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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年11月号

アメリカべったり、日本はどこへ

京都大学教授  本山 美彦


 結論から先に申します。世界で一番孤立している国は北朝鮮ではなくて、実はわが日本です。一国では生きていけないのに日本は本当の友達がいないのです。九月の国連総会でアナン事務総長が「アメリカの単独イラク攻撃は許さない」と演説し、喝采を浴びました。そういう中で小泉政権は、恥ずかしいほどアメリカに媚びて、しっぽを振ってるから国際的に孤立しているんです。
 「構造改革だ」「骨太だ」と居直っていますが、全部アメリカ発の政策です。横文字を縦文字に直しただけで、小泉的改革をやれば日本はズタズタになります。こういう改革に対する抵抗を組織する必要があります。いい意味での「ナショナリズム」というか、アメリカとは距離を置きながら、失われたアジアの信頼を取り戻す努力をしなければ日本の将来はありません。

 アメリカの世論操作

 アメリカは世論操作に長けた国です。例えばレンドン事件。レンドン社は広告代理店です。一九九一年の湾岸戦争の時に何度も流された「イラク軍の油田放火で油まみれになったウミウ」の映像。あれはイラクとはまったく関係のない映像で、レンドン社が全世界に配給したものです。また一九九〇年十月、米議会下院の公聴会で十五歳のクウェートの少女が「イラク軍がクウェートの病院で赤ちゃんを保育器から出し窓から放り投げた」と涙ながらに証言。この証言はフォックス、CNNなど全米のメディアを通じて報道され、アメリカ議会での湾岸戦争の参戦決議を通す結果となった。のちに「涙の議会証言」の少女は在米クウェート大使の娘であり、まったく作り話であったことが判明。仕掛人はレンドン・グループの広告代理店です。
 アメリカはこういう世論操作が得意です。アメリカ人は新聞をあまり読まないので、テレビで「油まみれのウミウ」や「涙の議会証言」を見て、「許さん、イラクをやってしまえ」となるわけです。今回のイラク戦争でフセインの銅像を倒した映像を流したのはフォックスです。あれもやらせです。そのフォックスの経営者がメディア王と呼ばれているマードックです。スカイパーフェクトTVなど、世界衛星放送のほとんどをフォックスが握っています。
 日本人も最近文字を読まなくなりました。戦争報道などはCNNやフォックスというアメリカのテレビ会社の配給を受けて、そのまま日本に流されています。テレビなどを通じた世界的な世論操作が行われていることを知っておく必要があります。

 つぶされた日本の銀行

 鉄鋼、造船、アルミなどはもうからない産業ですが、日本では大事な産業として銀行が支えてきました。一方、アメリカは全部捨てています。「もうからない産業がつぶれていくのは当然だ」、これがアメリカの経済原則です。果たして、もうかる産業がいい産業で、もうからない産業が悪い産業でしょうか。
 お客が素人相手の場合はもうかります。その究極の産業は消費者金融です。大変もうかっています。一方、鉄鋼などは大事な産業ですが、もうかりません。新日鉄は日本一の製鉄会社ですが、価格決定権は大口のお客であるトヨタが握っています。重要な産業はお客さんが専門家だから、もうからないんです。
 その大事な産業にお金が流れるシステムが日本にはありました。鉄鋼、造船などに長期に投資するために、日本興業銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行という、三つの長期の銀行ができました。中小企業には信用組合や信用金庫があり、大企業には大銀行と、金融機関の住み分けがありました。これが日本的な金融でした。
 ところが、「間接金融はダメだ、直接金融こそ世界の流れだ」「日本の銀行は護送船団方式だから悪い」とアメリカにいわれて、橋本政権は金融自由化に踏み切りました。一定の自己資本比率が要求されるBIS規制が適用され、日本の銀行はガタガタになりました。生命保険会社も一つ二つを除いて、例外なくアメリカの生命保険会社になりました。
 日本長期信用銀行は破たんさせられ、結局アメリカの投資会社に売られ新生銀行になりました。投資会社が銀行を経営する目的は、企業に融資するためではありません。世界中の金持ちに投資を呼びかけ、銀行を安く買って財務内容を急速に改善し、高く転売してもうけるためです。しかも日本の政府は新生銀行と瑕疵(かし)担保条約を結びました。債権が二〇%値下がりすれば担保価格で国が買い取るという条約です。そごうが傾いたとき、新生銀行は支援せず、倒産に追い込みました。新生銀行は過酷な貸しはがしを行い、多くの企業が倒産させられました。つまり、新生銀行にとっては企業を再生させるよりもつぶした方がもうかるからです。最終的にはシティバンクに転売されます。ボロもうけです。
 同様に日本債券信用銀行も破たん、一時国有化をへて『あおぞら銀行』となりましたが、米投資会社・サーベラスに売られました。

 国境を越えた買収

 最近、コーポレートガバナンス(企業統治)という言葉が使われます。なあなあムードの日本型経営では株主に責任がとれない、アメリカ型の企業統治が必要だと、会社の経営・執行と会社の監視を分け、その監査委員会を外部の人で構成すれば、会社の不正を防ぎ近代的な企業統治が行えるという考え方です。
 これはまったくの嘘です。外部監査といっても、選ぶのはその会社の社長であり、会社に批判的な人を選ぶはずがありません。選ばれた外部監査人は会社から多額の報酬をもらうので、会社に都合のいい監査をします。この制度でアメリカでは不正経理が続出しています。
 アメリカ型の企業統治の本当のねらいは何か。日本型の企業統治では、株式の発行・増資は株主総会の承認が必要です。勝手にやると株主訴訟を起こされます。会社の執行役員が、株主総会の議決をへずに、臨機応変に株式の発行や増資ができるのがアメリカ型の企業統治です。
 なぜそうするのか。通信や電力などが規制緩和され、企業の買収や合併がさかんになりました。例えば、A社が一億円でB社を買収する場合、A社はB社の株主からB社株式を一億円で買い取ります。そのため大規模な買収は容易ではありませんでした。そこで登場したのが株式交換による買収です。株式交換による買収では、一億円分のA社株式を発行して、一億円分のB社株式と交換することで買収が成立するわけで、現金は必要ありません。しかも株式交換をする時点で、買収する側のA社株が高く、買収相手のB社株が低いほど有利です。そこで、あらゆる手段を使ってA社は自社株を引き上げ、買収相手のB社株を売りまくって下げる。そうすれば「濡れ手に粟」で買収ができるのです。これが株式交換制度です。
 株式交換による買収では自社株の発行や増資が必要ですが、一年に一回の株主総会は待てません。会社の監査機関と取締役会と執行機関と分離するのは、臨機応変に株操作することが本当のねらいです。本当のねらいを隠すために「アメリカ型が近代的だ」といわれているわけです。
 アメリカは国境を越えた(クロスボーダー)株式交換制度を導入するよう日本に要求してきました。六月に出された二〇〇三年日米投資イニシアティブ報告書では条件付きで「株式交換制度を採用する」ことを認めました。来年には条件も外されるでしょう。
 私はストックカランシーと呼んでいます。ストックカランシー批判をテーマにした『株価資本主義の克服』という本を十一月に出します。
 「アメリカの企業に日本の企業が買収されることで日本経済の近代化が始まる」、これがいま進められている構造改革です。日本人は怒らなければダメだと思います。歴代の自民党政権の中で小泉政権ほどアメリカの言いなりの政権はありません。アメリカの政策にこれほど従う経済学者は、竹中さん以外にそうざらにいません。はっきり言って売国奴です。竹中おろしが強まっていた今年九月、IMF(国際通貨基金)の日本に対する金融査察報告書が出ましたが、竹中改革を全面支持する内容です。IMFは国際機関とは名ばかりで、アメリカの言うことを唯々諾々ときく機関です。IMFのお墨付きが出た瞬間に、小泉さんは竹中留任を決め、与野党の批判もおさまりました。

 危機的なアメリカ経済

 冷静に分析してアメリカ経済はもうダメだと思います。理由は、ろくな品物を作らずに、他人の金でやっているわけで、そのツケが回ってきています。すでにアメリカは世界最大の貿易赤字国であり、世界最大の借金国です。またアフガンやイラク戦争の戦費、大金持ちへの大減税で国家財政も赤字に転落しています。いわゆる「双子の赤字」です。日本が貿易で稼いだお金や日本人の資金が日本国内ではなく、アメリカの国債や株などに回っています。つまり日本のお金がアメリカを支えているのが実際です。アメリカ経済に不安を感じて、ドイツやフランスがアメリカから資金を引き上げています。ドル暴落の危険性すらあります。
 アメリカの景気をかろうじて支えているのは低金利政策です。低金利によって住宅販売が増えました。日本では住宅金融公庫が個人に貸し付けますが、アメリカでは政府系金融機関が個人に直接住宅ローンを融資しません。民間銀行の住宅ローン債権を政府系の公庫が買い取って、証券として投資家に販売しています。ところが金利が下がっているので、個人は住宅ローンの借り換えを何度も行うため、以前の金利の高い債権が売れ残っています。その上、それを持っていたドイツやフランスが投げ売りしています。この損失をどう穴埋めするか、深刻な問題です。
 それを支える国として日本がねらわれています。ブッシュが十月に訪日しますが、要求しているのはイラクの戦費負担だけではありません。どうやって日本から金を巻き上げるか。ドル安つまり円高政策です。円高になると日本政府は必死で円を売ってドルを買います。買ったドルをどうするか。これまではアメリカの国債を中心に買っていましたが、今は住宅ローンの債権を買っています。膨大な日本のお金がアメリカに流れ、しかも売れなくて困っている債権を買っています。ここまで屈辱的で植民地的な経済政策をやっています。「構造改革なくして成長なし」と言いながら、危機的なアメリカ経済を支えているのが現状です。

 日本の生き残る道

 どうせひっくり返るアメリカにしがみつくことはやめましょう。これからは伸びるアジアです。日本もアジアの一員です。経済的にも大国になってきた中国をはじめ、アジアの国々と仲良くして協調していく。アジアと心中する覚悟をすれば、日本は生き残れると思います。アメリカと心中するなんてイヤだと声を出そうではありませんか。
 総選挙が迫っていますが、私たちにとって二大政党制に希望があるでしょうか。幻想だと思います。小泉改革で、日本の経済政策が歪められ、日本人の富がアメリカに取られています。一方、小沢さんのいる民主党も自民党以上にアメリカべったりです。民主党はアメリカの広告代理店と契約し、人々の心をどうつかむか、そんなことだけに力を注いでいます。「小泉支持六〇%」という世論調査は疑うべきだと思います。世論操作に惑わされず、正しい情報を得る努力をしなければなりません。
 もういいかげんに、アメリカの言いなりの経済政策をやめて、アジアの中で協調する生き方を選択すべきだと思います。
 (九月二十八日、国民連合・神奈川の記念講演要旨。文責編集部)