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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年11月号
ババ抜きゲームの破たん
サブプライム問題がジャーナリズムをにぎわしている。しかし、なぜ、このことが世界を震え上がらせているのかについては、意外に説明されていない。この問題を二回に分けて、なるべく易しく説明しておきたい。これは、米国経済の停滞を招き、その余波で日本経済も不況に逆戻りするといった柔な次元の問題ではない。サブプライム騒動は、一九九〇年代に入ってからの米国による世界の金融支配がこれで終わることを示した事件である。
問題の核心は、カード・ゲームにたとえれば、ババのカードをめぐるドタバタ劇にある。劇の中身は、ババを引いてしまったのではないかという恐怖心を、非常に多くの金融機関がもつようになってしまったことである。あいつはババをもっているはずだとお互いに疑心悪鬼になって、ババを含まない証券ですら売れなくなってしまったことである。そこで、ゲームを取り仕切る賭場の親分衆が、いままで聞いたこともない莫大なお金を賭場に流した。しかし、その金は、ババ抜きゲームでこびりついている疑心悪鬼を追い払うどころか、ますます強めただけであった。こんなに巨額のカネを親分衆が気前よくだすのは、相当に悪い情況に賭場はあるのだな。もうこんな賭場はご免だといって、石油や金(きん)といった商品先物(売り買いの約束)を扱う、別の、これまた大きな賭場に脱兎のごとく、火傷を負った博徒(ばくと)たちが逃げ込んでいる。
賭博の親分中の親分である米国の取り仕切る賭け札のドルそのものが、もう嫌だといって、遠ざけられるようになってしまった。責任をとれと、これまで馬鹿にされてきたフランスやドイツの親分がドルの親分に喧嘩を吹きかけるようになった。博徒たちは、どうしょうかと立ちすくんでいる。
博徒たちだけの問題ではない。博徒たちの狼狽が、素人衆の世界にまで迷惑をかけている。カネが正常に回らなくなってしまった。モノが売れなくなってしまった。ガソリンの価格が高騰した。原油高で生産に支障がきたし始めた。素人衆の生活そのものが脅かされるようになってしまった。これが、現在、世界を震えさせてサブプライム問題の真相である。
金融賭博のおかしなルール
一九九〇年代半ばから、賭博の主流が金融賭博になった。しかし、丁か半かといった単純にして公明正大な博打ではなくなっていた。やばいババをわざわざ引いて、それを高い値段で他の博徒に売るという内容に賭博は変わってしまった。
金融ゲームでは、ババのことを「リスク」というカタカナ言葉で語る。ババをあえて引くことを「リスク・テイキング」(危険を冒すこと)という誇らしい行為であると吹聴されるようになってしまった。
これは、リスクの意味の悪質なねじ曲げである。本来のリスク・テイキングとは、誰れも怖がって取ろうとしない恐いもの、下手をすれば自分の命を落としかねない危険なものであるが、もし、手に入れれば人類が苦しみから救済されるもの、それをとろうとする行為のことである。
はじめて人の体に牛痘を植え付けるという恐ろしいことをしてくれたジェンナーがいたからこそ、私たちは天然痘の恐怖から逃れることができるようになった。リスク・テイキングとはそういうものである。
ところが、金融博徒たちはリスクの悪質な誤用を意識的に行っている。たとえば、破産が確実な低所得の人にカネを目もくらむような高い利子で強引にカネを貸し付け、貸し付けを受けた人が差し出す借用証を他人に売りつける。このやばい借用証を、博徒が買うことをリスク・テイキングというのである。可哀想なのは、いずれ身ぐるみ剥がされる運命にあることを知らされず、高利でカネを借りた貧乏人である。貧乏人を犠牲にして高利を得ることが金融博徒たちにとっては、誇らしいリスク・テイキングなのである。
金融博徒の世界では、「リターン」というこれまたカタカナ言葉が使われる。リターンとが「稼ぎ」のことである。やばい貸し付けをして高い金利を得ることに成功すれば、それがリターンという高い稼ぎになる。これが金融博徒たちがしきりに使う「ハイリスク・ハイリターン」という用語の意味である。
やばい借用書を売買する世界が金融賭博である。借用書は証券と呼ばれる。やばいババを含んだ証券の価格は低い。しかし、高い稼ぎを得ることができる。
重要なことは、金融商品と呼ばれる「証券化された取り立ての権利」の価格を決めるのは、含まれるババの多寡である。生産物では、その生産に要したコスト・プラス・若干の利益が価格を構成するが、金融商品はそうではない。危険な金融商品の価格は安く、安全な金融商品のそれは高い。
変な価格設定である。こんな分かり難い価格など他にはないだろう。市場における需要と供給で価格が決められると教科書には書かれていても、金融商品にはそうした価格決定方式はない。
いきおい、誰かが値決めする。それをプライス・メーカーという。そして、プライス・メーカーが価格を決める基準が格付け会社なのである。もし、格付け会社が、金融博徒たちを集める賭場設定者とつるんでいたらどうなるのか。壮大な詐欺である。そして、博徒たちの莫大な損失を、素人衆から集めた税金で埋め合わされるとしたら、世の中は一体どうなるのか。
ここでも、サブプライム問題の怖さが人々に認識されたのである。ドタバタ劇の役者はこれで出揃った。
役者たちとは
ババは、住宅貸付専門会社が、支払いに問題のある個人に資金を貸し付けて住宅を買わし、そして高利で返済させることを保証した債権、つまり、「貸し付け債権」のことである。
サブとは「下に位置する」という意味である。プライムとは「一流」という意味である。したがって、サブプライムとは、「一流ではない二、三流の」という意味になる。プライム・ローンに比べて、サブプライム・ローンは金利が高い。どうしても住宅が欲しい人に法外な金利で貸し付ける高利貸しがサブプライム・ローンの出し手である。
ローン会社は、各種債権を組み合わせて証券に変える(証券化)。それを金融機関に売る。金融機関は、その証券にさらに別の債権を組み合わせた証券を新たに作る。それは、金融機関のお客さんに合わせて組み合わせる。それを「仕組み債」という。数百種類の各種債権が組み合わされたものが仕組み債である。
この仕組み債を買うのが、ヘッジファンドという大金持ちを集めた会員制クラブである。会員制クラブは、少数の金持ちしか入会できないし、誰が入会しているのかは世間には分からない。サブプライム・ローンを仕組んだ証券は、米国だけで一兆ドルは超えている。米国のGDPの一〇分の一もの巨額である。
ヘッジファンドの稼ぎは貧乏人が高利貸しに払うはずの利子である。そして、返済ができなくなった貧乏人たちが破産し始めた。リスクが本当の災害になった。世界に膨張していたファンドが悲鳴を挙げた。この種の仕組み債は安全だと太鼓判を押していた格付け会社に非難が殺到していた。世界の膨大な証券の格付けは、米国の二社、欧州の一社が九〇%のシェアをもっている。
過去、幾度も米国発の金融スキャンダルで、世界は泣かされてきた。スキャンダルには、つねに、格付け会社が噛んでいた。こともあろうに、日本の地方自治体が米国の格付け会社に地方債の格付け依頼をしたのが最近である。お目出度い日本人である。