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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年10月号

南京・閉ざされた記憶を尋ねて

南京大虐殺六十カ年全国連絡会共同代表  松岡 環


 教科書や記憶から消される南京
 南京大虐殺はないのだと宣伝するマスコミジャーナリスト
 「南京大虐殺はあったでわしら見てきた」と、南京戦に参加した元兵士の声
 「そやけど、いま、南京のこと言うとこわいやろ」と、証言をこばむ元兵士たち
 「私たちが生き証人。たとえ死んでも、子や孫が引き継ぎます」と静かに語る生存者たち


 私たち南京大虐殺六十カ年全国連絡会に連帯する大阪のメンバーは、南京大虐殺に関わった元兵士を訪ねて記録を取り、一冊の本にまとめました。昨年八月『南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて』(社会評論社)を刊行すると、侵略戦争を否定する勢力から雑誌やインターネット上で凄まじい攻撃を受けました。また、正当に評価してくださる研究者や評論家のみなさんに対しても、根拠のない執拗な反論が繰り返されました。しかし、加害兵士百二人の証言集『南京戦・閉ざされた記憶を尋ねて』は、多くの人に求められ、この分野では珍しく一万冊近く増販されました。今年二〇〇三年八月、この本『南京戦』の編著者である私は、日本ジャーナリスト会議から優れたジャーナリストに贈られるというJCJ賞を受賞しました。同時に八月、南京大虐殺の被害証言集『南京戦・切りさかれた受難者の魂』(社会評論社)百二十人の被害者の証言を検証して一冊の本にしあげました。
 取材し記録し検証して本にまとめる事など、人から学んだこともない私でした。ただがむしゃらに受難者の思いに沿ってこの人たちの生きている間に少しでも日本人の歴史認識を変えたいとの思いが頭にありました。その思いと周りの人たちの協力が私を突き動かしてくれたのだと思います。ぜひこれらの本をお読みになって南京の事実を知ってください。
 振り返れば、南京戦に参加した元兵士の証言を記録し始めて五年以上がすぎました。揚子江に逃げる男や女に機関銃を浴びせかけた様子を事細かに教えてくれた八十六歳の歩兵第十六師団の元兵士。何回も足を運んでやっと重い口を開き、核心に迫る証言をしてくれた九師団の元兵士。南京大虐殺の歴史の真実を明らかにしようと、私たちは証言を掘り下げ、聞き取りを続けるうちに、南京大虐殺当時の日記や写真、手紙などの貴重な資料を当事者からたくさん提供していただきました。一方隣国の中国では、日本軍の殺人、暴行、強姦、放火などあらゆる惨い被害を受けた生存者や肉親が、今なお暮らしておられます。彼らは苦難の歴史を繰り返し家族や肉親に語っています。それを受けた子や孫たちは、「自分たちの親や祖父母の世代が受けた残酷な仕打ちを決して繰り返させてはいけない」と言われます。私たちは、歴史の掘り起こしの一端を担って、南京市在住の約二百名の被害者宅を一軒一軒訪問して記録に収録しましたが、この数は、膨大な南京大虐殺の被害者のほんの一部分にすぎません。南京大虐殺は、過去の歴史上のワンポイントでは決してありません。日本軍の組織的な殺人や暴行に手を下した関係者たちは南京での行動や目撃に口を閉ざしたまま、今や人生の終焉を迎えようとしています。そして日本の社会は半世紀以上にわたり、かつての戦争を総括することなく、侵略の歴史事実を「事実」として社会や教育の中でもほとんど認めることが出来ませんでした。
 ここ数年日本の社会状況が右カーブの速度を速めています。二〇〇一年九月のアメリカでのテロに対する報復戦争では、日本はアメリカに協力して、自衛隊という名の軍隊を戦地に派兵しました。すばやく法律を作り直してまでアメリカに追随した日本は、ついに戦争をする国になりました。今や戦争正当化の世論が組み立てられ始めています。
 二度と侵略戦争をせず平和な社会を求めて、集めたこれらの資料と南京大屠殺紀念館の豊富な資料をもとに、私たちの手でパネルを創作しました。『南京・閉ざされた記憶』展覧会は今、日本各地で開催しています。パネルは、A1サイズ五十八枚。市民や労組、学生さんたちが取組みやすいように、大変安価な費用で貸し出ししています。ぜひご利用ください(一セット五万円、学生は半額)。



JCJ賞受賞
南京戦 閉ざされた記憶を尋ねて―元兵士102人の証言
●松岡環編著(社会評論社)
 A5判374頁★4200円