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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年11月号

対米従属下の政治・軍事大国化
始まった核武装への世論づくり

月刊『日本の進路』編集部


 中川、麻生らの核保有論議

 麻生外相や安倍官房長官(当時)らは、朝鮮がミサイル発射実験をおこなった直後に、ミサイルを撃ち込まれる前に朝鮮の発射基地を直接攻撃できる能力の保持を検討すべきだと、先制攻撃論へ世論を誘導した。麻生外相は「金正日に感謝しないといけない」と口をすべらし、朝鮮を利用して政治・軍事大国化をはかっている本音をもらした。
 そして、今回、安倍政権は国連安保理が十月十四日に核実験を理由に朝鮮制裁決議を採択した翌日から、朝鮮の核実験を利用して日本の核武装へ世論づくりに動き出した。
 自民党の中川政調会長は十月十五日のテレビ番組で、朝鮮の核実験に関連して、「憲法でも核保有は禁止されていない。核があることによって攻められる可能性が低くなる。議論は当然あっていい」と発言した。翌十六日も、「非核三原則をいじるとは言っていない」と言いながら、日本が核を保有するかどうかの議論はあってもいいとくり返した。
 中川はさらに訪米して、二十七日にアーミテージ前国務副長官やクエール元副大統領らと核保有をめぐる意見を交換した。アメリカ側の反応について、「議論をやってはいけないと言う人は一人もいなかった」と明らかにし、核保有議論についてアメリカのお墨付きを得たことを強調した。
 中川は以降も、執拗に核保有論議をくりかえした。
 「政府としても、必要最小限の軍備の中に核も入る、憲法上は持つことができると言っている。核議論を今こそすべきだ」(三十日、沼津市の講演)
 「相手が核という今までにない要素を出した以上、核を抜きにした議論はあり得ない。日本が核の議論をすれば、米国が離れると危ぐする人もいるが、そうではない」(十一月一日、東京都内の記者クラブ)
 「(朝鮮の軍事)能力も日々充実しているとするならば、平和と安全をどう守っていけばいいのか。核も含めて、なぜ議論しないのか」(三日、佐賀市の講演)
 「核保有があり得るか、あり得ないかを議論しようと言っている」(五日、フジテレビ)
 「日本は過去六十年間、冷戦構造の中での議論のまま、日本の安全についての議論をしてこなかった。飛んでくる可能性がある時、日本の平和と安全をもう一度考える必要があるのではないか」(八日、都内の講演)
 麻生外相も中川に呼応した。十月十八日の衆院外務委員会で、「非核三原則を維持する日本政府の立場は変わっていない」と述べながら、「隣の国が持つことになった時、検討するのもだめというのは一つの考え方とは思うが、いろんな議論をしておくのも大事なことだ」と発言した。二十四日の参院外交防衛委員会でも、「日本がなぜ持たないかという理由を議論しておいたほうがいい。議論は封殺されるべきではない」と、核保有議論をすべきとの発言をくりかえした。

 核武装への世論づくり

 かつては、閣僚がこのような発言をすれば、ただちに罷免された。しかし、安倍首相は「議員個人個人が話すことは言論の自由」と容認している。十月二十七日には、「政府や自民党の機関以外の議論は封殺することはできない。中川政調会長はアカデミックな場などで議論されるという観点から話したのではないか」と述べた。十一月一日に中川政調会長から訪米報告を受けた時も、核保有に関する発言に自制を求めることはしなかった。
 自民党の中川幹事長も、「政府、与党は核論議はしないと統一しているが、政治家が個人として、中長期の意見を自ら研さんしていくことまで封殺することがあってはいけない」と、核保有論議を容認した。
 核保有論議は、中川政調会長や麻生外相の個人的な発言ではなく、安倍政権が意図したものであり、「やらせ発言」なのである。
 こうした中で、自民党内からは非核三原則を見直すべきだとの意見も飛び出した。自民党の笹川尭党紀委員長は十一月七日の党役員連絡会で、「北朝鮮は核を持つことを志向するだろう。そうなった場合の対応として、『日本に核を持ち込ませず』ということで、安全が守れるのだろうか」と問題提起した。
 産経新聞は十月二十日、「核論議、もう思考停止はやめよう」という社説を発表し、読売新聞は十一月八日、「核論議、議論すら封じるのはおかしい」という社説を発表し、日本の核武装へ世論づくりを促進している。中曽根元首相が会長をつとめる世界平和研究所は、すでに朝鮮の核実験に先立つ九月提言で、「将来の国際社会の大変動に備え、核問題の検討を行う」と主張している。
 多国籍大企業やその利益を代弁する政治家たちは、海外に広がった多国籍大企業の権益を守り拡大するため、対米従属のもとでの政治・軍事大国化、日本の核武装を求めており、核保有論議はそのあらわれである。

 対中国カード

 核保有論議は、長期的には日本の核武装をめざした世論づくりであるが、短期的なねらいもある。
 ブッシュ米大統領は十月十六日、中川政調会長の核保有論議を念頭において「核兵器に関する立場を再検討しているという日本側発言を、中国が懸念していることを知っている」と述べた。
 中国の王家瑞・中国共産党対外連絡部長は十六日、安倍首相との会談で、中川政調会長の発言に関連して、「非核三原則を堅持すると首相が公式の場で述べていることを高く評価したい」と述べた。安倍首相はこれに「ご心配なく」と応えて、日本の核兵器保有を改めて否定した。
 つまり、中国が恐れていたのは朝鮮の核保有そのものではなく、朝鮮の核保有を利用して日本が核武装することだった。だから、中川発言はそれが杞憂でないことを中国に感じさせ、朝鮮に対する圧力を強めるよう中国を脅かすねらいももっていたのである。
 中国の圧力で六か国協議が再開されることとなった。中川政調会長は十一月八日、米中間選挙の結果を受けた米国の対朝鮮政策の変化や、六か国協議での朝鮮の出方を見きわめることを理由に、核保有論議については「状況を二、三週間注目しなければならない。見守ることが大事で、あえて発言しない」と述べた。
 だが、核武装への世論づくりという長期的なねらいからも、中国・朝鮮・韓国を分断する対中国カードとして使おうという短期的なねらいからも、一時的にはともかく、安倍政権は核保有論議をやめないだろう。
 だが、アメリカに追随しながら、核武装も含めて日本を政治・軍事大国化しようとする安倍政権は、保守・革新を超えて、被爆の体験をもつ国民の激しい反発を招かざるを得ないだろう。

 国民運動を発展させる広範な戦線の形成を

 十月十七日、「憲法を守る東広島地区協議会」(代表委員・赤木達男東広島市議)などのメンバー二十七人が、東広島市役所玄関前で、中川政調会長の解任などを求めて座り込みを行った。
 十一月八日、広島県平和運動センター、広島県原水禁、広島県被団協の呼びかけで、中川政調会長らの「核武装論議」発言とそれを容認する安倍首相に抗議し、非核三原則の法制化を求めて、九十四人が原爆ドーム前で座り込みを行った。
 十一月九日、長崎県平和運動センターと原水爆禁止長崎県民会議のメンバー約七十人が、中川政調会長らの発言撤回を求めて、平和祈念像前で座り込みを行った。
 野党も一斉に反発し、麻生外相の罷免を求めている。
 民主党の鳩山幹事長は、麻生外相が核保有の議論を容認する発言をしていることについて、「北朝鮮が核を持ったら、日本も核を持つという発想になったら、核が世界に拡散してしまう。とんでもない話だ」、「唯一の被爆国として、世界中から核をなくす運動のトップリーダーとして動かなければいけない日本の外相が、こういう発言をしたことに心から怒りを持って、罷免の要求をしていこう」と述べ、安倍首相に外相罷免を求めていく考えを示した。
 社民党の福島党首は、「安倍総理は、非核三原則を維持すると言っている。中川政調会長がなぜこんなことを言うのか、理解できない。北朝鮮の核実験に抗議をしているときに、日本が非核三原則に逆行するようなことには、断固抗議する。内閣不一致であり、安倍総裁としては、中川政調会長を辞任させるべきである」と主張した。
 国民新党の亀井静香代表代行は、麻生外相と中川政調会長の発言について、「自由な議論をしたとしても日本の核保有は不可能だ。持てもしないのに発言しても、北朝鮮の金正日総書記に対するプレッシャーにならない。北朝鮮の核武装の口実にも使われ、百害あって一利なしだ。麻生外相の更迭を要求する」と厳しく批判した。
 自民党と公明党の矛盾も表面化した。公明党の太田代表は「政府、与党のしかるべき立場にある人は非核三原則堅持を貫くべきで、一議員であるから、という言い方は望ましくない」と懸念を表明し同党の斉藤政調会長は「我々は絶対に核を持たない。議論することも世界が疑念を抱くから駄目だ」と強調した。それならば、公明党は連立政権からの離脱もかけて麻生外相の罷免を要求すべきではないのか。「平和の党」の看板が泣かないか。
 自民党内部からも、中川や麻生らに対する激しい批判があがった。
 自民党の二階俊博・国会対策委員長は、「国際社会の誤解を招きかねない発言を何回もすることは、任命権者の責任を問われるような事態になりかねず、発言は慎むべきだ」中川や麻生を批判した。
 自民党の加藤紘一・元幹事長は、「日本も核装備するようなことは絶対に言ってはならないという国際感覚を持つべきだ」、「国際政治と安全保障の秩序を覆すほどの発言をしているということを考えるべきだ」と、安倍首相の対応を批判した。
 自民党の山崎拓・前副総裁の批判は痛烈だ。
 「日本の核保有をめぐる議論はまったく時期をわきまえていない。北朝鮮の核開発を阻止するために国連決議をやっておきながら、自分たちは核武装をやるという。中川政調会長はどうかしている。安倍首相は容認しているから、そのまま放置しているのだろう」。
 「最近の日本の核武装議論を私が強く批判するのは、核による人類の死滅を、唯一の被爆国である日本が先頭に立って防ぐことが重要だと考えるからだ。日本が核武装すれば、NPT体制は崩壊し、東アジアで核武装の連鎖が起こる。日本が核不拡散に逆行することは、決してあってはならない」。
 「首相は非核3原則は国是だと言った。最高指導者の意見を聞かないのは政権内不統一だ。指導者の鼎の軽重が問われる。発言をやめさせるか、職責を辞めさせるかのどちらかだ。人心を惑わす」。
 山崎前副総裁は朝鮮問題そのものについても、「ブッシュ政権はクリントン米政権時代の枠組み合意を否定したが、これは誤りだった。中間選挙の結果を受け、米国は強硬路線から話し合い路線へカジを切らざるを得ないだろう」と述べ、六か国協議への対応で、安倍政権に次のように注文をつけている。 
 「日本はらち問題の解決を第一義にしてきたが、今回はらち問題の早期解決のためにも、核問題を国際協調の中で解決することを優先すべきだ。らち問題を提起すれば、かえって協議の進行を妨げかねない。米国が核問題で譲歩できないのは、日本の強硬姿勢も一因だ。米朝だけでなく、日本にも柔軟姿勢が求められている。日本は国交正常化が達せられれば、北朝鮮へ経済協力を行うと表明するべきだ。この時に拉致問題も解決する」。
 情勢は変化している。国民運動を発展させる広範な戦線を形成し、アメリカに追随しながら政治・軍事大国化をはかる安倍政権を打ち破ろう。