国民連合とは代表世話人月刊「日本の進路」地方議員版討論の広場トップ


自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2008年7月号

燃料高騰 漁業者は存亡の危機
 国は漁業を守る緊急対策を

 

全国漁業協同組合連合会広報担当次長  飯川 修さん



 異常な原油高騰が各産業と国民生活に大きな影響を与えている。とりわけ漁業への打撃は深刻で、全国いか釣漁業協議会は6月18日に一斉休業し、国に緊急支援を訴えた。国民の水産食料を支える日本漁業の窮状について全漁連の飯川修・広報担当次長に聞いた。(インタビュー 月刊「日本の進路」編集部)

日本漁業の存亡の危機

 大部分の漁船に使われる燃料はA重油です。A重油1キロリットルの価格は2003年当時、3万9000円でしたが、2007年が6万8900円、今年6月が10万6600円、7月の予測値が11万2600円です。2003年と比較して約3倍、昨年と比較しても約1・6倍と高騰しています(次頁参照)。これが生産者(漁業者)にとってコストアップになっています。
 原油高騰で、様々な産業や国民生活に大きな影響が出ています。その中でも水産業は燃料に依存する比率がきわめて高い。6月時点での価格で試算ですが、ハイヤー・タクシーはコストに占める燃料費は7%くらいです。乗合バスで約9%。一方、漁船の場合は40%を超しています。常に自家発電をしており、とくに集魚灯を使うイカ釣りや夜の漁業はコストの5割近くが燃料費です。
 これに対して漁民の収入となる全魚種平均産地価格は、細かくは変動がありますが、年々低下しています。コストは上がり、収入は減少するというダブル・パンチです。出漁しても燃料高騰で赤字が増えるばかり、廃業の危機に直面しています。
漁業の場合、入札方式(せりなど)で価格が決められるため、生産コストの上昇分を漁獲物の価格に転嫁しにくいという特殊性があり、漁業者の自助努力の限界をこえています。
 このままでは短期的に見ても原油の指標となるWTI原油が1バーレル150ドルくらいになると、日本に入ってくるドバイ原油は140ドルになります。その場合、A重油の末端価格は1キロリットルあたり現在の約11万円から13万円くらいになります。13万円になったら日本の漁業はどうなるのか。まず漁業経営体は現在の12万5千(2005年)のうち、2万3千〜4万5千経営体(18〜36%)が廃業になります。30%の漁業経営体が廃業に追い込まれます。これに呼応するように現在の漁業就業者21万人(2006年)のうち、5万〜8万5千人(24〜40%)が離職する。約6万人が離職せざるを得なくなります。
 その結果、漁業生産は現在の567万トン(2005年)から180万〜270万トン(32〜48%)の減少になってしまいます。現在、日本の水産物の自給率が59%と言われていますが、これが大きく低下せざるを得なくなります。国の政策で自給率のアップを掲げていますが、アップどころか低下してしまう。

漁業者の窮状を訴え
7月15日に全国一斉休漁


 かつて日本の水産業は、自給率160%をこえ、「水産王国・日本」と言われた時代がありました。ところが、200カイリ問題、イワシなど大衆魚の漁獲量の激減、国民の魚離れなどで、漁業者が減少し、自給率が低下してきました。それでもこれまでは水産物はどんどん輸入できていました。
 ところが、BSE問題、鳥インフルエンザ問題、ヘルシー志向などで、ヨーロッパ、アメリカ、中国など世界的に水産物に対する需要が増加しています。昨年の漁業白書にはじめて書かれましたが、『買い負け』という状況にあり、輸入に頼れない状況になっています。だからこそ、国内の供給量を増やして自給率を高めなければなりませんが、この燃料高騰で日本の漁業は存亡の危機に立たされています。
 そういう中で、国民の皆さんに漁業者の窮状を訴えてご理解してもらいたいということで、7月15日に一斉休漁することになりました。6月30日の通常総会で特別決議を行いました(別掲参照)。「燃油価格の高騰に対する必要な補てん措置を講ずること」というのは、漁業者の生の声です。ただ特別決議で一番訴えたいことは、「このまま推移すれば、国民への水産食料の安定供給の責務を果たせなくなるばかりか、地域の経済・社会に重大な影響を及ぼすことが懸念される」ということです。
 水産基本法には、「水産物の安定供給の確保(第2条)」について規定されています。「水産食料の安定供給ができなくなる」ということは、漁業が国として必要なのかどうかが問われている状況です。農業と同様に漁業は、国民の食料の自給・安定供給という独立国として重要な課題を担っています。
 原油価格の暴騰は、漁業者の自助努力の限界を超えています。このままでは優良な漁業者、つまり借金の少ない漁業者は漁業から手を引いてしまう。農業と同様に後継者が少なくなっているところに、若い人たちが辞めてしまったら日本の漁業はどうなってしまうのかという危機感が強まっています。
 7月15日は全国一斉休漁で漁業者の窮状を国民に訴えたい。あわせて、午前11時から日比谷野外音楽堂で集会とデモを開催する予定です。ぜひ、国民への水産食料の安定供給を担うべき漁業者の窮状をご理解いただきたいと思います。国民的な理解の下で、日本の漁業を守る緊急対策を訴えたい。(文責編集部)

********************************************************************

燃油価格高騰対策に関する特別決議

  原油価格の暴騰により、全国の漁業・漁村は今まさに、息の根を止められようとしている。
  漁業者の自助努力はもはや限界を超え、出漁の断念や廃業者の発生など極めて深刻な事態にある。
  このまま推移すれば、国民への水産食料の安定供給の責務を果たせなくなるばかりか、地域の経済・社会に重大な影響を及ぼすことが懸念される。
  かかる緊急事態に鑑み、下記事項の実現を政府・国会に強く求めるものである。



1.わが国漁業を存続させ水産食料の安定供給を図るため、燃油価格の高騰に対する必要な補てんを講ずること。
2.経営存続のため、税制及び金融措置等における抜本的な対策を講ずること。
3.投機資金の国際原油市場への無秩序な流入を規制する国際措置を求めること。
 2008年6月30日
         全国漁業協同組合連合会 通常総会