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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年8月号
日教組 野川孝三
政府は、いわゆる「三位一体」改革で、義務教育費国庫負担制度(以下義務負担制度とする)が焦点化されている。現在の議論は「財政論」のみであり、「教育論」からの検討がなされていない。
国家の基盤に関わる義務教育の推進に、義務負担制度が必要不可欠なものであることを提起したい。
義務教育費国庫負担制度の意義・役割
義務教育は、国民として必要な基礎的資質を培うものであり、憲法の要請に基づくものである。このように義務教育は、子どもたちが確かな学力や生きる力を身につけ、社会人となるためのセーフティネットである。こうした義務教育の基盤づくりは国の責務であり、義務教育の全国水準や機会均等を確保するために設けられたのが義務負担制度である。
義務教育費国庫負担金は、地方公共団体全額負担の原則に対する例外として、「その円滑な運営を期するために、なお国が進んで経費を負担する必要がある」ものとして地方財政法に定められている経費である。このように、この国庫負担金は地方への恩恵的なものではなく、国と地方が密接な関連をもつ義務教育について、共同責任という趣旨から国が義務的に支出する「割り勘的」経費である。
一九九七年に出された、地方分権推進委員会第二次勧告においても、「経常的国庫負担金は国が真に義務的に負担すべき費用として、生活保護と義務教育等に限定し、負担割合に応じ毎年確実に負担する」と位置付けられ、そのことは閣議決定もされている。
OECD生徒の学習到達度調査などの調査結果からも明らかのように、日本の義務教育水準は世界的に高い評価を受けている。標準定数法とともに、義務負担制度がこの日本の教育を支える原動力になっているのである。
三位一体改革と義務教育費国庫負担制度
政府が掲げている「三位一体」改革の前提は、「住民が受益と負担を決定できる仕組み」を強調した地域間競争である。しかし、地方自治体は、異なる人口、企業等の分布状況が前提となって、勤労者が多く集まり税収が確保しやすい都市と、自然や食料・水を提供している地方が、連携して支え合うことができる仕組みをいっそう充実させることこそが必要なのである。
義務負担制度は、前述したように全国的水準の維持とともに国と地方が共同責任を果たすためのものであり、地方分権の推進を阻害するものではない。教職員の配置については、国は標準定数法を基に県毎の総定数を示し、県は市町村とも協議し具体的な「配置基準」を設定し配置している。このように、現在の制度においても、地方の裁量権は保障されているのである。
国庫補助負担金削減と同時に税源移譲が打ち出されている。ある県のシミュレーションによると、所得税から住民税、および消費税から地方消費税による地方への税源移譲を行った場合、移譲額の約四割が東京都に入るとしている。有識者の中には、税源移譲は東京都および隣接している自治体の「ひとり勝ち」になるとの指摘もされている。このように、税源には偏在性があることなどから、多くの県・市町村で必要な財源が確保されるか危惧される。
義務負担制度が廃止されれば、都道府県のみでは現状の教育条件が維持できず、市町村へも負担を求めざる得なくなり、そうなれば、市町村ごとに格差が生まれることになる。そもそも補助金は、義務的事業と奨励的事業とに分けられるが、義務的事業は地方に委ねてもその事業は存続する必要がある。地方の財政的自立を促すためには、奨励的事業に関わる補助金を削減して税源移譲する方が効果的である。
義務負担制度については交付金化も検討されている。交付金は地方財政法上の奨励的補助金である。これは国から地方へ「恩恵的な財政援助」という性格であり、国の責任が希薄であり、義務教育に対する国の責任放棄につながりかねず、しかも、毎年の予算編成においてシーリングの対象になりやすいものである。財務省が考えている交付金は、国の歳出削減をねらったものであり、地方へ負担転嫁するものである。そうなれば、「学級定員」そのものも地方の財政状況に左右されることになってしまう。
過去に国庫負担の対象であった教材費について、国庫負担からはずされてからは、ほとんどの自治体で予算が減額されてきている。地方交付税措置がされている図書費についても同様なことが言える。このような教材費や図書費の例からも明らかのように、義務負担制度が廃止された場合、他の予算に流用され予算が減額されかねない。
義務教育費国庫負担
制度堅持は教育関係者と保護者の一致した願い
今年三月の国会審議において、全会派一致で義務負担制度堅持に係る附帯決議が可決されている。全国教育長協議会や校長会など教育関係十六団体、また、日本PTA全国協議会も制度堅持を訴えている。
義務負担制度の堅持は、以上述べたように、あってはならない義務教育の水準低下や自治体間格差をもたらさないための、教育関係者と保護者の一致した願いであることを強く訴えたい。
【資料】
義務教育費国庫負担制度の堅持を求める声は、各地で広まっている。とくに地方切り捨ての「三位一体」改革の犠牲にされる全国の地方議会で制度の堅持を求める意見書が相次いでいる。群馬県中之条町議会の意見書を紹介する(編集部)。
義務教育費国庫負担制度堅持に関する意見書
義務教育費国庫負担制度は、憲法に基づき義務教育の機会均等とその水準の維持・向上及び地方財政の安定のため、国が必要な財源を保障するとの趣旨で確立されたものである。
この制度は、昭和25年から昭和27年の間、一旦廃止され「地方財政平衡交付金制度」に吸収されたが、各自治体で充分な財源が確保できず昭和28年に復活されたという経過がある。
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)やIEA(国際教育到達度評価学会)などの調査結果からも明らかなように、日本の義務教育の水準は世界的に高い評価を受けているが、昭和33年に制定された「学級編制及び教職員定数の標準法」と義務教育費国庫負担制度がこの高い教育水準を支える基盤となっている。
しかし、首相、財務省、総務省は、本来教育論として国民的な議論を深めるべき義務教育費国庫負担制度について、「三位一体改革」推進の中で、単に財政論のみ議論し削減の対象としてきた。これに対し、自民党の文教科学部会や、日本PTA全国協議会、市町村教育委員会連合会をはじめとする多くの教育関係団体がこぞって義務教育費国庫負担制度の堅持を求めている。この5月にも20を超える教育関係団体が一体となって東京で大規模な集会を開催するなど、制度堅持を求める声は大きな広がりをみせている。
昨年度、義務教育費国庫負担金から共済長期給付と公務災害基金部分約2200億円分が削減され、平成16年度予算においては退職手当、児童手当分約2300億円が一般財源化された。このことだけでも地方にとっては負担の増加になっている。また、義務教育費国庫負担金が仮に全額税源移譲された場合でも、現在の負担金に相当する額が確保されるのは、東京、神奈川など人口の多い9都府県だけで、あとの38道県は財源が不足するという試算が出されている。全国知事会の中でも「義務教育費は国庫負担制度を守るべき」という意見が出されているのは当然のことと言える。
義務教育費国庫負担金の削減や廃止は、厳しい状況にある地方財政に極めて深刻な影響を与えるとともに、教育水準の低下や地域間格差を増大させ、公教育の根本を大きく揺るがすものである。
よって、中之条町議会は、政府に対し義務教育費国庫負担制度を堅持し、現行の国庫負担水準を維持するよう強く要望する。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成16年6月18日
群馬県中之条町議会議長 宮崎英弥
内閣総理大臣、衆議院議長、参議院議長、総務大臣、財務大臣、文部科学大臣あて