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月刊『日本の進路』2005年10月号
JA全中基本農政部農政課長 西野 司
政府の規制改革・民間開放推進会議で「農協事業の分割」が議論されている。JA全中の西野農政課長に、規制改革・民間開放推進会議における議論や当面する農政の課題について話を聞いた(文責編集部)
農協の事業分割議論
農業協同組合(JA)は、農業協同組合法(農協法)に基づいた自主的な民間の組織です。生産した農産物を売る力もなく、融資も受けられないなど個々人では弱い立場の農業者が力を合わせて、作ったのが農協の原点です。農協法で、独占禁止法の適用除外になっています。「信用」が貯金や融資など、「共済」が保険、「経済」が農産物の販売や農機具や肥料などの購買で、この三事業で総合農協としてやっています。
七月末の規制改革・民間開放推進会議の中間報告の中に、「農協事業の分割」が含まれていることを察知した自民党の幹部が、選挙に響くという判断で中間報告の時期を延期されたと報道などで聞いています。
農協は民間の組織です。なぜ「農協事業の分割」という話が出てくるのか。兼営が認められている農協事業を快く思わない方々が、目を付けたのではないかと思います。郵政民営化では、金融機関や外資が郵貯や簡保をねらっている、同様に農協の分割で貯金と保険がねらわれているという報道もあります。
JAの三事業は組合員の営農や生活を軸に有機的に結びついてます。事業の分離は、かえって事業の総合性・効率性を損ない、農業者の利益を損なうことになります。中間報告で外された「農協事業の分割」が、最終報告でどうなるか。いずれしても、とうてい認められません。
規制改革・民間開放推進会議では、「株式会社による農地取得自由化」なども議論されています。
農地を農地として有効利用する仕組みの確立が必要です。高齢化などの理由で耕作放棄地があるのも事実ですが、まず国土利用全体の問題としてとらえ、計画的に利用すべきです。ところが、都市計画はあっても農村計画はありません。こんな状態だと農地の減少に歯止めがかからず、食料自給率の低下につながります。農業を営む者が権利を取得するという農地法の原則の中で、株式の譲渡制限つきの株式会社形態の農業生産法人にはすでに農地所有が認められています。一般の農地転用の可能性がある株式会社による農地取得は認められません。
われわれとしては地域農業の将来像を描き、農地の利用区分や担い手の特定等についての集落合意をもとに、農地として保全する地域、住宅地にする地域、生き甲斐農園として整備する地域という具合に農村での農地利用・農村整備計画の取り組みを進めるべきと考えています。
当面の農政の課題
今年三月、今後の農政の基本となる新たな食料・農業・農村基本計画(新基本計画)が閣議決定されました。五年ごとに見直されるもので、新基本計画では十年後の平成二十七年(二〇一五年)のカロリーベースの食料自給率を現在の四〇%から四五%に引き上げることを目標にしています。環境悪化などで世界の食料生産はほぼ限界です。一方、世界人口は増加し続け食料不足が叫ばれています。先進国でも最低の食料自給率で世界一の食料輸入国の日本にとって、自給率を引き上げることは国民的な課題です。
そのために消費面では、地産地消や市町村ごとの自給率向上計画など消費者に国産農産物の重視が打ち出されています。
一方、生産面では米、麦、大豆など主要作物についての生産努力目標が掲げられています。しかし、相次ぐ農産物の自由化、米の消費減少などで日本の農業は農業者の高齢化や耕作放棄地拡大など困難を抱えています。農業の担い手が経営的にも安心して農産物を生産できるような支援が必要です。政府は「担い手の育成」とその担い手に対する「品目横断的経営安定対策」(日本型直接支払い)を打ち出しました。
品目横断的経営対策とは、一つは外国との生産条件の格差を埋める対策。麦や大豆はコスト面で輸入物に対抗できないためその分を補てんする。もう一つは米など大幅に価格が下落したとき一定分を補てんする。日本型直接支払いと呼ばれています。
問題は、「担い手」の対象を誰にするかです。政府は財政赤字を背景に担い手を大規模農家に絞ろうとしました。米政策改革で定められた稲作の担い手経営安定対策における対象農家の規模は、原則として都府県で四ヘクタール以上(北海道で十ヘクタール以上)の稲作農家です。しかし、これは稲作農家のわずか二%、水田面積でみても六%しかカバーしません。また、認定農業者十八万人のうち稲作中心は五万五千で、これは水稲作付農家の約三%にすぎません。果たしてこれで政策といえるのか。少数の大規模農家だけを担い手として支援することで、食料自給率を向上させられるのか疑問です。
われわれは、担い手づくりも農政転換も必要だと認識しています。しかし大規模農家だけに担い手を絞ることは反対です。むしろ地域が農業の担い手を決め、地域全体がバックアップしていくような政策が必要だと考えています。それぞれの地域が担い手の実態や営農組織化の状況に即して、基準を弾力的に決められるような仕組みが必要だと考えています。兼業農家がたくさんいる地域では、農家がまとまって「集落営農」という形にする。それも担い手として認めて直接支払いの対象にすべきと主張しました。
最終的には、集落営農も一定の条件があれば「担い手」として認められることなりました。平成十九年度からの実施予定ですから、来年年明けの通常国会で法律改正が必要です。そのためには今年秋には直接支払いの対象である担い手の範囲を具体的に決める段階に入ります。
農政のもう一つの大きな課題はWTO(世界貿易機関)の農業交渉です。今年十二月の香港での閣僚会議に向けて断続的に交渉が進められています。米国は関税の大幅引き下げなどを要求しています。関税引き下げは自給率の低下につながります。国民の食料をすべて市場原理で決めることは危険なことです。自給率向上のためにも、日本政府には国民の食料・農業を守るという立場を貫く交渉をしてほしい。
総選挙の結果と農政
今回の総選挙では自民党が大きく議席を伸ばしました。われわれの要望する政策を実現するには与党にお願いせざるを得ない。政権基盤が安定したので自民党がその気になれば、われわれの言うことも聞いてもらえるという環境はあります。しかし、与党自民党の中で郵政問題で農林関係議員の多くが党を離れざるを得ない形になりました。また経済財政諮問会議や規制改革・民間開放推進会議などが最重視される傾向が強まっており、食料・農業問題が隅に追いやられたり、実態とかけ離れた議論がされたりするのではないかと心配をしています。都市と農村の対立をあおるような構図になることは避けなければなりません。
国民の食料を安全で安定的に供給することは、農業者と農業団体である農協の大きな使命だと思っています。同時に、食料や農業問題は国民全体の問題です。国民の食料の六割も輸入に依存していいのか、食料自給率をどう向上させていくかなど国民的合意が必要です。そのために、ここ数年、JA全中も含めた食料・農林漁業・環境フォーラムが、全国各地でWTO問題を中心にシンポジウムを展開しました。子どもを抱えている主婦層には一定の理解が深まったと思っています。消費者団体の活動もあり、BSEが発生した米国産牛肉の輸入再開問題などでは、食の安全性に対する国民の関心は高まっていると思います。国民的合意に向けた取り組みは地道ですが、重要だと考えています。 (文責編集部)