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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年9月号
ピースリンク広島・呉・岩国 藤井 純子
強化される岩国基地
山口県の岩国基地が、米軍の変革に伴う在日米軍の再編によってより強大な軍事基地にされようとしている。沖縄の負担軽減、米陸軍第一軍団司令部の座間移転、横須賀への原子力空母配備‥‥といった多くの課題を日本各基地に背負わせるためバランスが必要だと日米両政府がしきりに言う。厚木の空母艦載機部隊の移駐とNLP訓練基地の確保には岩国が最適だと思っているらしい。岩国基地沖二百十ヘクタールの広大な藻場や干潟を埋め立て、二千四百億円もの巨額な思いやり予算を投入した滑走路沖合移設事業。今年七月には、水深十三メートルの巨大岸壁に軍用船舶の出入航が始まり、基地機能は飛躍的に増大し、これらを国が利用しないはずはない。ヒロシマがますます強大化する「戦争の街」岩国、呉‥‥に囲まれてしまう。
岩国市民は、爆音に悩まされつつ、なぜか騒音訴訟も起こしていない。戦前、突然に農地を奪われ日本海軍航空隊の岩国飛行場が作られ、ほぼ米軍に引き継がれた岩国基地。軍用機は南北に走る滑走路から直下の住宅や工場をかすめて離発着し、非常に危険である。三十七年前、九州大学構内へのファントム墜落事故から、騒音被害も墜落の危険も少なくする滑走路沖合移設は「市民の悲願だ」と岩国市は推進し続けてきた。更に、空中給油機やファルージャで爆撃したヘリ部隊など次々と受け入れを容認してしまっている。岩国市や山口県に市民運動として何度、足を運んでも、市民からの苦情には何とか対応してはいるものの、「国の決めたこと、米軍については地位協定がある以上何も言う立場にない」の一点張り。市庁舎・学校の建替えなど国からの補助金でお金が絡むと更にややこしい。
広がる移設反対の動き
しかし今回は違った。厚木の空母艦載機部隊移駐やNLPなど米軍の再編報道に敏感に反応し、住民を守る立場で明確に反対している。四月、私たちが受け入れないよう要請に行った時、山口県の沖合移設対策室から初めて、沖合に出した面積分の返還要請を毎年行っていることを聞いた。岩国市の基地対策課は、基地の拡張・強化を容認しない三つの定義ははずさないことをきっぱり言った。その言葉通り、岩国市長は毎週のように外務省や防衛庁に押しかけ、受け入れ拒否の姿勢を崩していない。岩国市議会も、周辺の町も、自治会組織や女性団体、滑走路沖合移設を推進してきた団体さえ反対の声を上げた。広島県の周辺自治体の動きも早かった。影響は岩国に限らない。沖合に滑走路が出ることで、米軍機離発着のコースが変わり、厚木からの移駐は広島湾一帯の住民に多大な影響が出る。とりわけ被爆者であり、平和に関して一貫した態度で臨んでいる廿日市市長が中心となって五市町で期成同盟を作り、反対の意思を国に伝えている。廿日市議会も異例の「断固反対する」意見書を採択。私たちはむろん「武力で平和は作れない」という絶対平和主義の立場だが、「住民の命を脅かす基地はいらない」の立場でもいいし、「世界遺産の宮島に軍用機が墜落してはならん」との立場であってもいい。現時点で広島市も、米軍の低空飛行に苦しむ県北の三次市も反対の意見書・決議を上げた。広島県知事もNLPに関しては大黒神島騒動から反対を表明している。中国地方の山間部では低空飛行への懸念も強く、自治体の動きが活発になる可能性もある。
山口と広島にまたがる自治体・議会・住民の連携を
しかし、市長が代わる、補助金等絡むなど、これら自治体の態度が変わらないとも限らない。そもそも岩国市は危うい。田村市議によると、一九九二年六月地元の悲願「基地沖合移設事業」実施を前提として山口県と岩国市は「NLPについては将来とも受け入れざるを得ないと思慮」と回答した文書が発覚したという。自治体の今の反対姿勢を支えていくものは住民の声しかない。岩国市では住民組織による反対署名がまもなく始まるという。そもそも基地反対を明確にしてきた田村順玄市議が二期目でトップ当選した。反対の声は大きくは聞こえないが、住民の多くが基地の存在を喜んでいないことは確かだ。宮島では全島民の半分千九百七十五人が「大切な宮島の鳥居の上を軍用機は飛んでくれるな」とNLP受入れ反対署名をした。
そして住民の声をもっと強いものにしていきたいと思い、私たちは五月、住民に呼びかけ準備を重ね、七月に廿日市市で「岩国基地を問うシンポジウム」を開催した。パネリストは、岩国市議、住民、そして米軍世界再編と広島基地群について市民運動から。住民の「人を殺す軍用機の爆音に慄きました。ヒロシマの私たちが戦争の手伝いをするなんて嫌です。こんな中で子どもを育てたくありません」という切実な発言に大きく頷く参加者の皆さんは「厚木からの移駐が決まるとどうなるんだ、シンポジウムだけに終わらせないで学習し、行動していかねば!」と、広島県西部住民の会(仮)を今秋、立ち上げることになった。今後、自治体との意見交換を重ねて大きな動きになるものと期待している。
日本政府も米側も、こうした地元自治体・住民の動きは無視できない。六月に出すはずの再編の具体案は「地元の理解は不可欠だ」と十月以降に延期となり、岩国の見込みがなければもっと遅れるかもしれない。八月末、読売新聞に「四キロ沖合メガフロート計画」の記事が出た。この案は、現在工事中の新滑走路を使ってのNLPは、結局、断念するということではないのか。今年中に最終報告を出すつもりだった政府が苛立ち、唯一「第三の滑走路の建設を条件に、厚木艦載機部隊の岩国移転を容認」した岩国市商工会議所の決議を地元の賛成意見として「読売」に書かせ、岩国移駐案を進めようとしたのではないかと勘ぐりたくもなる。
SACO合意から八年目の今も、海上基地建設のボーリング調査をさせず、断念せざるを得ない状況に追い込んだ沖縄、辺野古住民。また、厚木基地周辺の自治体では、市長が座間への司令部移転反対署名の先頭に立ち、商工会議所までもが行政、住民と一緒になって闘っていると聞いた。こんな時こそ、岩国でも市民運動の出番があるのではないか。厚木周辺にも、沖縄にも、基地に取り組む全国的なネットワークがある。運動を共にしている議員がいる。宜野湾市長だってそうだ。米軍の低空飛行にも各地でほとんどのルートを網羅し、資料もそれぞれが持っている。今回、山口・広島にまたかる自治体と議会と住民が連携すれば大きな力になるにちがいない。被爆六十年の今年、沖縄に学び、厚木基地周辺自治体を参考にしながら、このヒロシマに強大な基地はいらないと少しづつでも押し返していければいいなと思う。たとえ日米政府の合意した米軍再編の具体案が出されたとしても、それからが本当の闘いである。