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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年7月号
世界的なイラク戦争反対運動の中、日本の演劇人たちが立ち上がった。「イラク攻撃と有事法制に反対する演劇人の会」の事務局を担う丸尾聡さんに聞いた。
──「演劇人の会」が呼びかけられた経緯をお聞かせ下さい。
アメリカがイラクを攻撃しそうだ、そして日本もそれに同調しそうだという機運が高まった時、「これまでのいろんな戦争に比べてもおかしいぞ」という気持ちが広くあったと思います。演劇人の中で、これまで反戦などのアクションを起こしたことのない人の間でも、今回は何かおかしいという空気がありました。
二月十四日に劇作家の永井愛さんから「私たちにできることがあるんじゃないか。戦争に反対する演劇人の会を開きたい」と呼びかけがあったのが「演劇人の会」のきっかけでした。二月二十八日に集会をもつことを決め、戦争に反対を表明し、会への参加を呼びかける賛同者を募ったところ、十七人から始まった呼びかけ人は一週間で百二十人を超えました。その後三百人を超えた賛同者は今も増え続けています。その顔ぶれは俳優、劇作、演出、照明、音響、美術、制作、音楽、劇団主宰、歌舞伎、狂言、新劇、小劇場、プロ、アマチュア…そうした区分けが無意味なほど、多彩な人たちが個人として賛同しています。
集会の構成を考えるにあたり、演劇人としてどんなアクションがもっとも効果的か話し合いました。一つは、マスコミに取り上げられ、多くの人がこの問題に関心をもてるようなものにすること。もう一つは「表現する」ことの中で、私たちの意思をアピールしようと考えたのです。そして、斎藤憐さんが中心となり、戦争に対して世界の人たちが感じたり思っていることを集め台本にし、朗読することになりました。これは、演劇の特質だと思います。演劇は誰かの小さな声を受け止め、俳優を通してよりシャープに、あるいはふくらませて劇場のお客さんに届けることができます。それに、いつも想像力を使っていろいろなものを表現している演劇人だからこそ、ミサイルが飛んでくるその下にいる人たちの気持ちを想像して代弁すること、心情を理解しようとすることができるんじゃないかという自負と責任感もありました。
多くの議論を重ねて作られた台本は、戦争に関する多くの文章や記事、戦争を直接体験した世界の子どもたちが書いた手紙が中心となり、力のあるものができたと思います。当日は満員となり会場に入りきれなかった四百人のお客さんが、ロビーの小さなモニターで中の様子をじっと見つめるという光景が見られました。翌日、事務局に四十件の留守番電話、百通のFAX、五十本のメールが届きました。会の最後に読み上げられた「小泉純一郎首相への手紙」と「世界の演劇人の呼びかけ」への賛同署名は、その後半月足らずで四千人を超えました。
その後、戦争中の四月五日にも集会を開きました。二月二十八日の台本に、その後のイラク情勢に応じて変更を加え、リーディングだけでなくジャーナリストの平田伊都子さんに講演していただきました。
四月五日の上演で使われた台本は、「もうけにならなくていいから」という汐文社の申し出を受けて出版されました(『あきらめない─演劇は非戦の力』)。平田伊都子さんのイラクレポートなども掲載され、読みごたえのある本ができたと思います。売り上げは経費以外は全てイラクの被害を受けた方々へ寄付されますので、ぜひ買って読んでいただければ思います。
──台本には、私たちは何をすべきかという視点があると思います。会の名称にも「有事法制に反対する」という言葉があり、その点が強く打ち出されていると思うのですが。
「ブッシュ反対」をいうだけなら誰にでもできますが、「僕らは何をすべきか」ということを考えていかなければ、独りよがりで説得力のない運動になってしまうと思います。
有事法制はいろいろな問題を含んでいるのに、非常にあいまいな議論の中で進められているのが一番の問題ではないでしょうか。僕個人の意見でいえば、日本自体が攻撃された時の問題と、同盟国が攻撃された時の問題が一緒にされ、ごまかされて進められているのが非常に危険だと思います。有事法制が成立すれば、例えば今回のイラク戦争のようなことが起きた時に、日本が直接、軍隊の一つとして行くことになるでしょう。これは大問題です。だからイラク戦争反対とあわせて、有事法制についても日本にいる一人一人が考えて声を上げるきっかけにしてもらいたいと思いました。
今回の戦争を通じて、日本は非常に恥ずかしい国だなと感じています。簡単に言うと主体性がない。小泉首相はブッシュの所へ行っては「わかりました」、ヨーロッパに行っては「わかりました」。非常に主体性がない。国民も、投票率が低かったり無関心な人がたくさんいますが、一つは、こうした日本という国に誇りがもてないからじゃないでしょうか。地方の過疎化がいわれますが、一番の対策は、自分が住んでいる町や村や国に誇りをもつこと、もてる場所にすることだと思います。誇りがあれば町や村や国のために一生懸命になれます。「パブリック」という言葉が、実際のものになるんじゃないでしょうか。だからまず、日本はどうあるべきか、日本の進路を思い描いていかないとだめです。その上での議論はなんでもありだと思うんですよ。
──今後の予定は。
八月にリーディングだけにとどまらないピースイベントを行いたいと考えています。
今後も全国でこうしたリーディングが行われる動きが継続してありますが、サポートしたり、一緒になってやっていければと考えています。これまでに私たちの構成台本をもとに、全国八カ所でその地域の方が中心となって会が開かれました。その中には、八人の仲間で集まってリーディングをしたところもあります。このようにグループで読んでもいいですし、例えばご家庭で、台本の一部を親が子どもに読んであげるという方法もあります。このリーディングが広がっていき、戦争や平和について考えるきっかけになれば嬉しいです。(六月五日談・文責編集部)
イラク攻撃と有事法制に反対する演劇人の会
<連絡先>川崎市多摩区登戸1504-201 電話044-900-9931 FAX 044-900-9213
<ホームページ> http://www009.upp.so-net.ne.jp/paix/
台本と会の記録
『あきらめない 演劇は非戦の力』
定価:本体1200円+税 汐文社 A5版・184頁