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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年1月号

国民皆保険制度を守る国民集会

患者負担増の小泉医療改革に反対


 総選挙後、小泉政権は医療制度改革、三位一体改革、税制改革など「改革」政治を加速させている。しかし、国民犠牲・地方切りすての「改革」政治に対して、これまでの自民党支持層も含めて国民各層から反撃が起こっている。国民各層の闘いを連携させ、小泉「改革」政治を打ち破る広範な国民運動を発展させよう。十二月三日、日本医師会を含む三十八団体で組織する国民医療推進協議会主催で「国民皆保険制度を守る国民集会」が開かれ約二千人が参加した(写真上)。同様の集会は全国各地で開かれ、署名は十二月十六日現在、千六百万を超えた。国民集会での発言要旨を紹介します。文責編集部。

主催者挨拶

国民医療推進協議会会長
日本医師会会長・植松治雄氏

 この間、患者さんの負担ばかりが増えています。医療改革は本来、国民に簡便で質の高い医療をどのように効率的に提供することができるかを考えるべきです。現在進められている医療改革は、医療費の削減が主目的であり、医療も市場経済で動かそうというもの。高齢者の負担増、高額医療の患者負担増、入院時の食費・病床代の自費化による患者負担増。さらに保険財政を国の経済にあわせて総額を規制したり、一定金額は自分で支払わないと医療保険が使えないという免責制が財務省から出されています。
 これらは国民皆保険制度の根幹を揺るがすもので許せません。現在、一千万を突破した署名活動を背景に政治に働きかけ、保険免責と医療費総枠制は何とか外すことができたが、負担増は図られつつあります。
 これからも毎年、同じように国民負担を増やし、経済主導で保険を改悪しようという動きは必ず出てきます。これは自由診療を大きくして、非保険の世界を求める声があるからです。それで国民が幸せになるわけではありません。国民の声を集め、世界に誇る文化遺産とも言われている国民皆保険制度を、何としても守るために全力をあげます。

三十八団体を代表して意見表明


日本歯科医師会会長・井堂孝純氏
 日本は世界保健機関(WHO)が評価している世界一の健康長寿国であり、しかも総医療費が先進諸国の中でも大変低い。いつでも誰でもどこでも等しく医療を受けることができる国民皆保険制度のおかげです。
 ところが、政府は定率減税の廃止など増税に加えて、医療分野でも国民にさらなる負担増を計画しています。早期発見、早期治療、継続管理が医療の原点です。国民の皆様へのさらなる負担増は、必要な受診機会さえ抑制し、ひいては疾病の重病化につながり、健康が損なわれます。
 現在、財務省や経済財政諮問会議が提唱している改革案は財政主導であり、痛みを低所得者層や高齢者層だけに押しつけるものです。また、医療費の総枠管理制は公的給付の抑制であり、国民負担が増え、国民皆保険制度の崩壊につながります。
 アメリカのように民間保険に加入すればいい、という意見もあります。国民の健康に市場原理を導入するとどうなるか。アメリカは世界で最も医療費が高い。公的保険は低所得者層と高齢者・身障者のみ。高所得者層は民間保険に加入。どちらにも加入できない中間層が二〇〇二年には実に四千四百万人もいて、満足な医療を受けることができない。お金がない人は、医療を受けられないのが市場原理のアメリカの現状です。
 健康な国民が多いことは、その国にとってかけがえのない財産です。その根幹である国民皆保険制度を守るために、政府の医療改悪阻止に立ち上がろうではありませんか。

虫垂炎(盲腸)手術入院の都市別費用
都市 費用 入院日数
ニューヨーク 約244万円 1日
ロサンゼルス 約194万円 1日
ロンドン 約114万円 5日
ジュネーブ 約 52万円 4日
ソウル(韓国) 約 51万円 7日
北京(中国) 約 49万円 4日
パリ(フランス) 約 48万円 2日
日本 約 38万円 7日
ホーチミン 約 33万円 4日

日本薬剤師会会長・中西敏夫氏
 わが国の医療が世界一であることはWHOはじめ社会保障に携わるものにとって常識です。かつ少ない医療費で提供できていることをもっと国民に訴える必要があります。
 経済財政諮問会議などから出されている医療費の総枠管理制は、お金がないから病気になるな、ということです。こうした意見の裏には、高齢化による医療費の増加は悪であるとの考え方が潜んでいます
 昨年は国民皆保険制度の根幹を揺るがす混合診療の導入問題に対して、すべての医療関係者が団結して阻止しました。しかし、今年も十二月一日に高齢者の患者負担の増加や診療報酬の引き下げを示唆する政府与党の医療制度改革大綱が決定されました。
 すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を憲法第二十五条で保障されています。その責任は国にあり、その重要な措置が国民皆保険制度の維持です。国民の方々と力一杯たたかっていきます。


健康達成度
世界保健機関(WTO)発表
健康寿命
2002年
乳児死亡率
(出生千人対)
日本 1位 3.0人
スウェーデン 3位 2.8人
イタリア 7位 4.7人
フランス 11位 4.2人
ドイツ 14位 4.3人
イギリス 24位 5.3人
アメリカ 29位 6.8人
日本看護協会会長代理・菊池令子氏
 国民が安心して働き暮らしていくためには、いつでもどこでも誰でも保険証一枚で医療機関にかかれる国民皆保険制度を絶対に守らなければなりません。医療費抑制ということで患者さんの負担増が提案されています。そのために医療への受診の機会が遅れ、受診したときには重症化して治療に時間がかかったり、手遅れになります。心身の変調を感じたときすぐに医療機関を受診できる制度があり、早期対処・重症化予防ができてはじめて、本当の意味での医療費適正化につながります。
 また平成十八年の診療報酬の引き下げが議論されています。急性期病院においては、医療事故のない安全な医療とするために手厚い看護職員の配置が不可欠です。しかし、現実には看護業務の密度が高まる中、看護職員の配置は夜間二十人近い人を一人の看護職員が受け持つという状況です。このままでは患者さんの安全が守れない、自分がいつ医療事故を起こすか分からない、と悲鳴をあげている状況です。患者さんに安全で納得のいく医療を提供するための財源はぜひ確保していただきたい。


国民・患者負担だけ増加
医療費財源の内訳
1980年→2002年
公的負担(国) 30.4%→25.1%
公的負担(地方) 5.1%→ 7.9%
保険料(事業主) 24.0%→21.6%
保険料(被保険者) 29.2%→30.1%
患者負担(受診時) 11.0%→15.3%
東京都医師会会長・唐澤祥人氏
 いま政府・与党の医療制度改革大綱などの財政優先の改革が実行されようとしております。しかし、近年の医療の進歩、疾病予防や早期治療の効果、各医療機関の経営努力などで、医療費の伸び率が鈍化しつつある方向です。にもかかわらず、政府は過度の伸び率の予測を示して、危機感をあおり、あたかも国の財政赤字のすべてが医療費高騰によるもののごとく強調し、国民・受診者・医療担当者にいっそうの負担を強いています。この政策は、いっそうの少子化と弱者切り捨てにつながり、医療が営利主義の企業のえじきになります。それは疾病に苦しむ方々にとって、経済的負担は二重、三重の負担となります。
 世界的にも低価格で適切な医療を提供できる国民皆保険制度を手放してはなりません。どこでも平等に安価で最高の医療を確保するために、国民医療、国民皆保険制度を守り抜かなければなりません。


危機感をあおる厚生労働省の医療費予測
厚生労働省の予測と現実
2000年 2004年 2010年 2025年
1995年の予測 38兆円 50兆円 68兆円 141兆円
2000年の予測 ↑ ↑
予測と現実の
大きなギャップ

↓ ↓
104兆円
2002年の予測 81兆円
2005年の予測 41兆円 70兆円
実際の医療費 30.4兆 32.1兆
全国腎臓病協議会会長・油井清治氏
 私どもは、腎臓病で人工透析を一日おきに受けなければ命が保てない患者団体です。いま患者数は約二十五万人です。以前は人工透析の保険適用がなく、月三十万円くらいの自己負担をしなければ、この医療を受けられなかった。私たちは一九七一年に患者団体を発足し、幸いにして一九七二年以降、保険適用が可能になり、安心してこの医療を受けられるようになりました。
 ところが、人工透析患者の負担増の圧力がかかりつつあります。いま私たちの会員は高齢化しており、他人の介護を受けなければ病院に行けない患者が増えています。病院に行けなければ透析が受けられず、透析が受けられなければ死を待つしかありません。そういう私たちに負担を強いるというのは理解できません。私どもは会を発足させた当時から、「患者の命と暮らしを守る」を合い言葉にして、また憲法二十五条の国民の生存権を大きく掲げて、三十四年にわたって活動してきました。
 私たちは終生医療を必要とする患者で、負担が増すことは死活に関わる問題です。これからも力をあわせて、がんばっていきたい。
  ◇   ◇   ◇   ◇
 集会は、「高齢者の患者負担増反対」「高額医療・人工透析の患者負担増反対」「入院時の食費・病床代自費化による患者負担増反対」「保険免責制による患者負担増反対」「医療の安全と質の低下をまねく医療費総枠管理制反対」の決議を参加者全員で確認した。そして、頑張ろうコールで患者負担増などの医療改革に反対する闘いの決意を固めた。