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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年7月号
講演要旨・佐賀
京都大学教授 本山美彦
アメリカの真似はごめんだ
私は一九六〇年の三池闘争で経済学の道を選んだ。あれは石炭から石油への切り替えという国策で、アメリカが日本に命令した最初の経済政策だった。イギリスから奪った中近東の石油を売りつけるため、日本に石炭産業の切り捨てを迫った。私が育ったころの神戸は白砂青松の海辺だったが、六〇年代に油臭い岸壁に変わり、遊び場を奪われた。新聞やラジオは炭鉱閉山、労働者の首切り、抵抗する労働者の闘争を報じていた。最近、その三池闘争のOBたちと交わり、それがこの佐賀での講演にもつながっている。私は彼らの闘争を受け継ぎ、語っていきたい。
皆さんには、頭の中で考えるよりも、日常生活の中で得られるハートで考えてほしい。世間に流布していることにはとんでもない裏がある。日本はアメリカになろうと、自分の感覚に合わない社会を作ってきた。アメリカは世界から人材を集め、日本の「優秀な人間」はアメリカに出ていく。野茂やイチローなどの野球の世界も学者の世界もそうだ。そして、あらゆる分野でアメリカ帰りがのさばっている。アメリカの真似をするしかないという考えを打ち破り、日本でモノを作り、教育する循環を作り出さなければならない。経済は文化なのだ。東アジアの文化は人と人との付き合いを大事にし、年輩は自分のすべてを注いで若者を鍛える。競争社会のアメリカでは、身内の者に大事な事は教えない。以前の日本企業はまっさらな若者を採用して企業で育てた。今は会計士などの資格を持つ出来合いの人間を選ぶ。そうなると各種学校だけが繁栄し、学問を追究する大学は衰退していく。
アメリカにつぶされた銀行
日本人はむだ遣いせず、低金利でも貯金する。アメリカ人の多くは貯金せず、カードを使う。金利さえ払えば、カード会社が住宅を担保に金を貸す。その結果、年間百六十万人の自己破産者が出ている。そんなアメリカを賛美する学者が日本の伝統を壊した。日本は儲からない重厚長大の産業を大事にしてきた。儲かる産業相手の都市銀行には一年以上の定期預金を認めず、儲からない産業に融資する日本長期信用銀行や日本興業銀行に割引債という長期債権の発行を許した。長期資金が長銀や興銀に入り、企業は国民の預金で長期の設備投資をまかなった。だから日本経済は高度成長し、銀行も倒産しなかった。これが日本の文化だ。
このやり方がひっくり返された。十数年前、日本人の預金は先進国の八〇%を占めていた。アメリカはのどから手が出るほど、この金が欲しかった。そこでBIS規制を言い出した。預金は銀行にとって借金だ。だから、貸し出し額の八%以上の資本金がなければならぬ。貸し出しは資本金の十二倍までにすべきだ。さらに、株の持ち合いは許し難いと言い出した。市場に出ている株は三〇%しかない。株式民主主義に反する。銀行は資本金を上回る他社の株をもつことを禁止され、株を売らざるを得なくなり、下がった株を外資が手に入れた。護送船団方式もだめだ、競争しろとなった。この共存共栄方式でどの産業も生きていけるし、融資している銀行もやっていけるのに、それがだめだとなった。儲からない産業に融資している長銀や興銀が真っ先に締めつけられた。また、ペイオフ解禁で預金保証は千万円に制限された。長銀や興銀から客が逃げ出し、都市銀行に移った。企業も個人も預金を巨大銀行に移した。
こうして日本の銀行がつぶされた。二十行あった都市銀行が三つになった。竹中金融担当相は「UFJをつぶす」と発言。担当大臣が銀行をつぶすと発言する国がどこにあるか。UFJから郵便貯金へ金が移り、その郵便局も民営化でつぶされそうだ。その金をアメリカの金融機関が握る。それがアメリカのねらいだ。
政府がつぶれた長銀に膨大な金を注ぎ込んだ後、米国資本がそれを二束三文で買いとり、新生銀行となった。許し難いのはかし担保契約だ。融資先が倒産すれば、政府が新生銀行の債権を保証するという。だから、新生銀行はそごう救済を拒否して倒産させた。さらに多くの会社を倒産させた。政治家や学者や評論家はよってたかって、経営者が無能だ、アメリカを見習えと叩き、外資が後ろにいる経営者に入れ替えられた。こうして日本はガタガタにされた。
大事なことは地元産業を育成する銀行を育てることだ。労働者なら労働金庫を使う。地域の銀行は地元に奉仕すべきだ。バングラディシュのグラミン銀行は、銀行融資を受けられない貧しい女性に六ドルを融資し、貧しさの悪循環を断ち切るのを支援している。返済もきちんと行われている。神戸の北朝鮮系の銀行は震災時に被災者に十万円を配って歩いた。被災者は感謝してみんな返済した。その銀行が政治の力でつぶされ、涙が出た。そういう銀行を地域につくり、地域産業の核にしなければならない。アメリカの銀行はその反対で、高層ビルの二十数階で威張っている。庶民のための銀行ではなく、金持ちのための投資会社だ。日本の大銀行もそのうちビルの高層階に移り、庶民が行っても「何しに来たのか」と言うようになるかもしれない。
始まった外資による買収時代
最近出た「マッキンゼー報告」を読んで背筋が寒くなった。子どもが生まれたら政府は一人二千ドルを供与し、専門家が運用して株式市場を回復させる。会社が儲かり、子どもは運用益を将来の教育費やベンチャー資金に使える。アメリカ全体が株式運用で潤おうという提言だ。
二〇〇六年から、外資が株式交換で日本企業の乗っ取りができるようになる。アメリカ企業の株価は日本の何十倍もある。それで株式を交換すれば、簡単に日本企業を乗っ取れる。その先兵は日米共同のミサイル防衛に関連しているカーライルで、父ブッシュがそのアジア代表(日本、韓国、中国を含む)だ。すでにダイエーはコロニーキャピタルに乗っ取られたが、コロニーは植民地という意味だ。それだけでもムカムカしている時にライブドアによる買収劇が起こった。偶然ではない。ホリエモン自身も外資にあやつられている。それにしても、ホリエモンが五年間で一株を三万株以上に分割し、最初の三千三百万円を七百四十八億円にふくらませた詐欺同然の錬金術は許せない。そんなホリエモンを世間は支持した。東京地裁はこの買収劇で企業がM&A(合併・買収)を防ぐ法的措置を封じた。判例主義の日本社会では最初の判例が流れをつくるから、これは重大な判決だ。
本家のアメリカでは、M&Aに対する禁止事項、規制がある。権限を持っているのは連邦政府ではなく、州政府だ。例えば、カリフォルニア州ではマンションを建てる時に、百室ならば百五十台分の駐車場を義務づける。これを知らずに、「アメリカでは車庫証明がいらないのに、日本で車庫証明が必要なのはおかしい」と学者が言う。アメリカで規制されている金融活動が、日本では自由にできる。「アメリカ並に企業買収の規制を強化しよう」と言ったとたんに、東京地裁が逆の判決を出した。この屈辱を指摘しないジャーナリズムは情けない。
必要ない中国の元引き上げ
ブッシュのアジア政策は、日韓中が結びつくのを全力で阻止することだ。日韓中は東アジア的な共同体をめざして、それぞれの通貨、円・ウォン・元を共通単位に結びつける方向で、バスケット方式の議論を始めた。ねらいすましたように、アメリカが元の引き上げを言い出した。「日本はアメリカと一緒になって中国をいじめたくない」と言っていた谷垣財務相が、スノー米財務長官との会談後に「元は切り上げるべきだ」と発言した。私が外務大臣なら「日本は八五年のプラザ合意以降、円は三倍になり、金融自由化で経済はガタガタになった。だが、貿易赤字は解消しなかった。元を切り上げはやめた方がいい」と言う。
権力にこびる学者たちはアメリカの対中貿易赤字を理由に元の切り上げを主張する。正当な主張だろうか。第一に、中国が輸出を香港経由と直接とに分けているのに対して、アメリカは香港経由も統計に入れろと主張する。一方、アメリカは対中輸出の七〇%を占める香港経由を除外し、中国本土への輸出だけを統計に入れている。だから、貿易赤字が大きく見える。第二に、中国製品の大部分は米・欧・日の企業が中国に進出して加工したもので、売り先は進出企業が決める。中国は工場用地と労働者を提供するだけで、中国での付加価値は一〇%程度。対中貿易赤字は千六百億ドルというが、実際は百六十億ドル程度だ。第三に、アメリカは中国の通信やIT関係に進出し、衛星放送はマードックの一〇〇%支配だ。だが、現地生産だからアメリカの輸出にならない。中国で一番儲けているのはアメリカ企業だ。学者たちはこれに口をつぐみ、元切り上げで口をそろえる。ジャーナリズムや政党は勉強不足で分からない。結局、証券会社の見解が垂れ流しになる。その裏に米国資本がいる。
必要なのは国民統一戦線
こんな状況を打破したい。日本にチャンスがあると思う。企業名を都市名に使うトヨタは嫌いだが、日米間の競争ではトヨタのもつ日本的なものが輝いている。アメリカではトヨタ車の評価が一番高く、GM車はアップアップだ。トヨタは長い付き合いを大事にし、ダイハツの吸収にも三十五年かけた。ホリエモンのように、突然、株価にものを言わせて買収するやり方とは違う。膨大な利益を燃料電池やハイブリット車の開発に回し、アメリカの自動車労組や州政府も味方につけている。GMは新規の技術開発をせず、M&Aばかりやってきた。利益の八〇%は金融子会社の収益で、自動車部門はほとんど儲かっていない。投資不適格になれば金融子会社は資金ショートを起こす。だが、日本企業にもGMと同じことが起きている。JR西日本の事故は、現場を知らぬ経営陣が運転手、車掌、保線工などのコミュニティを大事にせず、先輩から伝承された技術を切り捨てた結果だ。起こるべくして起こった事故だ。
「勝ち組」と言われる会社は地方の会社だ。地方を活性化し、地方で子どもを生み育て親を看取る、生命のサイクルが重要だと思う。そのために地方の企業、金融、消費がスクラムを組む。そうすることで日本的良さが復活する。そういうシナリオを作り上げるのが学者の任務であり、皆さんとの共同作業でもある。
アメリカは強くない。イラク戦争や中国に対する態度を見て、世界の人々はアメリカを信頼しなくなった。だから、ドル体制はもたないと思う。日本は分かっていないが、ヨーロッパはアメリカに背を向けている。
そういう状況の下で、企業年金はアメリカ式の四〇一K( 確定拠出型年金)になり、すべて自己責任になる。郵政民営化と関連して、外資が日本に入ってきて保険の民営化が進む。企業の健康保険はなくなり、個人と保険会社の契約になっていくだろう。病気がちの人たちは保険に入れてもらえない。テレビコマーシャルはアメリカの保険会社ばかりだ。四千万人以上が医療保険に入れず、貧乏人は病気になったら死ねという野蛮なアメリカに似てくる。
アメリカの民間労組の組織率は八%を切り、日本も一〇%程度だ。政府は残っている官公労をつぶすため、大阪市の労働組合をいじめている。リベラルを標榜する新聞社も「勤務時間中の組合集会はけしからん」と労働組合いじめをやっている。
この包囲網を、一緒に闘って突破しなければならない。そのために、みんなが参加できる戦略を立てる必要がある。ヨーロッパにあって日本にないのは国民統一戦線だ。ナチスに抵抗するためにあらゆる人たちが手を結んだ。そういう意味で国民連合の存在意義がある。力をあわせれば、まだ希望があると思う。
(六月十八日講演・文責編集部)