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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年6月号

所得格差が日本を破滅させる

広範な国民連合・神奈川代表世話人  竹田 四郎


 竹田代表は五月二十八日、小泉政権のもとでますます深刻化している所得格差について、詳細な資料を駆使して、「所得格差が日本を破滅させる」と題する講演を行いました。以下、その要旨を紹介します。


 所得格差の拡大

 所得格差、不平等度を示す指数に、ジニ係数というのがあります。例えば五〇万円のお金を十人の人に分ける場合、一人五万円ずつ分けると格差がまったくなく、ジニ係数は〇です。一人が五〇万円、他の人が〇円の場合は格差が最大で、ジニ係数は一です。つまりジニ係数は〇なら格差がなく、一に近づくほど格差が拡大していることを表わします。
 ジニ係数は、厚労省が三年おきに発表しています。税引き前の所得(当初所得)で計算したジニ係数を見ると、八一年までは〇・三四九〜〇・三七五の範囲でしたが、バブル崩壊時の九〇年には〇・四三三に上昇しました。さらに小泉政権の二〇〇二年には〇・四九八に増えました。所得格差が急速に拡大し、ますます不平等な社会になっていることを、ジニ係数が示しています(図1)。
 (表1)は高所得者層(上位二割)の所得が低所得者層(下位二割)の所得の何倍になるかを示したものです。高所得者層(上位二割)の当初所得は、七二年に、低所得者層(下位二割)の当初所得の七倍でしたが、〇二年には一六八倍に拡大しました。特に小泉内閣登場後の〇二年にかけて、所得格差が急速に拡大していることがわかります。
 日本は貧困率(所得が平均所得の半分以下しかない貧困者の比率)が一五・三%です。OECDの中で三番目に貧困率が高く、格差の大きい国になっています。

 累進税制の破壊

 このような所得格差を緩和する役割をはたすのが、累進課税の税制や社会保障の制度です。特に、高所得者ほど税率が高く、たくさんの税金を払う、累進税制は、所得格差を緩和するためにとても重要です。だから、敗戦によって民主主義が定着した戦後の日本は、典型的な累進課税の税制を採用してきました。所得格差が拡大している時に、政府がやるべきことは、累進課税の税制を強め、社会保障を充実させて所得格差を緩和することであるはずです。しかし、政府が実際にやってきたことは、最高税率を引き下げて高所得者の税金を減らし、所得税の税率区分を少なくして、累進課税構造を壊すことでした。
 (表2)を見て下さい。一九八三年までは、所得税の税率区分は一九段階あり、最高税率は七五%でした。政府は八四年にこれを一五段階、七〇%、八七年に一二段階、六〇%、八八年に六段階、六〇%、八九年に五段階、五〇%にまで引き下げました。八九年には、低所得者ほど負担が大きく逆進性の強い消費税(税率三%)を導入し、九七年にその税率を五%に引き上げました。
 九九年の税制改革では、税率区分をさらに四段階に減らし、最高税率を三七%に引き下げました。所得金額が一八〇〇万円以下の人はそのままで、一八〇〇万円を超える高所得者に大減税を行ったのです。例えば、二〇〇〇万円の高所得者は六〇万円、四〇〇〇万円の高所得者は五二〇万円、一億円の高所得者は一三〇〇万円の大減税を受けました。大企業の法人税率も三四・五%から三〇%へ四・五%(中小は二五%から二二%へ三%)引き下げました。これでは国民が納得しないので、二五万円を上限に所得税額の二〇%、四万円を上限に個人住民税額の一五%を控除する定率減税を行いました。
 しかし、小泉内閣は景気が回復したという口実で、この定率減税を今年一月から半分にしました。来年から全廃します。ただし、高所得者と大企業への大減税はそのまま継続しています。高所得者や大企業には減税、中低所得者には増税で、格差を拡大してきたのです。

 低賃金労働者の増大

 ごぞんじのように、大企業はトヨタを筆頭に、軒並み史上最高の利益を上げました。巨額の公的資金投入やゼロ金利で、政府の支援を受けた大銀行も大儲けしました。なかでも三菱UFJは、トヨタに次いで一兆円を超える史上最高の利益をあげました。預金者にほとんど利息を払わず、逆に時間外などを理由に預金者から手数料を取って大儲けしたのです。
 他方で、雇用者報酬、つまり労働者が受け取る賃金の総額は、二七八兆円(九七年)から二五五兆円(〇四年)へ、二三兆円も減りました。労働分配率も七四・二%(〇一年)から七〇・七%(〇四年)に減っています。大企業は労働者の賃金を大幅に減らすことによって、史上最高の利益を上げたのです。
(表3)のように、雇用形態や性別で賃金に大きな格差があります。企業にとって、非正社員は賃金を低く抑えられるだけでなく、社会保険料や退職金などを払わずにすみますから、企業は正社員をリストラし、賃金の低い非正社員におきかえてきました。
 小泉内閣は企業の要請に応えて、企業が非正社員を使いやすいように、派遣労働や契約労働の規制を緩和し、労働基準法を改悪してきました。その結果、賃金の安い非正社員は二八%(九九年)から三五%(〇三年)に急増しました。企業は人件費を大幅に圧縮して、史上最高の利益をあげることができたのです。
 労働者の賃金は押し下げられ、最低賃金は生活保護費よりも低くなりました(表4)。どの都市でも、最低賃金の方が四万円から四万八〇〇〇円も低くなっています。いかに労働者が低い賃金でこき使われているかの証左です。しかも、最低賃金にも届かない一〇万円未満の労働者が三七%、一〇〜二〇万円の労働者が四一%にのぼります。これでは子ども産み、育てることもできず、労働力の再生産は不可能です。
 憲法二五条は、「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたっており、国はこれを保障する責任があります。しかし、政府は最低賃金を引き上げるのではなく、逆に生活保護費を引き下げようとしています。
 こんな状況を黙っていていいのか。私は所得格差を拡大する小泉内閣に激しい憤りを感じます。

 格差拡大が引き起こす社会的な諸問題

 所得格差の拡大と低賃金は、社会的に様々な問題を引き起こし、国力を低下させ、日本を破滅に導きます。
 勤労者家計調査によると貯蓄率は二・七%に低下し、貯蓄なしの世帯は三・二%(七二年)から二二・八%(〇五年)に急増しました。生活保護世帯も七八万世帯(六一年)から一〇四万世帯(〇五年)に増加しました。健康保険料が払えず健保資格証明書で医者にかかる人が三〇万人、四年前の四倍になりました。自殺者は八年連続で三万人を超え、さらに増え続けています。
 教育費の増大、所得格差の拡大で、教育の機会均等も失われています。苅谷剛彦氏の『学力の社会学』によると、足立区では四二・五%の小中学生が就学支援を受けており、全国では一三四万人にのぼります。親の経済状況で、子供の学力や教育環境に格差が出てきて、世界的にも高かった日本の学力は下がり続けています。資源のない日本は、技術力で経済を発展させてきましたが、教育費の増大、所得格差の拡大という状況を放置すれば、日本の技術力は確実に低下すると思います。
 これまでの日本は中流社会と言われ、国民も購買力があり、テレビや自動車を買うことができました。たくさんの人が買うから大量生産が可能になり、いい製品を低価格で生産でき、国際競争力も高めてきました。しかし、所得格差の拡大で中流層の多くが下流層になり、購買力が低下しています。そうなると国際競争力は低下します。
 いまのように、中小企業で働く労働者の賃金が上がらず、逆にダウンすると、技能を持った労働者がいなくなり、中小企業がになってきた技術の継承ができなくなります。小泉内閣の「改革」政治や、目先の利益のために人件費を圧縮したり中小企業をしぼる大企業のやり方は、日本経済の活力を損ない、日本経済をダメにするものだと思います。
 所得格差の拡大は、少子高齢化への流れも加速しています。男女とも未婚率が高くなっていますが、特に非正社員の未婚率が高い。低賃金の非正社員の若者は、子供を産むどころか結婚もできない状況なのです。出生率の低下は急速な人口減少、労働力の減少につながる深刻な問題で、年金や医療などの社会システムが持たなくなります。
 政府や大企業の人たちは、日本の労働力が足りなくなれば、外国人労働者を導入すればいいと考えているようです。ヨーロッパや米国では大量の外国人労働者を導入していますが、社会的に様々な問題が発生しています。とくに島国で外国との交流が少なかった日本では、外国人労働者が入ってきたときの民族的な摩擦など、様々な問題が欧米以上に出てくると思います。
 大企業が史上最高の利益を上げる一方で、労働者の賃金は下がり、国民の消費も伸びない。所得格差が拡大し、貧困化が進む。そういう政府の政策では日本の将来は危ういと思います。政府は大企業や高所得者のためではなく、国民大多数のための政治を行い、所得格差の縮小に力を尽くすべきです。雇用形態や性別による賃金格差をなくし、ヨーロッパのように同一労働同一賃金を原則にして、労働者の所得を増やすべきです。大企業による中小企業いじめを排し、中小企業が活力をもつようにすることが、日本の経済、社会にとって重要なことだと思います。

 ドルからの脱却

 GDP(国内総生産)の構成要素の中で、最も大きいのは民間最終消費支出です。GDPの五六〜五七%を占めています。民間最終消費支出とはそれぞれの家計が購入する財やサービスなどの総計です。これが増えれば景気も良くなるわけです。民間最終消費支出を増加させるためには、労働者の収入、雇用者報酬を増加させなければなりません。
 (図2)は景気が落ち込んでいた〇二年一〜三月期を一〇〇として、〇五年七〜九月期のGDPの構成要素などを表したものです。雇用者報酬の減少、輸出の急増が特徴的です。これでは民間最終消費支出も増えず、景気がよくなりません。そういう中で景気を維持してきたのは、もっぱらアメリカや中国などへの輸出です。輸出が減れば、たちまち不景気にならざるを得ません。景気をよくするためにも、労働者の賃金を引き上げ、所得格差を縮小することが重要です。
 輸出についても、現在のようなドル一辺倒では危険です。貿易の決済に使われているのはドルで、日本はアジアと貿易をやっているのに、日本の円はほとんど使われていません。日本は貿易で稼いだドルで米国債を買い、政府会計がもっているドル(ほとんど米国債)は約九千億ドル(約百兆円)にのぼります。しかし、売るにも売れない。以前、橋本首相がうっかり「日本が困ったら米国債を売ればよい」と発言したら、大騒ぎになりました。
 最近『黒字亡国論』(三国陽夫著、文芸新書)が話題になっています。赤字を垂れ流すアメリカで好況が続き、黒字を貯める日本は活力を失う。なぜそうなるのかという本です。日本は貿易で稼いでも、国民のために使わずに米国債を買っています。膨大な経常赤字と財政赤字を抱えるドルは不安定です。そのドルが暴落したら、米国債は紙くず同然になります。世界経済は大混乱し、大不況になると思います。
 暴落の危険性のあるドルだけに頼るやり方から脱却する必要があります。アジアとの関係を改善し、日本と中国と韓国が協力して東アジア経済圏を築き、アジアの共通通貨のようなものを作っていかないと、文字通り黒字亡国論になってしまう可能性があります。世界がドル一辺倒からユーロへも分散している中で、ドルからの脱却を考えないと、日本は破滅してしまいます。(文責・編集部)

※ホームページ上では図表は省略しています。