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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年9月号
大冷害だった一九九三年以来のコメ凶作が濃厚となった。とくに北海道、青森県、岩手県、宮城県の被害は甚大だ。米価の下落、コメ政策大綱、輸入自由化などが議論されている世界貿易機関(WTO)のゆくえなど、農業をめぐる状況は深刻だ。農政の責任は大きい。冷害の状況や農政について、現場の声を聞いた(文責編集部)。
天候が戻っても七〇程度
岩手県 JAくじ 広内
七月の最高気温の平均が平年より四・三度、最低気温で二度低かった。日照時間は平年の一九%。八月は最高気温が三・一度、最低気温で一度低かった。日照時間は平年の四三%。降水量は七月が一四九%、八月は一一四%でした。さらに六月〜八月のやませの吹く日数が平年は十八日間ですが、今年は十年前の冷害の時の二十八日間より多い、三十日間も吹いた。
この辺で作付されているのは「かけはし」や「いわてっこ」という耐冷性の品種ですが、出穂が十日くらい遅れています。出穂開花して十日以上たたないと、実が入っているかどうか調査ができません。出穂してからの積算温度が「かけはし」で九百から一千度必要です。今後、気温が平年並みに戻っても八百度を確保するのがやっとでしょう。また、白ふという、穂先が白くなるものもあります。気温が平年並みに戻っても作況は七〇くらいではないか。
低温と日照不足で、大豆の下葉が枯れるなど野菜、果樹にも、大きな影響が出ています。
十年前の作況は二、事実上の皆無でした。農家は飯米もなく、タイ米を食べました。翌年の種モミもなかった。そこで農協が農家に対して翌年の種モミを無料で配ったり、冬場の代替品目としてハウス栽培などを支援しました。しかし、いまは資金的に余裕がなくなって、支援したくてもなかなかできません。米価が下落している中で、冷害による凶作となれば農家の意欲がなくなります。農協として最低限の対策はやりたい。
今年はコメが不作ということで、すでに銘柄米の一部は値上がりしています。米騒動になった十年前は在庫がなかったが、今年は二百万トンの在庫がある。だから極端な値上がりがあるとすれば流通業者などの操作があると思います。
責任を放棄する政府
青森県東部 JA関係者
今年の低温と日照不足はひどかった。出穂は七〇%くらい終わったが、一週間くらい遅れている。十年前の冷害の時の収穫は皆無でした。それ以来の被害になるでしょう。穂は出たが受粉されているかどうか、実が入るかどうか、今の段階ではわかりません。天気の回復を待つしかない。
この地域は「ゆめあかり」が中心ですが、一俵(六十キロ)一万三千円程度、十年前と比べて約三千円下がりました。
コメ政策大綱は絵に描いた餅。何のためにやっているのか。結局、国としてはコメから手を引きたいというのが前提にある。減反しても、これまでのような減反補助はもらえない。補助を受けるための条件をクリアするのはかなり厳しい。全国平均の減反は四割程度ですが、この地域は七割減反です。減反補助も減らされてきて、コメを作る意欲がなくなります。
国に「消費が減っている、コメが余っている」と言われれば農家は反論しようがない。あげくに大量の減反をしているのにミニマムアクセスで毎年、八十万トンも輸入している。農家が農政に矛盾や不信を感じるのは当然です。
農家を大切にしない農政
北海道鵡川町 桑原猛
今年は六月末からずっと低温と日照不足が続きました。道南のこの地方は、太平洋からのやませが吹くため冷害になりやすい。やっと穂が出ましたが、例年より八日から十日遅れている。早い品種は穂が出ても実が入るかどうか分かりません。
十年前の大冷害の年、鵡川では半分以下の四二でした。十年前の冷害以降、耐冷性が強い品種になっているので、十年前よりましだと思う。低温対策として私は朝晩、深水管理をやりました。深水管理をやった人とそうでない人では相当の差が出ると思います。
十年前はコメの在庫がほとんどなくコメ騒動になりましたが、現在は二百万トン以上の在庫があるから大丈夫ではないか。しかし、流通業者などの買い占めや売り惜しみ、便乗値上げはあるかも知れません。今回の冷害を政府は喜んでいるのではないか。二百万トンを超えるコメの在庫を処理できる絶好のチャンスだと思っているのではないか。
私は水田を三町歩(ヘクタール)つくってですが、コメでは生活できません。農政不信は高まるばかり。国は規模を拡大しろ、十町歩、二十町歩にしろと、規模拡大をさせてきた。ところが米価下落で拡大した人ほどアップアップの状態です。
あげくの果てが減反政策に国が責任を負わないと言いだした。国は工業製品を輸出する企業のために農産物の輸入を拡大する政策を強めている。企業は献金できるが農家は献金しないので、政治は農家を大切にしない。選挙の時だけ、「農家の皆さん」といわれても誰も信用しません。
米価下落が経営を圧迫
北海道旭川市 農民
今年の夏は低温が続き、扇風機を使わなかった。
穂が出るのが十日くらい遅れた。それだけでなく、例年なら一つの株で出穂期間は三、四日ですが、気温が上がらないために倍以上の日数がかかった。実際にどの程度の収穫になるかは、もう少したたないと分からないが、旭川は、平年から七、八%ダウンで済むのではないか。
「きらら」や「星の夢」を作っているが、十年前と比べて一番の変化は米価の下落だ。あの頃は一俵一万五、六千円だったが、いまは一万二千円を切る価格になっている。十年前のガット農業合意で、市場開放になり農業とくにコメをめぐる政策が変わった。全国平均で四割も減反しているのにミニマムアクセスということで外国からコメが入ってくるようになり、いまでは年間八十万トン以上入ってきている。
昔は五ヘクタールもあれば専業でやっていけたが、米価の下落でとてもやっていけない。とくにここ四、五年で規模を拡大した農家が大変だ。高齢化した農家の水田を賃貸で請け負う形で規模を拡大しているが、一俵一万二千円の中から千八百円の賃貸料を払ったらやっていけない。十ヘクタールをこえると機械がすぐ傷むため、機械の買い換えなどが農家の経営を圧迫している。つまり規模拡大をやった農家ほど、米価下落の影響を大きく受ける。
いまWTO農業交渉が行われているが、また輸入拡大の道に進んでしまうのか、という不安を感じる。そういう中で農家は政治不信を強めている。