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『日本の進路』地方議員版38号(2008年2月発行)
いま全国の自治体病院が医師不足と財政赤字を抱えて危機的な状況にある。総務省は昨年12月24日、全国の都道府県と市町村に「公立病院改革ガイドライン」を送付し民営化まで視野に入れた「改革」を迫っている。氷見市民病院は、昭和23年に氷見郡国民健康保険団体連合会が氷見郡厚生病院として設立。その後富山県厚生農業協同組合連合会に経営を委託。昭和36年に氷見市直営の氷見市民病院となる。診療科目は20科目。病床数368床、職員定数364名(内常勤医師37名)の氷見市内唯一の総合医療機関である。しかし、医師不足等で脳神経外科の医師がいなくなるなどの問題を抱えていた。そういう流れの中で堂故茂氷見市長は富山県・氷見市民病院の公設民営化の道を選択した。この氷見市民病院の「公設民営化」問題は全国の自治体病院に共通の問題を投げかけている。現地の古門市議に聞いた。(インタビュー 文責 編集部)
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市民病院の窮状は
昨年の11月に臨時議会が開催され、今年の4月から氷見市民病院を金沢医科大学(私立)を指定管理者とする公設民営化の議案が上程され、私たち市政クラブ(3名)と無所属1名が反対しましたが賛成多数で可決されました。
氷見市民病院は診療報酬の引き下げや新研修医制度など国の医療費抑制政策の下全国自治体病院と同じように赤字経営に有りました。その大きな要因は医師不足と看護師不足です。現在7名の医師が不足し産科が休診、泌尿器科・耳鼻科が非常設となり、脳外科・小児科も万全な診療体制ではなく、加えて看護士も平成17年度に24名の退職者が発生し1病棟休止の状況にありました。それに加え一昨年脳神経外科医の転出により救急対応が困難になると同時に経営の悪化を増進させることになりました。
脳外科医一人で少なくとも2億円の医療収入。それがなくなったことから平成18年度は市より7億円を病院会計へ繰り入れします。しかし5億円については国の3憶2千万円の交付金と市の負担分を合わせての法定繰り入れ分。赤字補填は2億円。
このように氷見市民病院は赤字経営化にあるとは言っても、医師不足・看護師不足が解消されれば経営改善の展望が無かったとはいえません。そして人件費についても病院改革特別委員会では人件費比率は50%を目標としており、退職者による要因があったとしても目標を達成するに至っていました。
氷見市では「平成の大合併」を行わず単独市政を選択しました。その決定後に平成15年から18年の4年間で58億円もの財源不足が生じるとして試算。
財政改革として市財政の見直しを図り実施。市職員の賃金カット、当時の人事院マイナス勧告と合わせ5%を2年ほど実施し解消を図ります。
ところがこの財源不足を主張していた氷見市が平成17年に企業へ助成金を出す為の条例改正を行ったのです。日本ゼオンの子会社「オプティス」へ3億円ずつ5年間の15億円、その他4社へ4憶7500万もの助成金。その総額は20億円を越えるものです。
勿論これらは市単独助成金ですから、今後の氷見市財政を逼迫させることは容易に想像できます。それに全国で起きている医師不足から医師補充が出来ないことから来る今後も続くであろう病院赤字。そのことから病院赤字は氷見市の財政を破綻させるという市民へのでたらめ宣伝として使い民営化の大義名分化させていったといえます。そしてこのでたらめの理由付けを病院職員の給与が高額であるという嘘で固めていくことになります。
「長委員会」の民営化推進路線に委ねる
昨年3月議会において市長は「病院経営について高い見識と実行力を持った専門家の力などを借りたいと考え、国にその適任者について相談する」と表明。4月に氷見市民病院改革委員会が立ち上げられ長隆氏(東日本税理士法人代表社員)(注1)と同氏が選んだ4名(注2)に氷見市と病院の代表者が加わって審問が始まりました。長氏は「市民の声は聞かなくていい。市長と議会と決断すればいい」「改革はスピ−ドが大事だ」と2ヶ月3回の会議で公設民営化が良いと5月25日に答申を出します。市長はそれを受けて6月議会で「公設民営化が最良の道であるかどうかを含め検討する」としながら、7月20日検討内容も明らかにせず、「公設民営化、これしかない」と発表します。
8月20日から市内6会場でタウンミ−ティングを開催し、病院の赤字の一番の要因は病院職員の高い人件費にあると公務員労働者を攻撃非難しながら、このまま病院の赤字経営が続けば市の財政は破綻します、と公設民営化しかないと公設民営化方針を公表しながら市民の合意形成を図っていくのです。
これらの拙速で嘘とごまかしで進められる民営化のありきの進め方に抗議し、市民医療の再生を市民の力で実現する為に「氷見市の医療を考える会」を結成。この会を中心に私たち3名の市議会議員、県議、市職労、支援労組などと共に「市民病院の再生と存続」を求める請願署名活動に取り組みました。そして氷見市有権者4万7千人の過半数を超える2万4774名の署名が寄せられました。
ところが9月議会ではこの請願は13対4で否決され、さらに指定管理者を導入できる条例が可決されてしまいました。
それにより氷見市民病院指定管理者の全国公募が行われ、10月4日の締め切りには地域医療振興協会と金沢医科大学の二者が応募。ところが5日には地域医療振興協会が辞退をして金沢医科大学のみが残ることになりました。
応募基準に合致しているという理由から再公募は行わず、一者のみの選定が富山大学病院長を委員長として金沢大学病院長や市の代表者らを委員を構成する選定委員会で行われていきました。
医師の不信感
選定委員会では金沢医科大学独自での医師派遣能力が疑問視されたことから医師確保が議論されました。その結果医師確保策として富山大学、金沢大学、金沢医科大学の3大学協議会を設置し確実な医師確保を行うことを求めました。また名称についても金沢医科大学から提示していた「金沢医科大学氷見病院」では付属病院としての名称であり修正が必要と問題になりました。金沢医科大学に修正を求める中で「市民」を加えただけの「金沢医科大学氷見市民病院」を受け入れることになって行きます。この10月28日の最終である第3回選定委員会には市民病院の医師、管理職の8割が病院の名称変更と、金沢医科大学への選定に対して疑問であり検討する時間の保障を求める要望書が提出されました。しかし、これらの要望を一切無視して金沢医科大学を指定管理者とすることに内定していきました。
それを受けて11月臨時議会では金沢医科大を指定管理者とする議案が上程されますが、その前日には病院長をはじめ幹部の医師6名が市長と議会に対して「金沢医科大学が示した主な提案概要では、医師の残留が困難」とする申し入れ書が提出されましたが耳を貸さず、議決をしていきました。
12月議会は病院の名称変更と条例中の職員数の定数変更、事務関係職員35名の部署変更と看護士をはじめとする病院職の定数ゼロとする内容の議案を可決。
長委員会が答申をして6月に市には改革プロジェクトチ−ムが結成され公設民営化の検討が始まりました。その中で指定管理者の予定候補選定も進められました。市では地域医療振興協会を最重要候補とした向きがあります。そのことは医師の皆さんにも伝わり公設民営か止むなしとなっていったようです。その背景には市民病院の医師団に不足する部分の補充を地域医療振興協会に求めることによって民営化移行が容易に進められるとの判断が働いたのでしょう。
ところが予想に反し金沢医科大学が指定管理者となっていく。市民病院の医師は32名でそのうち20名は富山大学からの派遣です。これまでは富山大学の各教授の指導・協力のもとで日々の診療を行ってきた各医師が、金沢医科大学の教授などの指示系列に組み込まれ、金沢大学の臨床教授などとなり教育職と診察や治療を求められるなどの不安が生じてきたのです。このような現実に起こる問題を解決せず、一切医師の意見に答えない市長、議会に医師の不信は増大していき3分の2の医師は去っていく現状にあります。
さらに選定委員会で三大学協議会の設置が条件になっていたことから設立準備会が2回開催されましたが、準備会の議長である富山大学病院長から、現場の医師への指定管理者導入の説明、市民病院の名称の再検討、医師の身分継続と教育職の弾力対応、指定管理者導入に2年程度の移行期間を設けることの4点の再検討を求められたが拒否したことから富山大学は準備会から離脱していきました。
できレ−スの「公設民営化」明るみに
11月議会で金沢医科大学が指定管理者に決定されたので金沢医科大学では市民病院内に準備室を設け4月の公設民営化の開設に向け準備を進めています。
医師、看護師確保が始まっていく中で医師、管理職、看護師、医療スタッフに対して説明会が行われました。
その説明会で金沢医科大学病院の竹越副理事長の説明から、市長より昨年三月に指定管理者制度も念頭において市民病院の経営を依頼したいと公式に申し入れを受けていた事が明らかになりました。
4月に長委員会(市民病院改革委員会)を設け検討を始めていきますが、すでに根回しを終えており、議会も騙し、市民も騙し、地域医療振興協会も騙して来たのです。要するに全国に広く一般公募するとしていたものが実質は金沢医科大学と地域医療振興協会との両者に随意契約を行っていたと同じ事です。金沢医科大学は、氷見市は二股をかけていたのかと激怒しながらも応募書類提出し、地域医療振興協会は何も理由を言わず応募を辞退するという結果になったのです。地域医療振興協会は氷見市の非礼さに腹を立てながらも何れの大学とも協調して行かなければならない立場から引き下がったものと考えられます。また金沢医科大学は森喜朗衆議院議員が顧問をしている大学であり、政治的圧力もあったのではないかと推測がささやかれもしました。(大臣就任までは顧問料が支払われていたと聞く)
組合否認、不当労働行為を重ねる市
氷見市民病院の指定管理者制度移行は、昨年4月に「市民病院改革委員会」を設置して以降市民への十分な説明責任を果たさないばかりか、医師や看護士などの意見もまったく無視したまま拙速かつ混乱の中で進められてきました。これに対して自治労県本部「氷見市民病院民営化阻止闘争本部」は連合や市民グル−プと連携し「市民病院の直営堅持」を求めつつ、11月に金沢医科大学が指定管理者に正式決定してからは、「市職員の身分を保持したままでの派遣対応」など誠実な労使交渉とその合意に基づく雇用・労働条件の確保を市に求めてきました。しかし市は「指定管理者に再就職する以外に道はない。それが嫌であれば分限免職しかない」との組合否認の姿勢を露にしてきました。
そのため闘争本部は12月20日から26日に全県動員体制(延べ600名超)により、「雇用確保の年内決着」を目指した市交渉・庁内座り込み行動が展開されました。市長からは「派遣は改革の根幹を否定するものであり、絶対に認められない」として交渉は決裂。12月27日から1月10日を期限とする指定管理者金沢医科大学による「優先採用公募手続き」が個々の職員に配布されて行きます。
しかしこの公募手続きには事前の意思統一よる労働組合への「取り扱い委任状」を背景に一切の応募を拒否したことから、一部管理職の若干名の応募に留まりました。そのため改めて1月28日を最終締め切りとする「第2次募集」が始まりました。
年末からこの間、市長、病院長、金沢医科大学より職員宛、家族宛と合計7通もの文書が送付されました。第2次募集になってからは募集に応じなければ優先採用や給与激減緩和などの優遇措置はなくなるなどと「脅迫文書」を送りつけ、職場では「手続きは電話でもOKだから、組合に相談せず個人の判断で決めなさい」「他の病棟では募集に応じ始めている」などの不当労働行為・デマ宣伝を執拗に展開してきました。
協定破棄、断交拒否をはじめとする不当労働行為救済申し立ては1月28日に3回の審問を終り3月に結審が出る予定です。
市民の命が最優先
市民医療と雇用を守る為の苦渋の選択
このような異常ともいえる市の対応に加え、病院側では転院可能な入院患者を調査したり、私たち以外の2会派から市長に「規模縮小もやむなし」とする申し入れがなされたり、氷見商工会議所会頭など9団体のトップが名を連ねた「氷見市民病院の公設民営化を推進する会」なる団体が1月23日に「労働組合が反対しているから市民病院を縮小せざるを得ない」との趣旨で新聞折込みをするなど、公設民営化の公約であった医師35名以上の確保と20診療科の継続が労働組合への責任転嫁へと動きを強めました。
このことから労働組合では、このままでは市民病院に働く仲間の雇用や生活が守れないだけではなく、組合が一方的に悪者扱いされたまま入院患者をはじめとする市民医療が犠牲になるなど最悪の事態が十分想定されることから、どんな事があってもこの事態を回避し、でたらめで異常な市から病院職員の生活と市民病院を守ることを最優先して、28日に応募に応じることになりました。
この決断をした25日の全員集会では、この判断につき「裁判闘争も辞さずとしていたが、もはやその戦術は不可能なのか」「病院当局や市長の不当なやり方がまかり通るのは我慢できない」「市長にはこの間の対応については謝罪して欲しいし、市民に職員の賃金が高いとの説明は誤りだったと周知してもらいたい」など憤懣やるかたない意見が出されました。
市とは、市長から職員に対する明快な謝罪を表明する、4月以降も将来にわたって全員の雇用に市が責任を持つ、現状の賃金・労働条件は極力守る、を文書確認した上で全員が28日までに公募に応じる事が井上医療評議会議長の「悔しい思いは誰も持っていると思うが、これで戦いは終わったわけでないし4月以降も我々は戦い続ける。今回は最悪の事態を回避する為の判断であり、是非理解して欲しい」との集約とともに、全員、悔し涙に咽びながら拍手で確認していきました。
私たちはこれで公設民営化の問題は完結したとは言えず、これからの医師確保をはじめとする市民医療と地域医療の充実を目指し取り組みを展開していきたいと思います。
(談 文責編集部)
(編集者注1) 長隆氏とはどういう人物か
長隆氏は公認会計士として「病院改革」に関わって来た。例えば埼玉県立病院改革推進委員会平成12年肩書きは「公認会計士、自治省地方公営企業経営アドバイザー」となっている。総務省は「地方公営企業経営アドバイザー制度」を設定。公立病院は大部分が赤字を抱えており、不採算部門として自治体財政と切り離すよう誘導している。長氏は総務省の地方公営企業アドバイザーとして全国の「公立病院改革」の陣頭指揮をとった。最近では愛知県・国保東栄病院、京都府・国保大江病院、夕張市立総合病院など「改革委員会」で「公設民営化」へ誘導した。シンクタンクとして株式会社シス研を動員して財務分析を行い民営化しかないと結論付ける手法である。「改革はスピードが必要」と数ヶ月で結論を出し、議会で議決するというのも定式化している。「公立病院再建」とはいうもののその実際は公立病院の民営化を推進しているのが実際の姿である。昨年12月24日総務省が全国の地方自治体に通知した「公立病院改革プログラム」作りに関与した。
(編集者注2) 長委員長が同行した4人のメンバー
いずれも「」は第1回氷見市民病院経営改革委員会会議録の長氏の紹介発言より抜粋
長松宜哉(特定・特別医療法人関愛会理事長)
「佐賀関病院院長ですが、総務省経営アドバイザーに高く評価されている自治体病院の民営化を成功させた、自治体病院のモデルになっている病院長」
佐野利昭(社団法人全国社会保険協会前常務理事)
「厚生省の要職にあられた方ですが、社会保険庁の病院、所有者は国ですけれども、名前は『社会保険病院』。53の社会保険病院と厚生年金病院などを、53病院と18の老健施設をすべて黒字化し、退職引当金もほぼ100%、それから減価償却費も全部積み増したという画期的な成果を陣頭指揮された方」
中村彰吾(聖路加国際病院事業管理部長)「有名な聖路加国際病院の危機的な状況の中から、長年、経営の最高責任者を日野原先生の側近としてやってこられた方です。世間では聖路加国際病院はお金持ち病院と言われていますが、患者さんがお金持ちで、病院が決してお金持ちではないわけです。日本でトップクラスの病院の経営のノウハウは、中小病院であっても参考になる」
樋口幸一(総務省地方公営企業アドバイザー)「大手会計法人で医療、ソフト関係の最高責任者をされて、病気で退任されましたけれども、現在、私の後任として、総務省の現職のアドバイザーで全国の指導をしている大変力量のある公認会計士」