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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年12月

「高橋史朗氏の埼玉県教育委員への任命
阻止ネットワーク」を担って

「市民じゃ〜なる」発行人 長内経男


 上田知事が当選したのは、土屋義彦前知事の辞職に伴う昨年8月の出直し選挙でした。前知事が辞職したのは、政治資金を管理している長女が、政治献金を私的に流用し、自分の借金の返済などに充てたから。長女は、政治資金規正法違反で起訴され、前知事は起訴猶予された。この事件は県民に、県政が政治家の懐を暖めるために行われているとの印象を与えた。そのため知事選では、県政の公平化、透明化が争点となり、上田氏は出馬にあたって「県取引企業から献金は受け取らず、政治のしがらみを一掃したい」とアピールし、利益誘導や県政の私物化に嫌気がさした多くの県民の支持を得て、圧倒的な得票で当選したのでした。

 そこに年末の12月6日、朝日新聞の夕刊において、開催中の12月県議会の最終日(12月20日)に上田埼玉県知事が「新しい歴史教科書をつくる会」の前副会長の高橋史朗氏を、県教育委員に任命を提案しようとしていることことが報道されました。この報道で、県内の直接利害関係のある4教組のみならず、「教育基本法改悪をゆるさない12・12埼玉のつどい」を準備していた同実行委員会をはじめ、男女共同参画推進のネットワーク関係者から、自治体の公正・公明をもとめる市民オンブズマン的な関心から上田氏を知事に押し上げた本来の支持層にあたる人々まで、広範な憤激を呼び起こしました。その理由は、高橋史朗氏が11月まで「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長という要職にあり、かつ同会メンバーが執筆した扶桑社の『新しい歴史教科書』の監修を務めていたキャリアに象徴されるように、教育基本法・憲法攻撃から、性教育・ジェンダーフリー」バッシングまで、反動性を剥き出しにした氏本人の言論と行為の餌食にされた人々がいかに多かったかの証明でもありました。さらに、就任からたった1年過ぎただけなのに、上田知事は、こともあろうに教育の場に新しい「しがらみ」を持ち込ち込んだことへの県民からの反発、批判でもあったとおもいます。

 これまでの教育行政を規定した法律や規則には次のように書いてあります。「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地教行法)第13条第5項の規定に「教育委員会の委員は、自己、配偶者若しくは三親等以内の親族の一身上に関する事件または自己若しくはこれらの者の従事する義務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない」とあり、また、埼玉県教育長から「教科用図書採択の公正確保について」〔教指第827号教育長〕という通知が出されていて、「教科用図書の編著作者ないし編著作に関与した者、又は発行者に関係、縁故のある者は、教科用図書の選定、採択に関与したり、その指導を行ったりしてはならないこと」とあります。
 このことを上田知事が知らないはずはないにもかかわらず、昨年9月30日の県議会で「これまでの歴史教科書は、自虐的な史観でものごとがみられている」と発言し、一方で『新しい歴史教科書』を「極めて新しい試み」などと評価し、地位を利用して特定の教科書を採択させることを目的に、教育委員会人事への介入の布石を打っていたのでした。今回の人事案件の一番の問題点は、05年が中学校の教科書採択の年にあたり、それをにらんだ非常に政治的な意味をもたせた高橋史朗氏の県教育委員への任命であることが明らかな点です。教科書採択は、特定の出版社の利益に傾くことなく厳正中立に行われなくてはならないとされています。誰からみても高橋史朗氏は、特定の教科書採択を推進していた中心的人物であり、なおかつその教科書の監修者を教育委員に押込む行為は、特定の出版社の教科書を採択する方向に誘導するものであり、上田知事の地位を利用した特定業者への利益供与そのものである点なのです。

 だから埼玉の県民は憤激したのでです。それが具体的な行動として表われたのは、7日に埼玉教組と高教組の声明を皮切りに、9日には県庁の記者クラブにおいて様々な団体が声明、アピール、申入れ、請願などと、それぞれが全く自主的に緊急発表をしたことです。そして、同日記者発表したグループ・団体の有志および個人が緊急の相談会をもち、高橋問題の論点整理と行動メニューが検討され、12月20日までの短期の行動グループとして「高橋史朗氏の埼玉県教育委員への任命阻止ネットワーク」(略称:任命阻止ネット)が急遽結成されたことにも表われています。その具体的な行動プログラムは、(1)10日から20日までの開庁時に合わせ県庁前で抗議の座り込みを行動を柱に闘争現場を設定し、(2)各団体・グループ毎に独自の声明・申入れ・請願を出すよう呼びかける、(3)人事案件に反対する知事への緊急請願署名集める、(4)最大の山場とされる20日には、正午に浦和駅前から出発し、県庁を周回する抗議デモを企画し午後は県議会を傍聴動員を呼びかける、(5)ホームページの運営というような、当時は企画者すら「半分できたらいいね」というくらいの展望でした。しかし、12日には、「教育基本法改悪をゆるさない12・12埼玉のつどい」があらかじめ準備されていたとはいえ480名のキャパシティに600名を超える結集で弾みをつけ、さらに女性グループによる「埼玉の教育が危ない12・14集会」(約120名)、学者グループよる連帯署名の呼びかけ、16日・17日・20日と知事の特別秘書との交渉、19日には「埼玉の教育と自治を考える緊急集会」(約150名)で、20日の県庁集会デモには月曜日の昼にもかかわらず250名の結集があり、デモが終ったあとはその大半が帰ったにもかかわらず、午後の県議会傍聴には新たに200名を超える人々が集りました。年末の忙しいなか県庁前の行動を全日貫徹し、議員への働きかけ、毎日の資料やチラシづくりなど、とくに学者グループがこれらの行動のほとんど全てに連日結集し、まるで活動家のように力を出してくれたことで、当初予定をはるかに上回る活動が展開され、量的にも質的にも凝縮した闘いが湧き上がったのでした。
 高橋史朗氏の教育委員任命について埼玉県議会の結果は、自民党65、地方主権の会8、無所属2の賛成75、反対18(公明党10、民主党4、共産党4)、棄権1でした。しかし、私たちは単純な意味では負けたとは思っていません。
 上田知事の人事提案を覆すことはできませんでしたが、12月7日から20日の一連闘いを通して得られたこと方が多かったと思います。まず、教員4教組系の組合員が同じ行動に参加するなど、多様な人々(色合いの違う市民運動や労働組合の諸個人をはじめ、学者・地方議員・弁護士らの参加によってそれぞれの特性が決定的に生かされた)の文字どおり超党派の共闘の発展があったこと。その結果、人事案が通ったにもかかわらず、公明党が明確に反対に回ったように、今後とも高橋史朗委員自身が最大のウィークポイントでありつづけること、および、先に上げた地教行法や教育長の文書に対して、知事サイドが「文科省見解」なる公文書の「捏造」までして議会工作を行ったことが暴露されたことで、文科省―教育局、知事および特別秘書、県議会を襲うボディブローを作り出すことができたことです。そしてこれらの成果を生み出すことがなぜできたかというと、一連の行動に参加した者にとって、課題で一致したならば超党派の陣形をつくり、闘うことで展望が広がるということを実感し体得し確信が持てたことではないでしょうか。
 ひとまず、「任命阻止ネット」の闘いは12月20日で終わりましたが、この闘いの陣形と精神を継承し、継続する課題を引受けるため、新たな活動形態として「教育と自治埼玉ネット」(仮)を立ち上げる予定です。

「教育と自治埼玉ネット」
2月12日(土)13時30分〜 さいたま共済会館502 500円
記念講演:俵義文さん(子どもと教科書全国ネット事務局)
金子由美子さん(“人間と性”教育研究協議会研究局長)