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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2007年4月号

日本の国益を損ねる安倍外交
日朝国交正常化は最優先の外交課題


元中国大使  中江 要介


 日朝国交正常化は
 国際条約上の義務

 日本はアジアで朝鮮半島を植民地支配したり、無謀な戦争を起こしたりして、言葉で言い尽くせないほどの被害や苦痛を与えました。
 戦争に敗れた日本は、ポツダム宣言を受諾して無条件降伏し、「日本は朝鮮の独立を承認して、朝鮮に対するすべての権利、権原および請求権を放棄する」とうたったサンフランシスコ平和条約を結び、独立を回復しました。ポツダム宣言、サンフランシスコ平和条約は戦後日本の出発点となり、朝鮮の独立を承認することは、日本が負うべき国際条約上の義務となったのです。
 しかし、冷戦が始まり、アメリカとソ連の勢力争いの犠牲にされて、ヨーロッパではドイツが東西ドイツに、アジアでは朝鮮半島が南北朝鮮に、ベトナムが南北ベトナムに、中国が中国と台湾にというように、同じ国家、同じ民族が二つに分断されました。さらに不幸なことに、朝鮮半島では大国の覇権争いで朝鮮戦争が起こりました。アメリカを中心とする西側陣営は南の大韓民国を支援して、北の朝鮮民主主義人民共和国を全く無視し、敵視しました。
 こうした冷戦によって、日本は朝鮮全体の独立を承認することができず、アメリカの要求に従って、南の韓国との国交正常化交渉を開始しました。交渉が行きづまるとアメリカから強力な圧力がかかり、日本政府はそれに「右へならえ」する、そんな状況でした。それでも、当時の外務省には北朝鮮との関係を正常化しなければならないという気持ちはありました。しかし、アメリカが許しません。そこで、韓国政府の力が北半分に及ばないことを意味する文言を日韓条約に織り込み、北朝鮮を「白紙」に残して韓国との国交を正常化しました。
 「白紙」に残した北朝鮮との国交正常化は、冷戦が終わった時にすぐやるべきことでした。しかし、いまだに国家としての承認も、領土問題の解決も、賠償や補償もやっていません。朝鮮半島の北半分は「白紙」のままで残っており、日本はサンフランシスコ平和条約で約束した戦後処理の義務をはたしていないのです。北朝鮮との国交を正常化しなければ、アジアにおける戦後処理は終わりません。
 北朝鮮との戦後処理を怠っている日本は、国際条約の義務をはたしていない半人前の国で、アジアの信頼は得られません。安保理常任理事国入りの問題でもわかるように、足元のアジアで日本を支持する国はありませんでした。逆に、中国のように反対運動を世界的にくり広げる国が出てきました。日本がアジアで信頼されないのは戦後処理を怠っているからだということを、謙虚に反省する必要があります。

 拉致問題解決優先は
 間違った外交方針

 安倍首相は「拉致問題の解決なくして国交正常化なし」を日本政府の外交方針にしています。このように拉致問題の解決を国交正常化の前提にするのは間違っています。
 第一に、北朝鮮との国交正常化は日本がはたすべき国際条約上の義務です。特に北朝鮮の場合は、三十六年の植民地支配に加えて、戦争が終わってからも半世紀以上にわたって謝罪も補償もせずに放置し、無視し、敵視する扱いをしてきた国です。戦後処理の義務をはたさず、相手ばかり非難する日本は、侵略戦争の被害を受けたアジアの国々から見れば、一方的で信頼できない国に映ると思います。日本が拉致問題を理由に国交正常化をおろそかにすることは、戦後処理を義務として課せられている立場からも、道義的にも正しくありません。
 第二に、国交正常化をしないということは、国家として承認せず、正式の外交関係を持たないということです。お互いに相手を認め、主権を尊重しあわなければ、話し合いは成り立ちません。安倍政権は「対話と圧力」と言っていますが、罵詈雑言をあびせて非難し、制裁を加えて敵視しているだけでは、対話は成立するはずがありません。どうやって拉致問題を解決しようというのでしょうか。平和憲法は武力行使を国際紛争の解決手段として認めていませんから、平和的な手段で話し合いで解決する以外にありません。そのためには国交を正常化して、正式の外交関係を持たなければなりません。国交正常化によってはじめて、日朝間の諸問題を国際ルールに従って、話し合いで解決する道が開けるのです。それを拒み、拉致問題の解決を国交正常化の前提にするのは、国交正常化する気も拉致問題を解決する気もない、というに等しいものです。

 戦前の日本とよく似た
 危険な兆候

 国交を正常化するということは、朝鮮の植民地支配を反省し、朝鮮の人々に与えた被害や苦痛を謝罪、補償し、朝鮮民主主義人民共和国を独立国として承認し、正式な外交関係を持つことです。
 ところが、日本は政府もマスコミも、朝鮮に対する過去の仕打ちを忘れたかのように、拉致問題とかミサイルや核実験などで北朝鮮を非難することばかりしています。特に政権政党の中では、頭っからアジアを軽んじ、朝鮮半島や中国に対して傲慢で、謙虚さを欠く声が強くなってきています。「あの戦争は間違っていなかった」「侵略はなかった」「日本が謝ることはない」「東京裁判は勝った者が負けた者を裁いたものだから、そんなものを認める必要はない」というような議論が声高に行われるようになりました。
 その底に流れているのは、「日本は神の国だ」「大東亜戦争はアジアを欧米の植民地主義から解放し、民族独立を助けるための正義の戦いだ」「日本はアジアの盟主だ」という、戦前の軍国主義者たちが唱えたのと同じ主張です。戦前の日本はこうした主張によってマインド・コントロールされ、無謀な戦争に突き進んでいきました。それと同じ状況が始まっているように思えてなりません。後藤田さんや宮沢さんや野中さんなど、戦争を体験した政治家が言っていたように、これは危険な兆候です。
 日本自身があの戦争は間違っていたと認めるのか、誰に責任があったと糾しているのか、よその国から見てわからないだけでなく、日本人の中でもあいまいになっています。それをいいことにして、日本は悪くなかったと言い出して、戦争責任を忘れていくように仕向けられています。先日も、安倍首相は従軍慰安婦問題で河野談話を継承すると言いながら、強制連行を裏付ける証拠はなかった、謝罪することはないと言いはりました。A級戦犯を祀った靖国神社への参拝問題もそうです。
 そんな状況だから、北朝鮮だけでなく、すでに国交正常化して友好関係を約束した韓国や中国からも、日本の歴史認識は間違っている、過去について十分な反省をしているのか、とくりかえし追及される。すると日本人の中にも、俺たちは謝っている、戦争しないと言っているのに何を文句言うんだ、と怒る者も出てくる始末です。しかし、相手に理解してもらえない。
 日本が戦争責任と歴史認識をあいまいにし、戦後処理に真剣に取り組もうとしないならば、アジアでますます孤立を深めます。アジアから離れては生きられない日本の国益を損ね、将来を危ういものにします。

 朝鮮半島、台湾海峡は
 本当に不安定要因か

 アメリカは、「日本周辺の朝鮮半島、台湾海峡は、いつ戦争が起きるかわからない不安定要因だ」と大きな声で主張してきました。日本では政府やマスコミの中にも、アメリカの主張に乗って、北朝鮮が日本を武力攻撃をすると言わんばかりに「北朝鮮の脅威」を言い立て、北朝鮮を悪者にする議論があります。また、中国の軍事費は不透明だと中国脅威論をくりかえすなど、日本のまわりに戦争の種になることがあるかのように、ワイワイ騒ぐわけです。
 北朝鮮や中国の「脅威」を理由に、政府は日米ガイドラインや有事法制をつくり、武器輸出三原則をゆるめ、ミサイル防衛システムの配備を進め、在日米軍再編に協力し、防衛庁を防衛省にしました。何のことはない、アジアにおける米軍のプレゼンス強化、日米の軍事一体化に、北朝鮮や中国の「脅威」を利用したわけです。
 これが日本を守る道だと思っている人もいるようですが、大きな間違いです。「朝鮮半島はいつ戦争が起きるかわからない不安定要因」という人たちが、具体的に想定し得るのはどんな戦争でしょうか。北朝鮮が中国やロシアを攻撃する可能性があるとでも言うのでしょうか。南北和解し、自主的平和統一をめざしている韓国への攻撃も考え難いことです。日本を攻撃することもありえません。日・米を敵にまわしても得るものは何もなく、何十万の在日同胞に危害を加えることになるだけだからです。アメリカを攻撃する力もありません。唯一の可能性は米軍による北朝鮮への先制攻撃です。その場合は、日本や韓国が巻き込まれる可能性があります。アメリカがイラクで手を焼いている今は、それも考えられませんが、アジアで米軍のプレゼンスが強化され、米国政府が覇権主義に走れば、その可能性が出てくるかもしれません。すると、日本の安全を脅かす可能性が大きいのは在日米軍ということになります。
 台湾海峡が不安定要因だというのなら、台湾と中国とが武力紛争を起こさない関係になるよう、日本が工夫し、努力することです。いま日本がやっているのはその逆で、台湾は民主化されているが、中国は民主化されていないので問題だと言って、対立をあおるようなことをして、不安定だと騒いでいるのです。
 北朝鮮が脅威だというのなら、北朝鮮と平和的な話し合いができるような関係を作り、脅威でなくなるように働きかけることです。そういう外交努力によって脅威を除去し、不安定を安定化するのが本当の外交ではないでしょうか。
 安倍政権の対北朝鮮外交は、相手に罵詈雑言をあびせて非難し、制裁を加えて敵対的な感情を起こさせ、脅威でないものをことさら脅威にしようとしているかのようです。その結果、日本は六者協議では孤立し、世界で最初の被爆国である日本こそ六者協議で「非核化」のため大いに主張すべきであるのに、カヤの外におかれました。日本が来ると話が進まないから来ない方がいいなどと、北朝鮮に言われています。これほど愚かな外交はありません。拉致問題を優先したためですが、なぜそうなったのか謙虚に反省しようともしていません。
 拉致の問題でも、核武装やミサイルの問題でも、相手と冷静に話し合いができる関係がなければどうにもなりません。日朝国交正常化は、日本の安全を守るためにも、最優先の外交課題だと思います。

 自主平和外交で
 アジアから信頼される日本を

 共和党だろうが民主党だろうが、超大国アメリカは自国の国益を最優先し、自国の国益のために同盟国にいろいろと要求し、必要ならば武力行使もいとわぬ国です。アメリカへの追随はアメリカの国益に利用されるだけで、日本の平和と繁栄を保障するものではありません。日本の平和と繁栄を保障するのは日本国民に支持された自主平和外交だけです。
 日本は好むと好まざるとにかかわらず、アジアの中でアジアの国々と共に生きていかなければなりません。日本の平和と繁栄を保障するには、日本自らがまずアジアの国々から信頼される国にならなければなりません。人間関係と同じように国と国との関係も、心と心のふれあいがなければ、相手から信頼されません。覇道ではなく王道を進まなければなりません。
 アジアで失った信頼を取り戻すために、日本は傲慢を排し、謙虚でなければなりません。その試金石が日朝国交正常化です。日本が自主平和外交を堅持し、失った信頼を取り戻し、アジアから信頼される国に脱皮できるかどうかが、かかっています。日朝国交正常化には多くの困難がありますが、国民世論を盛り上げ、広範な国民の力でそれを実現できる外交に変えていかなければなりません。   (文責・編集部)