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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年5月号

日本の医療を崩壊させてはいけない

医療は国民の生命と健康を守る「安全保障」

川崎市立井田病院医師  鈴木 厚さん

 小泉政権、そして安倍政権の「改革」政治の下で、医療改悪が進んでいる。三月十日、かながわ県民センターで講演会「『医療改革』とは何だ」が開かれた。講師の鈴木厚医師の講演の一部要旨を紹介する。文責編集部。


病院つぶしの医療改革

 平成十八年に行われた「医療制度改革」とは何か。第一は「病院つぶし」です。診療報酬が下げられたので、耐えきれない病院はつぶれていく。厚労省は病院の半分はつぶれてもいいと考えています。
 第二は「老人つぶし」です。厚労省は医療費抑制のため、老人の医療費自己負担を増やし、医療機関にかかりにくくしました。病院を我慢して亡くなる人たちが増えています。
 第三は「地方つぶし」です。地方は住民が少なくて病院経営が成り立たない。いろいろな科を入れると絶対に赤字になる。結果、地方の住民は遠くの病院に行かざるを得ない。
 第四は「医療難民促進法案」です。療養型の長期入院患者を「退院」させようというのが国の政策です。医療難民が大量に出ます。
 第五は「医療従事者過労死促進法案」です。赤字の病院は人件費を減らすしかない。人を減らすか、給料を減らすか、選択肢は二つしかない。その結果、医師や看護婦が逃げ出す。また正社員ではない給料が低い事務員も辞めていく。医師や看護師不足で過労死が増えます。
 二〇〇二年度の医療費総額は三一・一兆円です。内訳は本人負担が一五%、本人保険料が三〇%、事業主保険料が二二%、国庫負担が二五%、地方負担が八%。経済界は事業主保険料を、国は国庫負担を減らしたい。つまり、家計負担(本人負担と本人保険料)を増やすことです。事実、一九八〇年と二〇〇二年を比較すると、国庫負担は三〇%から二五%に一兆四〇〇〇億円減らし、家計負担は四〇%から四五%に増えました。
 医療費は一九八九年頃から毎年一兆円ずつ増加したが、一九九九年の三〇・九兆円からほとんど伸びていない。高齢化が進み、医療技術が進歩し、患者数が増えているのに医療費が伸びなかったのはなぜか。厚労省がデタラメな試算を出して医療費を抑制したためです。だから厚労省の試算は外れてばかりです。例えば、一九九七年度に三年後の二〇〇〇年度の医療費を三八兆円と試算したが、実際は三〇・四兆円でした。厚労省は医療費をいつも大きく予測し、「このままでは医療は崩壊する」と世論を誘導し、「適正化が必要」という手法を繰り返しています。

日本の医療費は高いのか

 では、国民医療費三十一兆円という額が本当に高すぎるのでしょうか。日本の個人保険金額は一四〇〇兆円、個人金融資産一二〇〇兆円、公的年金は四四兆円、国民の命にかかわる医療費がパチンコ産業の三一兆円と同じです。本来なら年金の伸び率に医療費を合わせるべきではないか。国の借金を理由に国民医療費を減らすのはとんでもないことで、減らすべきは先進国と比較しても多すぎる公共事業費です。
 国民一人当たりの医療費は二八万円で世界七位、GDP比で一九位。
日本は皆保険制度で医療にかかりやすいからで、患者一人当たりにするとずっと下位になります。国民一人当たりの年間平均受診回数を比較すると、日本二一回、アメリカ五・三回、イギリス四・六回。ところが一回受診当たりの医療費はスウェーデン八・九万円、アメリカ六・二万円、フランス三・六万円、日本は〇・七万円です。
 盲腸手術入院の比較で見ると、ニューヨークは一日入院で二四四万円、ロサンゼルスも一日入院で一九四万円、香港でも四日入院で一五三万円。日本は七日入院で三八・七万円。日本の医療費がいかに安いか。
 百床あたりの医師数と看護師数は、アメリカが医師七一・六人と看護師二二一人、イギリスが四〇・七人と一二〇人、日本は一二・五人と四三・五人。また人口一〇万人あたりの医師数は、ドイツが三三六人、アメリカが二五三人、日本は一八四人。日本の人口当たりの医師数は世界六三位、看護師数は二七位。日本は医師や看護師の絶対数が足りないんです。救急医の体制も欧米に比べて遅れています。しかし、厚労省は増やそうという意思はありません。
 高齢化が進んで老人一人を支える人たちの割合が少なくなる。一九八五年に五・九人が、現在三・四人、二〇二五年には二人で支えることになる。厚労省はそう説明して、老人医療費の負担を引き上げ、さらに年金受給年齢を六〇歳から六五歳にしました。国民の多くがしかたないと思っている。ところが一人の労働者が支える扶養人数は、一九二〇年で二・一一人、二〇〇〇年で一・九五人、二〇二〇年予測で二・〇五人とほとんど変わらないんです。
 国民の医療への意識には誤解があります。「日本の医療は値段が高く、世界最低と思っている」が実際は逆です。テレビなどの影響で、「健康に関心が高く、医師や最新医療に過度の期待をもつ」ために、逆に医師への不信が増幅されています。
 日本の医療は、「平均寿命が高く、乳児死亡率が低い」「医療費がきわめて低く、高度の医療」「公平性、フリーアクセスが保たれている」など、WHO(世界保健機構)の評価で日本は世界一位、アメリカは三十七位です。患者・国民にとって日本は安い医療費で、いい医療を受けられる、世界最高という評価です。しかし、この評価ははどうなるか分かりません。医療改悪で日本の医療が崩れつつあります、また今の日本の医療は医師や看護師など医療従事者の不足(過重労働)のもとに成り立っているのが現実です。このことを誰も言わないので、何かあれば医療現場がバッシングを受けます。

諸悪の根元は医療費抑制策

 国民は「医療の質、安全性を高めてくれ」と願い、国は患者負担増や診療報酬引き下げによる「医療費抑制」をめざしています。この二つは両立しません。さらにもう一つの考え方が、国は補助しないが医療費はいくら高くても構わないというアメリカ式で、その具体化が医療の株式会社化や混合診療です。
 混合診療について政府は、生命に関係する部分も含めて自己負担と考えており、混合診療を許すと大変なことになります。車の保険と同じで、最低限の強制保険が現在の公的保険で、車の任意保険のようなものを新たに作ろるということ。損をするのは国民で、とくに低所得者の方は最低限の医療しか受けられなくなる。いい医療を受けようとすれば高額の保険に加入する必要がある。大部分の病院や開業医ももうからない。もうかるのは民間の保険会社と国庫負担を減らせる国です。米国資本の民間保険会社が日本に入ってきています。彼らは米国政府を通じて日本政府に要求して日本に進出してきた。昨年、日本人が加入した最大の保険会社は米国のアフラックです。
 医療事故の原因の一つはシステムエラーによる事故で、これは防げます。もう一つは、看護師不足による医療事故です。看護師不足を前提とした看護基準(看護師定数)を決めている厚労省に原因がある。それなのに事故が起こると現場の看護師が責任をとらされる。医療事故を防ごうとすればお金がかかる。経営の安定がなければ医師に余裕がなくなり事故を招く。医師・看護師不足で過労で事故を招きます。
 医療に対して患者側にも医療従事者者にも不満があるが、諸悪の根源は国の医療費抑制政策です。現状では、医師や看護師が足りず患者に満足な医療を提供できません。医療はサービス業ではなく、国民の生命と健康を守る「安全保障」です。自衛隊員、警察官、医師はそれぞれ二十七万人程度。国民の生命と健康を守る医師や看護師を増やすべきです。

【書籍紹介】
『崩壊する日本の医療』鈴木厚・著安全保障としての医療/日本の医療の崩壊/平成一八年の医療制度改革、診療報酬改定/日本の財政と医療/医療の国際比較/医療事故
医療は社会が共有する財産である!(秀和システム、一〇五〇円)