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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年11月号
関東学院大学教授
米軍住宅増設をやめさせ基地返還と池子の森を守る会代表 安田 八十五
日米両政府は昨年七月、「横浜市内の米軍施設(根岸住宅、上瀬谷通信施設、深谷通信所、富岡倉庫)を返還する代わりに、米軍池子住宅の横浜市域(金沢区)に八百戸の住宅を建設する」ことで合意したと発表。これを受けて今年九月二十二日、中田横浜市長は、返還施設が二つ増えたことや戸数が七百戸になったことなどと、住宅増設を正式に受け入れ表明しました。しかし、このやり方には大きな問題があります。
日米地位協定違反
日米地位協定の中には「遊休施設は無条件返還」と書いてあります。返還対象の上瀬谷通信施設、深谷通信所、富岡倉庫などは遊休施設です。無条件返還すべきなのに、七百戸も住宅増設をするという日米両政府のやり方、それを丸飲みした横浜の中田市長の対応はルール違反です。明らかに日米地位協定違反です。
逗子の闘いと「三者合意」
二十年前からの逗子での闘い、その結果である一九九四年の三者合意(国、県、逗子市)にも反します。
一九八二年、防衛施設庁が米軍弾薬庫跡地(池子の森)に米軍住宅建設計画を発表。以降、逗子市では十年以上も大きな問題となりました。
池子の森は旧日本軍弾薬庫でしたが戦後、米軍が接収。ベトナム戦争当時、米軍弾薬庫として使われた後は遊休化。戦後、自治体あげての返還運動が続いていました。米軍住宅建設が表面化した時も、県、逗子市、横浜市は連名で「米軍住宅建設には反対。米軍弾薬庫は無条件返還を」と国に要求しました。
ところが、八四年に当時の三島・逗子市長が、三十三項目の条件付き受け入れを表明しました。これに対して市民の反対運動が巻き起こりました。住民投票条例をつくり、市長リコールをはじめたら三島市長は辞職。是非を問う八四年十一月の市長選挙で、建設反対の富野氏が三島氏に勝利しました。さらに市議会リコールも成立、市議選挙で建設反対派の議員が増えて、賛成派と反対派が同数になりました。
八七年、当時の長洲県知事が、調停案を提示、富野市長は「持ち帰り市民と相談したい」と回答。逗子市民は調停案に反発、市民投票で問うべきと市民投票条例を市議会に提出しましたが、市議会は否決。この頃、防衛施設庁は米軍住宅の工事を開始しました。富野市長は市民の信を問うと辞職、「調停案返上」を公約に再選されました。富野さんは二期で辞職、九二年十一月の市長選で市民運動は沢光代さんを当選させました。
逗子市は保守的なところですが、八四年以降、「米軍住宅建設に反対」という民意が多数でした。しかし、住宅建設工事が進み、現実は無視できなくなりました。沢市長は苦渋の選択として、住宅は平地に集中・高層化し貴重な自然にはできるだけ手をつけない、追加建設はしないことなどの条件を出しました。そして国、県、逗子市の間で九四年に「三者合意」が成立。九八年に八百五十四戸の米軍住宅が完成しました。
県と横浜市は「三者合意」違反
昨年七月の日米両政府の合意以降の松沢知事と中田市長の対応は問題です。国や松沢知事などは、九四年の「『追加建設はしない』という三者合意に横浜市域は含まれていない」といっていますが間違いです。池子米軍施設は、逗子市と横浜市を合わせて二百九十ヘクタール(逗子市が二百五十三ヘクタール、横浜市が三十七ヘクタール)です。三者合意には、二百九十ヘクタールが明記され、「追加建設はしない」となっています。長島逗子市長が「住宅増設は、三者合意に違反する」と提訴しましたが勝訴すると思います。
また「横浜市は三者合意の当事者ではない」という見解も間違いです。米軍池子弾薬庫は逗子市と横浜市にまたがっており、交渉の当初には横浜市も入っていました。県が環境アセスメントを行ったときに横浜市も意見書を提出しています。ところが、防衛施設庁から「横浜市域は山岳地域だから住宅建設にふさわしくない」との文書が出たため、横浜市は自ら交渉からおりてしまいました。将来建設される可能性があるわけで、当時の横浜市の判断ミスです。
三者合意は長洲知事でしたが、行政の継続性を考えたら知事が代わっても守らなければなりません。もし、否定するのであれば、三者で相談して「三者合意に横浜市域は入っていない。横浜市は当事者ではない」とすべきなのにやっていません。
知事や中田市長には、自然環境を守る哲学も欠けています。池子の森は首都圏に残された貴重な原生林であり、自然の宝庫です。高等植物は七百三十六種、鳥類は天然記念物のオジロワシや希少種のオオタカ、ハヤブサなど百九種、昆虫は八百八種も生息しています。一部でも自然が破壊されると生態系が崩れてしまいます。ですから池子の森をワンセットで残す必要があります。
地元住民の大多数が反対
八月四日に中田横浜市長は、防衛施設庁に対して逆提案を提出。住宅建設戸数の削減などを求める内容で、基本的には日米合意を受け入れるものです。これに対して防衛施設庁は「建設戸数を八百戸から七百戸に削減する」と筋書き通りの回答。
中田市長は金沢区の区民協議会(連合町内会長の集まり)に意見を聞きました。「市長に一任」と一部に報道され、中田市長は受け入れの根拠にしました。しかし、区民協議会は反対意見もあり、「一任」とは言っていません。中田市長は、これほど重要な問題にも関わらず、地元住民への説明会も、住民アンケートも一切やっていません。
そこで私たちは九月下旬、米軍池子地区に隣接する金沢区の千五百世帯を対象に住民アンケートを行いました。ポストに配布し後日回収する方法で、八百五十人から回収、回収率五六・七%でした。
「『池子の森に米軍住宅を追加建設する』という日米両政府の合意についてどう考えますか」の質問に、賛成六・九%、反対八二・六%。
また「九月二日に『新たに三カ所を返還対象とし、追加建設戸数を八百戸から七百戸に減らす』と日米が合意しました。百戸減らしても池子の森は壊されます。合意をどう考えますか」の質問に、賛成五・四%(四十一人)、反対七六・八%(六百二十六人)でした。
地元住民の大多数は、増設反対であることがはっきりしました。
もっと問題なのは、池子米軍住宅について行政が住民に知らせていないことです。「池子の森に『米軍池子住宅』の横浜市域があることをご存知でしたか」の質問に、「知っていた」と答えた人のうち、「新聞記事で知った」が六七・五%。「市役所や町内会などのたより」がわずか七・六%。つまり、横浜市は市民にまったく情報を伝えていません。
中田市長は「情報公開」「市民参加」を選挙公約に当選しました。しかし実際は、まったく地元住民の意見を聞かず、「増設受け入れ」を表明しました。私たちはアンケートをもとに「住民の意向に沿って追加建設に反対し、受け入れ表明の撤回を」と横浜市に求めています。
老朽化した根岸住宅(四百戸)の建て替えではなく、なぜ池子に増設なのか。横須賀の原子力空母母港化の動きと連動しています。原子力空母になると、原子力技術者が必要になり秘密事項が増える、乗組員も増える。核兵器も搭載する。さらに横須賀と池子は六キロで近い。原子力空母母港化を見込んだ増設です。
もし横須賀で原子炉事故が起これば首都圏を巻き込む大惨事になります。横須賀では市民団体などが十万人以上の署名を集めるなどして、横須賀市長に「原子力空母の母港化は断る」と発言させています。原子力空母母港化に反対する運動は重要です。逗子や横須賀などの運動と連携しながら横浜市に「受け入れ撤回」を求めて市民運動を発展させたいと思っています。 (談・文責編集部)