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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年3月号

効率優先で、ずさんな米国のBSE対策

安全無視の輸入再開は許されない

全日本農民組合連合会書記長  御地合 二郎


ずさんな安全対策
 
牛海綿状脳症(BSE)が確認された米国産牛肉が輸入再開されたのは昨年十二月。わずか一カ月で特定危険部位である「背骨付き肉」が成田の検疫所で発見された。これほど露骨な形で発見されるとは思いませんでしたが、米国のBSE対策からすれば予想されたことです。
 輸入再開の前提になった食品安全委員会の結論は、「リスク管理がきちんとやられれば危険性が少ない」というものです。しかし、この考え方では安全性は確保できないと指摘してきました。
昨年十二月の輸入再開の条件は、(1)月齢が二十カ月以下、(2)特定危険部位の除去、(3)解体処理の時に日本向けを他と区別する、でした。
 まず月齢の問題。日本のように個別の牛の出生日や飼育地などの履歴(トレーサビリティ)制度がない米国では、月齢は肉質を目で見て判断します。どこまで月齢を正確に判断できるか保証はありません。
 さらに日本向けの牛肉を、ほかと区別するというのは実際上困難だと思います。日本のように牛の出生日が分かれば二十カ月以下の牛だけを同じラインで処理することが可能ですが、解体して目視で月齢を判断するとなると不可能です。
 脳や目などの頭部、せき髄などの特定危険部位の除去についても、問題があります。背割りをするときにせき髄が飛び散り、肉に付着する危険性があります。日本では背割り前にせき髄を吸引、除去します。米国の場合は効率が悪いからほとんどやっていません。それに米国内向け基準では「月齢三十カ月未満」は、特定危険部位の除去は必要ないことになっています。
輸出認定施設に対する日本政府の視察もずさんでした。輸入再開前に視察することになっていたのに、実際に視察に行ったのは輸入再開後の十二月十三日からで、しかも十一カ所のみ。その視察内容もおざなりで、「対日輸出プログラム」などの書類確認が中心で、特定危険部位の除去作業など現場作業の視察にあまり時間をかけていません。
 牛丼の「すき屋」は会社独自で視察したが、「処理のしかたに問題がある」というので輸入をやめたそうです。業者は万が一のことがあると会社の存亡にかかわる。ところが厚労省や農水省の視察団は、国民の安全がかかっているという認識があるとは思えません。背景には米国の圧力、それに米国産牛肉を求めている業界との癒着があるのではないか。
 さらに、米国の牛肉の安全性で問題なのは飼料の問題です。BSEの感染源といわれている牛の肉骨粉。牛の飼料として使うことは禁止されていますが実態はよく分かりません。また、豚や鶏の飼料に使うことは認められています。回り回って牛の飼料に肉骨粉がまざるという「交差汚染」の危険性があります。またBSEのもう一つの汚染源といわれているのが子牛に飲ませる代用乳。代用乳の成分に、肉骨粉が入っているのではという指摘もあります。

効率一辺倒・安全無視の米国

 日本と米国では牛肉生産のやり方が相当に違います。日本の牛肉生産の約七割は酪農牛、つまり酪農家が乳牛として育てたホルスタインです。短角とか黒毛などの和牛は高級和牛肉として売られています。いずれも規模はそれほど大きくない。
 米国の食肉生産は草を求めて放し飼いにするものと、柵で囲まれたフィードロット(肥育場)という大牧場で混合飼料を与えて育てるものと大きくは二種類です。穀物メジャー系列の専用の生産牧場、それと結合した形の食肉処理工場と牛肉をパッケージして輸出する工場が系列化されています。穀物資本や食肉資本の経済合理性、市場主義で動いているのが現状です。
 二〇〇四年に米国最大の食肉工場タイソン・フーズの労働組合の代表が日本に来たときに話を聞きました。例えば食肉工場で働く労働者は、メキシコなどのヒスパニック系や、ベトナムなど出稼ぎ労働者が大部分です。社長は何十億円という給料を手にしているが、労働者は年収二百万円程度の低賃金。その上、すさまじい過重労働だそうです。日本最大規模の芝浦と畜場では、一日に処理する牛は約三百頭。ところがタイソンフーズ・パスコ工場は一時間で三百頭を処理するそうです。労働条件が悪いため辞める人たちが多く、二週間ごとに新しい労働者を募集せざるをえない。安全無視の過重労働で労働災害も多いそうです。
 「米国はBSE汚染のリスクは低い」と言っていますが、そんな保証はまったくありません。米国は日本とはケタ違いの牛肉大国ですから、BSE検査をしたくないんです。米国でBSE検査をしているのは一%未満です。日本のように全頭検査をすればBSE感染牛が大量に発見されてしまうし、コストがかかる。いかにしてBSE検査をしないで輸出するかというのが米国の考えです。
 そのために国際機関を使って、日本のBSE対策批判を行っています。BSE対策などの国際基準を決める国際獣疫事務局(OIE)は、「生後三十カ月以下の骨なし牛肉は検査なしで自由に貿易できる」と決めています。さらに最近は、骨なし牛肉は月齢に関係なく輸出を認める改正案を提案しています。米国の食肉業界など輸出国の論理がまかり通っています。さすがにこの提案には日本政府は反対しています。
 工業化した農業として効率優先でやっている米国と、日本の違いはそこだと思います。日本も効率性を求めていますが、米国ほど極端ではない。タイソンフーズなど食肉業界だけでなく、効率一辺倒の米国社会の問題ではないかと思います。

輸入牛肉に頼らない

 米国の食肉業界のバックアップでブッシュは当選しました。そのお返しをする意味でもブッシュは小泉に圧力をかけて輸入再開させました。小泉内閣は、食品安全委員会に「リスク管理がきちんとやられれば危険性が少ない」という答申を出させて無理矢理、輸入再開に踏み切りました。その結果、米国のずさんな体制が非常に分かりやすい形で暴露されたのが今回の問題だと思います。
 日本の生産者はBSE発生後、労力とお金をかけ、全頭検査とトレーサビリティー(履歴管理)などを確立し消費者の信頼を回復してきました。日本と同じ基準を米国にも求めるべきです。国民の安全を無視する輸入再開は許されるべきではありません。そのためには食品安全委員会で再審議すべきです。しかし、米国の圧力もあり、小泉内閣の姿勢からすれば、輸入再開は意外に早いのではないか。そうなったら、日本の消費者が輸入牛肉を食べないことです。その場合、問題なのは表示の問題です。現在、原産地表示が義務づけられているのは生肉だけです。加工品も原産地表示を義務づけ、消費者が選べるような表示制度を確立することが大事です。
 牛肉に限らず、グローバリズム、市場原理優先によって食の安全基準が無視される流れが強まっています。例えば、遺伝子組み換え作物の安全性が確認されていないのに、食品安全基準が緩和されています。そういう効率一辺倒の工業的な農業では、食の安全性は確保できません。安全性を無視する効率優先の農業を見直すべきです。エサも米国からの輸入飼料ではなく飼料米などできる限り国内自給、耕作放棄地を使った放牧、地産地消などが大事です。安全な国内産の牛肉、豚、鶏があれば、輸入はいらないと思います。(文責編集部)