されていくのかということは非常に疑問です。本当は地域の住民、議員や行政マンが行政サービスの内容や、あり方というものを論議して提起すべきですが、金融機関によって左右されていくような動きが活発化する可能性があると思います。

 市場経済のグローバル化が背景

 小泉改革を引き継ぐ安倍政権の経済成長戦略は、農村部より都市部を重視していくことに当然なります。それが地方財政にも反映されていきます。大きな流れとしてはグローバル化、つまり市場経済化が世界的に進んでいます。市場は優勝劣敗の世界です。企業からすると国際競争に勝たなければならない。それは日本だけでなく、ヨーロッパも悩んでいるところだと思うんですが、国民、住民の生活を第一に考えなければならない政府がグローバル化の流れの中で成長戦略をとる。そのバランスをどう考えていったらいいのか、それは日本に限らずヨーロッパ諸国でも共通の悩みです。ですから大きな流れとしては市場経済のグローバル化があり、そこに規定されているところがあると思います。
 既に数年前からPFIとか指定管理者制度等、公の領域に民が入り込んでいく状況があります。それが果たしてどこまで妥当なのかという議論が進められないまま、どんどん市場化が進んでいっています。福祉や教育という分野は市場経済に完全に組み込まれる領域ではないわけですが、そこにどんどん市場化の波が来ています。市場経済は儲けるということが使命ですから、所得の弱者のところにいろんな負担がいくことになる。そうしたときにそれを支える公的な部門というものが機能しなければ、おそらく基本的な人権を守っていく国家でなくなっていくと思います。

 新型交付税制度見直しの世論を高めよう

 住民サービスを支えて来た交付税が、どんどん経済効率性重視の方向に動いています。来年度は国の配慮で、つまり交付税の額があまり変わらないように補正をかけていますから、来年度すぐに影響が出て大騒ぎになることはないと思いますが、次の年度以降は小規模自治体ほど財源が足りなくなってくる実態が出てくると思います。そのときにあわてても対応仕切れないと思うので、交付税の本来のあり方、つまりどの自治体でも住民が安心して暮らせる財源を措置するという交付税のあり方をもう一度確認する中で、新型交付税だとか地域振興費だとか問題にして住民に訴えていくというのが地方議員の大きな役目だと思います。
 都市と農村の格差が交付税改革で進んでいく中で、農村部は特殊な財政需要、もしくは都市部へ人材や水や大気などを供給しているわけです。都市部と農村部が互いに支えあっている。それを交付税という財源で具体化しているわけですけれども、そういった役割を地方交付税は担っているのだということを再度確認していく作業が同時に必要だと思います。地方交付税制度そのものについて、本質的な国民的な議論が必要だと思います。
 やはり、地域から見た地方財政改革のあり方を自分たちの意見として政府に出していける地方自治体が増えなければならないと思います。そういう意味では、地方議員の皆さんが新型交付税の問題についても研究し、住民にことの重大さを訴える必要があるし、その役割は非常に重要だと思います。

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【参考資料】

平成19年度地方交付税に関する緊急要請


 このたび、平成19年度地方財政対策が関係者の努力により決着し、地方交付税における法定率分が確保され、平成18年度を5000億円程度上回る一般財源総額が確保された。
 しかし、地方交付税について、我々地方公共団体が今、最も懸念していることは、来年度から導入が予定されている新型交付税についてである。
 国においては、平成18年度算定をベースとした試算結果に基づき、種々調整を行っているとしているが、多くの団体において減額になるとの情報もある。
 新型交付税の導入による算定額の変動は、小規模な団体ほど財政に与える影響が大きく、地方公共団体には不安感も広がっている。
 とりわけ、農山村地域は、環境や国土の保全に大きな役割を果たしてきており、そこに生きる人々の日々の営みがそれを支えていることを正しく評価し、こうした地域特性が適切に算定に反映されるべきである。
 我々はまた、新しい制度ができるたびに、小規模な団体が犠牲になるのではないかという懸念を拭い去ることができない。
 国におかれては、このような状況を十分に勘案の上、今後、地方交付税の算定、配分に当たっては、とりわけ財政力の弱い団体に対する十分な配慮がなされるよう、強く要請する。
   平成18年12月25日
                   全国町村会会長      山 本 文 男
                   全国町村議会議長会会長  川 股   博