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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年5月号

高齢者、その家族に犠牲を押しつける
介護保険法改正案に怒りの声をあげよう

月刊『日本の進路』編集部


 二〇〇〇年四月に介護保険法がスタートして以来、初めての大幅な見直しとなる介護保険法改正案が、四月二十七日、衆院厚生労働委員会で自民党、公明党、民主党の賛成多数で可決されました。五月十日の衆院本会議で可決された後、参院に送られる予定で、今国会で成立する見通しとなりました。
 介護保険の適用を受けている高齢者は、今年二月の時点で三百三十五万人。介護保険法の改正は、本人はもちろん家族の日々の暮らしに大きな影響を及ぼします。小泉内閣と与党の自民党、公明党、そして改正案に賛成した野党の民主党が、介護保険制度をどのように変えようとしているのか、改正のねらいはどこにあるのか、私たちは国民の暮らしを守る視点から、考えてみる必要があると思います。

居住費・食費は全額負担

 国民の暮らしに大きな影響を及ぼす第一の改正点は、介護施設を利用する場合の居住費や食費です。
 今までは、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設に入所したり、ショートステイしたり、あるいはデイサービスを受けたりすると、部屋代、光熱費、水道代などの居住費と食費は、介護保険の給付対象となっていました。ところが、今回の改正で、居住費と食費は原則として保険給付の対象外とし、施設の利用者が居住費と食費(デイサービスの場合は食費)を全額自己負担するように変更しました。これが今年十月から実施されることになります。
 厚生労働省が示した標準的な特別養護老人ホームの居住費は、月額で相部屋一万円、個室(ユニット型)六万円、食費は四・八万円です。今年十月からこれを全額自己負担しなければなりません。一割を負担する介護サービス費を含めると、相部屋の場合は毎月八万七千円、個室の場合は十三万四千円の負担となります。これまでと比べると、三万一千円〜三万二千円の負担増となります。
 生活保護を受けている人、世帯の全員が住民税非課税という低所得の人は、申請すれば減免制度が適用されますが、その対象になり得る人は全体の三六%にすぎません。低所得の人でも年金収入が年額八十万円を超える人(一七%)は、減免制度が適用されても、一万五千円〜一万七千五百円の負担増となります。世帯の誰か一人でも住民税が課税される程度の収入があれば(六四%)、減免制度は適用されません。低所得者を含む八一%の人の自己負担が増えます(別表参照)。
 なぜ、介護施設の居住費と食費を利用者の全額負担に変更するのでしょうか。在宅介護を受ける人は全額自己負担しているのに、施設介護を受ける人が一部しか負担していないのは不公平だから、全額負担してもらう、というのが政府の言い分です。この言い分では、介護を受けない人が保険料を払うのも不公平ということになりませんか。政府の言い分はでたらめです。
 給付額を減らしても、国民が払う保険料は減らしません。介護保険法改正の本当のねらいは、より良い介護のためでも公平性のためでもなく、介護を受けざるを得ない高齢者やその家族に犠牲を押しつけて、国の財政赤字を減らすことにあります。

施設からの追い出し作戦

 政府のねらいは、居住費と食費の負担分を減らすだけではありません。
 月々の負担が一万五千円〜三万二千円も増えれば、どうなるでしょうか。高所得者にとっては、これくらいの負担増は何ともないでしょうが、低所得者にとっては大変なことです。家族が負担に耐えきれず、在宅では必要な介護が十分できないことを承知で、重度の親や配偶者を家庭に引き取らざるを得ないケースが増えるでしょう。これこそ、政府のねらいです。
 厚労省によると、今年二月現在、一人当たりの保険給付額は、施設介護が約三十五万三千五百円、在宅介護が約八万七千九百円です。一人の高齢者が施設から家庭に引き取られると、保険給付額は月に二十六万五千六百円も減ります。居住費・食費の全額負担は、いくらかの収入がある低所得者を施設から追い出すこともねらっている、と言ったら言い過ぎでしょうか。
 実は以前から、政府は施設介護を減らして在宅介護に変えようと動いています。厚労省は二〇〇三年度に、介護業者に支払う介護報酬の改定を行い、施設サービスを平均四%引き下げ、在宅サービスを平均〇・一%引き上げました。施設よりも在宅の方がもうかるようにして、介護業者が在宅を重視するよう誘導しています。
 厚労省はさらに、特別養護老人ホームを新設する場合、認可するのは全室を個室にしたユニット型が原則だとして、相部屋型から全室個室型へ施設の移行を促進しています。相部屋から個室になれば居住費の負担が二万五千円〜四万五千円もはねあがり、低所得者にはとても耐えられません。新型に建て替えた特別養護老人ホームでは、退所者が急増しています。現在、個室は全体の二%程度ですが、厚労省は十年後には三〇%に増えると見込んでいます。
 一人一人に合った介護をするには、個室の方がベターですが、それを享受できるのは高額負担に耐えられる高所得者だけです。相部屋が減れば、低所得者は施設介護をあきらめ在宅介護に移らざるを得ません。政府のこのような政策の結果、施設介護を受けている人の割合は、二〇〇〇年四月の三四・九%から、今年二月の二三・五%へ、保険給付額の割合では、七一・八%から五三・三%へと着実に減少してきました。居住費と食費の利用者全額負担が、これを加速することは間違いありません。

予防重視型システム

 もう一つの大きな改正点は、介護予防を重視し、サービスを適正化することです。
 どういうことかと言うと、今までは、日常生活に支障のある人を「要支援」、日常生活動作に介護を要する人を症状の軽い順に「要介護1」〜「要介護5」と認定し、この区分けに応じて提供するサービスを定めてきました。今回の改正では、現在の「要支援」の全部と「要介護1」の七〜八割(認知症・精神神経疾患以外の人など)を、新しい「要支援」に区分けし直します。これまでの「訪問介護」を見直し、新「要支援」の人には、筋力向上など予防中心のサービスに転換します。
 重度にならぬよう予防を重視するというのは結構なことですが、生活機能を低下させる家事代行については原則として行わないとしていることに疑問を感じます。ホームヘルプは利用者の生活を人間らしくし、心をより豊かにするものでなければならず、肉体的な筋力向上による介護予防もその中で効果があがるのではないでしょうか。改正案がもっぱら肉体的な機能回復を重視するねらいは何でしょうか。
 今年二月、在宅への保険給付額のうち、軽度の「要支援」と「要介護1」の利用者の割合は三五・二%、金額にして八百五十九億円でした。その中で家事代行などの訪問介護サービスが大きな比重を占めています。予防を口実にして、そうしたサービスを抑制し、切り捨てる。そして、保険給付額を削減する。これが政府のねらいだと思います。

 介護保険法改正、否、改悪は小泉内閣の「改革政治」の一部であり、トヨタなど多国籍大企業の要求にそったものです。国民各層は力をあわせて、この悪政に怒りの声をあげようではありませんか。