国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年5月号

ノ・ムヒョン韓国大統領の対日政策

今、日本の進むべき道が問われている

在日韓国民主統一連合 事務総長  宋世一

 米国の世界戦略に追随し軍事大国化を歩む小泉政権。そんな中で韓国の対日政策が注目されている。在日韓国民主統一連合の宋世一事務総長に韓国の対日政策や対米関係について聞いた。文責編集部。

韓国の対日政策

 ノ・ムヒョン(盧武鉉)政権は基本的に金大中政権の政策を引き継いだ政権です。金大中政権の政策を土台にしながら、よりよいものにしていくという政策です。対日関係も同様です。
 一九六五年の韓日条約で国交が正常化されました。しかし、きちんとした謝罪と補償はありませんでしたし、必ずしも平等で対等で友好的な韓日関係ではありませんでした。原因の一つは、韓国には独裁政権が存在していましたし、日本政府がアメリカと一緒になってそれをテコ入れする構造がありました。独裁政権に反対する民衆の運動もありました。韓日は非常にぎくしゃくとした関係が続いてきました。
 転機となったのは、九五年八月の村山首相による「村山談話」です。日本の首相としては最大限の幅で反省と謝罪をした。この村山談話を受けて九八年、金大中大統領と小渕首相による韓日共同宣言「新しい韓日関係とパートナーシップ」が出されました。
 共同宣言で小渕首相は「村山談話」を土台に、今世紀の日韓両国関係を回顧し、日本が過去の一時期韓国国民に対し植民地支配により多大の損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対し、痛切な反省と心からのおわびを述べました。このことを、金大中大統領が真摯に受け止め、評価し、両国が過去の不幸な出来事を乗り越えて、和解と交流、友好に基づいた未来志向的な関係を発展させるために努力していこう、と合意しました。
 二〇〇三年、ノ・ムヒョン大統領が日本を訪問し、小泉首相と韓日共同宣言を発表しました。ここでも九八年に発表されたパートナーシップに沿い、韓日両国が過去の歴史を踏まえつつ、未来志向の両国関係を発展させていくと確認されました。
 九五年の村山談話、九八年の韓日共同宣言、二〇〇三年の韓日共同宣言をへて、ノ・ムヒョン大統領は「過去の問題についてはこれからは論じない」としました。ただそれは日本政府が、「村山談話」の精神に基づいて歴史問題をきちんと処理、対処していくことが前提になっています。
 ですから、歴史問題がきちんと処理されていれば、今回の問題は起こりませんでした。独島(竹島)の領有権問題、わい曲歴史教科書の問題、首相の靖国神社参拝問題など、過去の反省と謝罪を踏みにじる一連の動き。さらに日本の「戦争のできる国づくり」、憲法改悪問題も含めて日本の軍国主義化が急速に進んでいます。日本側の一方的な言動によって両国間の合意が棄損されたので、是正するために、一連の発言と新しい対日政策、いわゆる対日新ドクトリンを発表したということだと思います。
 過去の侵略戦争を美化することは歴史のわい曲です。より問題なのは歴史のわい曲が、教科書を通じて子どもたちの若い世代に再生産されることです。未来を担う若い世代が、歴史の事実を知らず、誤った歴史教育を受けて育つことは深刻です。仲良くしましょうと握手されても、韓国や朝鮮の側からすると、足を踏まれているわけですから。
 中国の首相が反日デモに関連して「歴史を尊重して責任を負う国だけがアジア、世界における信頼を勝ち取り、国際社会でさらに大きな役割を果たすことができる」と発言をしています。その通りだと思います。
 中国は子々孫々の日中平和のために賠償を放棄した。韓国の場合も同じだと思います。日本が自ら、過去を謝罪し反省すると約束したので、韓国も中国も未来志向で友好関係をめざした。歴史問題をはじめ日本がアジアの一員として信頼される行動をするかどうかが問われています。
 日本の軍事大国化の動きをアメリカが後押ししています。例えば、ライス国務長官が三月の中旬に韓国を訪問したときに、ライス国務長官は、日本の国連安保理事国入りへの支持を韓国に訴えました。アメリカは国連を都合のよい形で改革するために、軍事戦略とからめて、日本の常任理事国入りの後押しをしています。

米国の戦略と韓米関係

 いま米国は世界的に米軍再編(トランスフォーメーション)を行っています。日本をアジア太平洋地域の基軸、ハブにしていく戦略だと思います。その下に駐韓米軍を位置づけて動けるようにしていく。量の問題ではなくて質的な体制を整えていく。アメリカ政府が脅威が存在すると認めれば、核兵器を含む武力で単独でも先制攻撃をためらわない。いわゆるブッシュドクトリン、先制攻撃戦略です。それを朝鮮半島でも適用するために米軍を再編する。無駄は削り、機動性を高める。
 ブッシュドクトリンの戦略に基づいて、朝鮮半島における米軍の再編が考えられています。その象徴が、三十八度線に張り付いている米軍を統廃合して後方に後退させることです。なぜ米軍を後退させるか、先制攻撃後の反撃による被害を少なくするためです。しかし、韓国軍は三十八度線に残す。韓国政府に対する脅しでもあります。兵力を削減することで、駐韓米軍に反対する人たちに、一種の混乱を引き起こそうとしている面もあると思います。
 そういう中で、韓国政府はどう考えいているのか。一つは、韓米同盟は維持する。もう一つは、北東アジアで平和と安定を築く。そのために韓国や日本は中心的な役割を果たすべきだと考えています。もう一つは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対しては、敵対政策ではなくて包容政策で、和解と交流、協力を進めながら、いずれは統一へと進んでいく。北の核問題は刺激するのではなく包容政策の中で解決していく。この三つの柱があると思います。
 韓米関係については韓米同盟を維持するが、今までのような垂直型ではなく、水平型つまり平等な同盟関係にしていく。そのためには韓国自身も自主国防を強化していく。協力的自主国防と呼ばれています。
 しかし、アメリカは対等な関係を認めようとはしていません。アメリカは日本や韓国に対して同盟国といいながら、アメリカの国益に沿うよう圧力を加える。韓米間で様々なあつれきが出ています。
 例えば、朝鮮半島有事時の韓米作戦立案をめぐり、その立案作業が中断しています。韓米連合軍司令部による北朝鮮内部の突発事態に対処するための作戦計画「五〇二九―〇五」を作成する作業を、韓国側が「韓国の主権に重大な制約が加わる」と反発し中断しました。韓国側は、この計画が北朝鮮内部の「異変」の段階から「戦時」とみなし、米側主導で作戦がすすむことに反対しています。平時は韓国側が持つ韓国軍の指揮権は、戦時には在韓米軍司令官が兼務する韓米連合司令官に移る。指揮権は米軍が握り韓国がそこに巻き込まれ、第二の朝鮮戦争になる。したがって、韓国政府はそういう作戦計画についての議論をストップしました。
 もう一つは、米軍再編に伴って韓国政府が、いわゆる日本でいう「思いやり予算」(駐韓米軍経費)の削減を決定したことをアメリカ側は快く思っていません。削減するなら米軍基地で働いている韓国人労働者一千人を解雇すると通告してきた。これに対して韓国政府も国民も反発しています。
 また、ノ・ムヒョン大統領は、韓国政府の同意なしに駐韓米軍が他国に出動することがあってはならないとくぎをさしています。
 アメリカは、現在のノ・ムヒョン政権に対して警戒心をもっているでしょう。背景は、北朝鮮に対する包容政策、融和政策です。南北が仲良くなって北の脅威がなくなり、駐韓米軍の存在理由がなくなることを非常に警戒しています。ですから、駐韓米軍が駐屯し続けられる状況を懸命に作り出そうとしています。
 それに対して、韓米同盟を維持しながらも協力的自主国防をめざし、北に対して包容政策・融和政策をとるノ・ムヒョン政権が、こうしたアメリカとのギャップをどのように理解して、具体的にどう解決しようとしているのか。これは非常に緊張した関係ですから、簡単に解決される問題ではありません。アメリカからノ・ムヒョン政権が圧力をかけられることも起こってくる。やはり、国民の世論を背景に、南北の和解と交流と協力の進展を示しながら、アメリカに迫っていく必要があります。また協力的な自主国防を作っていくとしていますが、この駐韓米軍の問題をどう解決していくのか、今後の大きな課題だと思います。

駐韓米軍撤退をめざして

 二〇〇〇年六月の南北首脳会談の際に、六・一五共同宣言が出て以降、南北の和解と交流、協力が進んでいます。北の脅威に備えてきたとする駐韓米軍が、いつまで必要なのか。実際に様々なあつれきを起こしているし、韓国の主権も侵害する、あるいは労働者の生活を無視する。そういう駐韓米軍は必要ないという世論をもっと大きくしながら、駐韓米軍を撤退させていくことがこれからの課題だと思います。
 三月に、より幅広い統一運動をめざして、南北海外が集まり、六・一五共同宣言実践のための南北海外共同行事準備委員会(六・一五共同委員会)を結成しました。今年の六月十五日や八月十五日の光復節に、南北、海外、三者合同での統一行事を計画しています。
 また六・一五共同委員会は四月五日、日本の歪曲歴史教科書が検定を通過した日に、「歪曲歴史教科書の検定通過に対して抗議する」という声明を出しました。南北、海外で作った統一運動団体が直接的な統一問題でなくても、民族の権利を侵害する問題や過去の歴史問題に関して、私たちの声をきちんと伝えようという動きが出てきたのは、今までとは違う変化だと思います。
 さらに六・一五共同委員会として、駐韓米軍の問題にも関心を寄せていく必要があると思います。朝鮮半島の平和と統一を考えたときに、南北、海外が団結して統一を実現していく必要があります。そして統一の阻害要因である駐韓米軍を撤退させていくことが大きな課題として浮上します。単に反基地闘争という次元ではなくて、朝鮮半島の平和と統一に結びついた、全民族的な課題になってきていると思います。
    (文責編集部)

在日韓国民主統一連合(韓統連) 朴正煕独裁政権時代、独裁に反対し民主化闘争を展開し、南北統一を進めようという運動が韓国内外で起った。その当時のリーダーの金大中氏が、海外から独裁政権を包囲して反独裁民主化闘争を勝利へと導こうと呼びかけ、七三年八月に日本で韓国民主回復統一促進国民会議日本本部(韓民統)が結成された。結成直前に、金大中氏が東京からKCIAによって韓国に拉致される事件が起こり、韓民統は金大中氏の救出運動に取り組んだ。韓民統は八九年に、自主・民主・統一をかかげる在日韓国民主統一連合(韓統連)に組織改編された。韓国の民主主義の発展、南北の自主的平和統一、さらに在日同胞の様々な民族的民主的権利を擁護していくことを課題として運動を展開。歴代の独裁政権から敵対視され、国家保安法上、反国家団体とされてにながく韓国に入国できなかった。しかし、民主化が進み、金大中そして盧武鉉政権の登場で、二〇〇四年と二〇〇五年には韓国に入国し、実質的な名誉回復をなしとげた。