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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年11月号
品目横断対策とは
品目横断的経営安定対策は、農業者に対して直接支払いを行う、つまり収入が一定の基準に達しなければ国と生産者の積立金で補てんするという、全く新しい仕組みです。その点は大きく評価できます。
ただし、この政策の対象は、個別農家ならば4ヘクタール以上(北海道は10ヘクタール以上)、集落営農組織ならば20ヘクタール以上と、特例措置もあるとはいえ、一定の規模以上にしぼられています。このように対象農家をしぼりこむことが本当に適切なことなのか。私は、この政策をまとめた食料・農業・農村政策審議会の企画部会委員でしたので、対象をしぼりこむことの是非について何度も意見を述べました。企画部会では当初、集落営農組織については、経営主体として確立していないから対象としないという議論が主流でした。そうした中で、私やJAグループは、将来の地域農業の担い手は小規模農家であっても、集落営農組織をつくれば対象にすべきだと主張しました。小規模農家や高齢農家が団地的に集まって集落営農組織をつくれば、転作や新しい作物への対応ができます。良品質の作物を団地的につくれます。団地的につくれば労力の節約、コスト削減になり、所得増につながります。わが国の場合は、水利用の面からも、農地が集団的に存在していることからも、集落営農の仕組みは大事です。このことを徹底して主張し、集落営農によって小規模農家や高齢農家も対象になれるようにしました。
対象となる作物は、都府県の場合は米、麦、大豆で、北海道の畑作物の場合はてん菜や馬鈴薯も対象になります。しかし、水田を転作してつくる作物には、ソバ、菜種、飼料作物、さらに野菜もあるわけですから、私たちはそうした作物も制度の対象にすべきだと主張しました。残念ながら、それは今後の検討課題だという議論にとどまり、実現しませんでした。
対象農家には、米、麦、大豆の収入全体が、標準収入(過去5年のうち、両極端を除く3年の平均収入)よりも下回った場合は、下回った額の9割は補てんするという仕組みになっています。ところが、主要な作物である米価が下がると、基準となる標準収入も下がることになります。これでは、担い手(対象農家)の収入を安定させることにつながりません。だから、標準収入をもっと岩盤みたいなもの、たとえば生産費などをベースにしたものにするべきではないかと、だいぶ頑張ったのですが、残念ながら実現できませんでした。
農家の反発、品目横断見直し
この仕組みを導入したら、各地で農業者が猛反発しました。反発が最も強かったのは、担い手(対象農家)をしぼりこんだことです。「これでは高齢農家や小規模農家が制度の対象にならない」、「農業つぶしでしかない」、と厳しい意見が出てきました。他方で、民主党は品目横断的経営安定対策に対抗して、農業者戸別所得補償法の考え方を打ち出しました。対象はしぼりこまず、すべての農家を対象にして、生産費と価格の差額を補てんする。生産調整は廃止する。そのために1兆円を支出する、というものです。これをマニフェストとして発表したものですから、農業者は民主党の方へなだれをうちました。
品目横断的経営安定対策の加入申請も、面積にして約44万ヘクタール、水田作付け面積170万ヘクタールの4分の1にすぎません。これでは、農業者全体の認知を受けたものとは言えません。
麦や大豆についての直接支払いも、過去の作付け面積を基準にして交付するため、作付け拡大の努力、収量増や品質向上の努力が反映されない仕組みになっています。前年度の手取りを下回ることも予想されます。その上、農業者にとって事務作業が膨大になります。それで、ものすごい反発が出たわけです。その結果、制度全体の見直しを行わざるを得なくなっています。
私は制度の見直しについて、次のように考えています。一つ目は、地域農業を支える多様な担い手が対象になる仕組みを実現することです。4ヘクタール以下の規模でも、地域の条件に従って特例措置を講ずることができるようになってはいますが、実際にはそれが生きていません。役所は説明不足だと言っていますが、国が対象農家を指定する仕組みそのものに問題があります。地域の条件はさまざまですから、権限を地域におろし、地域でつくりあげた多様な担い手を、市町村長が対象農家として決定する仕組みに改めるべきです。そうすれば、地域の実情や意向が生きてくると思います。
二つ目は、対象作物について、米、麦、大豆だけでなく、ソバや飼料作物などにも拡大できるように、具体的な検討を始めることです。三つ目は、標準収入を下回った場合の補てんを9割ではなく10割にして、経営安定のメリットが出るようにすることです。事務作業を簡素化する改善も必要です。
民主党の戸別所得補償
民主党の農業者戸別所得補償法案に対して、農業者は期待感を持っています。民主党案が、担い手をしぼりこむという、政府・与党案の弱点をうまくついたからです。しかし、選挙戦術のために打ち出したきらいもあり、民主党案の是非をしっかり議論しなければならないと思っています。とりわけ、民主党案で地域農業の将来の担い手をつくることができるのかどうか、この点をまず第一に議論したいと思います。
第二に、民主党案では1兆円の財源が必要になります。民主党は、基盤整備事業など農業の公共事業に使われていた予算などで1兆円を準備すると言っています。しかし、これだけ災害の多いこの国で、農業の公共事業に予算をつけずに農業基盤を守れるのか、議論したいと思います。
第三に、民主党の小沢さんは、日本は貿易立国だから、農産物も含めて市場開放が原則だ、と主張してきました。ところが、民主党の法案には、背景説明も含めて、貿易関係のことは一切出てきません。意識的に農産物の市場開放問題を回避しているきらいがあります。本当に市場開放をさせないという立場で整理した法案なのかどうか、議論したいと思っています。
もちろん、民主党法案の良いところは良いと評価したい。特に、直接支払いを大々的に展開するという基本的な考え方は評価できます。このまま国際化が進んでいけば、国内の農産物と海外の農産物との内外価格差は、ますます顕著になってきます。これに対して、ヨーロッパやアメリカでは、多様な形で直接支払いや不足払いが行われています。ですから、わが国も直接支払いの方向に本格的に踏み出そうという点は、大いに評価できます。
それにしても、地域農業に必要な担い手をどうやってつくっていくかは、日本農業にとって極めて重要な課題ですから、民主党案が担い手をつくる政策になっているかどうかは、前述したようにしっかり議論したいと思っています。
経済財政諮問会議
品目横断的経営安定対策で、担い手をしぼりこんで対策を講ずるという考え方は、経済財政諮問会議などによる構造改革の流れにそったものでした。それが地方との間でものすごく大きな摩擦を生み、民主党がその間隙をうまくついたわけです。
ところが、10月28日のテレビ、サンデープロジェクトに竹中平蔵さんが登場して、「東京一極集中で何が悪い。東京が栄えてこそ日本が栄える」、「地方の格差是正問題は、農業の大構造改革によってこそ達成できる」、とおっしゃっていました。いまだに、何の反省もありません。この路線で政策を展開し、地域の実態からかけ離れて、担い手のしぼり込みだけが先行するような構造改革の進め方は、破綻したのだと思います。それが参議院選挙における自民党の惨敗です。
だからこそ、福田総理は所信表明や総裁選の演説の中で、「小規模農家や高齢農家に対する配慮をきちんと行う」、「経済合理主義だけではうまくいかない」とおっしゃったわけです。竹中さんの言う構造改革の路線、経済財政諮問会議の構造改革路線をきちっと反省する必要があります。
経済財政諮問会議は、「世界各国との競争で通用する生産性の確立」などと言っていますが、「いったいどこの国と競争できる農業をつくれと言うのか」と言いたくなります。現実離れした農業の構造改革を打ち出したり、「株式会社が農地を所有して、農業にどんどん参入できるようにしたらよい」とか、食料については「国内生産よりも海外に依存した方が安上がりだ。食料の安全保障を推進するには、それが一番よい」とか、はては「アメリカとの間で自由貿易協定を結べばよい。早急に検討すべきだ」と、そんな議論をやっています。このような経済財政諮問会議の方向は、参議院選挙で明確に否定されたわけですし、それを進めれば、地方の皆さんの反発で政権交代を迫られることになります。
ですから、今回の品目横断の見直しでは、経済財政諮問会議の構造改革路線の反省に立って、見直すべきものは大胆に見直していくことが必要になっていると思います。
衆議院の予算委員会で、民主党代表代行の菅さんは、集落営農はソ連のコルホーズ、ソホーズ、中国の人民公社みたいなものだ、とおっしゃっています。これはひどい誤りです。集落営農を、全く異なるコルホーズやソホーズ、人民公社と一緒にして批判するのはまったく的外れです。民主党の皆さんは、わが国の気候や風土にあわせて、地域の農業をどうつくりあげようというのでしょうか。農地が分散し、小規模農家や高齢農家が生産を担っている実態のなかで、地域農業の将来の担い手をつくるには、水利用や土地利用の現実を十分踏まえ、相互の連携をつくりあげていくという観点は欠かせません。菅さんの集落営農批判は、こうした観点さえ認識していない主張です。
集落営農は、小規模農家や高齢農家が参加することによって、農地を集めて団地的に利用していく仕組みです。小規模農家や高齢農家も農業から足を洗うのではなく、集落営農の構成員として農作業の基本的な役割を担う。団地的に集積した農地は、担い手グループやオペレーターグループが担うけれど、家庭菜園や自家菜園は高齢者も対応できるし、地産地消の取り組みも進めていくことができる。民主党の皆さんは、こうした集落営農の良さをちっとも認識していないのだと思います。
今回の品目横断経営安定対策にある、5年後の法人化や経理の一元化のような、堅苦しい集落営農づくりは見直しが必要だと思いますが、集落営農そのものを否定するような民主党の主張は誤りだと私は受け止めています。この点についても、徹底的に議論させてもらおうと思っています。
(談・文責編集部)