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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年11月号
月刊『日本の進路』編集長 川崎正
小泉内閣が誕生して三年半が経過しました。「聖域なき構造改革」「改革なくして経済回復なし」と繰り返してきた小泉首相。誰のため何のための「改革」か、誰の目にも明らかになってきました。
年金・雇用保険・生活保護費など社会保障費削減、市町村合併や「三位一体改革」という地方交付税や補助金の大幅削減、公共部門の民営化や規制緩和などの「改革」は国民大多数と地方に耐えがたい犠牲を押しつけています。
小泉内閣の税制改革
税制面でも年金控除、老年者控除、配偶者特別控除の縮小・廃止によって低所得者の所得税・住民税を増税しました。さらに来年度の税制をめぐって、いま定率減税の縮小・廃止など増税が議論となっています。
小泉首相は九月十八日の衆院予算委員会で、基礎年金の国庫負担を二〇〇九年度までに現行の三分の一から二分の一に引き上げる際の財源について、「二年の間に消費税を引き上げる環境にはない。(所得税の)定率減税を段階的に縮小していくのも一つの選択肢だ」と発言。
首相の諮問機関である政府税制調査会(政府税調)は、二十一日に総会を開き来年度税制改正に向けた議論を始めた。十一月下旬に答申が首相に出される。石弘光会長は総会後の記者会見で私見としながらも、定率減税の縮小・廃止は「現実的には半分ずつになる」と二年かけて廃止する考えを述べました。また消費税率引き上げについて、首相が任期を終える〇六年九月から「理論的には導入(引き上げ)可能」とみて、消費税率の引き上げ論議を本格化させる方針も明らかにしました。
小泉内閣で歳出削減による負担増を徹底してやりきり、〇六年九月以降はいつでも消費税の大幅引き上げを実行しようという計画です。
定率減税廃止という名の増税
廃止が検討されている定率減税が導入されたのは一九九九年。バブル崩壊後の長期不況に加え、消費税増税や医療改悪など橋本内閣による九兆円の国民負担増がいっそう景気を悪化させ、橋本首相は選挙で大敗し辞職。九八年に誕生した小渕内閣は、大盤振る舞いの景気対策を行い財政赤字を急速に拡大させました。税制面では、所得税の最高税率の引き下げや法人税の税率引き下げなどを実行しました。高額所得者・大企業優遇との批判をかわすため導入されたのが定率減税です。
減税額は、所得税額の二〇%(最大二十五万円)、個人住民税額の一五%(同四万円)を合わせて最大二十九万円。定率減税の縮小・廃止とはつまり増税です。
一方、同じく「恒久的減税」として実施された所得税の最高税率の引き下げ(高額所得者の減税)や法人税の税率引き下げ(大企業への減税)にはそのままです。
国がやるべき政治
本来、国がやるべき政治は、税制では高額所得者・大企業により多く負担させることによって、所得格差をできるだけ是正し、国民が等しく人間らしく暮らせることを保障することです。
ところが、この十年以上の税制改革は逆の流れが進みました。「簡素化、フラット化」を合言葉に累進課税(所得が高いほど税率が高い)の緩和など高額所得者や大企業へ減税を繰り返してきました。あわせて小泉「改革」政治が進みました。
賃下げや失業にさらされる労働者、空洞化した地方経済は「三位一体」による補助金や交付税削減でさらに疲弊、加えて規制緩和による大型店出店で廃業の危機にある中小商業者、米価下落や自由化の中で離農が進む農業者…。さらに加えて、年金・医療など社会保障削減による負担増。多くの国民が「改革」の痛みを押しつけられ苦しんでいます。
他方、トヨタは四〜九月期の純利益が五八四〇億円(売上約九兆円)と史上最高を記録した昨年度を更新するなど、多国籍化した大企業だけが「改革」の恩恵を受けています。
労働分野での規制緩和と企業の合理化によって雇用労働者の中での非正社員(パートや派遣社員など)のは四年前の二八%から三八%に急増しています。この非正社員の四割が月収十万円未満、八割が月収二十万円未満です。世帯別の所得で見ると、三百万円未満が二八・九%と約三割を占める一方で、一千万円〜二千万円が一三・六%、二千万円以上が一・四%います。上位二五%の世帯の所得合計が全世帯の七五%の所得を占めるまで、所得格差は急速に拡大し、先進国では米英に次ぐ格差社会となっています。
「富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧しく」、これが小泉「改革」の一つの結果です。
財界の求める税制改革
小泉「税制改革」は、多国籍化した大企業・財界の要求に沿ったものです。
日本経団連(会長はトヨタの奥田会長)は、毎年「税制改正に関する提言」を発表しています。今年も九月二十一日に「平成十七年度税制改正に関する提言」を発表しました。
そのポイントは、「消費税と個人所得税を国税の基本にする」、「増加する社会保障費は、消費税を段階的に引き上げでまかなう」、「法人課税は、企業の国際競争力を強化するため、国税へ集約し、法人実効税率を引下げる」というものです。
具体的に財界が求める減税を列挙すると、(1)法人実効税率の五%程度の引下げ、(2)法人住民税・法人事業税の縮減(地方税は住民にもっと課税し、企業への税金は削減せよ)、(3)個人所得課税の抜本的見直し(累進税率の緩和)、(4)受取配当益金不算入制度の見直し(企業が受け取る配当は非課税に)、(5)人材投資促進税制の創設(人材育成は企業の責任なのに税金を控除せよ)、(6)特別法人税の廃止、(7)法定外税の見直し(地方自治体が独自に条例で定める税は企業に課税するな)、(8)環境税は断固反対、などです。
一方、財界が要求している増税は(1)定率減税の縮減・廃止、(2)年金財源のため消費税の引き上げ、(3)個人住民税の見直し(地方自治体の財源は個人住民税と消費税で運営せよ)、(4)配偶者控除・扶養控除それぞれの老人加算については縮減・廃止、などです。
これまで以上に、大企業や高額所得者には減税を、国民の多くを占める低所得者には増税をせよというあからさまな要求です。とくに消費税増税は低所得者ほど負担が重い逆進性がある一方、輸出をする大企業には戻し税(輸出する時、消費税相当額が還付される)があります。
一握りのための税制に反対
自民党や公明党、そして民主党も「膨大な財政赤字があるから国民の負担増は避けられない」「年金などを維持するには消費税大幅引き上げしか道はない」という。この見解は国民大多数ではなく、大企業や高額所得者の立場に立った見解です。
そもそも膨大な財政赤字の原因は大企業の公共事業、米国の要求(十年間で四百三十兆円の公共事業)などが主たる原因です。また、この間の大企業や高額所得者への度重なる減税が税収減の原因です。
「改革」によって労働者、農民、中小商工業者など国民各層は耐えがたい営業苦・生活苦に直面しています。他方、トヨタなどは史上最高の利益を手にしています。大企業や高額所得者にもっと負担をさせて必要な財源を確保すべきです。
一握りの大企業のための小泉「改革」に不満が高まっています。とくに地方交付税や補助金の大幅削減など地方へのしわ寄せに対する不満が各地で高まっています。税制では、国民各層が連合して、小泉内閣の定率減税廃止(増税)、消費税増税など低所得者への増税に断固反対する運動を発展させよう。