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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2003年5月号
財界のいらだち
日本経団連の奥田会長は来年四月から消費税を毎年一%ずつ、一六%まで引き上げる提言を行い、各方面から怒りの声が上がっています。
この提言の基礎となっているのは、今年元旦に発表された「活力と魅力あふれる日本をめざして」という経団連の文書です。なぜ逆進性が強く最大の不公平税制である消費税の大増税が「活力と魅力ある日本」につながるのか、まったく理解できません。
奥田会長はこの文書の中で、これまで財界が主導してつくった提言が「店ざらしにされている」と不満を述べている。また、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権に対しても「改革のスピードが遅い。政と官が改革を先送りしている」といらだっている。政府がやらないから経団連がビジョンを示し、政治にも口を出すと公言し、経団連の政策に賛成し実行する議員に献金をするという。これは政治家に対する脅しであり、財界のいらだちの表れです。
消費税については、一昨年の税制調査会の中期答申で消費税の増税が出され、昨年六月の政府税調でも再度明確に打ち出されました。したがって消費税の増税は政府の基本方針です。しかし、消費税など大衆増税をかかげた歴代の自民党は選挙で何回も大敗しています。だから小泉首相も「任期中はやらない」と言わざるを得ない。
消費税増税が政府の基本方針なのに、なぜ政治家はやらないのか。奥田会長からすれば、政治的な「逡巡」とうつる。そこで日本経団連として消費税一六%というのろしをあげた。財界の親玉が言っていることだから浸透力があります。政治に決断を迫り、消費税やむなしの世論をつくろうとする危険なものです。
社会保障費のためというが
経団連の文書によると、消費税増税の必要性を社会保障費の増大に求めています。しかし、それは社会保障の維持・充実・発展を求めているわけではありません。逆に社会保障の抑制が本音で、社会保障は自己責任でやるべきだと述べています。財界が恐れているのは「国際競争力」の弱体化の原因になる社会保険料など企業負担の増大です。企業負担の社会保険料は税法上は損金となり転嫁可能だが、消費税の方が大企業にとっては都合がいい。それは輸出企業の場合は仕入などに含まれている消費税が全額還付されるからです。
政府にとって消費税は打ち出の小槌です。来年度から免税点が三千万円から一千万円に下がりますから消費税一%で三兆円近くの税収になります。輸出の還付を引いても二兆八千億円ぐらいになると思います。
一%の増税を二兆八千億円と仮定すると、第一に基礎年金の国庫負担問題が解決できる。国庫負担を現在の三分の一から二分の一にするには約二兆七千億円の財源が必要といわれていますが、消費税一%増税で実現できる。第二に、社会保障の国の負担を増やし、その財源を消費税増税でまかなう。消費税を五%引き上げれば十四兆円ですから、現在二十五兆円の社会保障の企業負担を半分程度にできるということは見込んでいると思います。つまり、六%引き上げ(一一%)で、基礎年金の国庫負担二分の一の実現と、財界の社会保障負担の増大が防止できるというのが経団連の計算だと思います。
しかし、日本の場合、社会保障費の企業負担はGDP比五%で、これは米英より高いものの、ドイツの三分の二、フランスやスウェーデンの四割程度です。日本の大企業はもっと負担を増やすべきです。
財界の本音
経団連のねらいは社会保障費の増大防止だけではない。消費税増税を財政赤字の縮減と法人税の実行税率の引き下げに使いたいというのが本音だと思います。
財政赤字については、現在日本は巨額の政府債務を抱えており、遠からず国債の暴落や金利上昇などの危険性があります。政府は二〇一〇年頃までにプライマリー・バランスの均衡化、つまり国債の発行は国債費支払いの枠内に止め、国債累積増加を防ぐことを目標にしています。これを財界は法人税の増税など財界の負担ではなく、消費税増税で解決しようとしています。具体的には一六%のうち五%(十四兆円)は財政赤字の縮小に使う。そうすればプライマリー・バランスが達成できるという計算のようです。
法人税は、国際的に比較して高いという理由で、実効税率が四〇%弱まで下げられてきました。財界の要求はアジア諸国並みの二五%程度まで下げたいと考えている。当面の財源は課税最低限の引き下げ、つまり中低所得者への負担増で乗り切り、将来的には消費税増税を充てたいということでしょう。
法人税も所得税も、累進的な課税をやめて減税したので税収が不足してきた。さらに長期不況で税収が落ち込んだ。少子高齢化の中で社会保障の負担をどうするのかと選択を迫り、消費税の大幅な引き上げを浮上させています。
財界の戦略は非常に明確です。小泉首相も増税の姿勢は同じです。公明党や自由党も増税に引きずられていると思います。
消費税の増税は今のデフレ不況と政治情勢の中で言いにくい。しかし地方選挙が終わり、年内の可能性がある総選挙後には消費税問題が具体的に浮上してくるのではないか。
毎年一%ずつという経団連の提言は、国民の反抗を緩和するための、比喩的にいえば「茹で蛙」作戦です。蛙をぬるま湯につけておくと、蛙はいい気持ちになっている。徐々に温度を上げていっても蛙はお風呂からあがろうとしない。しかし、一定の温度まで熱すれば蛙は茹であがって死んでしまうという笑えない話です。
国民生活の破壊
財界は満足でしょうが、国民は大変なことになります。
賃下げ、リストラによる失業者が増大しています。またサラリーマンの医療費三割負担、介護保険料の引き上げ、年金給付の引き下げなど社会保障が次々と切り捨てられています。さらに低所得者への負担増になる課税最低限の引き下げが、今度の税調で、具体案が出されるのではないかと思います。
その上、逆進性の強い消費税の引き上げが加われば国民生活の破壊です。いま消費税は五%ですから、単純平均すると年間一人十万円の負担です。四人世帯なら四十万負担している。一六%になれば負担は三倍以上。サラリーマンの収入の平均を五百万円とすれば二割五分がとぶことになります。
中小企業も大変です。消費税の免税点が三千万円から一千万円に下がりましたので、百五十社の中小零細企業が課税されることになると思います。また、赤字企業にも課税する外形標準課税は、当面は資本金一億円以上の大企業のみの導入で決着がつきました。しかし、何年かすれば大企業だけでは不公平だと意見が出されて中小企業にも導入しようという動きになると思います。その上、消費税をなかなか転嫁できない中小企業にとって消費税引き上げは死活にかかわる大問題です。
だから国民はもっと怒るべきです。日本人はおとなしすぎると思います。何年か前、スウェーデンでは社民党政権が四百日の育児休暇手当の九割給付を八割給付にしたら大ストライキが起こった。またヨーロッパの付加価値税の時に商工会は激しく闘った。日本の労働組合も中小企業も国民全体ももっと怒りの声を出すべきだと思います。(文責編集部)