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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年6月号

講演会「日本の進路を問う」

米国の不安定の弧戦略、追随する小泉政権


 米国の「不安定の弧」戦略・米軍再編が具体化しつつあり、小泉内閣は米国に追随し、アジア敵視の危険な道に踏み込もうとしている。キャンプ座間への米陸軍第一軍団司令部移設に反対している神奈川で五月二十日、講演会「日本の進路を問う」が開かれ、天木直人氏と前田哲男氏が講演を行った。以下、講演の概要を掲載します。文責編集部。

天木直人氏(前レバノン大使・外交官)

 私は三〇数年間の外務省勤務仕事を通じて、アメリカの意向でわが国の外交そのものが変えられる経験をいやというほどした。就任演説で一言も中東に触れなかったブッシュ大統領が、「九・一一」をきっかけに「テロとの闘い」を前面に掲げてイラクを攻撃した。当時、レバノン大使であった私は、このイラク攻撃は不当であると言い続けた。しかし小泉首相は初めからイラク攻撃を支持することを決めていた。イラク攻撃に反対の声をあげた私は、外務省をクビになった。しかし今は自由の身で考え、発言できる事を嬉しく思う。 いま、国連安保理常任理事国入りをめざし、百二十人近くの大使が呼び戻されて集票活動にハッパをかけられている。元同僚達はやってもしようがないと思いつつ命令に従っている。数日前、ライス国務長官がドイツの常任理事国入り反対を表明した。その直後に米国の報道官は「日本だけ常任理事国になってもらいたい」とも発言した。日本はドイツ、インド、ブラジルと一緒になって何とか常任理事国に入ろうとしているのだから、このような米国の発言は日本を困惑させるだけだ。「これほどまでアメリカは日本のことを思っていてくれるのか」と喜ぶのはおめでたい。これらの発言の裏に隠された米国の本音は安保理改革を認めないという事だ。
 私が外務省に入ったばかりの六〇〜七〇年代は、国会では安保論争が花形だった。外務大臣も政府委員も緊張し、我々下っ端役人は風呂敷に資料を詰め込んで臨んだものだ。今はそういう緊張感がない。小泉首相の不勉強かつ強引な答弁で全て押し切られ、野党もそれに対して反論できるほど勉強していない。かつては答弁に失敗すると大騒ぎになって審議がストップしたものだが、今は全くそういうことがなくなった。米軍再編問題と昨年暮れに決定された新防衛大綱は完全に憲法を逸脱したものであるが、政府の一存で決められてしまった。米軍に対する新たな協力は、憲法や日米安保条約ではとうてい認められないものであるが、「世界の平和に協力する日米共通戦略目標」という新たなキャッチフレーズを作り出して政府だけで決めてしまった。米国の中東政策の不正義とそれに対するアラブの捨て身の抵抗を真近に見てきた私は、日本はアメリカの軍事協力に加担すべきではなく、平和憲法を世界に掲げることこそ最後のよりどころだと確信するに至った。
 日本経団連の奥田会長(トヨタ会長)は改憲と武器輸出三原則見直しを主張している。私が南アフリカのアパルトヘイト問題を担当していたとき、白人政権がトヨタ車で黒人を殺したり弾圧していた。私はトヨタの担当部長に車を売るのを自粛するよう申し入れた。そしたら「私たちは黒人の一人や二人が死のうが関係ない。車が売れればいい」と言った。それは強烈な体験だった。以来、私はトヨタという会社を一切信用しない。しかし、経済同友会の品川正治さんという方が、「憲法九条を変えてはいけない」「紛争は無くせないが、紛争を戦争にしないのが外交努力だ」と発言されているのを知り勇気付けられた。
 米軍再編の大筋が今年の夏頃に決まって、その後憲法改悪が国民の抵抗なく進んでいくのではとの危惧がある。国民が声を上げればアメリカはその声を無視は出来ない。ラムズフェルドはかつて「日本国民が嫌だというのであれば無理すべきではない」と言った。半年ぐらい前に、アーミテージ国務副長官が「日本の憲法は日米同盟にとって邪魔物だ」と発言し、日本国民が怒って抗議したら発言を撤回した。
 これからの日本の政治状況は、自民、民主、二大保守政党に収斂していくのではなくて、真のリベラル政党である第三勢力が現れなくてはならないと思う。私は自分の力の限り、そういう政治状況の実現に尽力していきたい。

前田哲男氏(東京国際大学教授・軍事評論家)

 「改憲」も「再編」も根っこは一つ。「改憲」によって、戦争のできる国家を作ること、一方「再編」によって、米軍基地と自衛隊基地の境目を無くし、相互供与、共同運用、共同作戦能力を推進し、安保条約を世界化する。「改憲」は「再編」の必要条件であり、「再編」は「改憲」の十分条件である。「不安定の弧」という二十一世紀初頭のアメリカの戦略区域、ユーラシア大陸の西の島国であるイギリス、東の島国である日本、二つの島国がユーラシア大陸を東西からはさむ「再編」そのための「改憲」、その受け皿となったのが、小泉政権の対米政策である。米軍の基地再編は中国をターゲットにしている。その駒として日本が組み込まれようとしている。
 四年に一度の軍事戦略見直し米QDRに反映されるだろう。米はおそくとも秋ぐらいに基地再編協議が決着していなければならない。「改憲」もタイムリミット。自民党は結党五〇年周年に公約通り改憲案を出すだろう。
 米軍隊は一九九〇年の二一〇万人から現在一四〇万人に減った。ドイツの冷戦期米駐留軍三〇万人近を七万五千人にし、さらにこれを二万人削減する。ドイツは今はフランスやEUと協調し、在独米軍の削減を積極的に要請していくようになった。ドイツ国内法優位の原則をキチッと立てた。日米地位協定のような米軍基地優遇がなくなり居心地が悪くなった米軍はルーマニアやポーランドにいくようになった。
 韓国も、冷戦後、在韓米軍は一万二千五百人削減、今後ソウルの南に移動する。基地の再編成が行われ、韓国は基地の削減という姿勢で交渉している。
 日本政府は基地の負担の軽減と米軍抑止力の維持を掲げている。このような姿勢が再編問題を漂流させている。アメリカの再編と完全に連動・従属し昨年十二月防衛大綱が改定された。そのもととなった荒木東電会長を座長とする安全保障と防衛力に関する懇談会「荒木リポート」は冒頭で「二〇〇一年九月十一日、安全保障に関する二十一世紀が始まった」と日本の防衛政策の新しい形を凝縮して示し、従来の専守防衛の基盤的防衛力構想を事実上否定し、「多機能の弾力的防衛力」という考えを導入した。さらに、予算の中にミサイル防衛予算が入り、今年度からは生産配備を念頭においたものになった。
 アメリカの基地再編は世界的、長期的なものであり、その中で日本のみが突出してアメリカにすり寄り、受け入れている。さらに昨夜に成立した七つの第二次有事法、米軍支援円滑化法といわれる法律。民間の港湾、道路、電波管理等、自衛隊が使うときは同等の権利として在日米軍も行使出来るという法律等々外堀が埋められてきている。
 三月十五日、私は宮古群島の伊良部町下地島に行った。伊良部町は人口六千八百人、その三千五百人が体育館に集まる住民大会が開かれた。下地島には民間パイロット養成のための訓練飛行場があり、それを米軍が使う意向を日本政府に伝え、町議会では自衛隊誘致決議をした。住民大会では町議を全員呼んで問いただした。翌日の臨時町議会では一六対一で誘致決議案が白紙撤回された。 座間でも市民の半分近くが第一米陸軍団司令部移駐反対を署名で示した。市長も反対だという。地方自治の権利を具体化していく抵抗の手段はまだ有効だ。
 ドイツや韓国の動きを把握し、反対の意思をあげていく必要がある。