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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2005年3月号
2プラス2
「不安定の弧」戦略に基づく米軍再編問題について、日米両国の協議が本格的になった。抑止力の維持と基地負担の軽減をくりかえす日本に対して、アメリカは個別案件の前に日米の戦略を一致させるべきだと主張した。こうして、二月十九日、日米両国の外交防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)がワシントンで開かれた。2プラス2は日米軍事協力と在日米軍再編の基本となる共通戦略目標で合意し、共同声明を発表した。
共同声明には、国際テロや大量破壊兵器の拡散とともに、朝鮮の核問題、中国の台湾海峡問題と軍事力近代化が、日米両国の安全を脅かす脅威として、共通戦略の対象に明記された。中国が日米安保の対象として、安保関係文書に明記されたのは初めてのことである。これは、米国が中国の内政である台湾海峡問題で武力介入に踏み切れば、日本の自衛隊も米軍と一体化して、武力介入に参加することを意味する。
中国は即座に「日米の安全保障協力の範囲に台湾を含めることは、中国の主権への侵害であり内政干渉だ。断固反対する」と激しく反発した。
米欧のメディアも敏感だ。読売新聞によると、米欧の主要メディアは次のように報じている。
米ワシントン・ポスト紙―「日本は中国の急速な力の伸長に対決姿勢を強めることを表明した」。
英フィナンシャル・タイムズ紙―「日本は台湾(海峡を巡る問題)が安全保障上の懸念であるという米国の立場に初めて加わる」。
米CNNテレビ―「台湾海峡への日本の関与で、平和的国家から変化しようとしている」。
CNNはさらに、「自前の核兵器を蓄える必要があると日本が考えるようになるのは、そう遠い先の話ではない」と、米国のアジア研究家の発言を紹介した。
日本はアメリカの戦略にとりこまれ、再びアジアと戦火を交えることになりかねない道に踏み込んだ。
共通戦略には、「地域メカニズムの開放性」も明記された。アメリカの影響力が及ばぬ自主的な東アジア共同体は許さない、ということだ。
アーミテージ発言
二月二十五日、読売新聞が東京で開いた講演会で、アーミテージ前米国務副長官は、もっとあからさまに述べている。
「中国が友人とは限らない」。「中国はアジアの覇権をめざしている」。「会場のみなさんの中に、中国の台頭を快く思わない人がいることも知っている」。「中国は米国抜きのアジアの枠組みづくりに精を出している」。「中国は台湾に前向きな何かを持っているのか。脅しと攻撃以外の展望を示していないではないか」。
アーミテージは、このように中国への敵意をあおり、日米が連合して対処すべきだと主張した。
小泉首相の靖国参拝問題、李登輝の訪日受け入れ、対中国ODAの削減、海底ガス田問題、尖閣諸島問題で、日中関係は冷え切っている。日朝関係はそれ以上に深刻だ。日本は歴史問題を忘れ去り、マスコミも国会の与野党も、もっぱら拉致問題で朝鮮制裁論一色になった。同じ朝鮮民族として朝鮮と歴史を共有する韓国では反日感情が高まり、ノムヒョン大統領は日本の植民地支配を問う演説を行った。一衣帯水にあるアジアの近隣諸国との関係は、最悪の状況にある。アーミテージ発言は、火に油をそそいで、日中の分断をはかり、日本を中国と戦わせようとしている。さらに中国とインドを分断する意図もうかがわれる。
不安定の弧
二〇〇一年九月三十日、米国防総省は、四年ごとの国防戦略見直し報告(QDR)を発表した。直前の九月十一日に同時多発テロが起こり、そのあおりで急きょ書き換えられたが、ブッシュの大統領就任以来進められてきたその骨格は変わらない。このQDRで、中東からインド、ASEAN諸国を経て、中国、朝鮮半島、日本にいたる弧状の広大な地域は「不安定の弧」と名づけられた。
アメリカに挑戦する力を持つ勢力の登場を阻止し、唯一の超大国、世界覇権国の地位を将来にわたって維持する。これがアメリカの戦略であり、冷戦時代の戦略から不安定の弧を最重視する戦略に転換した。
冷戦の終結、ソ連の崩壊で、「アメリカは、有史以来はじめて、ほんとうの意味で世界全体を勢力圏とする大国になった」(ブレジンスキー)が、早くもアメリカに匹敵する経済規模を持つEUが登場し、ユーロがドルを浸食し始めた。そのEUに、アメリカに次ぐ核大国ロシアが急速に接近している。アジアでは世界最大の人口を擁する中国やインドが急速に経済成長し、将来の挑戦者としての姿を現してきた。CIAは、中国のGDPが二〇一六年に日本を追い越し、二〇四一年にアメリカに追いつくと予測している。
他方で、アメリカは自国製品の輸出によって輸入の代金を賄うことができないほどに競争力が衰退した。経常収支の赤字は年々拡大し、二〇〇一年に四〇〇〇億ドルを超え、二〇〇四年は六〇〇〇億ドルを超える。ドル暴落は避けがたい。
アメリカの国家安全保障会議ヨーロッパ部長も務めた気鋭の国際政治学者チャールズ・カプチャンは、『アメリカ時代の終わり』(二〇〇三年)で述べている。「アメリカの優位は、ヨーロッパと、究極的にはアジアの勃興で衰退していくだろう」。「重大な脅威は、オサマ・ビンラディンのような者たちからではなく、伝統的な地政学的対立の復活から生じるのである」。
このような戦略環境のもとでブッシュ政権が採用したのが「不安定の弧」戦略である。国際テロや大量破壊兵器拡散の脅威は目くらましで、この戦略の主要な対象はEU、そして中国である。世界の原油埋蔵量の五四%を占める中東を支配することによって、EUの生命線を抑える。台頭する中国に対しては、台湾海峡問題への武力干渉も含めて軍事力で抑える。そのために、日本とアジア諸国を分断し、日本の経済力と自衛隊の軍事力を最大限に利用する。
だが、アメリカの衰退を軍事力で挽回しようとするこの戦略は成功しないだろう。現に、ありもしない大量破壊兵器を口実に、中東の石油を支配しようとしたイラク戦争は、敵対的な米欧対立の引き金となり、逆にアメリカをいっそうの苦況に追い込んだではないか。
アジア不再戦
小泉内閣は昨年十二月、2プラス2に先立ち、トヨタなど財界が主導する安保防衛懇談会の報告をもとに、新防衛大綱を閣議決定した。新防衛大綱は「中東から東アジアに至る地域の安定は極めて重要である」とうたい、アメリカの「不安定の弧」戦略に日本をあわせた。さらに、海外に展開する多国籍企業の要求にそって、在外邦人・企業の安全を守るため、自衛隊の海外活動に「(米国に従うだけでなく)主体的かつ積極的に取り組む必要がある」とうたった。防衛の重点を本土防衛から海外派兵へ移したのである。そして、2プラス2で、アメリカの戦略に従い、朝鮮、中国を日本の安全をおびやかす脅威と明記した。
アジアの近隣諸国に敵対し、憎悪や非難の声を投げつけ、制裁を声高に唱え、自衛隊を米軍と一体化させて戦にそなえる。これは日本とアジアの諸国民に塗炭の苦しみをもたらす亡国の道である。
再びアジアの諸国民と戦ってはならない。沖縄、神奈川では米軍再編に反対して、基地撤去を求める地域ぐるみの闘いが始まっている。全国の人々が亡国の道に反対し、韓国、朝鮮、中国の諸国民と声を交わし、手をつなぎ、共にアジア不再戦の声をあげなければならない。戦争に反対し平和を擁護する世論を巻き起こさなければならない。