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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年8月号

国民連合長崎第11回総会特別報告

 「中小造船業界の現状について」

 私は昭和二十七年生まれで、三代目の社長になります。祖父が広島県の瀬戸内海の小さな島、大崎上島という、横溝正史の獄門島に出てくるような島の生まれです。長男以外は田畑がなく、祖父は四男だったので島から出て自立しなければなりませんでした。その島は船大工の島で、咸臨丸を操船したのは外国人でしたが、その島の乗子も乗っていました。私は村上水軍の船大工の末裔だと思っています。
 祖父がカンナやのこぎりを入れた道具箱を担いで韓国、日本全国と回って、やっと落ち着いたところが長崎市でした。ここで造船業を開業し、昭和二年に造船所をやりはじめました。父は広島連隊で北部中国に行っていました。私には姉と妹がいますが、ほかに男の子がいないので、物心がついたころから跡を継ぐことが当たり前だと思い、何の迷いもなく跡を継いで現在にいたっています。
 昭和五十四年十月二十日に労働組合の全国造船組合が発足しました。労働組合とは話し合いをしたり、ケンカをしたりしながら、何とか今日まで手を携えてきたからこそ、今の厳しいなかで生き延びているのだと思っています。中小造船に絞って話をし、皆さんのご理解を得たいと思っています。
 全国で法人が二百六十万社あります。中小企業とは製造業の場合、資本金三億円以下、従業員数三百人未満です。企業数で九九・四%が中小企業です。出荷額では七〇%、従業員数では七四%が中小企業です。大企業は数は少ないが出荷額は多いのです。最近大企業が悪いことをやっています。大企業、中小企業を問わず、経営者にとって大切なのは、個人がもっている物の考え方、心のあり方だと思います。利益を追求するのみのために悪い方向へ、厳しいだけに悪い方向へ行かざるを得ないというのが現状なのだという気がします。長崎県では二年前に、佐世保重工(SSK)の姫野元社長が、社員の教育訓練を偽装し、国の助成金を不正に受け取った事件がありました。SSKがああいうことをやるから、ウチでも雇用調整休業の県の見方が厳しくなった。雇用調整助成金を受けるしくみに、休業、出向、教育、があるのですが、休業というのが一番安易な方法です。ですから県や国をだましているのではないか、という目でみられ、心外な思いをしたことがある。担当者と意思が通じるようになってからは、うまく運用しています。
 われわれが所属している「長崎県造船協同組合」は、戦前は「長崎県木造造船協同組合」として七十四社が加盟していたが、現在は四社です。昔は長崎市戸町の湾に十七社あったが、今は三社のみです。佐世保のほうに少しあるが、自衛隊や米軍があるので、その仕事だけでメシが食える。長崎には何もない。自衛隊や米軍基地があるかどうか、皆さんにとってはいろいろ問題があるところでしょうが、われわれにとっては自衛隊や米軍は仕事先です。
 いま、建設業は、建設、港湾土木,土木ふくめて全国で六十万社あります。それにくらべ造船は中小四十社、中堅が三十社、三菱住友などの大手が五社です。ある程度以上の大きさの船を作れる会社は百社ですから、建設対造船は六十万対百ということになります。造船の売上は、修繕と新造をふくめて全国で一兆七千億円くらいです。トヨタの売上は十六兆円、パチンコ業界の三十兆円、ラブホテル業界の四兆円とくらべてみてください。
 造船業の問題として、働く人の高齢化があります。私の造船所は私ももいれて五十七名ですが、平均勤続年数二十三年、平均年齢は五十一歳です。これはどこの中小造船もかわらない。工程の手前の方はロボットなどを使ってコンピューター化しているが、現場で製作するのは昔とかわらない。暑いときは日にさらされ、雨のとき、雪のときは濡れながら、トッテンカン、トッテンカンと仕事をするわけです。だから仕事をする若い人がつとまらないという現実がある。労働条件は、どこも、就業規則から退職金制度、社会保険、福利厚生と、ある程度しっかりしていています。
 しかし賃金が高くはない。特にボーナスがわるい。ウチの昨年暮のボーナスは一人平均十万円だった。県庁職員は八十六万円。組合の執行委員から、自分の娘のボーナスより悪いといわれて、社長としてはずかしい思いをした。一昨日、今年の夏もボーナスを出したいと銀行に話にいったら、二十七、八歳の担当者から「この状態でボーナスを出そうなんて、社長、間違っていますよ」といわれた。「それでも出すものは出すんだ、そのために金策するのが銀行の仕事だろうが」と、どなってきた。
 これが中小造船の現状です。何とか生き延びていく、少しでも従業員の生活を向上させて,安定したあしたを考えていく、というのが経営者ではないか。そのためになにかご指導、ご助力をいただければ、幸いです。