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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年5月号
シンポジウム
「日朝国交正常化即時実現」
―米国最優先の外交からアジア重視の外交へ―開会あいさつ
4月26日、日本教育会館で上記のシンポジウムが開催された。以下はその発言要旨。文責は編集部。
槙枝元文さん 日中技能者交流センター理事長
問題提起
中江要介さん 元中国大使
パネリスト
清水澄子さん 朝鮮女性と連帯する日本婦人連絡会代表
吉元政矩さん 元沖縄県副知事
品川正治さん 経済同友会終身幹事
中江要介さん 元中国大使
コーディネーター
武者小路公秀さん 大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター所長
槙枝元文さん
お忙しい中、多数の方にお集まりいただき、ありがとうございます。
朝鮮は日本に最も近い国ですから、最も近い友だちとしてつきあうべき国だと思います。しかし、私の生まれ育った頃の日本は、朝鮮を属国にして、植民地支配していました。敗戦によって朝鮮が解放された後も、日本は朝鮮民主主義人民共和国を独立国として認めず、植民地支配の謝罪もしていません。こんな異常な状態が今も続いています。
私はこの状態を改めたいと願ってきました。日本と朝鮮が同じ独立国として対等な立場で話し合い、手を取り合っていく関係にしなければなりません。そうして初めて、日本はアジアの人々から信頼される国になれるのだと思います。
本日のシンポジウムが、皆さんの積極的な発言によって成功し、日朝国交正常化の実現を求める国民運動の新たな出発点になることを願って、開会のご挨拶といたします。
中江要介さん
槙枝先生がおっしゃったように、隣にある朝鮮民主主義人民共和国という国があるのに、国交が正常化していない。国民はそれを気にしていない。何よりも今の政治家は、日朝国交正常化という簡単明瞭なことが分かっていない。私はそんなもどかしさを感じています。
日朝国交正常化とは何か
(1)
最近は憲法改正が話題になっていますが、憲法の九十八条の第二項にはこういう文言があります。
「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」
一口で言えば、日本が締結した条約は守れということです。それにもかかわらず、日朝国交正常化について、日本は締結した条約を守っていない。朝鮮の独立を承認することは国際約束なのです。
ご承知のように、戦争が終わる二年前に、三大国の首脳がエジプトのカイロで、「カイロ宣言」を出しました。三大国とはアメリカとイギリスと中華民国です。カイロ宣言にはこう書いてあります。
「前記三大国は朝鮮の人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由かつ独立のものたらしむるの決意を有す」。
これを受けて「ポツダム宣言」の中には、「カイロ宣言の条項は履行せられるべく」と書かれました。日本はこのポツダム宣言を受諾しました。つまり、朝鮮を自由独立のものにするというカイロ宣言を必ず履行しようというポツダム宣言があって、日本はそれを受諾することによって戦争を終わらせたわけです。
そして日本はどうなったかというと、サンフランシスコ条約(日本国との平和条約)の締結によって主権を回復しました。そのサンフランシスコ条約第二章のトップ、第二条の(a)にはこう書かれてあります。
「日本国は、朝鮮の独立を承認して、斉州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」
日本は、朝鮮の独立を承認するという国際約束によって、主権を回復したわけですから、日本は朝鮮の独立を承認する義務を負っています。憲法の規定によれば、日本国はこの国際約束を遵守しなければなりません。これは憲法上の義務です。憲法九十九条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う」とうたっています。
国務大臣も国会議員も裁判官も憲法を守る義務があり、国際約束を誠実に遵守しなければいけないわけです。ところが、朝鮮の独立を承認するという国際約束を、総理大臣以下、閣僚も政治家も裁判官も、誠実に履行しようとしていません。いまだに、朝鮮の北半分は独立を承認せず、ほったらかしています。みんな憲法違反です。
今の日本と朝鮮との間の、非常に奇妙な行きづまり状態の根元には、このような日本の義務違反があるのです。日朝国交正常化とは何かというと、朝鮮の独立承認という国際約束をはたすことです。このことを、国民の皆さんに知っていただきたいと思います。
(2)
日本は何もしなかったかというと、そうではありません。サンフランシスコ条約の義務があるので、朝鮮の独立を承認しようとしました。しかし、その当時は東西冷戦の世界になり、朝鮮はアメリカとソ連の覇権争い、勢力争いの犠牲にされて南北に分かれてしまい、朝鮮全体の独立承認ができませんでした。世界を二つに分けて勝手なことをしようとした大国、特にアメリカの責任です。アメリカの陣営におかれた日本は、南の大韓民国とだけ国交正常化をしました。これが日韓交渉です。北の朝鮮民主主義人民共和国については、独立を承認せず、白紙のまま残しています。
私はその当時、外務省の条約局におりまして、その交渉にあたったというか、手伝わされました。日韓交渉は十四年間もかかりました。それほど大変なことですから、放っておけばもっと大変です。だから一日も早く日朝交渉に入らなければいけないのに、何もせず、国際約束に違反しているのが現状です。
(3)
日朝国交正常化は、サンフランシスコ条約で課せられた義務の中でまだ履行していない、最後の一つです。これをはたさなければ、日本の戦後処理は終わりません。
サンフランシスコ条約で相当な国と平和条約を結び、国交を正常化して外交関係を結びました。残された国との間では個々に交渉し、前述した日韓正常化が最初でした。その次に、田中角栄の訪中で共同声明などが出されて、日中が正常化しました。いわゆる台湾、中華民国との関係はいろんなことがありましたが、片づきました。私も担当しましたが、話せば長くなるので、今日は触れません。形の上では、領土問題のために日ソ平和条約が実現しておらず、ソ連が残っていますが、日ソ共同宣言によってソ連とは外交関係があり、普通の国のつきあいをしています。
二百カ国近い国がある中で、いまだに国交を正常化せず、戦後処理の終わっていない国は、朝鮮民主主義人民共和国だけです。国際社会の一員としての最低の義務、戦後処理もすませていないのに、偉そうに「国際社会に貢献する」などと言っている人たちの気が知れません。国際社会の一員だと言って、いろいろ主張しているのは、まやかしだという感じがします。
拉致問題と正常化
「拉致問題が解決しなければ、国交正常化しない」。安倍首相はそんなことばかり言っています。本当にそうなのか。よく考えてみなければいけません。
どの国との間にもいろんな問題があります。しかし、拉致問題があるからといって、自分が果たすべき義務を果たさない。それだけじゃなく、相手を非難攻撃して口もきかない。そういう間柄にしておいて、「拉致問題を解決しろ」といくら大きな声で叫んだって、それは相手の心に響きません。相手の心を揺さぶるようなことをしなければ解決できないこともわからないのでしょうか。相手が固く心を閉ざしてしまうようにし向けることばかりやって、「拉致問題が解決しなければ、国交正常化しない」なんて言うのはとんでもないことです。こう言うと、まるで拉致問題を軽んじているかのように、激しい非難が起きます。そういう人たちは、北朝鮮に制裁を科し、罵詈雑言をさんざん浴びせて攻撃すれば、拉致問題が解決すると本気で思っているのでしょうか。私には理解できません。
「拉致問題の解決がなければ正常化しない」という考え方は間違っています。むしろ「正常化しなければ、拉致問題は解決しない」と思います。相手と正常に話ができるようになって初めて、理解し合えるようになり、難しい問題が解決していく。これが国際社会の常道です。相手国とのつきあいをまったく拒否しておいて、その相手国との問題を解決しようというのは本末転倒だと思います。
日朝国交正常化のために何が必要か
日朝国交正常化をするためには、二つのことが必要です。一つは、正しい歴史認識です。小泉政権の靖国問題で、歴史認識がいかにいい加減であったか、それがいかに日本のアジア外交をだめにしたか、それをさんざん知らされました。このことは中国や韓国に限らず、北朝鮮の場合でも同じです。日本が戦前に行った朝鮮半島の植民地支配について、謝罪と補償を行うことは当たり前のことです。
もう一つは正しい現状認識です。日本は北朝鮮を敵視して「北朝鮮は怖い」という被害妄想にとらわれています。北朝鮮がミサイルや核を持つと「これで日本を攻撃する」と怖がる。日本が攻撃されることばかり考えている。日本は北朝鮮に対して何か悪いことをしたのかと思われるぐらい、恐れおののいている。なぜ、そんなに怖がるのか。日本人はひとりひとり胸に手を当てて考えなければいけないと思います。現状認識を間違っていると私は思います。
「日本は憲法九条があるから、どこの国とも戦争しないできた。これは誇りだ」と言うのだったら、「戦後のアジアで、日本はどこの国からも攻撃されるようなことはしておりません」と、堂々と言えるはずです。それがなぜ言えないのか。「北朝鮮は脅威だ。台湾海峡は不安定だ」と怖がったり、攻撃されることを恐れる必要はないはずです。
日本がそう言うのは、アメリカが言っているからです。アメリカは悪いことをしているから怖いのです。自分が核を持っているから、核攻撃されるのではないかと怖がる。日本は核を持たないのですから、核攻撃されることはない。日本は間違った現状認識を改める必要があります。
正しい歴史認識を持ち、正しい現状認識を持てば、日朝国交正常化は難しくありません。それは平和国家として、当たり前のことするということです。
日朝国交正常化と北東アジアの平和と安定
日朝国交正常化によって求められているのは、北東アジアの平和と安定です。日本にとって、外交の一番のポイントは日本が属する北東アジアの平和と安定を確保することです。日朝国交正常化が日本の平和と安定に貢献するのか、それとも害するのか、国民の皆さんに考えていただきたいと思います。
その前に、日本は外交の現状を反省する必要があります。第一に、日本は最も身近なアジアで信頼されていません。何年か前から、日本は国連の安全保障理事会の常任理事国に立候補するといって、はしゃいでいました。日本が憲法九条のもとでいいことをしてきたと言うのなら、平和を愛する日本に常任理事国をやってもらおうと、アジアの国がみんな賛成してくれるのが普通です。ところがふたを開けたら全く逆でした。一番信頼してほしかった中国は反対にまわり、アフリカにまで反対の働きかけをしました。
日本はいわゆる選挙キャンペーンをしたわけですが、それは経済協力、技術協力という形で、お金で票を買うことでした。国内では選挙違反になりますが、国際社会では選挙違反になりません。金権政治の人たちが国内でやっていることを国外でやるわけです。心から賛成して票を投じてもらうのではなく、お金で票を買うことをするものですから、アジアではどの国も日本の常任理事国立候補に賛成しませんでした。
第二に、六カ国協議では、北東アジアの非核化のために関係国が一所懸命やっているときに、日本は口を開けば拉致ばかり言い、自分で肝心の北朝鮮と話ができないような関係にしました。だから、ここはひとつ日本から話してもらおうと考える国はなく、日本が蚊帳の外に置かれるのは当たり前です。そんなことも分からず、蚊帳の外であわてているのだとすれば、外交音痴というほかはありません。
私は、日本のアジア外交の貧しさ、無力さを心の底から嘆いています。今は、ただ一つ残っている北朝鮮との国交正常化を一日も早く実現することを願うばかりです。日本が一人前の国になり、アジアの多くの国から信頼される国になってほしい。アジアで平和と安定の秩序を作れるような日を呼び寄せるために、今日の集まりが大きな起爆剤になってほしいというのが、私の心境です。
<問題提起に対するパネリスト発言>
清水澄子さん
中江さんから改めて、カイロ宣言やポツダム宣言の話がありましたが、私たち運動する者も原点に戻らないといけないと思います。そうすると、日朝正常化というのは日本が犯した植民地支配を清算すること、それが原則的なことだと思います。それは誰がやるべきかと言えば、加害者である日本側がやるのが当たり前の話だと思います。
それがここまで遅れた原因は、戦後の米ソ冷戦構造があったことは事実です。そして、日本がアメリカの対朝鮮、対アジア戦略に追随してきた結果、もっとひどくなった。日本が一番に解決しなければならなかった問題が放置された。
アメリカは南の韓国だけを支持して、日韓交渉をやらせたのですが、日本は日韓条約でも植民地支配の謝罪をしていません。北朝鮮に対しては何もやっていません。戦後だけでも六十数年、植民地にした時から考えると百年近く、植民地支配の清算をせずに放置してきた。歴史認識の欠如を、私たち自身も認識しなければいけないと思います。
戦後補償の中で問題になっている朝鮮人の戦時強制労働については、その実態も把握されていません。多くの人たちが奴隷状態で働かされて、日本で死亡したわけですが、その人たちの生死も遺族に知らされていません。強制労働で死亡した何万という人たちの遺骨が、かつての炭坑など強制労働の現場周辺の山林などに今なお放置されています。まさに人道上の問題なのに、日本政府は処理してこなかった。私たち市民もこの問題に無関心できたと言わざるをえません。遺骨問題一つをとっても、日本には大きな道義的責任があります。
最近、政府が祐天寺に保管していた遺骨の一部を返しました。遺骨の返還も南北分断で、北朝鮮には返さず韓国だけです。ところが、返還された遺骨の人が生きていると名乗り出たり、遺骨箱に入っていたのは遺骨ではなく石ころだったりで、韓国の新聞で大きく報道されました。遺骨とされた人たちが日本に来て、私の真相を調べて下さいといっても、政府は会おうとしませんでした。横田めぐみさんの遺骨問題では、「偽物だ」と大騒ぎするのですが、日本が犯した問題に対しては非常に無関心です。
そういう中で、日本軍慰安婦問題への軍の関与を認めた一九九三年の河野談話を、安倍総理は「強制の証拠はない」と言って否定しました。下村副官房長官は、売春行為、金儲けに出てきたのであって、軍は全然関わっていないと、軍の関与そのものを否定しました。アジアだけでなくアメリカからも批判の声があがりました。拉致問題には熱心な首相が、日本自身の戦争犯罪には目をつぶっていると、厳しく批判されました。このような安倍政権の姿勢が、日朝関係をさらに、悪い方向に進めているのだと思います。
昨日も、警官隊が在日本朝鮮留学生同盟に対する不当な捜査をやりました。安倍政権は北朝鮮に対する制裁であるかのように、在日の皆さんや総聯に対する不当な捜査、政治弾圧をくり返しています。在日の人たちは制裁を受ける立場ではなく、強制連行されてきた被害者やその子孫です。そういう人たちに対する反人道的、反人権的な行為が行われていることに、憤りを感じます。
そういう意味でも、日朝問題というのはすぐれて歴史認識の問題であることを、ここでいっしょに確認しておきたいと思います。日本社会とりわけ政治家が正しい歴史認識を欠いていることが、大きな問題ではないかと思います。
吉元政矩さん
今年二月のアーミテージレポート2は、二〇二〇年に南北朝鮮が統一するという考え方を出しました。胡錦濤に近い中国の学者は、二〇二〇年までに統一国家を目標にするという報告を出しました。アメリカの情報機関が中心となったレポートは、二〇二〇年に中国とインドがアメリカと肩を並べる大国になると書いています。つまり、世界の目は、アジア太平洋に注がれています。二〇二〇年を一つの目標にしながら、アメリカを中心とした軍事態勢をどう作り上げていくのか、EUを中心としたNATOとロシアの関係、北朝鮮や台湾を頭に置いた西太平洋、東アジアの状況をにらんだアメリカの戦略が粛々と作られています。
沖縄は、東アジアの分断国家をにらむ出撃基地として米軍に使われてきました。北緯十七度線で分断されたベトナムは、ベトナム戦争を経て、最終的には統一国家ベトナムを実現しました。朝鮮戦争があり、三十八度線で分断された朝鮮半島は今日まで結論が出ていないが、いま六カ国協議が行われています。本土と二十七度線で分断された沖縄は、県民の激しい闘いと皆さんの闘いが一緒になって、七二年に日本国憲法が適用される状況を迎えた。朝鮮戦争、ベトナム戦争、そのいずれでも、沖縄の米軍基地が出撃基地として使われた。いつ頃南北朝鮮が統一をしていくのか。これは私たちにとっても課題である。アメリカの動きもこの問題に関わりがあるし、日朝の国交正常化も関わりがある。
冷戦が終焉したのが八九年。そして九〇年に東西ドイツが統一国家となった。九一年にソ連邦が崩壊し、ロシアなど十いくつかの国ができた。そしてロシアは今、EUの国々と肩を並べ、共通の土俵で話し合いをしている。それと関わりのある問題が一つあります。昨年十一月、ブッシュがNATO首脳会議で、日本とオーストラリアを加盟国にしてくれと演説し、NATO首脳会議は友好国、事実上の加盟国の取り扱いをしようとなった。今年一月、安倍首相はNATOで、自衛隊をこれまで以上に自由と民主主義のために関わらせる、アフガニスタンへの自衛隊の関わりを強めたい、と演説した。明日、ワシントンで日米首脳会談がある。その後、安倍さんは中東に行く。中東問題に主体的にどう関わっていくか、という段階に来たと理解すべきだと思う。
今年二〜三月、重要な動きがあった。インドの首相、オーストラリアの首相が日本に来た。さらに、チェイニー副大統領が来て、その足でオーストラリアに入った。アメリカを中心に、日本、インド、オーストラリアの四カ国で安全保障について緊密な関係を作る動きが進んだと見るべきだろう。日本海でインドとロシアが合同軍事演習をした。房総沖で日本、アメリカ、インドが初の共同訓練をしました。
日朝国交正常化問題の基本的な問題は、中江さんの問題提起で全部出ました。一つだけ側面から言いますと、九〇年代に入って、とりわけブッシュが当選した二〇〇〇年以降、日本はひたすら、北朝鮮は怖い国だ、ミサイルや核で攻撃するかもしれないと危機感を煽り、拉致問題を全国化し、それを日米軍事同盟の強化に利用してきました。同時に、ソウルの米軍基地は南の方に移り、米陸軍は韓国から引きあげている。日本では米軍再編が進む。横須賀に原子力空母を配備し、キャンプ座間に米陸軍の司令部を置く。沖縄の嘉手納空港以南の四つの基地は返還し、海兵隊をグアムに移す。そうすると、先ほど述べた米、日、豪、印の軍事体制がねらっているのは北朝鮮ではありません。これにNATOも合わせると、中国、ロシアの包囲という道筋が見えてきます。朝鮮問題もそこに位置づけて処理しようとしているわけです。
アメリカはイラク、イラン、北朝鮮を悪の枢軸と言い、イラクという国家を軍事力でつぶしました。イランについては、核兵器を作ろうとしていると非難し、ペルシャ湾に航空母艦を並べて、イランにかまえています。他方で、核実験を行った北朝鮮に対しては、軍事行動をしないと言われている。このように並べてみると、十年近く前から北朝鮮の脅威を煽りながら、日本が急いでやってきたことは日米軍事同盟の強化、日本の軍事力強化です。そして今年に入って明らかになってきたのは、アメリカを中心とした日本、オーストラリア、インドによる新しい軍事的な体制作りです。
結論は、日本が植民地化した朝鮮半島に対する自らの責任と自戒を踏まえて、私たち自身が、将来の明るい展望を開く具体的な行動として、日朝国交正常化の実現に真剣にとりくまなければならないということです。拉致問題で批判的な意見を出せば非難されるとか、身の危険を感じたり肩身の狭い思いをするとか、そういうことで黙っているうちに進んできたのは、日米軍事同盟の強化、日米の軍事一体化です。そして日本全体がおかしな方向に走り始めた。その頂点が憲法九条の改正です。そこまでにらむならば、朝鮮との国交正常化を求める運動は、憲法九条を守る運動でもある。アジアの信頼を回復し、東アジアと日本のつきあいを正しい軌道に乗せていくために、私たちは踏み出さなければいけないと思います。
品川正治さん
中江さんから日本の外交を中心に、日朝国交正常化に関わる全般的な問題が提起されました。清水さん方から歴史認識、人権問題が出されました。さらに、吉元さんは、日米の軍事一体化という大きな観点から北朝鮮問題を論じました。ある意味では十分だろうと思います。
それに私が何か付け加えるとするならばということで、極めて簡単に三点申し上げます。第一点。北朝鮮はいま、自国を守るために必死になってやっているのだということを、もっと親身になって考えるべきではないでしょうか。あれだけ小さな国が、戦争をしている巨大な大国に屈することなく、自存自衛のために必死になってやっていると理解することは、この問題全体を論議するときに必要なことだと思います。
二点目。この状態になれば、誰が悪いかというほこ先を、安倍総理にしぼった方がいいと思います。彼は拉致という問題を利用して、国民のナショナリズムを危険な方向に煽ってきました。六カ国協議が行われても、なおかつその線を押し通そうとしています。問題は安倍総理のやり方、背景、考え方にあります。極端なイデオロギーにとらわれたやり方を、私は許せない。そういう感じを率直に持ちます。
戦前日本の清算に一番反対しているのは安倍総理です。日本の戦争について、なぜそこまで謝らないといけないのか、と反対しているのは安倍総理です。拉致問題をああいうかっこうにしてしまったのは安倍総理です。その後ろには確かに、日米の価値観が一緒だといっている政官財の指導者がたくさんいます。残念ながらマスコミもそうです。彼らが主流であり、日米の価値観は一緒だということで、安倍政権を支持した。安倍総理はそれにプラスアルファして北朝鮮に対する誹謗を重ね、日本のナショナリズムを煽ってきた。
私は、戦争は天災ではない、人間が起こすんだ、それを止めることができるのも人間だ、と言い続けています。お前は戦争を起こす側か止める側か、どっちなのか。絶えず自分に問い続けながらやってきました。この問題はもう、はっきりしているのではないでしょうか。特に政官財、マスコミ、この人たちがこの問題をどう扱うかということに関して決断を促したい、というのが私の気持ちでございます。
三点目に、核の問題に関して、私の率直な意見を申し上げます。仮に日本が核を撃ち込まれても、アメリカが核攻撃で報復しようとするならば、それを止めるのが日本のあり方ではないでしょうか。相手が核を撃ってきたのだから、核の傘がある以上、アメリカに核で報復してもらいたい、というけちな考え方では、平和憲法は守れません。核を撃たれても、アメリカが撃ち返そうとするのを、撃つなと止める。それが平和憲法九条の精神だと、私は理解しています。私としては率直にそれを申し上げておきたいと思います。
<パネリストによるフリー討論>
清水澄子さん
ブッシュ政権のイラク戦争は失敗し、イラクは大きな混乱状態に陥りました。イラクの政権を崩壊させ、その後は朝鮮の体制を崩壊させるという政策は、大きな代償を払っても見込みがなくなりました。中間選挙で共和党は敗北し、ブッシュ政権の任期は残り二年弱になりました。その結果、ブッシュ政権は対朝鮮政策を大きく転換しました。米朝直接交渉が行われるようになり、今年一月、ベルリンでの米朝協議で、アメリカは金融制裁を解除することになりました。二月の六者協議合意では、米朝国交正常化の作業部会をつくり、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除する作業を開始することもうたわれた。
それにもかかわらず、日本の国内は拉致問題ばかりで、一直線に憲法改悪、集団的自衛権の行使まで走っていきたいというのが安倍内閣の基本方針になっています。アメリカは軍事面では安倍内閣の方針を利用しつつも、六者協議における日本の動きが重荷になってきているのではないかと思います。チェーニーが日本に来た時、「日本は拉致問題の定義をどう考えているのか」と尋ねています。
小泉訪朝を実現させた田中均さんは、集団的自衛権の行使をして国際貢献をすべきという考えで、私とは立場が異なるが、日本の外交能力について「安全保障の面においても、知的な面においても、構想力においても、具体的な外交行動においても欠けている。そこを直さないと日米の強力な関係というのは現実のものにはならない」と嘆いている。
私たちはブッシュ政権の対朝鮮政策転換という変化を生かして、この機にもっと大きな声をあげるべきだ。そうしないと、重要なチャンスを見逃してしまうのではないかと非常に心配している。
平壌宣言では「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」となっている。在日朝鮮人の地位に関することも話し合うことになっている。この通りやるよう迫るべきだ。
私たちが沈黙することは、安倍さんに自由におやりなさいということになる。品川さんが「安倍政権に焦点を当てなさい」と言われたことに大賛成です。いま私たちは憲法改悪とか反動的な法案で押されているが、日朝国交正常化を実現させていく中で、この状況を逆転させていくチャンスだと思う。日朝国交正常化にむけて、アジアの人たちと連帯できる運動を起こすことを提起したい。
吉元政矩さん
韓国政府統一部の事務官が筑波大学の博士論文に、ピョンヤン宣言について書いている。それによると、百億ドルの無償支援を行うとか、具体的なツメまで終わっていました。ピョンヤン宣言の時に何があったのか、事実関係について明確に求める必要があると思う。アメリカはイラク戦争でどうにもならなくなり、二〇〇五年段階で朝鮮政策が少し変わり始めた。そして、去年の中間選挙の大敗で明確に軌道修正した。しかし、日本は動いていない。
韓国で三月に出た記事を紹介する。一つは、南北首脳会談七周年の六月十五日に首脳会議を開いたらどうかという記事。もう一つは、ブッシュ・金正日会談が開かれるのではないかという記事。韓国政府の中では、南北統一にむけて、朝鮮戦争に関わった中国とアメリカを加えた四カ国会議を開くとか、具体的な構想も出ているようです。韓国の雰囲気も変化している。
変わらないのは日本だけで、拉致問題だけが国民的にクローズアップされる。これをどう変えていくか。これからの運動をどう構築するのか。運動論を真剣に考える段階に来たような気がします。
中江要介さん
七二年の日中国交正常化の時のことを思い起こしていただきたい。あの頃も、日本の中に正常化反対という勢力がずいぶんあった。共産主義の国と仲良くして何がいいんだ、中華民国という国が台湾にあるではないか、と。今の安倍さんとか石原さんのような人たちが猛烈に反対した。それにもかかわらず、田中訪中で日中正常化が実現した。
ピョンヤン宣言と同じように、日中共同声明も平和友好条約もよくできている。なぜよくできているかというと、外務省の多くの役人がよく働くからです。問題は、役人がよい文書をつくっても、政治家がそれを遵守しないことです。日中正常化に強硬に反対し、台湾擁護派にまわった人たちが再び今の外交を邪魔をしています。タカ派といわれた青嵐会のメンバー、石原慎太郎とか亡くなった中川一郎とか。今その息子さんが頑張っています。系統は全部同じで、元をたどるとA級戦犯容疑だった岸さんなどの保守本流が当時も邪魔をしました。だから、誰を選ぶかということは大事なことです。
我田引水で言うと、田中角栄が「よしゃ、分かった」と分かりもしないくせに言って、日中正常化したのです。これをどう位置づけ、評価するか、これが役人の仕事です。外務省が田中角栄の日中正常化を前向きに受け止めたということです。
当時は財界をあげて、中国との経済関係を放置しておくのは得策ではない、よいところは他の国に取られてしまう、早く正常化しなくてはならない、という国民運動、国民的世論が沸きあがりました。だから、右側の反対にもかかわらず実現したわけです。
正常化の一つのメリットは、中国という大きな市場に日本も参加できることです。もう一つは外交上のメリットです。中国と正常化したので日本がアジアで認められ、外交の幅が広がりました。中国と関係を持っている日本と、中国と言葉も交わさない日本とでは大違いです。
北朝鮮と関係を持っている日本と、北朝鮮と関係を持てず、北朝鮮から忌み嫌われている日本。どっちの日本がアジアで外交らしい外交ができるかは、考えるまでもないことです。隣国の北朝鮮との不正常な関係を放っておくことが、いかに日本の外交を窮屈にし、日本の外交の自由を奪い、日本の外交の発展を妨げているかに留意するならば、日朝正常化を進めなければなりません。
よい日中関係を持った日本は多くの国から尊敬されるようになり、いろいろな場所で主張できるようになりました。三峡ダムでも新幹線でも環境汚染防止でも、中国で日本の持てるものを活かせるのは、正常化したからです。日中正常化の時にも、先ほど品川さんが言われた価値観の問題がありました。「自由主義の日本が一党独裁の国と国交正常化して何が出来るか」というのが反対論者の議論でした。しかし、正常化によって、アジアの中で日本と中国の関係は大きく育ってきました。
この時点で日朝正常化を考える場合、日中正常化の時の考えを活かしていくべきではないかと思います。
品川正治さん
残念ながら、財界が日朝国交正常化に熱意を持つのは難しいと思います。この点は日中の場合とはいささか違います。特に小泉内閣以降、財界は政権とべったりになったから、なおさらです。しかし、経済界は先を見るのが早いですから、うまく行きそうになれば、乗り遅れたら損すると考えます。今は反対だと言っている方が得だというのが強い。
もう一つ大きいのはマスコミです。マスコミは、国民を裏切っているんではないかという自己反省に入り始めているように思います。例えば、偽ドルの問題。北朝鮮が偽ドルをつくったのではなく、つかまされたというのが世界の常識になっています。ヨーロッパでは、偽ドルをつくったのはCIA(アメリカ中央情報局)だと言っていす。それを書かないのはアメリカと日本の新聞だけです。しかし、日本の新聞も今は慎重です。「北朝鮮がつくった偽ドル」とは書かず、「北朝鮮が持っている偽ドル」という書き方しかしていません。
先ほど清水さんがおっしゃいましたが、私も少し流れが変わりだしたと思います。ただし、アメリカは戦争をしている国です。勝つことが最高の価値で、勝つためには何でもする。どうしても中近東では勝ちたい。そのためにどうするか。アジアでは妥協せざるを得ない。もっと日本に手伝わせながら、もう少しトーンダウンした方が良さそうだというのが出てきています。また、刺激はできるだけ避けた方が良さそうだと考えながら、安倍さんの言っている拉致ではラチがあかないと思っている。「拉致問題の定義をどう考えているのか」と言ったのは、外交の言葉ですから、そんなことは止めろというのと同じです。そういう意味で流れは変わりだしている。ただし、政権べったりの財界がそれで動くような段階ではないと思います。
(会場からの発言は略)
<まとめ>
武者小路公秀さん
シンポジウムのまとめとして、四点申し上げます。
第一に、在日朝鮮人の皆さんと連帯すること。市民レベルの交流はとても大事だというお話がありましたが、それも含めて、日朝国交正常化即時実現ということで、みんなで頑張らなくてはいけない。
第二に、政府とマスコミは、拉致問題で非常にゆがめた情報を流しており、本当の情報が伝わっていない。拉致問題の解決ということは、私たち国民が拉致問題の真相を共有していくことだという、先ほどの吉田先生の話を大事にしていく必要があるのではないか。
第三に、安倍総理は、在日朝鮮人の皆さんに対する暴力を中心に、いろいろ問題を起こしている。それを乗り越えていくための運動を進める。憲法改悪に対して、憲法をもとに安倍総理をアベコベにやつけてしまうという、それぐらいの気持ちを持って頑張らなくてはいけない。
第四に、ありもしない「北朝鮮の脅威」を騒ぎ立て、それを利用して日米軍事一体化などを進め、日本が世界の脅威となる形になっている。それに対して、平和憲法を守る国として、日朝国交正常化を第一歩にして、アメリカ最優先の外交からアジア重視の外交へ、流れを変える必要がある。ということを確認させていただきたい。たとえば新聞広告を出すとか、いろいろなやり方があると思うが、日朝国交正常化の即時実現のために、できるところからできることをやって、みんなが広く手をつないでいく。そして、在日朝鮮・韓国人の皆さんと連帯して、全国各地で国民運動を広げ、国民世論を盛り上げていく。
以上のことを確認して、このシンポジウムを閉じさせていただきます。皆さん、今日はありがとうございました。