国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年7月号

シンポジウム「日朝正常化の早期実現を求めて」

日朝正常化の国民世論を盛り上げよう


 六月四日、東京の総評会館でシンポジウム「日朝正常化の早期実現を求めて」が開かれ、二百五十人が参加した。主催はフォーラム平和・民主・環境などで組織する「東北アジアに非核・平和の確立を!日朝国交正常化を求める連絡会」で多くの個人・団体が賛同して行われた。広範な国民連合も賛同。石坂浩一・立教大学助教授のコーディネータで行われたシンポジウムの要旨を紹介します。



「北朝鮮の変化の可能性と市民の役割」
  朴 淳成(韓国・参与連帯平和軍縮センター代表、東国大学助教授)


 北朝鮮は、二つの危機に直面しています。北朝鮮の体制自体の限界からくる内部的危機と体制の外部からくる脅威です。北朝鮮を口実にした軍拡競争は結局は、関連するすべての国を危機に陥れます。
 しかし、北朝鮮の危機的状況を平和的な方法、地域協力を通じて克服することができれば平和の大きな拠点となります。北朝鮮が進めている改革開放が成功し、体制の変化がなされれば、北朝鮮が受ける以上のもの、平和や繁栄を東北アジア地域の各国が受け取ることができます。
 二〇〇二年七月の経済管理改善措置は北朝鮮が将来、市場経済への移行を示しています。その内容は物価や賃金の引き上げ、為替レートの現実化、協同農場や企業の経営自律権の拡大、食料・生活必需品の配給制度の段階的廃止などです。そして二〇〇二年九〜十一月にいくつかの経済特区を指定し、本格的な開放政策を推進しはじめました。
 小泉首相はこの時期に北朝鮮を訪問しました。しかし、二〇〇二年十月に米国は北朝鮮の「ウラン濃縮計画」を理由に対北朝鮮強硬政策を展開、日朝交渉にも影響を与えました。いま北朝鮮は変化できるかどうかの分かれ道に立っているようです。
 北朝鮮の核問題の解決方法をめぐる韓米間の対立、南北関係改善にともなう朝鮮半島の緊張緩和と韓国民の外交安保観の変化、イラク派兵をめぐる韓国内の世論の分岐、世界的な米軍再配置と基地調整に伴う駐韓米軍のイラク転出など、韓米軍事同盟が根底から変化しつつあります。
 これまで通り米国中心の安保国防戦略か、南北関係の改善と東北アジア多者協力の韓国中心の平和外交政策か、選択が問われています。しかし、韓国政府は、「協力的自主国防」という概念を最近発表しました。これは、協力よりは同盟を、軍縮よりは軍備増強を意味するもので、現状膠着的なものだと判断しています。
 東北アジアの平和、そして南北関係の改善のためにいくつかの努力をしていきたい。第一は、韓国社会の認識(北朝鮮観、アメリカ観)を変えていきたい。北朝鮮のヨンチョンでの爆発事故で多くの韓国市民が自主的に支援しようとしました。六〇年代や七〇年代には考えられなかったことです。第二は、国民に対して平和を愛し、北朝鮮を支援していく平和教育を続けたい。第三は、核兵器問題や東北アジアの平和問題について、韓国と日本とアメリカの市民たちが手を取り合う体制をつくりたい。第四は、人的な交流です。
 最近、韓国の外交関係についての世論調査が行われ、大変興味深い結果が出ています。「韓米関係と南北関係、どちらを重要視するか」の質問に対して、「南北関係がより重要」の答えが多かった。「米国と中国、どちらをより重要な外交相手とするか」という国会議員に対する質問に多数が「中国」と答えた。「在韓米軍のイラク一部転出に安保条約の不安を感じるか」との質問に国民の大部分は「不安を感じない」と回答。しかし一方で、「在韓米軍がしばらく駐留してくれることを望む」という答えが八二%でした。総合すると、韓国民の考え方は、しばらくの間は在韓米軍の駐留の下で朝鮮半島の安全保障を保っていくが、長期的には南北統一により、中国との関係を密接にしていきたいと思っている、ということです。もしも、このような朝鮮半島に変化が起こったとき、果たして日本の政治家たちはどのように考えるでしょうか。この問題も解決すべき課題です。



「日朝国交正常化はなぜ必要か」
 中江 要介(元中国大使)


 日朝正常化は外交問題です。なぜ日朝正常化が必要なのか、五点に絞ってお話ししたい。
 第一点は、日朝正常化は戦後処理です。半世紀前に終わった間違った戦争の後始末をまだ怠っている。戦争が終わったとき朝鮮の独立を承認するのが日本の義務でした。しかし冷戦構造下で日本はアメリカの意に反したことはできなかった。しかし、一九八九年の冷戦終了で、日本は大手をふって北朝鮮との正常化をすべきでしたが、それを怠ってきた。これが日朝関係の原点です。
 第二点は、怠った背景には、戦争に対する反省や認識の不足があります。あの戦争は間違っていた、再び繰り返さないという反省が足りない。それが「日本はアジアに本当の友だちをもっていない」などとアジアから信頼されていない理由です。
 第三点は、戦後半世紀以上がたち国際社会が大きく変化しています。ヨーロッパでは、EUが地域的な連帯を確立して広い意味での安全保障体制を確立して、自国の独立と地域の平和を守っていこうというすう勢にある。東南アジアではASEANができ、経済的な連帯から始まり、最近は政治や安全保障の連帯も進んでいる。ところが、東北アジアでは何もできていない。日本は世界のすう勢から取り残されています。北朝鮮との関係を早く正常化して、東アジアにおいてどの国とも仲良くつきあえる国にならなければ、この地域の連帯や安全保障は実現しません。
 第四点は、安全保障の問題です。日米安保を守ることが日本の国益だという狭い了見がはびこっている。日本の安全保障、地域的な安全保障を考えれば、ただ一つ残されている北朝鮮との関係を正常化して、どの国とも話し合い、協力し合う、そういう関係をうち立てなければならない。将来、東アジアに集団的安全保障体制ができれば、日米安保はその下に入るべきです。
 第五点は、自主独立の外交を行えない理由の一つは、いまだに日米安保に頼っているからです。EUやASEANのように地域的な平和と安全のための体制を作ることが世界のすう勢になっている。新しい国際社会秩序の建設に貢献できるような国になるためには、脱皮が必要です。「脱皮できない蛇は滅びる」。蛇は脱皮することによって、新しい世界に対応する。日本は早く脱皮して、自分の自主独立の外交を展開すべきです。
 冷戦下でも韓国とも、中国とも正常化した。東アジアで残っているのは北朝鮮だけです。日本がその気になって、正常化しようと思えばできます。拉致問題ももちろん重要ですが、日朝関係は拉致問題だけではありません。日本は核実験には反対しますが、核廃絶の動きには臆病です。アメリカが核を持っているからでしよう。日本は、核兵器廃絶のためにもっと積極的でなければならない。
 どの面から見ても日朝正常化は遅すぎる。大事なことは、しっかりした指導者を選ぶことです。



「日朝国交正常化交渉の回顧と展望」
 前田康博(大妻女子大学教授)


 私のテーマは国交正常化交渉の回顧と展望ですが、これからの展望について話をさせていただきたい。
 小泉訪朝から一年がたって、朝鮮バッシングが続き、日朝関係がどんどん悪化していました。今年に入り、金正日氏の訪中、また中国での山崎氏と北朝鮮との接触などをへて、五月二十二日に小泉首相の再訪朝が実現しました。
 この首相再訪朝について、世論調査では小泉再訪朝を「成功」「まずまず良かった」と見る世論が約七割。一方、例えば、二十五万トンの食料支援に「納得がいかない」が大半を占めている。ネジレ現象が見られます。このような受け止め方に、日朝関係改善がここまで遅れてきたことの原因の一つがあると思います。
 また日本の政治勢力が、つまり大半の政治勢力が日朝改善を阻みたい、日朝交渉を遅らせたいという側に立つ人たちが占めているということが浮き彫りになった。民主党の小沢一郎は「誘拐犯にご機嫌伺いにいった外交史に汚点を残した」と発言。鳩山一郎・元民主党代表も「日朝正常化は不要である」と国会で発言。また、平沼・元経産相は「屈辱的である。独裁国家に対してこのような外交をする首相はおかしい」と発言。民衆の求める日朝国交正常化というものが国会議員の頭の中にはまったくない。首相の思わくは別にして、二回訪朝することで、打開しようとした点において歴代の大変臆病で決断のできなかった首相たちに比べて、私は期待をかけたい。
 日中関係は、日中平和友好条約ができるまで八年間かかっています。日韓正常化は、GHQの斡旋からはじまって十四年をへてようやく基本条約が実現しました。
 私が危惧するのは、小泉氏の後任です。日本の戦後処理の唯一残された問題でありながら、日本国内の多くの政治勢力にはそういう認識が欠如しています。今後、平壌宣言を無効にする内閣や首相が出てくる可能性がある。アメリカと共に孤立化していく道を歩むのか、東アジアの中で共存繁栄の道を歩むのか。われわれの行動が問われています。



「六カ国協議の展望」
 吉田康彦(大阪経済法科大学教授)


 朝鮮半島をめぐる問題というのは、一体何が問題なのか。私は、基本的なことに立ち返って問題提起をしたいと思います。
 いま朝鮮半島は南北に分断されています。なぜ南北に分断されているのか。連合国は統一を約束しながら、それを反古にした。さらに、朝鮮戦争をへて、三十八度線を境に南北に分断されて半世紀以上経過している。軍事境界線は、暫定的な休戦ラインです。休戦協定に署名したのは北朝鮮軍と国連軍の名による米軍です。だから、北朝鮮にとって交渉相手はアメリカです。南の韓国には在韓米軍がいて安全が保障されている。一方、北は冷戦崩壊後、北朝鮮は自分で守らざるを得ない状況に追い込まれている。だから北はアメリカだけを相手にする。そういう構図になっています。
 次は、なぜ核なのか。冷戦後の国際社会において、世界を仕切ってい
るアメリカが一番問題にしているのは核兵器です。NPT(核不拡散条約)体制をつくって、核の独占あるいは一方的管理、保有国の論理で仕切っている。それがNPT体制です。
 だから北朝鮮にすれば、核でアメリカを揺さぶって、交渉のテーブルにつかせたい。「テロ支援国家」の指定を解除してもらわないと国際機関の支援、世界銀行やIMFの融資も受けられない。テロ支援国家の認定解除、経済制裁の解除、そして米朝平和条約の締結、とりあえず不可侵条約を結んでくれと、北朝鮮はアメリカに呼びかけている。北朝鮮の態度は終始一貫変わらない。そういう現状がある。
 北朝鮮の核保有が既成事実のようになっています。結論的には、数個分のプルトニウムをもっているというのが実際だと思う。しかしミサイルに積んで発射できるような小型核弾頭は、プルトニウムもウランも持っていない。これが冷静な判断です。
 それなのになぜ脅威だ、脅威だと騒ぐのか。つまり、東アジアに脅威があったほうがいい、既得権が守れる、利益追求になると判断するグループ、集団、国家が存在する。アメリカのブッシュ政権であり、軍需産業などです。また日米安保条約の下で、それらと結託している日本の一部の勢力が北東アジアに緊張を必要としている。そういう勢力が「北朝鮮は脅威だ、大変だ」といっている。ところが、脅威だと騒いでいる割に、アメリカはあわてていない。これは矛盾です。
 でも放っておけば問題は解決せず、いずれ危機は深まります。後戻りできないところまで行く。いずれ核保有するかもしれない。朝鮮半島の非核化は日本にとっても必要です。そのためには小泉首相はブッシュ大統領を説得すべきです。それが日本の役割です。小泉首相の本音は「在任中に日朝国交正常化を成し遂げて歴史に名を残したい」を悲願にしているそうです。「米朝国交正常化を」とアメリカに言うべきです。
 もし、ケリー候補が大統領に当選したら米朝関係の改善をやると言っています。ブッシュ再選になっても、いつまでも放っておけない。北朝鮮も核を使おうという意思はさらさらない。生き残って米朝平和条約、朝鮮半島の冷戦構造の解消をめざしている。それを歴史的課題として小泉首相には対米外交をやってほしい。



「北朝鮮人道支援の経験と実績」
筒井由紀子(KOREAこどもキャンペーン事務局長)


 KOREAこどもキャンペーンは、日本国際ボランティアセンターなどと北朝鮮への人道支援を行っている団体です。一九九六年の洪水被害の時、全国から集めた六十一トンのコメを新潟港から万景峰号で運んだのが始まりです。
 北朝鮮は国交がないこともあり、情報がなく、誰がどこで何を必要としているか、分からず手探りの時期がありました。そこで国連機関やヨーロッパ、韓国、アメリカ、そして国内のNGOと連携を取り合いながら活動しています。二〇〇〇年には北朝鮮人道支援NGO会議を開き、情報交換なども行っています。
 人道支援の状況ですが、二〇〇〇年にイタリアとの国交正常化以降、各国で国交正常化が進み、ヨーロッパからの支援は続き、農業支援や医療支援など実績を上げています。国連機関も現地に約百人のスタッフを派遣し、七カ所のサービスステーションがあり、モニタリングをしながら支援を行っています。また韓国のNGOは規模の大きな支援を行っています。こうした情報は日本国内には伝わっていないと思います。
 小泉首相の再訪朝以降、「二十五万トンの食料支援」が批判されました。この問題でテレビなどマスコミから事務所に電話がかかってきました。多くは「政府に比べて民間の食料支援は確かなんでしょう」と対比にして使おうというものです。例えば、脱北者の証言をメインして北朝鮮への食料支援は横流しされているという番組をつくるらしい。それなのに番組担当者が、WFP(国連世界食糧計画)のことも、支援の実態もまったく知りません。
 小泉首相が約束した食料支援は人道支援です。人道支援とは、見返りを求めないこと、条件をつけないことです。そこに困っている人たちがいるから、手を差しのべる行為です。二〇〇〇年に日本政府が行った五十万トンのコメ支援も批判されています。現地の国連のユニセフの栄養調査をされていた方の話を聞くと、「日本のコメ支援のおかげで、離乳食を食べる子供たちの栄養状態が格段に改善した」そうです。こういう話は日本では伝わっていませんが、確実に朝鮮の子供たちの命を救っているわけで、人道支援の目的は達成していると思います。
 私たちは支援の継続性を大事にしています。同じ所に、定期的に何度も訪問する。そうすれば、子供たちの状況や環境の変化も分かります。継続することで的確な支援の方法も可能になります。向こうの方たちとの信頼関係もできます。私は政治には素人ですが、約束し実行する、それを積み重ねていけば、もっとできることはあるのではないかと、日朝交渉を見ていて考えています。