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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年9月号

米国に追随し、政治軍事大国化を夢想する次期政権

安倍新政権反対の広範な世論をつくろう

広範な国民連合事務局長  加藤 毅


 安倍晋三とはどんな人物か

 二十六日召集の臨時国会で、小泉政権に代わって安倍政権が発足することは確実だ。首相となる安倍晋三とはどんな人物か? 
 父は安倍晋太郎元外相。母方の祖父は岸信介元首相で、戦前の東条内閣の下で商工大臣、軍需次官をつとめ、戦後はA級戦犯容疑者として逮捕された。冷戦の激化にともなうアメリカの対日政策転換で釈放され、後に首相として六〇年の安保改定を推進した人物。岸の実弟は佐藤栄作元首相。叔父(父の異父弟)はみずほホールディングスの初代会長となった西村正雄。義父(妻の父)は第五代森永製菓社長だった松崎昭雄。実兄の義父は牛尾治朗・元経済同友会代表幹事である。血脈と閨閥で政財界のトップとつながり、勤労国民の痛みなどとはまったく無縁な人間である。
 安倍は拉致問題や朝鮮のミサイル問題で強硬論を主張し、それをマスコミがもり立て、一気に浮上してきた。二〇〇二年五月に、早稲田大学の講演で「小型であれば、憲法上は原子爆弾保有は問題ない」と発言した核武装論者でもある。また、原理運動、勝共連合、霊感商法などの母体であるカルト集団、世界基督教統一神霊協会(統一協会)とも、岸信介、安倍晋太郎の代から深いつながりをもっており、今年五月の合同結婚式に祝電を打っている。後述するように右翼知識人とも結びついている。財界関係では、徹底した対米従属論者の葛西敬之JR東海会長、西岡喬三菱重工会長(日本経団連副会長)らと「四季の会」をつくり、定期的に意見交換している。その著『美しい国へ』の中で、「右翼反動」、「偏狭なナショナリズム」のレッテルを恐れぬ「闘う政治家」として自分を描いている。安倍は自民党の中でも最右翼に位置する、反動的な政治家である。

 米国のために血を流す同盟
 アジア蔑視の外交


 安倍が掲げる重点政策の第一は、「世界とアジアのための日米同盟」の強化、日米双方が「ともに汗をかく」体制の確立である。そのために、安倍は「戦後レジーム(体制)からの新たな船出」を唱え、憲法制定を政治スケジュールに乗せていくことを表明した。
 安倍が言う「戦後レジーム」とは、戦後五十六年間も米軍がわが国にいすわり続け、軍事から政治、外交、経済、さらに人脈にいたるまで、わが国に深く刻み込まれた対米従属の戦後体制のことではない。「軽武装・専守防衛」を建前として、国外での武力行使を禁じてきた戦後日本のあり方である。歴代の自民党政権は憲法の拡大解釈によって、日本を世界有数の軍事力を持つ国に変え、小泉政権はイラク戦場への自衛隊派遣にまで踏み切った。だが、憲法の拡大解釈は限界にきており、憲法を変えなければアメリカの軍事的要求に応えることも、自衛隊が世界で米英軍のように振る舞うこともできない。「戦後レジームからの新たな船出」とは、わが国を平和憲法の制約から解き放ち、アメリカの要求に応え、世界で自由に武力行使できる政治軍事大国にすることである。
 「ともに汗をかく」体制の確立とは、自衛隊が米軍と一体化し、米軍と「ともに血を流す」体制の確立である。安倍はその著『 この国を守る決意』で「日米同盟は血の同盟だ」と書いている。安倍は米軍の世界戦略を支えるため、自衛隊が米軍とともに血を流すことを求めているのである。集団的自衛権の行使とは、そういうことなのだ。だが、現行の政府解釈では集団的自衛権の行使を認めていない。そこで、安倍は憲法改悪までのつなぎとして、個々のケースが集団的自衛権の行使にあたるかどうかを検討する機関を設けると表明した。集団的自衛権行使かどうかの線引きを変えることにより、実質的に集団的自衛権を行使できるようにするというのである。
 外交では、日米が共有している自由、民主主義、人権、法の支配という普遍的価値観をアジアに拡大すべきだ、と主張している。いわゆる「安倍ドクトリン」である。そのために、普遍的価値観で一致する日米印豪が戦略的観点から連携すべきだという。ネオコンが推進した「民主化拡大構想」のアジア版で、ねらいは中国を包囲し、その台頭を抑制することだ。
 安倍はこのような外交・安保の司令塔として、アメリカの国家安全保障会議(NSC)をまねて、首相官邸に日本版NSCを設置すると打ち上げた。外務省、防衛庁、経産相の外交を日本版NSCの下に一元化し、ホワイトハウスと首相官邸が直接、国際戦略を話し合う体制を構築しようというのだ。実際にはアメリカの国際戦略に従い、その手足になるということである。

 教育の抜本的改革
 政治軍事大国の国民づくり


 重点政策の第二は、「教育の抜本的改革」である。ねらいは、政治軍事大国を支える国民づくり、保守イデオロギーを子どもたちに注入する偏向教育の実現だ。安倍は、愛国心、公共心の養成、伝統の尊重などを盛り込んだ教育基本法改悪案を、秋の臨時国会で成立させる考えだ。
 安倍は、「教育の抜本的改革」は中央教育審議会ではできないとして、首相官邸に教育改革推進会議を設置すると打ち出した。中央教育審議会の上位に位置づけ、大胆で迅速な教育改革の司令塔にするとしている。経済財政諮問会議を参考にして、首相を議長とし、文科相らの関係閣僚や有識者で構成するようだ。
 安倍の経済財政政策は、小泉の「改革」政治の継承が基本だ。格差を拡大した「改革」政治を推進しながら、「再チャレンジできる社会」、などと言うのはまやかしにすぎない。安倍は消費税率を引き上げる法案を〇八年に提出すると言っている。格差拡大の「改革」政治、消費税の大増税で、国民生活がいっそう悪化し、地方がさらに疲弊するのは必至だ。

 安倍をとりまく右翼知識人

 その安倍を理論・政策面で支えているのが、安倍ブレーン「五人組」である(九月九日東京新聞)。八木秀次・高崎経済大学教授、中西輝政・京都大学教授、西岡力・東京基督教大学教授、島田洋一・福井県立大学教授、伊藤哲夫・日本政策研究センター所長の五人で、いずれも「新しい歴史教科書をつくる会」に関わった右翼知識人だ。
 八木は「つくる会」の元会長で、同会の内紛で今年二月に会長を解任され、現在は日本教育再生機構・設立準備室長。中西も「つくる会」の元理事で、八木の日本教育再生機構・設立準備室の代表発起人。安倍は同機構の設立のための会合にメッセージ贈っている。西岡と島田は「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」の副会長で、「つくる会」賛同者に名を連ねていた。伊藤も「つくる会」賛同者で、所長をつとめる日本政策研究センターは、日本会議などと結びついた右翼系シンクタンクである。
 『この国を守る決意』の共著者である岡崎久彦・元タイ大使も、安倍のブレーンである。岡崎も「つくる会」の教科書づくりに関わった人物である。
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 以上を概括すれば、安倍政権は、小泉政権よりも徹底した対米従属の政権で、対米従属下で政治軍事大国をめざす超右派政権と言えよう。その背景にはアメリカの要求と同時に、世界に権益を広げたトヨタなど多国籍大企業の要求がある。
 だが、アジア外交などをめぐり、自民党内部の対立は激化した。安倍の政策では自公の対立激化も避けられない。野党も対抗姿勢を強めている。国民の不満も高まる。
 安倍政権の正体をあばき、安倍政権に反対する世論を高めよう。対米従属、政治軍事大国化に反対し、アジアの共生を求める広範な戦線を形成し、安倍政権を打ち破ろうではないか。