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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年11月号

痛みが激痛となる前に

社会保障・福祉の崩壊を食い止めたい

福岡県社会保障推進協議会事務局次長、福岡県歯科保険医協会事務局長  岡ア 誠


はじめに
 十一月二日、安倍内閣メールマガジンに「昨年五七一人もの未成年者(五〜一九歳)が自殺しています」(高市早苗特命大臣)という「書き込み」があった。
 いま医療も介護・障害者福祉や高齢者福祉、生活保護施策など、子どもから青壮年期、高齢者の各層をめぐって戦後最悪の状況に追い込まれている。
 この間の政府の社会保障改革の動向の特徴は、介護保険・障害者福祉「改革」にかぎらず短期間で十分な議論なしに法案がまとめられ、頻繁な法改正や制度改革がなされていることである。しかも法律は大まかな枠組みを定めるのみで、具体的内容や重要事項は政令・省令に委ねられ、法的効果のない通知や極端な場合には、厚生労働省の「Q&A集」などの回答にもとづいて実務が行われているのが実態である。改正介護保険法では政令・省令に委ねられている部分が一六〇項目、医療保険改革関連法では四四〇項目もあったほか、障害者自立支援法の場合は、厚労省による「グランドデザイン」の提起から法案提出まで四カ月足らずという異例の速さで、しかも詳細な内容は二〇〇近い政令・省令に委ねられた。
 この間のうごきと何が小泉構造改革の五年半で引き起こされたか、今後安倍新政権のもとで進めようとしていることは何なのか、メモ風にご紹介したい。

→「構造改革」の『激痛』、命奪う事件まで発生
・北九州市で、生活保護の申請が受理されずに『餓死』
 秋田市では生活保護申請を拒否され抗議自殺
・障害者自立支援法実施で八件の親子心中
・八年連続の自殺者三万人
・国保料や介護保険料の値上げで、半月のうち六一万世帯の国保加入者のうち大阪市で一二万四千人が区役所に殺到→所得税・住民税・国保料・介護保険料の四重苦。
・病院の窓口では「未集金」が大量発生、NHKなどが大きく報道。
・療養病床での評価点数削減でベッドも医療機関も減少している。
→「格差」のひろがり
・勤労世帯の実収入は、〇五年には九七年と比較して八五万円減少
・従業員千人以上の大企業の非正規雇用の比率は、九七年一五・七%から〇六年に三〇%に
 全体での非正規雇用者の比率は、三三・二%、その多くが社会保障から排除
 従業員給与は九七年をピークに減少傾向が止まらない
・九七年と〇四年の比較で、大企業の経常利益は一〇・七兆円増加、従業員給与は五兆円の減少
 増加→配当金二・三兆円、役員給与・賞与〇・三兆円、自社株買い二・八兆円
→その中で何が起こっているのか
・節約で削るのは近所づきあい
・自らのバランス維持のために、より下層の人を攻撃する「イジメ」を生み出す構造
・競争から落ちこぼれた人たちが、安全な食料や医療・福祉など生きる為の最低限の権利さえ奪われている
※安倍晋三新総裁「美しい国へ」
 「構造改革が進んだ結果、格差があらわれてきたのは、ある意味で自然なこと」
※竹中平蔵氏「格差ではなく、貧困の議論をすべきだ。社会的に解決しないといけない大問題として貧困はこの国にはないと思います」(六月十六日「朝日」)
※石原衆議院議員「生活保護はお恵み」(二月五日「NHK日曜討論」)

1.「骨太方針2006」(七月七日)→二〇一一年までに一兆六千億円の社会保障費削減ねらう

(1)「小泉構造改革」の五年間、社会保障費は総額一兆二千億円が抑制された。
 今後五年間、二〇一一年度には国と地方で基礎的財政収支(プライマリーバランス)一六兆五千億円の赤字予想を黒字化するとし、一一兆四千億円から一四兆三千億円の歳出削減を盛り込み、不足分は消費税で賄うとしている。さらに二〇一五年には、国民総生産(GDP)に対する国と地方の債務残高を減らすには、二七兆円の削減が必要として消費税増税が不可欠としている。社会保障をターゲットに過酷な歳出削減を狙っている。
〈要点〉
・「小泉構造改革」の五年間、社会保障費は総額一兆二千億円が抑制された
 今後五年間で一六兆五千億円規模の「歳出歳入一体改革」を行うとして、社会保障は一兆六千億円(国一・一兆円、地方〇・五兆円)を抑制する。
・病院窓口での負担割合を実質四割〜五割にする「保険免責制」を導入する。
・クスリの保険外し
・後期高齢者の自己負担引き上げ(一割→二割)
・介護保険の利用料の引き上げ(一割→二割)
・生活保護の給付基準の引き下げ
・雇用保険への失業給付への国庫負担の廃止
・社会保障番号・個人保障会計の導入など等

(2)財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の「建議」
 六月十四日の財政制度等審議会財務相の諮問機関)では、歳出・歳入一体改革に関する建議(意見書)をまとめ、世代間の公平性を確保した上で社会保障財源の「安定的な確保が必要」として、消費税率の引き上げを提言、社会保障財源のあり方について「国民から新たな負担を求める場合、社会保障給付に充てることを明確にすることは意義がある」と、税率引き上げに伴う消費税の目的税化を事実上容認。
→「自助努力で対応する部分と公的制度で対応する部分の役割分担を検証し、公的分野が関わるべき範囲の見直しを行う。同時に制度間の重複等の見直しを行う」
→「今後、高齢者向けの給付が大きく伸びる中で、高齢者を一律に弱者と捉えるのではなく、年齢を問わず負担能力に応じて積極的な貢献を求め、世代間の公平の確保を図る」
→「医療・介護等の給付は保険料や税負担で賄われていることを踏まえ、サービス提供コストの抑制を図る」
〈要点〉
→二〇一一年度に行う制度変更
・医療に関わる自己負担を約二倍に引き上げる
・介護に関わる自己負担を約二・五倍に引き上げる
・基礎年金支給開始年齢を六十九歳程度に引き上げる
・児童手当の支給対象年齢を小学校四年以下に引き下げる
・「保険免責制度」
・介護保険利用料の2割化など等

(3)社会保障のあり方に関する懇談会「今後の社会保障のあり方について」(五月二十六日)
「税財源による公費負担は、国民皆保険・皆年金体制を堅持する観点から、主に社会保険料の拠出が困難な者を保険制度においてカバーするために投入することを基本とすべきである」
〈要点〉
・自ら働いて自らの生活を支え、自らの健康は自ら維持するという「自助」を基本として、
・これを生活のリスクを相互に分散する「共助」が補完し、
・その上で、自助や共助では対応できない困窮などの状況に対し、所得や生活水準・家庭状況などの受給要件を定めた上で必要な生活保障を行う公的扶助や社会福祉などを「公助」として位置付けることが適切である。

(4)ウソで固めた「改革」提案
・年金→「百年安心プラン」
 社会保険庁「改革」を名目に、年金の収奪機構を確立させる
・国民年金の滞納者には国保の「短期保険証」発行
・国民年金の給付にクレジットの使用可能に(医療機関での支払いのカード化など)
・介護→軽度の要介護者(要支援、要介護1)は、ホームヘルプサービスを使うことで何もしなくなっている。そのために介護度が悪化している。
・食住費自己負担による退所者調査「経済的理由の退所ない」(八月三十一日厚生労働省)
 「二四県四四市区町の六八自治体で一三二六人、一三の自治体は退所者ゼロ」??
 実際には、
・医療→「医療費が増大する」とした大宣伝
 医療費の将来予測=二〇二五年の推計(二〇年後の医療費予測)
 九四年=一四一兆円→九七年=一〇四兆円、〇二年=八一兆円→今回=六五兆円
 九四年当時の国民医療費二五・八兆円/九七年当時の国民医療費二九・一兆円
 〇二年当時の国民医療費三一・一兆円

2.医療改悪の具体的な内容
 この間の医療制度改悪と規制緩和が進められるなかで、カタカナ保険会社の医療保険分野への進出は、目を見張るものがある。アメリカなどを本拠地とした多国籍企業が驚異的なスピードで、そのシェアーを拡大してきている。
※改悪の経過
◆一九八〇年代―中曽根第二臨調・行政改革攻撃。老人医療攻撃
◆一九八三年―老人保健法によって、老人医療の無料化がつぶされ、一部負担金の導入、以降改悪が続く。
◆一九八四年―健康保険本人十割給付が崩され一割負担に。特定療養費制度の導入。
◆一九九〇年代―一部負担金の増額、健保本人二割負担。
◆二〇〇〇年―介護保険制度創設、社会保障制度の改悪の雛型。
◆二〇〇〇年代―老人医療に一割二割負担導入、すべての健康保険が本人・家族とも三割負担とされる。

(1)お年寄りいじめ
・一割負担→二割負担、一定所得者は三割に(夫婦で五二〇万円以上の収入の人……一六%)
・改悪による負担増今年度で千七百億円、二〇〇八年度は三千億円
(2)高齢者医療制度
・高齢者医療保険制度の新設→保険料の取りたて→月額平均六二〇〇円
・保険料を払えない高齢者にも「資格証明書」
・世代間の対立あおる→「基本保険料」と高齢者支援の「特定保険料」
・「後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療が提供できるよう、新たに診療報酬体系を構築する」
・七十五歳以上を被保険者として「後期高齢者保険」制度、国民健康保険から除外する
(3)療養型病床廃止と先取りした診療報酬による深刻な事態の発生→「介護・療養難民」
・長期入院(高齢者)の居住費・食費の自己負担化
・十月一日から実施の介護施設の後追い
・介護保険では、年間四千億円の給付費を削減→すでに千人以上の退所者
・「療養病床」の廃止・削減三八万床を一五万床に→「行き場のない病人が……」
(4)「混合診療」の実施
・保険の診療は三〇兆円に抑える。残り三〇兆円は混合診療など自費で受けさせる
 保険の使えない医療の拡大→「保険外併用療養費」制度
(5)「終末期医療のあり方」→在宅で看取ったら「報奨金」制度??
 「やっても治らないようなところにはもう金をかけない、病院で死んでいけるけども、在宅で死んでもらう(ようにする)こともありうる」(自民党・久間章生総務会長〇五年十月二十三日サンデープロジェクト)
(6)健診の保険者への義務化
・健康増進、予防強化(中長期対策)
・生活習慣病の予防の徹底
 医療保険者に対し健診・保健指導の実施を義務づけ
 政策目標=生活習慣病患者・予備軍を二五%減少させる(平成二十七年)
・老人保健法が廃止され、自治体の責任放棄と保険者管理で健診を実施
・実施率や効果に応じて後期高齢者への支援費にペナルティをかける
(7)医療保険を都道府県で統合する(中長期的対策)
・国の責任放棄と都道府県による医療費削減の競争化
・「広域連合」での実施内容が不明確

3.六十五歳以上の年金生活者・高齢者に信じられないぐらいの負担増
 老年者控除の廃止、公的年金控除の切り下げ、老年者非課税措置の廃止によって、年金生活者・高齢者に大増税。国民健康保険料などの社会保険料も同時に負担増。
 市県民税が非課税から課税になると、税金や社会保険料の負担増はもちろんのこと、思わぬところまで波及し、信じられないくらいの大幅アップになっている。
 今まで非課税であった六十五歳以上の年金生活者・高齢者が、老年者非課税措置の廃止などで、非課税から課税となる。課税となれば、今まで適用されていた国民健康保険の減額・減免措置が非該当とされ、さらに、市県民税額の五倍ぐらいの所得割が、基本の保険料に加算されることになる。介護保険料も課税世帯となり、保険料基準が、本人は二段階上がり、配偶者は非課税でも一段階は上がることになる。
→老年者でも、一五五万円以上の年金受給者は、課税に
 六十五歳以上の年金生活者は、二六六万五千円以下の年金額であれば、従来は非課税。しかし、平成十七年の「税制改正」によって、老年者控除の廃止、公的年金控除の切り下げ、老年者非課税措置の廃止により、六十五歳以上の高齢者(単身)であっても、一五五万円以上の年金を受給者は十八年度市県民税が課税となる。

4.障害者自立支援法の影響
※二〇一一年度までの主な目標として、
(1)障害者施設入所者数を七%(約一万人)以上削減、
(2)福祉施設から新たに民間企業へ雇用される障害者数を四倍に増加、
(3)精神障害者の「社会的入院」の解消のため、精神科病院への入院患者数を五万人削減など……。
※通所施設からの『声』
 「作業所の工賃が月七千円しかないのに、通うのに三万円もかかるようになると、家に閉じこもらざるを得ない。障害者にとって福祉サービスは贅沢ではなく、生きる上で不可欠なものであり、利益ではありません」

5.介護保険「改革」の影響
 昨年十月一日から、施設の部屋代・食費の自己負担化が実施され、相部屋で月一万円、個室で二万〜五万円、平均一人年間で四〇万円の負担増、入所を継続できない利用者が続出する可能性。
 年金収入八〇万円〜二六六万円の人のうち、一カ月六万七千円の年金の人の場合、残ったお金から医療費や通院費等を支払えば、手元にはほとんど残らず、年金額以上を取られることになりかねない。
 入所しても自宅や借家は残っており、その負担は残ったまま。個室と相部屋の格差は、お金のあるなしで療養環境に不公平をもたらす。
 各県の自治体では、高齢者福祉を介護保険業務に矮小化してしまい、本来の相談業務を放棄して、ケアマネージャーに相談、訪問、助言を丸投げにするという事態が生まれている。「老々介護」の痛ましい事件が続出している。

6.安心できる社会の崩壊が進行
 国民生活は困窮の度合いを深めており、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」(〇六年五月一日報道)では、「生活が苦しくなった」が四五%にのぼり、一年前と比べて「ゆとりが出てきた」とする人はわずか七・六%、「苦しくなってきた」が四四・八%という深刻な結果を公表。四%台で推移する完全失業率、パート・アルバイト、派遣労働者など非正規・不安定雇用の増大などで、生活保護は、失業者の増大に加えて、自己破産、路上生活者の急増などによって右肩上がりに増大。
 自殺者は九八年から八年連続三万人突破(〇五年度警察庁調べ)、八千人近くが「経済苦・生活苦」。
 三月には福岡市で、障害者自立支援法の負担増などで悩んだ末の母子心中事件や、北九州市での相次ぐ生活保護申請拒絶による孤独死事件の発生など、「福祉との距離遠く」の実態が明らかになっており、安心できる社会・国のカタチの崩壊が始まっている。
→失踪者一〇万二一三〇人、自殺者は三万二三二五人(〇四年度警察庁まとめ)。
 深刻な世相、雇用環境の悪化で家族を養い、働き盛りの四十代五十代には、容赦のないリストラの攻撃が吹き荒れ、高い失業率は一向に改善の兆しが見えていない。子会社への出向で、賃金を大幅に引き下げられた人も多数おり、中小企業の倒産件数も高い水準のまま推移している。民間企業の賃金水準は、十年前までに引き戻されたかっこうとなっており、このような中、就学をあきらめてしまう大学生や、私立高校での学費の滞納、就学援助を受ける子どもたち(小学生や中学生)が増加している。

7.憲法活かした権利主張と地域の医療・福祉改善を防波堤に!
 国民の生活実態に根ざした、悲鳴にも似た怒りと要求に変えるには、どうしたらよいのかを、しっかり意思統一していくことが重要な課題となっている。
 「共感し、連帯し、代弁して」いく運動が大事であり、潜在化してしまい、表に出せずに深刻化しても、最後は、個人や家族で我慢して吸収してしまう問題を、「自己責任」として終わらせず、より多くの人に現状をわかりやすく知らせ、社会保障の問題を政治的な争点にしていく運動や、実施主体の市町村との共同の取り組みなどが必要であり、地域でともに暮らす住民の一人として医療・福祉を権利として実現することが切実な課題となっている。憲法改悪反対、教育基本法改悪反対などの運動とも結びつけた視点も大切となっている。

〈追記〉
 去る九月三十日に青森で「リハビリ日数制限」をテーマに『あしたから、どうへばいい』というシンポジウムが行われたが、その際に「リハビリ中止は死の宣告」と打ち切り反対の運動の先頭に立つ多田富雄東大名誉教授が「青森から大きな声を」とのメッセージを寄せておられる。ここにご紹介して稿を締め括りたい。
 『私は東京の多田と申します。私は重度の右麻痺で、言葉も一言もしゃべれません。もう五年間もリハビリを続けています。今回のリハビリ打ち切りに対しては、左手だけで、ペンを武器にして戦っております。私の「リハビリ中止は死の宣告」という、朝日新聞への投書に端を発した署名運動は、四四万四千二二人の人が署名してくださいました。これは国民二九〇人に一人が打ち切り反対の署名したことになります。私はこの運動を通して、市民の力が決して弱いものではことを実感しました。フランス革命も、独立戦争も、これを基にして起こったのです。
 いまは、厚労省はこの四四万の民の声を握りつぶそうとしています。
でも彼らが最も恐れているのは、この声がもっと大きくなることです。
専門家の意見を聞いてやっとか、介護保険で間に合うとか何とか言って、逃げ回っていますが、きっと近いうちに音を上げます。
 私たち病気や障害を持っているものは、いま人間の尊厳を取り戻すために、そしてわれわれの生存権をかけて戦っているのです。こちらが強いに決まっています。
 皆さん、青森から大きな声を上げてください。地方から声が上がるのを、厚労省は恐れています。その声を広げてゆきましょう。
 私たちの日本は、こんな残酷な制度を作るような、冷たい国ではなかったはずです。弱者や障害者を見捨てるような国ではないはずです。
 まだまだ日にちはかかるかも知れませんが、気を抜かずにがんばりましょう。きっとこの冷酷で乱暴な制度が、撤廃される日が来ると信じています。私も言論活動を続けます。皆さんとともに戦い続けます。がんばってください。東京大学名誉教授多田富雄』
(二〇〇六年十一月八日、記)