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『日本の進路』地方議員版41号(2008年11月発行)
私は昨年4月の統一地方選挙で初当選して、この間、議会では特に日雇い派遣・派遣社員などの非正規雇用の問題に取り組んできた。
それは私自身、11年前の大学卒業後にグッドウィルの日雇い派遣や土木現場など様々なアルバイト、アサヒビールの派遣社員など非正規雇用で働く当事者だったからでもある。
グッドウィルの違法派遣は昨今の報道で世間に知るところとなったが、これは今に始まったことではない。私の場合は、地方に2週間ほど出張してパソコン設置作業の仕事を経験したが、現場では話がまったく食い違い、誰でも出来る簡単なパソコン設置作業のはずが、現場では私をプロのパソコンエンジニアとして扱う。交通費は全額支給のはずが、後になってJR在来線しか交通費支給しないという。2週間の仕事のはずが休みを入れられる。
仕事の労働条件も指揮命令系統もいい加減なもので、1人で何度もグッドウィルに対して抗議・交渉した。最終的には交通費も給与も当初の条件通り支払われることになったが、こうした事例の大半は泣き寝入りで、マスク1枚でアスベスト除去作業や資格もないのに溶接作業、着の身着のままでホテルの汚水層の清掃等、悪質な事例が多数報告されている。
アサヒビール神戸支社に派遣社員で働いていた時は、私が登録していた派遣会社では社会保険も完備され、労働条件も残業代は法定通り支払われ、有給休暇もあり、労働基準法が遵守され労働条件はしっかりとしていた。他の派遣会社から派遣された同僚は社会保険も残業代も有給休暇も一切なし。
派遣の場合は正社員と違い給料が上がることはまずない。ボーナスもなく半年毎の契約更新。契約更新の時期が近づくと、果たしてこのまま働くことが出来るのだろうか? また仕事を探さなければいけないのだろうか? と不安な気持ちにかられた。給料も上がることもなく身分も保証されない状態で5年10年と働き続けられるかと問えばNOである。
結婚したくても経済的な理由で結婚できない、結婚して子どもがほしいが経済的な理由で子どもを産むことをあきらめてしまっている若い夫婦が増えているが、こうした不安定な雇用条件ならば当然ではないだろうか。しかも派遣労働の細切れ化は更に進み、最近では3カ月や1カ月毎の契約更新もざらにある。
10月19日に行われた「反貧困世直しイッキ大集会」(写真)の労働分科会では、マクドナルドの名ばかり店長、すかいらーく契約社員の過労死、松下プラズマディスプレイの偽装請負など当事者の方からの報告がされたが、正社員ではない非正規雇用が約1700万人を超える中で、これもおそらく氷山の一角で相当数の労働者が不当行為にあっているのではないだろうか。
ここで、日雇い派遣の問題点について次の通り指摘する。
(1)健康保険・雇用保険・労災などの社会保険が一切ない。
(2)賃金が安い。
派遣業の場合、中間マージンの規制はなく、かなりのピンハネが横行しており労働者に払われる賃金がかなり安い。
しかも交通費もないため、実質の手取りは1日6000円程度。
私が実際に見た例では、企業が派遣会社に払う金額は1日1人1万5000円。派遣会社が中間マージンを抜いて派遣労働者に払われる金額は交通費込みで8000円。1人派遣するだけで派遣会社は7000円ものボロ儲け。
(3)毎日仕事があるかどうかわからない、仕事が不安定。
派遣会社に登録をしていても前日にならないと仕事の有無が分からない。数社登録していてもまったく仕事がない日もざらにあり、これでは収入も生活も安定しない。
(4)仕事の能力・スキルを身につけることができない。
毎日現場も仕事内容も、一緒に働く仲間も違い、毎日初めての仕事で現場の要領も分からない。毎日が初めての新人状態にもあるにもかかわらず、仕事のミスがあると「使えない奴」となり、過度なストレス・プレッシャーとなる。
毎日同じ仕事・アルバイトであれば、正社員・上司・アルバイト同士などの人間関係もでき、敬語・挨拶など社会人としてのマナーも身につき、仕事も覚えて、一生懸命働いているうちに「正社員にならないか」「うちで働かないか」など声がかかり正社員に登用される例もあるだろう。しかし、毎日の現場・仕事内容が違い単純労働の繰り返しでは、何も仕事のスキルが身につかない、人間関係もできない、一生懸命頑張って働いても報われない環境にある。
こうした問題はあまり報道されていないが、私はこれが一番自立を阻害する要因になっていると考える。
(5)指揮命令系統がバラバラ 。 (4)で指摘したことと似ているが、毎日現場やスタッフが違うために誰の命令でどういう立場で働いていいのか分からない。
事前にどんな仕事内容で、誰の指揮の下で働いていいのか、派遣会社からきちんと説明があるわけではなく、指揮命令系統がいい加減なために、本人はどうしていいのか分からない。
非正規雇用の問題は政治の責任である。労働者派遣法が企業側の都合のいいように次々と法改正・規制緩和され、私が派遣で働いていた10年前から非正規雇用は急増して労働者の3人に1人、1700万人を超えた。しかも働いても生活保護基準以下の年収200万円以下しか稼ぐことが出来ず、まともな生活すら出来ないワーキングプアは1000万人を超えている。日雇い派遣は即廃止、派遣労働法は抜本的に見直すべきである。現在議論されている小手先の手法だけでは状況は一向に改善されようもない。
そして、いくら法律で厳しく取り締まろうとも、反貧困集会の報告のように、企業の現場では偽装請負や違法派遣など、当たり前のように不当行為が横行している。これに対して、現場の勤労者が声をあげるための労働組合が必要である。近年派遣社員・アルバイト・日雇い派遣など非正規雇用の労働組合が結成され活動が盛んになってきていることは朗報である。
そして、「反貧困ネットワーク」(代表・宇都宮健児弁護士、事務局長・NPO法人自立生活サポートセンターもやい湯浅誠事務局長)のような市民団体・NPO・弁護士・司法書士など、従来の同質の集まり、縦割り組織でなくて、異質の横のつながりを広げた新しい市民運動に期待をしている。同質の集まりは足し算にしかならないが、異質の集まりは掛け算になるという言葉の通りで、昨年発足されたこの団体の取り組みはマスコミにも注目され始めている。
「政治」「労働運動」「市民運動」、この三位一体の取り組みが重要ではないだろうか。