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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2004年2月号
小泉政権の不良債権処理加速など改革政治の下で、全国の中小商工業者が存亡の危機にある。その中で、昨年十二月三日、「ノーと言える業界に」と福井県鉄筋協同組合の組合員二百五十人が危機打開のため決起集会とデモ行進を行った。同組合の宮崎巌理事に聞いた。
いま私たち建設専門工事業者は大変な危機に直面しています。長期不況で民間の仕事が減っている上、小泉政権の下で公共事業も毎年七%減少、さらに不良債権処理加速がわれわれに追い打ちをかけています。
私たちの鉄筋の仕事は、鉄筋コンクリート(RC構造)や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC構造)で建物などをつくるとき、設計図通りに鉄筋を組み立てる仕事です。ゼネコンから鉄筋工事を請け負ったら図面にそって、施工料の見積もりを始めます。見積もりの基準は鉄筋の重量で決まります。
価格的には十数年前が絶頂期で、一トン当たり七万円の施工費で、当時は賞与が夏冬合わせて二〜三カ月分出して採算がとれていた時代。それが現状は一トン四万円を切る状況も出ています。私の会社では年間六千トンは施工しているので、一トン三万円下がったため年間一億八千万円の減収。事務経費などの削減からはじめて、賞与さらに基本給に手をつけ、延べ三回の削減をやりました。
従業員のために労災や福利厚生などをやっているところほどきつい。正社員をやめてアルバイト形式が増えています。また、外国人労働者や研修生の雇用が増えている。安全管理でも品質面でも問題があります。
鉄筋業は一社で多くて三十名、少ないところで四、五名の零細企業です。福井県鉄筋協同組合は現在四十二社ですが、ここ五年くらいで四社が倒産、五社が廃業しました。廃業したが八千万円の借金が残っている方、自己破産された方など。衝撃だったのは昨年十一月、協同組合の理事長だった方が突然、もうやっていけないと廃業された。
強まるゼネコンの安値強要
小泉政権は大銀行に多額の公的資金を投入して、不良債権処理を加速。銀行はゼネコンの借金のかなりの部分を棒引きし、経営再建を迫っています。ゼネコンは経営再建を口実に、内部での人員削減だけでなく、下請け業者に対する安値工事の強要を強めています。要するに銀行の抱えているゼネコンの借金の一部が、安値強要という形で下請けのわれわれ中小零細企業に回されている。われわれ中小零細企業には、大銀行への公的資金投入やゼネコンのような借金棒引きなどという支援はありませんから弱いところからつぶれていく。
ゼネコンは工事の管理が主な仕事で実際に建物をつくっているわけではない。現場で建物をつくっているのは建設の各専門分野のプロである下請け業者です。しかし、ゼネコンと下請けはパートナーとはほど遠い関係です。
工事前に注文金額書(契約書)を交わすのは大前提ですが、どこまでが契約か、どこまでが口約束か分からない実際があります。契約書を交わせずに口約束で仕事を始める。途中で一回目の請求書を送っても契約書がまだだからと、代金支払いが先送りされる。やがてゼネコンから「こちらの提示額で早く注文書を交わさないと、支払いできないよ」という脅迫じみた「ご指導」もあります。かといって「採算が取れる価格にしてほしい」といえば仕事が一切来なくなるというのも現実です。
さらにゼネコンによる度をこえた安値受注競争がある。その典型が福井県立総合病院問題。県の設定価格が約百八十億円に対して、落札価格は前代未聞の百四億円、七十六億円も低い。違法に安すぎるんじゃないかと県は大成建設と協議を持ったが、大成建設は百四億円でやれると施工を始めました。病院は完成目前です。鉄筋工事は六社がチームを組んで施工しましたが、その中のK社が昨年十一月に突然廃業、S社は今年一月に二度目の不渡りで倒産した。工事費が安ければ、県は喜ぶかも知れません。しかし、安値工事を強要される下請け企業では役員報酬や社員の給料を三五〜四〇%もカットしたり、借入金を増やしている。そして耐えきれずつぶされていく。
業界が結束して立ち上がる
このままでは業界全体がつぶれてしまう。何度も話し合い、事業の継続や従業員の生活を守れないような単価には「NO」といえる業界にしていこう、第一歩として鉄筋組合が結束してデモ行進をして危機的な状況を訴えることを決めました。
十二月三日、組合員二百五十人が県庁周辺で決起集会とデモ行進をし、県庁などに申し入れをした。鉄筋屋一社だけではゼネコンに太刀打ちできない。しかし「一寸の虫にも五分の魂」、みんなで集まって「もういいかげんにしてくれ」とゼネコンにも、県にも訴えた。
ゼネコンに対しては、「倒産・廃業が続き、もう限界だ。安値の強要はやめてほしい」と要請しました。 県に対しては危機的な現状を訴え、「下請けへの支払い状況を常に監視し、県発注工事の未払い金は補償」「下請け専門業者に公共工事の発注(分離発注)」など九項目の改善を要請しました。
二週間後、「もう少し鉄筋業界の現状や本音を聞きたい」と県庁から連絡がありました。六人の代表者が、県と三時間ほど話をしました。少しだが、力を合わせてデモ行進をやった効果があった思います。
今回の行動で自分たちの業界の結束が目に見えた。一社ずつでは弱くても、四十社集まれば大きな力になる。結束すればゼネコンにも、県にも物が言える。今後は共同経営、組合受注も考えていきたい。
いま全国的に、とくに地方の雇用問題は深刻です。われわれ建設業はバブル崩壊後、地方での雇用の受け皿になってきましたが、このままでは建設業の倒産・廃業の増加で雇用問題がさらに深刻になります。
公共工事の削減はわれわれにとって非常に悲しい現実です。赤字国債で公共工事をどんどん増やしてほしいとは言いにくい。ただ、一生懸命働いているのに工賃の値下がりで、倒産や廃業に追い込まれる現状が歯がゆい。危機的な現状を広く認識してもらって、今後も鉄筋業界が引き続き生きていけるよう、また従業員が生活していけるよう頑張りたい。 (文責編集部)