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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年10月号
日本郵政公社労働組合(JPU)委員長 菰田義憲
小泉首相は九月十日、「郵政民営化の基本方針」を強引に閣議決定した。首相が構造改革の本丸と位置づける「郵政民営化」が国民大多数の利益になるのか、誰のため何のための民営化か。日本郵政公社労働組合(旧全逓)の菰田委員長にお話を聞いた。
三事業一体、全国ネットの公社
郵政をめぐっては昔から大蔵省と郵政省の「郵貯戦争」という争いがありました。大蔵省は郵政のお金を握りたい、郵政省はそれを拒否するという争いです。
そういう流れの中で、一九九六年の橋本行革で、郵政事業の民営化議論が大きな山場を迎えました。九七年九月の行革会議で「簡易保険民営化」「郵便貯金は民営化の準備」「郵便はワンストップサービスを前提に当面は国営」という三事業バラバラの解体案が出ました。これに対して約三千二百地方自治体のうち約三千百の自治体で「反対決議」を採択するなど、全国で反対の大運動を展開しました。
そして九七年十二月三日に最終的に、「三事業一体、全国ネットワークという国営の公社」「公益性に企業性を取り入れた国営の公社」という基本的な方向が決まりました。それに基づいて、様々な法律が審議されましたが、法律提案者は小泉首相です。そして二〇〇三年四月一日から現行の国営の日本郵政公社としてスタートしました。公社として四年ごとに目標を立て総括する仕組みになっています。
「民営化ありき」の小泉首相
ところがスタートして一年数カ月しかたっていないのに、ことあるごとに小泉首相は「郵政民営化」を主張しています。「郵政民営化をかかげて総裁に選ばれたのだから自民党の方針だ」と語る。首相の彼が郵政民営化といえば、政府方針となる。しかし、なぜ民営化が必要なのか国民には説明すらされていません。
この独善的なやり方は絶対に許すことはできない、というのが労働組合としての基本的な立場です。とりわけ、「民営化ありき」という議論は、「三事業一体、全国ネットの国営の公社」という方向で、すでに決着済みのはずです。仮に公社方式が原因で金融危機や国民生活が大混乱になるとか、もっと別の方法が国民生活にとって利便性が高まるとか、大きな選択テーマがあれば議論すべきだと思います。それとは関係のない「民営化ありき」の議論は断じて許すわけにはいきません。
しかも、当事者である労働組合と話し合う姿勢がない。だからわれわれは「公開質問状」を出しましたが、回答すらありません。
九月十日に閣議決定された基本方針を見ても、「民営化ありき」が最優先された内容です。当初は、雇用の配慮、利便性の配慮など五つの原則が言われていましたが、基本方針では雇用も利便性もまったく配慮されていません。
率直にいえば、郵便貯金や簡易保険の資金を民間に流すという「竹中イズム」、あるいはマネーゲームをやっている人たちだけの理屈が貫かれています。
閣議決定された基本方針によると、「持株会社」「窓口ネットワーク会社」「郵便会社」「保険会社」「貯金会社」の五つに分けて民営化。「貯金会社」と「保険会社」は十年以内に持っている株を全部売却しなさい。「窓口会社」と「郵便会社」は十年後は三分の一は政府が株を保有する。という内容です。
郵政は三事業一体であり、現場の仕事の面から見ても分断できません。われわれからすると閣議決定された基本方針の内容は想像できません。国会審議になれば混乱すると思います。
民営化は国民生活にマイナス
小泉首相は「民間でできるものは民間で」を民営化の根拠としています。しかし、民間企業は「利益」を追求するものであり、郵政公社は「公共性と企業性」の両立を求めて運営されています。公共性とは、利益を期待できない分野であっても国民生活を守るためのもので、利益が減少しても果たすべき役割です。
郵政公社は、民間の店舗が手薄な過疎地や住宅地にも郵便局を置き、郵便、貯金、簡易保険のサービスを提供しています。現在、特定郵便局も含めて全国の郵便局は、二万四千七百〜二万四千八百あります。ほぼ小学校と同じ数です。
意外に知られていないようですが、三事業(郵便、郵便貯金、簡易保険)はそれぞれ独立採算でやっています。税金の投入もありません。貯金も貯金の運用で益を出す。保険も同様です。郵便も郵便量の多い都市部で利益を出して過疎地など地方も含めてバランスをとる仕組みになっています。ですから、貯金や保険から郵便への補てんもありません。全国規模の運営を行うことや三事業一体による経費の節約などで独立採算が保たれています。利用する側からみても、郵便局に行けば郵便も、貯金も、簡易保険も一カ所で済むという利便性があります。
労働組合として根本的に気になっているのは、全国どこでも、誰でも、一律のサービスが利用できるユニバーサル・サービスの問題です。それは郵便であり、貯金であり、保険です。もし「民営化」されれば、地域間で料金に格差が生まれるなどユニバーサル・サービスが寸断されてしまいます。
「郵便貯金と簡易保険は民営でいいのではないか」という意見があります。しかし、それは大きな間違いです。郵貯は一千万円という限度を決めて小口で集めています。たくさん貯金が集まるというのは銀行が頼りないからです。安心な所に集まってくるのは当たり前です。小口貯金がたくさん集まっている。この郵貯の総額が大きいからけしからん、という議論は筋違いです。郵便貯金に集まらざるを得ないような金融政策の責任が問われるべきです。
永年にわたって郵便貯金の全額が財政投融資などに使われてきましたが、これには問題があると思います。郵貯の額が大きいから問題なのではなくて、そういう使い道を決めた政治の責任です。その責任には触れないというのは問題のすり替えだと思います。
全国ネットワークの問題。例えば小さな郵便局、特定局でいうと貯金が六〇%、保険が二〇%、郵便が二〇%の割合でコスト計算をしています。もし貯金や郵便などが分社民営化されると、三人局とか二人局では成り立たなくなります。地方のとくに過疎地の郵便局は間違いなく撤退することになります。これは赤字ローカル線と同じです。事実、ドイツでは一九九五年に民営化によって郵便と郵便貯金が分離されたため、数年で郵便局は二万九千局から一万七千局に大幅に減少しました。
そうなると全国各地で、小口で、貯金や保険を利用しようとする人たちが排除されます。同時に金融の世界は、例えばアメリカでは少額(三十万円以下)で口座を持つことができない、口座手数料で排除してしまう。そういう少額口座の排除がアメリカやヨーロッパで流行しています。そうなると、わずかなお金しか貯蓄できない、わずかなお金を財布がわりとして口座をもつ人たちを排除する。つまり、過疎地の人たちや少額口座の人たちに対する金融排除が起こります。
IT時代だからインターネットや携帯電話でできるという意見もあります。全国各地で高齢者の多くが年金受給として郵便貯金を利用していますが、高齢者でインターネットを利用できる人は限られています。
そういう事態が起こることを無視して、郵政民営化、しかも郵政三事業を分割するということは国民生活に利便性どころか、大変な不便と混乱を招きます。
誰のための民営化か
先日の日米首脳会談で、小泉首相が郵政民営化についてブッシュ大統領に話しています。イラク問題や国連改革などならいざ知らず、なぜ国内問題である郵政民営化なのか。逆にいうと、郵政民営化のねらいは何かを自己暴露していると思います。金融ビッグバンを通じて、日本の金融機関がが淘汰され、旧長銀が破たんし、結局、米国資本の新生銀行となったように、日本の金融機関が米資本の支配下に組み入れられています。最近の保険のコマーシャルのほとんどが外資系とくに米国資本の保険会社です。
ねらわれているのは郵便貯金と簡易保険です。まず百十兆円をかかえる簡易保険。基本方針によると、十年間で株をすべて売却することになっています。外資規制をかけても、外資は直接ではなくワンクッションをおいて買収する手段を使うと思います。「郵便貯金」「簡易保険」の資金をねらっていることは明白です。例えば、簡易保険でいえば一兆円の資金があれば、おそらく筆頭株主になれる。簡易保険は国債運用をやっていますから、外資が国債も含めて押さえることが可能になります。郵便貯金も同様の可能性があります。
民営化とは市場原理にゆだねることです。利益が上がらなければ公共性は無視され撤退します。また市場原理によって参入した外国企業に国内企業が抗しきれず衰退していくことが世界各国で起こっています。日本の場合もその可能性が強いと思います。果たしてそれでよいのか、議論すべきだと思います。
国会議員の先生方は、小泉改革についてもう少し掘り下げた議論、国のあり方をきちんと議論すべきではないかと思います。ドイツは郵政民営化をやりましたが失敗しました。いろいろ手直しをしていますが大変です。アメリカ郵政公社は、今の日本郵政公社と同じ形態の独占です。アメリカは国策として、国際物流の中で勝負させています。しかし、日本の場合は小泉首相の「民営化ありき」だけです。アメリカから見れば一番都合のいい首相なんでしょう。
国民全体の問題
働いている職員からすれば、「民営化」には反対です。長い議論が終わってやっと郵政公社になったばかりです。郵政公社になって公共性を維持しつつ、顧客サービスに特化していくようなサービス内容を展開しようとやっています。それなのに頭ごなしに「民営化ありき」で、五つ(持株会社、窓口会社、郵便会社、貯金会社、保険会社)に分割するといわれても、どこに行くのかさえ分からず不安です。われわれの年金がどうなるのかも分からない。いいかげんにしてほしい、というのが率直な意見です。ですから職員は郵政民営化反対で一致しています。
ここ数年、民間金融機関は破たんが相次いでいます。また小泉改革の市町村合併で地方に暮らす人たちにとっては身近な公的サービスが崩れつつあります。少子高齢化が進むなかで、ますます郵便局は地域の命綱なんです。民営化されれば、間違いなく過疎地の郵便局はなくなってしまいます。小泉首相がいう「郵政民営化」が実現すれば、とくに地方は大変な事態になります。ですから「郵政民営化」問題は、郵政公社に働く二十七万人の職員だけでなく、一億二千五百万人国民の将来にかかわる大問題なんです。
小泉首相も竹中氏も、日本国民全体の利益という立場からの発想、議論ではありません。もっと、誰のため、何のための民営化なのかを国民的に議論すべきではないか。その議論のために私どもが提供できる資料は公開したい。本当に国民的な議論をやって、国民全体にとってあるべき郵政事業について決めるべきだと思います。(文責編集部)