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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年7月号

経済教室

BIS規制の撤廃を

竹田四郎


 一橋大学副学長の清水啓典氏が、『エコノミスト』六月十五日号に「日本は今こそBIS規制撤廃を主張せよ」を掲載している。二〇〇六年末から新BIS規制が実施される。それによると、自己資本比率の分母のリスク資産に事務事故や不正による損失のリスクが加えられるとともに、銀行独自開発の借り手のリスクを算定する「内部格付け手法」を選択することが可能になる。一律的手法が崩れる。
 実際には自己資本比率を正確に把握することは容易ではない。北海道拓殖銀行も、長期信用銀行も、日本債券銀行も破産の半年前の決算時には、自己資本比率は規定以上あった。足利銀行も、りそな銀行も監査法人のサジ加減で債務超過に陥った。これは自己資本の算定に裁量的なものがあるからだ。自己資本はTier1(基本的項目)とTier2(補完的項目)からなり、補完的項目には貸倒引当金や有価証券評価益、劣後債、土地含み益が算入されるが、基本的項目の額をオーバーしないこととなっている。
 自己資本比率が規定より下がった場合には融資が不可能になるかといえばそうではない。資金があれば貸付はできる。自己資本比率よりも、市場評価の方が正確だという。株式時価総額で貸出総額を割ったものである。この方がはるかに重要だ。
 日本の銀行は欧米、とくにアメリカの銀行と違う。米銀は企業の短期資金供給が主で、長期資金は株式や社債で企業が市場から調達する。邦銀は長短期資金を供給する。銀行の占める重要度に大きな差異がある。また米銀は貸出債権を市場で転売して貸出債権残高を圧縮して比率を高めることができる。これほど大きな相違がある金融システムに世界一律の水準を維持させる画一的規制を適用しようとする発想自体、本来の銀行の健全化を維持するための規制として重大な欠陥である。BIS規制が日本経済に対して深刻な悪影響を与え、デフレ長期化の一要因になったことは否定できない。
 BIS規制の最大の欠陥は各銀行経営者が対応可能な個別のショックと、各銀行経営者にはいかんともしがたい経済全体のマクロショックとを区別していないために、現在のBIS規制が不況時には銀行経営者にとって過酷すぎる規制となっている。金融庁による不良債権の認定や監査法人による税金繰延資産算入の可否など、外部の判断によって自己資本比率が大きく左右されるため、現実の銀行の行動は拘束される。またBIS規制は銀行の長期的資金供給を低下させている。
 公的資金を大量に投入してBIS規制の自己資本比率維持に走ることは、財政の無駄使いであり、結局は国民に大きな負担を負わすことになる。
 六月十五日の新聞報道によれば、政府は主要銀行の資本増強のため、繰延税金資産の算入を米国並み(一〇%)に制限し、補強に公的資金を導入するように金融審に諮って決定するもようだ。大手行の中核的自己資本比率に対する繰延税金資産の割合は、〇四年三月末で六〇〜六四%。
 さらに金融機関が破綻状況になくても、公的資金を予防的に投入できる「金融機能強化法案」が委員会審議を省略し、与党だけで可決成立した。これは〇五年のペイオフ解禁に備えて金融安定化を図るため。投入枠は二兆円。
 これでは金融機関はますます自主性を失い、規制緩和ではなく、政府規制を強めることにならないか?
 最近ソフトバンクが、ゴールドマン・サックス証券(GS証券)をアドバイザーとして、リップルウッド社等(GS証券を含む)から、日本テレコムの株式を千四百三十三億円で買収した。これは昨年リップルウッド等が、英ボーダーフォン社から全株式を三百二十五億円で買収したもの。もうけは四倍強である。日本国内でも大型M&Aが行われるようになった。しかし、アドバイザーは外資である。