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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年4月号

二〇〇六年度税制改正

同族会社ねらい撃ちの増税に反対

中小企業家同友会全国協議会(中同協)政策局長  瓜田 靖


 中小零細企業に増税

 昨年十二月十五日の与党税制改正大綱に「同族会社の役員給与の損金不算入」が盛り込まれました。東京税理士会が警告を出していたので、中同協の税制プロジェクトでも検討しました。その結果、これは同族会社に対する法人税増税であり、かなりの同友会会員企業にも適用されることが分かってきましたので、反対すべきだとの意見になりました。
 同族会社とは、三人以下の株主(出資者)とその関係者(親族)が資本金の五〇%を超える株式(出資金)を所有している会社のことです。わが国の法人の九〇%以上が同族会社ですから、中小零細企業のほとんどが同族会社です。中小零細企業の大部分は、株を買ってくれる人がなく、同族会社にならざるを得ません。
 この税制改正大綱によると、同族会社のうち、社長(業務を主宰する役員)とその関係者だけで九〇%以上の株式を所有し、かつ、常勤役員のうち過半数の役員を占めている場合には、社長給与のうち給与所得控除額に相当する金額を損金不算入(会社の経費として認めない)、つまり法人税を課税するというのです。ただし、会社の所得と社長給与の合計金額の三年間の平均が、[1]八百万円以下の場合、あるいは[2]八百万円超三千万円以下で、かつ社長給与が合計金額の三年間の平均の五〇%以下である場合には、この規定は適用されません。
 マスコミはほとんど報道していないので、会員企業の大部分が知りません。それで各県の同友会に知らせ、検討をお願いしました。現在、十六の同友会が反対決議をあげています。最初に反対の行動を起こしたのが福岡同友会です。二月二十二日に、「中小零細同族企業をねらい撃ちの増税!緊急反対決起集会」を開きました。この行動が福岡のマスコミでも報道されました。
 全国的にどういう影響があるのか、中同協と各同友会が緊急アンケートを実施しました。その結果、三〇〜五〇%の会員企業が増税になることがわかりました。また、東京税理士会のアンケート結果では、三〇%の顧問先企業が増税になると答え、全国で六十二万社が増税になると推計しています。税務当局は課税対象となる企業は二%(五万社)程度だと説明していますが、ケタが違います。
 このような税制改正の内容は政府税調の答申にはなかったもので、政府税調の委員も知らない人もいたという話です。与党税制改正大綱の作成過程で官僚の考えが入ったんだと思います。年末に突然出されて、あっという間に三月二十七日の国会で成立し、今年四月一日から実施されることになりました。細かいところは政令で決めるとなっているので、各企業が課税の対象かどうかは来年三月末に認定されます。

 同族会社差別に合理的根拠なし

 今回の改正の理由について、芸能人やスポーツ選手などが会社をつくって課税を回避しているので、それを対象にしたものだと説明しています。同族会社をマイナスイメージでとらえて、同族会社だけをねらい撃ちにするやり方です。財務省は課税対象になるのは、経費を二重控除している企業だと説明し、「所得控除された上に、会社の経費で控除されている」という言い方をしています。そんなことはありません。今回の基準を適用される会社と、適用されない会社との間にどんな違いがあるというのでしょうか。大企業には適用せず、なぜ同族会社にだけ適用するのでしょうか。同族会社に対する差別的な扱いであり、とても納得できません。
 この問題に関して、一月十一日の読売新聞に「合理的経理がされている大企業と、そうではない企業を同列視することはできない」という財務省幹部のコメントが載りました。大企業は合理的経理がされているから信用できるが、中小零細企業は信用できないというのです。本当にそうでしょうか。アメリカでは、エンロンやワールドコムなどの大企業が大規模な不正経理で、世界中を騒がせました。日本でもライブドアのようなことがあります。大企業と同様に中小零細企業の中にも不正経理をする企業はあるでしょうが、全体は非常にまじめにやっています。家族経営でやっているところは信用できないというのは偏見です。
 会社法が改正されて、五月からは最低資本金要件を撤廃し、起業を促進するということになっていますが、この流れにも逆行します。起業家の意欲を減退させ、経済の活性化を抑制することになります。新たな負担額が大きい上に、所得税と法人税をいっしょくたにするようなやり方にはとても承服できません。

 大企業優遇の税制改正

 今回の税制改正で、役員の報酬・賞与の扱いについて、大企業に有利な見直しが行われました。これまで、毎月定額で支給する役員給与(月給)は会社の経費と認められていました。これに加えて、[1]あらかじめ支給額と支給時期が定められた役員報酬・賞与、[2]非同族会社の役員に支給する業績連動型役員報酬・賞与も、新たに会社の経費として認められることになったのです。つまり、[1]と[2]には法人税が課税されなくなったのです。
 [1]について言うと、中小零細企業の場合は、夏や冬の役員ボーナスの支給額をあらかじめ決めることは容易でありません。もうかった場合はいいですが、そうでない場合は、社長など役員の給与やボーナスで調整しているのが実態だからです。一方、大企業の場合は、あらかじめ時期と金額を定めておけば、月給以外の役員報酬やボーナスも会社の経費と認められます。
 [2]については、「非同族会社」と明記され、同族会社は対象外で、もっぱら大企業のための改正です。業績連動型ですから、もうかった時はどんなに多額な報酬や賞与を支払っても会社の経費と認められ、法人税の課税対象から除かれます。[1]のようにあらかじめ支給額や支給時期を定めておく必要はなく、報酬委員会というのをつくってそこで決定し、有価証券報告書に記載すればいいいのです。例えば、今期はもうかったと言って役員に一億円ずつ賞与を支払っても、経費として認められます。これまでは、こういうやり方を認めていませんでした。
 多額の役員報酬・賞与を経費として認めるというのは、アメリカでさかんに行われているやり方で、アメリカ型に改革するという流れが背景にあります。同族会社の社長給与の給与所得控除を経費と認めないという背景には、政府税調の論点整理でも出されていますが、サラリーマンの給与所得控除を圧縮しようという考えがあります。今回の法改正には、納税に協力的な法人会の中でも少数ですが反対の声が上がっています。
 中小企業の活性化対策として、内部留保に対する控除額が引き上げられました。税務当局は、「同族会社役員の給与所得控除が法人税課税になるが、留保金課税の見直しでバランスをとった」と説明しています。しかし、留保金課税は同族会社だけに適用され、しかも法人税を払った上に課税する二重課税です。中同協としては留保金課税制度そのものを廃止すべきだと考えています。
 中同協には約三万九千社が加盟しており、政策的な要望・提言を近日中にまとめて、五月頃には各政党や各官庁に要望行動を行います。今回の問題も、今後出てくる政令などを見ながら対応していきます。たとえ法改正されても納得できないという声を上げ続けないと、同様の動きが続くと思います。
        (文責編集部)