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月刊『日本の進路』2004年10月号
月刊『日本の進路』編集長 川崎正
ブッシュ大統領は八月十六日の演説で、「欧州と韓国で今後十年間に駐留米軍を六万から七万人削減する」などの米軍再編計画(トランスフォーメーション)を発表した。
九月二十一日、小泉首相とブッシュ大統領による日米首脳会談がニューヨークで行われた。会談ではイラク問題、北朝鮮の「核開発」問題、牛海綿状脳症(BSE)発症で輸入禁止になっている米国産牛の対日輸出問題などが議論された。また、世界規模での米軍再編計画が重要な問題として議論された。小泉首相はブッシュ大統領に、米軍再編への協力を約束した。
ハイテク技術で軍事強化めざす
危険な戦争策動
米軍再編計画とは何か。昨年十一月にブッシュ大統領は世界的規模で米軍再編計画の検討に入ると表明した。その内容は、冷戦型の重厚長大な固定配備をやめ、七万人の米軍を削減する一方、ハイテク軍事技術により、スリムで迅速に展開できる能力重視型の体制にして米軍の世界的戦力を強化しようという計画である。また同盟国の役割強化を重視してすすめるという。
アジア太平洋地域では、東アジアから中東までを「不安定な孤」と位置づけて、(1)横須賀に次ぐ新たな空母戦闘群をハワイに配備し海空戦力を強化、(2)展開能力をもつ特殊部隊の増設、(3)緊急時対応の複数のアクセスの確保をめざすとしている。
日本については、五月以降様々な提案が出されている。報道を総合すると、(1)米陸軍第一軍団司令部(米国ワシントン州)をキャンプ座間(神奈川)に移転、(2)横田基地(東京)の第五空軍司令部とグアムの第十三空軍司令部の統合のほか、在沖海兵隊の一部をキャンプ冨士(静岡)やキャンプ座間(神奈川)への移転、岩国(山口)への夜間離発着訓練(NLP)の移転などが提案されている。普天間基地(沖縄)の移設先として日本政府が進めている名護市辺野古のほかに嘉手納基地への統合案、さらに南西諸島の下地島空港案が検討されている。
米国の短期的関心は北朝鮮やイランなどであるが中長期的には経済的にも急速に台頭する中国をにらんでいる。日本の負担で最新鋭の基地に再編・強化して、東アジアから中東全域に、いつでも機動的に米軍を展開できる前線基地にしようというものである。
イラクで孤立したアメリカ
引き続き軍事力による世界支配
なぜ米軍再編が必要となったのか。政治的、経済的衰退を先制攻撃も含めた軍事力によって世界支配の維持をめざしたブッシュ・ドクトリンが破たんした。アメリカは約十五万人を動員したイラクとアフガニスタンで完全に立ち往生している。フランスやドイツは、EU拡大を背景にアメリカに公然と対抗しはじめた。世界中でアメリカの孤立と没落は一段と深まった。
それでもアメリカは、「対テロ」などを口実に、在外米軍を再編強化して、引き続き力による世界支配を維持しようと策動している。これが今回の米軍再編であり、きわめて危険で新たな戦争準備といえる。
しかも、孤立したアメリカは数少なくなった「同盟国の役割強化」を重視している。在日米軍基地を米国の世界戦略の重要な拠点として位置づけ、司令部機能を強化する。キャンプ座間や横田基地の司令部統合がそれである。
さらに自衛隊との「統合運用」を図り、自衛隊を米軍の指揮下に組み込む計画である。米国は「憲法九条は日米同盟関係の妨げのひとつ」(七月三十一日、アーミテージ米国務副長官)とか、「常任理事国入りするには憲法九条の吟味が必要」(八月十二日、パウエル国務長官)と改憲の対日圧力を強め、日米軍事一体化を可能にする「集団的自衛権の行使」を要求している。
米軍再編計画は、日米安保の「日本防衛」や「極東条項」を完全に逸脱する。在日米軍基地は、東アジアから中東など全世界に向けた米軍の出撃拠点として自由に活用され、アメリカのはじめる世界各地での戦争に自衛隊派兵を強いられる。イラク戦争で悪化した双子の赤字(経済赤字と財政赤字)で苦しむ米国にとって、巨額のドル買いや思いやり予算を投じて米国の国防費負担を支える日本は「便利な同盟国」である。
米軍再編への協力は危険な道
対応を迫られた小泉政権は、参院選挙を前に国内の反発が高まるのを恐れて先延ばししてきたが、参院選挙が終わり、待ったなしとなった。
小泉政権は、米軍再編に合わせて年末までに「防衛計画の大綱」の改定をすすめている。首相の私的諮問機関である「安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書と、防衛庁の「防衛力の在り方検討会議」の最終報告が出された。
これらの報告書には、日本防衛だけでなく、北東アジアから中東にかけての「脅威」に対処するために「日米同盟による抑止力の維持」が強調されている。また自衛隊の海外での活動を国土防衛と同じく「本来業務」に格上げすべきと指摘。従来の国連中心主義の見直しや、武器輸出三原則を見直して米国との間の武器禁輸の緩和を提言した。さらに中国を意識して「島しょ部への侵攻」を新たな脅威と位置づけ下地島への航空自衛隊の戦闘機移駐を提言した。そして集団的自衛権が憲法上どこまで可能なのか、検討すべきとしている。
これを受けて、政府はPKOなど自衛隊の海外派遣を定める一般法を来年の通常国会で提出することを固めた。テロ特措法やイラク特措法のような時限法ではなく、一般法で後方支援活動など自衛隊の海外派兵を可能にしようというもの。
米軍再編への協力は、イラクで立ち往生し、全世界で孤立を深める米国の世界戦略を支え、海外でも軍事的な役割を果たそうとする危険な軍事大国化への動きである。また徹底した対米追随の売国政治である。同時に、国連常任理事国入り問題も含めて、世界規模で政治的、軍事的に発言権を強めようという多国籍大企業の要求でもある。
中国や韓国の反発を無視して靖国参拝を続ける小泉首相の姿勢は単なる個人的な信条ではない。一連の小泉外交は、経済的発展を背景に台頭しつつある中国をにらんだものであり、意識的に「中国脅威論」をあおる動きである。
しかし、中国をはじめとするアジア、中東諸国と世界に敵対する危険な動きであり、戦前の誤りを繰り返す亡国の道である。絶対に許してはならない。
沖縄の闘いと連帯して、全国で
基地撤去・安保破棄の闘いを
米軍再編案に対して、小泉首相は「米軍の抑止力の維持」とあわせて「沖縄など基地負担の軽減」をかかげているが、これは欺まんである。
米軍の再編は、在日米軍基地を米国の世界戦略に沿った出撃拠点として強化することであり、日本全土を基地化することである。沖縄では、南西諸島の下地島空港を米軍と自衛隊が共同使用する案まで出ている。自衛隊も下地島への航空自衛隊戦闘機の移駐を検討している。中国「脅威」論にそって、南西諸島が新たな前線拠点になる可能性もあり、沖縄の基地機能はさらに強化される。
小泉首相が「沖縄など基地負担の軽減」「沖縄の基地を本土に移転」を掲げるのは、高まる沖縄県民の怒りと闘いをにぶらせ、移転候補地と対立させ、沖縄と本土の闘いを分断させようというねらいである。
何よりも沖縄県民の怒りの高まりを恐れている。一九九五年の少女暴行事件を契機にした島ぐるみの闘いは本土にも広がり、日米安保体制を大きく揺るがした。それ以後も沖縄の負担は軽減せず、八月の沖縄国際大学へのヘリ墜落事故で三万人の市民大会など再び県民の怒りが高まっている。また再編の候補地とされる神奈川や山口でも米軍再編強化に反対する怒りの声が高まっている。
アジアと世界に敵対するアメリカの世界戦略とそれに追随する小泉政権に反対しよう。高まる沖縄の怒りと闘いを全国各地に広げ、沖縄をはじめ全土からの米軍基地撤去、日米安保破棄への国民的な闘いを全国で巻き起こそう。