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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年6月号
中小・零細Kネット事務局 瀬川 信雄
昨年来、マスコミは「史上最長の好景気」と報道してきたが、中小・零細企業の現場では必ずしもそうした評価を実感できない。私たちは五年前(二〇〇二年八月)、「仕事がない」「金融機関からの融資が受けられない」「時には貸しはがしで追いつめられる事態が続発した」中で、資金繰りを中心にアンケート調査を行った経緯があり、ほぼ同様の調査を行い、比較検討して関係諸機関に働きかけることとした。
1、調査の概要
2、調査結果、その評価
- 調査対象:地元工業団体連合会、中小企業家同友会などのご協力を得て、約千二百社。
- 調査方法:二〇〇二年の調査内容をそのままいかし、さらに二項目で「四〜五年前と比べて」の質問を加えた。アンケート用紙の配布、回収はそれぞれの団体にお任せした。
- 調査時期:二〇〇六年十二月
3、アンケートを振り返って
- 回収は百九十六社。回収率は、推定約一六%。回答の約三分の二は製造業であった。
- その評価:Kネットでは二〇〇七年三月九日、評価のための会議を開催した。(要旨)
@多くの中小企業が、これから先どこまで悪くなるのかと、経営の危機で追いつめられていた二〇〇二年調査時に比べれば、景気は底離れしたと受け止められ、経営者たちに安堵感もうかがえる。だがこれも、激しい競争ですでに淘汰が進んだもとでのことである。
A一方で、経営状態は、依然として報道されている大企業の様子とはかけ離れている。四、五年前との比較を問う設問では、企業間の格差も読み取れる。特に零細になるほど厳しさは著しい。
B今の問題点は ・製造業などでは仕事量の回復傾向 に安堵感がある一方で、単価の切り下げ、原材料の高騰が経営を追い込んでいる。単価は中国などと比較される。
- 社会保険制度など、事業主負担の 増大傾向が経営を圧迫。
- 資金繰りに代わり、優秀な人材確 保が課題。激しい競争を経営効率の改善で乗り切ろうとする傾向が読みとれる。
- 資金繰りは、前回調査では借入金 返済期間の延長が主たる経営救済のための要望であった。今回調査でも大方の企業が借入金を抱えているが、これに代わって、金利の低減を望む声が強くなった。今後 予想される金利の上昇への不安もある。
C融資元である金融機関の種類に、特徴が認められた。それは、制度融資、信用金庫では規模の大小にかかわらず融資を行っているが、銀行は、十人以下の零細になると、四三・六%の企業が融資を受けているに過ぎない。ちなみに三十人以上の規模になると銀行から八八・四%の企業が融資を受け、逆に三人以下では一六・七%しか銀行からの融資を受けていない。要するに、銀行は制度融資や信金に比べて、零細には資金を貸していない傾向が強いことが分かる。
- 評価のまとめ
今回の調査では、製造業を中心とした(回答の三分の二)中小零細企業の経営状態の一端を調べることができた。これによると、景気の回復傾向は認められるものの、言われているような好況の恩恵はごく限られ、中小零細の困難な経営状態が浮かび上がってくる。中でも従業員規模で零細な企業ほど困難に直面していることが分かる。そのことは、資金繰り、仕事量、人材確保など全ての面で共通している。中小企業は、全企業の大半を占め、全労働者の八割以上がここに就労しているわけだから、景気、国民の経済活動を評価するというならば、中小企業の実情を直視しなければならないはずである。その意味で「史上最長の好況」という昨今の報道は、大いに疑問で「一部の超大企業は」という枕詞が無ければ事実にそぐわない。
しかも、今回の調査は地域的にも限定され、対象はあくまでも製造業が中心であり、商業界、建設業界、運輸業界、その他さらに経営の厳しさが伝えられる業界はごく僅かであり、中小企業の全体像を忠実に捉えているとは言い難い。今後、中小企業の生きた現場全体を見渡せる客観的な資料が求められる。
現場の声は悲痛
再びアンケート調査を実施する動機となった「史上最長の好景気」なる再三のマスコミ報道、これに対する直観的な違和感、現場の憤りを裏づける調査結果でした。数量化された結果もさることながら、文章に書かれた中小企業経営者たちの叫びも書き加えておきます。
〈最大の問題点は?〉
『単価が安い』
『原材料が高くて製品価格が下落』
『仕事量が不安定』
『仕事があってもその中身が最悪でただ損をするばかり。もう何もできない』
‥‥。
〈信用保証協会についての意見〉
『保証料が高すぎる』『保証料は銀行が負担すべきではないか』
『協会に金利を先に取られて銀行にも金利を払う。なぜ二重の金利を支払わねばならないのか』
‥‥。
〈国や自治体に急いで実施してもらいたいことは?〉
『大企業が余りにも安く安く買いたたく。これは公正取引ではない』
『税制面、融資面で支援策を出さないと中小企業は確実になくなってゆく』
『赤字なのに法人税払えはないだろう』
‥‥。
〈全体の感想〉
『ITやベンチャーには金を出すが、既存の中小のことは考えていない』
『無担保、無保証融資拡大』
『元気の良いところばかりに借りろ借りろで、金の必要な中小へは回さない。これを何とかしろ』
『我々はただ待つばかりでもう疲れた。もう無理』
『××を超す好景気とはどこの国の話だ』
『外需とコスト削減から生まれた大企業の好業績と、中小企業の現状はかけ離れている』
‥‥。
大儲けしている超大企業との格差こそ問題
今回の調査では、中小企業間にも格差が広がり、零細企業の経営が今も深刻さを増していることが明らかとなった。だが、従業員規模が三十名を超す中堅企業(五十四社)も、その四〇%があの五年前の最悪の時期よりも悪くなったか、変わらないと答えており、「史上最長の好況」の恩恵は中小のごく一部にしか及んでいないことが分かる。五月二日の神奈川新聞経済欄に今度のアンケート結果が報道されたが、その見開きの隣のページには「東証一部企業が四年連続最高益に」という報道が対比するように載せられていた。
この超大企業と中小の矛盾こそが問題視されるべき格差であり、中小企業主と、そこで働き全労働者の八割を占める中小の労働者たちには、深刻な矛盾が押しつけられているのである。
(編集部注) Kネット:
「中小・零細経営危機突破川崎連絡会」の略称。経営危機、資金繰りに苦しむ川崎市内の製造業を中心とした経営者らが、二〇〇一年ごろから自主的に議論を始め、行政に支援を申し入れたり、川崎駅前での集会とデモを組織するなどして活動を始めた。