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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年3月号
シンポジウム 米軍再編と日本の進路
二月二十一日、東京においてシンポジウム「米軍再編と日本の進路―日米関係を問い直し、アジアとの共生を考える―」が開かれた。パネラーは前レバノン大使の天木直人氏、経済同友会終身幹事の品川正治氏、フォーラム平和・人権・環境事務局長の福山真劫氏の三名。元沖縄県副知事(広範な国民連合代表世話人)の吉元政矩氏がコーディネーターをつとめた。以下、四氏の発言要旨を紹介する。 (文責編集部)
日米軍事同盟と東アジアの変化
元・沖縄県副知事 吉元政矩氏
パネラーのみなさんから問題提起をしていただく前に、私の方からいくつか説明させてください。
一つは、ブッシュ大統領が世界におけるアメリカの役割、日米軍事同盟をどのように位置づけているか、ということです。
ブッシュ大統領は今年一月の一般教書演説で「米国は圧政国家を終わらせる歴史的で長期的な闘いに関わっていく」と述べています。彼が圧政国家つまりテロ国家と言っているのは、北朝鮮、イラン、シリア、ミャンマー、ジンバブエの五カ国です。さらに、中国とインドを新たな競争相手と位置づけています。演説の四日後にはQDR(四年毎の国防計画見直し)を発表し、そこでは中国、ロシア、インドを「戦略的分岐点に立つ国」と表現し、それへの対処をうたっています。ねらいは中国です。六隻の空母、潜水艦の六割を太平洋に回し、将来の最大の脅威として中国を封じ込める戦略をにおわせています。最終ゴールは、中国を米国と利害を共有する無害な国にすることです。
そのために進めているのが米軍再編です。冷戦時代の世界配置を見直し、不要な駐留米軍は縮小する。陸海空の三軍と海兵隊を統合し、機動的に動けるように編成し直す。二年前から同盟国との協議を始め、韓国との間では、駐留米軍のうち一万二千五百人の撤退を決めました。しかし、日本が選挙を理由に先延ばししたので、昨年発表するはずだったQDRが今年にずれこみ、アメリカはいらだっています。
アメリカはこの米軍再編で、米軍の世界体制を同盟国といっしょに作っていこうとしています。必ずしも米軍が在日米軍基地を管理する必要はなく、自衛隊に管理させ、米軍がいつでも自由に使えるようにする。同じ基地に米軍と自衛隊をおき、作戦計画も訓練も共同して行う。そこで、いざという時に必要になるのが共通の司令部、戦闘司令部です。キャンプ座間に米陸軍司令部、陸上自衛隊司令部を移すのもそのためです。そこが従来とは違う、米軍再編の本質部分です。
以上のことを頭においた上で、二つ目は日本のこれからのあり方です。戦後六十年間続けてきた日米関係を考え直す時期にきているのではないのかということで、シンポジウムのサブタイトル「日米関係を問い直し、アジアとの共生を考える」ということになります。
アジア太平洋戦争以後、東アジアの地域には四つの分断国家ができました。一つはベトナムですが、アメリカはベトナム戦争で大敗し、出ていきました。日本も分断国家でした。沖縄が一九五二年の講和条約でアメリカの軍事的植民地にされ、二十年後の一九七二年に日本国憲法のもとに帰りました。三つ目は北朝鮮と韓国、もう一つは中国と台湾です。この二つはまだ統一国家になっていません。そこに不安定な状況があるといって、日米軍事同盟が中国を包囲しています。
しかし、東アジアは確実に変化しています。昨年十二月、ASEAN+3(日中韓)、それにオーストラリア、ニュージーランド、インドが加わり、東アジアサミットが開かれました。ASEAN+3は、これを通じて東アジア共同体を作ろうと確認しています。ASEANを中核にまず経済共同体、次に安全保障共同体を展望して議論しようという段階まできました。私の個人的意見ですが、二〇〇八年の北京オリンピックまでに北朝鮮の核問題が、二〇一〇年の上海万博までに中国と台湾の関係が解決するのではないか、解決してほしい、と思っています。
日本はこの流れにどう関わろうとしているのか。実際に進んでいるのは米軍再編、日米軍事同盟の強化、日本の軍事的役割の拡大です。これが教育基本法改正、憲法改正と連動しているのは間違いありません。
日米関係はどうあるべきか。アジアとの共生は可能なのか。アジアとの共生へ踏み出していく中で安全保障も考えていく仕組みが作れないのか。考えてほしいと思います。
自主的な外交で、米軍再編拒否を
元・駐レバノン大使 天木直人氏
私は三十数年間、外務官僚をやってきました。その中で、外務省は国民の希望する外交をやっていないのではないか、あまりにもアメリカとの関係を重視しすぎているのではないのか、という疑問を感じるようになりました。その疑問がはっきりとした確信になったきっかけが、三年前のイラク戦争でした。あの戦争はどう考えても間違っている。なぜ、同僚たちは反対だと言わないのか、言えないのか。
私はレバノンに勤務していて、アメリカの中東政策を目の当たりにしてきました。パレスチナ人がイスラエルによってあれほどひどく抑えつけられている。そのイスラエルの政策を全面的に支持しているアメリカの中東政策を、私はどう考えても正しいとは思えませんでした。
そういう中で、アメリカはイラクを攻撃しました。アメリカがバクダッドに爆弾の雨を降らせている時、私はつくづく考えました。「衝撃と恐怖の作戦」は、広島、長崎に原爆を落とした作戦を再現したといわれていました。原爆を落とすわけにはいかないが、同じような衝撃と恐怖を与えれば、イラク人が米軍を従順に迎え入れるだろうと考えた作戦であることを知りました。なんと非人間的な考え方をする国だと、私は許せませんでした。そのアメリカのイラク攻撃を、日本政府は胸を張って正しいと賛成しました。私はこの戦争に賛成できない。これ以上、黙って外交官を続けていく気がしない。
それで外務省を辞めました。三年たって、中東情勢はますます大変な状況になり、アメリカはどうしていいか分からなくなっています。パレスチナでは選挙でハマスという反米政権ができました。「民主化」をいい、選挙で示された意思を大切にするといっているアメリカが、経済援助をうち切り、ハマスを徹底的に締め上げて倒そうとしています。シリアを「民主化」しようと圧力をかけています。核開発しようとしているイランに対して、強硬姿勢をとっています。それに対して、シリア、イラン、パレスチナ、レバノンの反米組織ヒズボラが手をつなぐ動きも出てきました。力で抑えつけても決して平和は来ないという証拠です。
そのアメリカが二月に国防計画の見直しを発表し、テロとの戦いを打ち出しました。日本政府はその一環である在日米軍再編に協力し、日本に関係のない反米テロとの戦いに自衛隊を動員しようとしています。カネで自治体の抵抗をおさえこみ、さらに米軍のグアム移転費用まで払おうとしています。
先日、吉野さんという元外交官が、沖縄返還時の密約を告白しました。アメリカが不当な要求をしてきたら、政府はそれを明らかにし、国民の選択にゆだねればよいのです。それをせずに国民をごまかし、ウソをついて、日米関係を今日まで維持してきました。吉野さんはたいへんな決意をして、あの告白をしたのだと思います。誰もがこのままではいけないと感じながら、仕方がないと思い、冷戦が終わった時も、本来の独立した外交にするという努力をしませんでした。そして今、アメリカがここまで日本に軍事協力を迫るところまできました。
私は小泉首相の安保外交政策を問うべきだと考え、昨年の総選挙で横須賀から立候補しました。その時、米兵が酔っ払って通行人の女性に唾を吐きかける光景を見ました。かつて米兵が農婦を射殺したジラード事件がありましたが、日本は米軍に治外法権を認め、こんな状況が今も続いています。
アメリカのために膨大な予算を使い、その結果、大多数の国民が被害を受けます。増税、社会保障切り下げで、弱者に負担がかかってきます。米軍の戦争に巻き込まれれば、真っ先に犠牲になるのは一般市民です。なぜ、ここまでアメリカに従属するのか。日本を動かす為政者、官僚、財界指導者、有識者たちは、日米関係を大事にすることで利益を得ているからです。日米の従属的な関係を変えることができるのは国民です。多くの国民が米軍再編反対の意思表示をしてほしいと思います。
アメリカは戦争国家であり、価値観において憲法九条をもつ日本から最も遠い国です。自主的な外交を取り戻し、米軍再編を拒否し、憲法九条を守り通さなければなりません。そうすれば、本当の意味で日本が変わると思います。
九条二項を守りきれば、世界史的な変革
経済同友会終身幹事 品川正治氏
私は戦中派で、実際の戦闘に参加した兵隊でした。戦地に行ってはじめて、「戦争を起こすのも人間なら、戦争を止めるのも人間だ」と気づきました。戦後六十年間、これが私の座標軸になりました。
戦後六十年の最大のひずみは、国民が憲法九条二項の思想を歓喜して迎えたのに、支配政党がそういう決意をしなかったことです。支配政党は解釈改憲で九条二項の旗をボロボロにしてきました。自衛隊ができ、日米防衛協力指針ができました。米軍再編で米軍といっしょに戦う体制の近くまできました。しかし、旗はボロボロでも国民は旗竿を離さない。これはアメリカの戦略にとって決定的な障害です。日米軍事同盟にならない最大の理由です。日米安保条約を拡大解釈して、米英同盟に近い所まできましたが、自衛隊をイラクに派遣しても弾を撃たせられないのです。
戦争では「勝つため」が最高の価値になります。自由や人権どころか命さえも、「勝つため」という価値に席を譲らざるをえません。戦争となれば武力はもちろん、労働力も学問も外交も経済もすべて動員します。アメリカは戦争をしている国ですから、国連を一番嫌ったボルトンを国連大使に任命しました。イラク戦争を指導したウォルフォヴィッツを世銀総裁に任命し、世界経済まで動員しようとしています。
グローバリズムはアメリカの戦略用語です。グローバリズムを唱え、新自由主義、市場主義、構造改革と言う根底にアメリカの戦略があります。小泉内閣は構造改革と称して官僚バッシングをやっています。「国土の均衡ある発展」と言って都市と地方の格差を作らぬようにし、経済成長に伴う格差を極力縮小しようとしてきたのが官僚だから、目の仇にしているのです。「官から民へ」というが、実際は「官から大企業へ」です。「小さな政府」というのなら軍事費を減らし九条二項を守るべきなのに、その問題は別だと逃げます。
アメリカが戦争している時に、なぜ九条二項を変えようとするのか。アメリカを甘く見ているというよりも、それを利用して軍事大国にしようとしているのだと思います。それは国を売ることです。私はその共犯者にならない。告発する側に立つ。「戦争を起こすのも人間なら、それを止めるのも人間」だからです。
しかし、九条二項は国際的に普遍的な思想ではありません。例えば、ナチスと闘ったレジスタンスが国を解放したフランス、抗日救国戦争に勝利して今の政権ができた中国では通用しません。日本で九条二項ができたのは、その時、軍がなかったからです。戦争で三千万に及ぶアジアの民衆を殺し、三百万の将兵を失い、広島と長崎の原爆で二十万を失って、国民は二度と戦争はしないと決意したからです。支配政党はそのような決意をしなかったけれど、この六十年間、日本は主権の発動として一人の外国人も殺していません。日本経済はここまで成長しましたが、軍産複合体とは全く違う経済モデルです。
紛争はなくせませんが、戦争はなくせます。紛争が戦争になるのは武器商人や軍産複合体など戦争でもうかる人間がいるからです。石油やウランなどが出る地域はすぐ戦争になります。イラク戦争では戦争請負会社まで現れました。紛争を戦争にしない最大の武器は九条二項です。だから、アメリカも小泉さんも国民に旗竿を離せと言うのです。
小泉さんは現状維持は保守だと攻撃していますが、九条二項を守ることは保守でも現状維持でもありません。憲法改正の国民投票で国民がノーと言えば、日本と中国の関係は大きく変わり、アジアが変わります。何よりも日米の従属関係が一番大きく変わり、世界史的な変革になります。二十一世紀に最も必要な九条二項の思想を持つ国が、世界第二位の経済大国としてやっていく形になります。日本がアジアで中国と覇権を争う必要もありません。改憲派がルビコン川を渡ってしまったので、国民がノーと言えば世界史的な変革になる状況になりました。
そんなことを言って大丈夫か、経済界で孤立するのではないかと言われますが、大丈夫です。今の経済界トップはアメリカをマーケットにし、アメリカの軍産複合体に似た考え方をしています。しかし、日本の産業構造は九五%が中小企業で、サービス産業のウエイトが大きい。経済人の多くが経済界トップと同じ考え方になっているわけではありません。しかし、経済界は一人一票ではなく、トヨタが十万票なら修理工場は一票です。トヨタと取引のある会社の社長は、私のような発言をするわけにはいきません。そのかわり、私にどんどん言ってくれと言います。だから、私に孤立感はありません。これからは国民の出番です。私は晩節を全うし、九条二項を守りきった日本を子や孫に残したいと思っています。
米軍再編に総がかりの反撃態勢を
フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫氏
二つの詩を紹介します。一つは原爆詩人、峠三吉さんの詩です。
ちちをかえせ
ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ
わたしをかえせ
わたしにつながる
にんげんをかえせ
にんげんの
にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ
もう一つは、同じく被爆した栗原貞子さんの詩です。
広島というとき
ああ広島と優しく答えてくれるだろうか
広島といえば
パールハーバー
広島といえば
南京虐殺
広島といえば
女や子どもを壕の中に閉じこめ
ガソリンをかけて焼いたマニラの火刑
広島といえば
血と炎のこだまが返ってくるのだ
広島といえば
ああ広島と優しくは返ってこない
アジアの国々の死者たちや異国の民がいっせいに
おかされた者の怒りを吹き出すのだ
広島といえば
ああ広島と優しく返ってくるためには
捨てたはずの武器をほんとうに捨てねばならない
異国の基地を撤去せねばならない
その日まで広島は残酷と不信の苦い都市だ
私たちは潜在する放射能に焼かれるバリアだ
広島といえば
ああ広島と優しく答えが返ってくるためには
私たちは私たちの汚れた手を清めねばならない
崩れぬ平和をかえせ。捨てたはずの武器をほんとうに捨てねばならない。私たちはこういう思想を持っています。だが、日本の現実はどうでしょうか。アフガン戦争でインド洋に派兵し、今イラクに派兵しています。戦後六十年もたつのに、なぜ米軍基地があるのか。捨てたはずの武器をほんとうに捨て、異国の基地を撤去せねばならない。これが憲法九条の精神です。
昨年九月の選挙で野党が敗北し、自公が衆議院で三分の二を占めました。小泉首相は靖国に参拝し、十月末に米軍再編成で合意しました。米政府の一方的な通告で、原子力空母の横須賀母港化を了解しました。十二月にイラク派兵延長を決定しました。その間に、自民党は憲法改悪草案を決定しました。
しかし、十二月から潮目が変わりだしました。小泉内閣の市場万能主義、強い者勝ちの政策のボロが次々と出てきました。ライブドア、ヒューザー、BSE。私たちは押されっぱなしではありません。総がかりの反撃態勢をつくれば、小泉内閣を退陣に追い込む可能性もあります。
闘うべき課題が目白押しです。第一は憲法改悪。湾岸戦争の時はショウザフラッグ、イラク戦争の時はブーツオンザグランドと言われ、次は米軍と共に敵を撃てです。憲法改悪はそのためです。第二は米軍再編成。「不安定の弧」といわれる地域に対して日米が共に戦う態勢をつくろうとしています。第三は原子力空母の横須賀母港化。陸の原発よりも危険な、軍事機密で守られた原発を東京湾に浮かべようとしています。第四は六ヶ所村再処理工場の稼働開始。使用済み核燃料を再処理して、毎年八トン、長崎型原爆千発分のプルトニウムを生産します。いま四十トン以上あるプルトニウムが八トンずつ増えていきます。世界の平和団体が日本の核武装、世界の核軍拡につながると警告しています。
特に米軍再編成は、全国をまきこんでいるので全国から反撃できます。総がかりの反撃態勢をつくることが求められています。
連合の中で一昨年から九条改正の動きがありました。しかし、今年一月の連合中央執行委員会は「九条を中心とした憲法改正問題については一元的に考え方を集約すること、そのもとで統一的に対応することは現段階ではひかえる」とまとめました。米軍再編成については「適用範囲の拡大、軍事的一体性において、日米安保条約の構造的・質的転換であり、新たな日米安保体制と考えられる。・・・今回の再編案は・・・自衛隊と米軍との連携強化をめざすものであり、国民的な不安と危ぐを生じさせる」と反対の流れでまとめました。米軍再編に関係する地域の連合はみんな反対の立場を明らかにしています。
全国の関係市町村も全部、米軍再編に反対の立場です。労働団体、地方自治体、平和団体、市民団体ぐるみで、反撃体制がつくられつつあります。二〜四月が最大の山場で、平和フォーラムは二月二十三日に日比谷野音で全国集会を開きます(11 頁に集会報道)。全国各地で集会を予定しています。全国の闘いで小泉内閣に迫っていきましょう。
この三年間にイラクで死んだ米兵は二千人、殺されたイラクの民衆は二〜十万人。一方、日本では自殺者が三万五千人、自殺未遂はその三倍。この国はどこかがおかしい。それを推進している小泉内閣は絶対に許せません。