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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2008年6月号

史上最悪の医療制度
  「うば捨て山」法は即刻廃止せよ


福岡県歯科保険医協会・事務局長  岡ア 誠

 
1.与党内部からも厳しい批判が

 いま国民の中に4月に実施された「後期高齢者医療制度」に対する不安と怒りが急速に広がっている。
 5月23日には、野党4党が参議院に「後期高齢者医療」廃止法案を提出した。
 年明けから、全国で広域連合および自治体が行政区単位で同制度の説明会を開いたが、参加者からは、制度の内容を知るほどに廃止を求める声と怒りが広がり、制度の凍結・中止・撤回を求める意見書を採択した自治体は581にのぼっている。
 4月1日に同時に実施された診療報酬(『医療=命の値段』)では、75歳以上の後期高齢者医療の診療報酬の支払いに、「外来」「入院」「在宅」「終末期」のすべての分野で、74歳以下とは差をつける項目が盛り込まれた。外来の診療に包括医療(定額)が導入され診療内容が制限され、入院・在宅にも別建ての診療報酬体系をつくって退院を余儀なくされる、終末期の医療を限定し、在宅医療に持ち込めば評価をするなど、医療に差別が導入されてしまった。
 あまりの残酷な内容に、制度を創った側の政府与党からも6月中に「低所得者層への保険料負担軽減措置」を軸に運用面での見直し案をまとめる方針が出されている。
 中曽根康弘元首相をはじめとする与党内の重鎮と言われる方からも批判が出てきており、自民党・堀内光雄元総務会長などは「日本は世界一の長寿国である。国民が安心して老後を過ごせる制度を作るのが官僚、政治家の仕事だ。長年にわたり、日本の発展に貢献してきた高齢者たちに、寂しさや悲しさを感じさせるような国に未来はない」とまで言い切っている。

2.高齢者の医療を確保しない
  「高齢者医療確保法」


 「医療費が際限なく上がっていく痛みを自分の感覚で感じ取っていただくことにした」(1月18日、石川県でのフォーラムでの、厚労省高齢者医療制度施行準備室室長補佐・土佐和男氏講演より)。
 土佐氏は、新制度の保険料の4割を75歳未満の世代が背負い、その金額が医療費の高低によって左右される。「助け合いや予防活動などで保険料が下がり、誰のために保険料が上がったのか、誰が努力して保険料が下がったのかがはっきりみえる形になった」と語ってもいる。

この制度をまとめてみると
●暦年齢で「前期」と「後期」に振り分ける不合理さ
 @75歳以上を「後期高齢者」と区切り、独立した保険に強制加入させる
 A90歳でも100歳でも、死ぬまで保険料が年金から天引きされる
 B保険料は、2年ごとに自動的に値上げされる仕組み
 C「老人保健法」にあった「健康の保持」(第1条目的)が削除され、「医療費の適正化」を盛り込む
 D保険料を滞納すれば「資格証明書」が発行され、事実上医療が受けられない
 E75歳以上を差別し、医療を抑制する「うば捨て保険」
●厚労省が主張する、後期高齢者の「心身の特性(3つ)」
 @老化にともなって治療が長引き、複数の病気、とくに慢性疾患がみられる
 A「認知症」の人が多い
 B後期高齢者の医療制度のなかで「避けられない死を迎える」
 (以上、厚生労働省・社会保障審議会「後期高齢者医療のあり方に関する特別部会」報告)
●徴収(取り立て)はしっかり、給付(サービス)は抑制
●「前期」は「若い」=だから現役並みの負担を強制
 ※70歳から74歳の窓口負担は2倍に、年金 給付開始年齢も75歳からという可能性も?

3.日本の医療の崩壊が始まっている

 貧困のひろがり、多くの非正規雇用労働者の無権利・過酷な労働という国民の労働や生活実態を無視して、健康や疾病(病気)の社会的責任の視点を欠いた健康政策が進められている。
 「団塊の世代」が、これから一気に後期高齢者制度になだれ込んでいく。高齢者の保険料は、確実に上がって、このままでは2倍くらいに引き上げないと制度が運営できなくなる。おそらく、10年もたたないうちに破たんするだろう、と専門家は見ている。
 もともと1983年に発足した70歳以上を線引きした、これまでの「老人保健法」も、当時日本弁護士会から『「自助」「連帯」は憲法25条の趣旨に背く』だけでなく、年齢差別は憲法14条の法の下の平等に反する疑いありとしていた。今回の「後期高齢者医療制度」は、それ以上に憲法違反の疑いが強い。
 今の日本の医療は「危機」というレベルではなく、すでに崩壊が始まっている。
 作家の澤地久枝さんは5月中旬、とある講演会で、「後期高齢者医療で、それまで扶養家族であった方が年齢によって被保険者となる。誰が保険料を払うのですか。例えば息子が負担するとして、すでに子どもの教育費にもお金がかかっていることを知っているお年寄りはすまないという気持ちを持つでしょう。社会の中の最小単位である家族を壊そうとする、そういう制度だと思うのです」と述べて、「敬老」精神ではなく「軽老」を助長する風潮だと強く批判している。
 負担増の凍結、見直し論議が盛んだが、次期衆議院選挙を意識した「その場しのぎ」とか、「ばらまき」などの批判が噴出している。どうも総選挙目当ての一時しのぎであることは明らかである。
 介護保険制度が始まった2000年を思い出そう。
 全員の保険料は半年無料で、その後1年間は半額だった。そのときにくらべると、与党の凍結案は本当にわずかな措置でしかない。介護保険創設前の様相とウリ二つである。

4.「うば捨て山」法は即刻廃止せよ

 75歳以上の後期高齢者だけで組織される健康保険は、誰が考えても保険としては成り立たないことは明らかであるのに、あえて高齢者だけの医療保険を創設するのは何故か。
 保険料は公費5割、若年者からの支援4割、後期高齢者の保険料1割、赤字につぐ赤字で保険料の見直し、引き上げにつぐ引き上げとなることが予測される。しかし、高齢の年金生活者が中心の健康保険であり、保険料の引き上げにも限度があり、また、若年世代へは「支援金」を負わせるということが仕組まれている。若年者の健康保険料通知に、その支援金分の明示を義務づけ、増額に反発や不満が出ることを、予め仕掛けている。
 その保険料負担増を抑制するためとして、高齢者の医療や診療内容に制限を加える、また、医療費総額に限度を持ち込む、などの医療水準の抑制が用意されている。
 制限された治療内容や薬剤、医療費総額など限度を超えたものは、自費診療となる。そのために、健康保険の診療と自費診療の併用、「混合診療の解禁」が準備されている。
 ここで出番を迎えるのが、その制限や限度を超えて自費とされた診療を肩代わりする私的健康保険である。
 もうすでに、「ハイレマスハイレマス」という宣伝で、高齢者を囲い込んでいるカタカナ医療保険が、療養給付型の私的健康保険として大化けすることになる。
 高齢者医療の給付水準の切り下げ攻撃が、高齢者に襲い掛かったあとには、次なる改悪の対象として、若年者の健康保険(公的医療保険)の給付水準を切り下げ、私的健康保険(民間の療養給付型医療保険)に加入しなければ、十分な医療給付が受けられないという改悪が、襲い掛かってくることも、また当然の成り行きである。
 とにかく、75歳以上の高齢者を74歳以下の国民とは異なる保険制度に強制加入させるもので、年齢で区切ることの合理的理由がない「後期高齢者医療制度」は、運用の見直しではなく、制度を来年の4月1日に廃止し、年金からの天引き徴収を遅くとも今年の10月1日までにやめること、いままで保険料を負担しなかった被扶養者からの保険料徴収を引き続き行わないことを強く求めていく必要がある。
 「後期高齢者医療制度」は、マスコミも注目しており、「朝ズバ!」で司会を務めるみのもんた氏や、「報道ステーション」の古館伊知郎氏なども連日この問題を取り上げ、厳しく批判している。
 そのほかにも、多くの著名人や、自民党内部の有力者までもがこの問題に関心を示し、撤回を呼びかけている。このような大多数の国民の動きが、与党も再度の手直しを余儀なくされるという事態を引き起こしている。
 現在の怒りを持続させ、野党4党が提出している廃止法案を成立させて、次期総選挙には、2年前に高齢者医療法案に賛成した国会議員は、全員落選させるぐらいの全国運動の展開を呼びかけるものです。(2008/05/30)

【参考】後期高齢者医療制度4月1日からの動き

 1日 制度がスタート、突然「長寿医療制度」に名称変更
 4日 厚労省「長寿医療制度実施本部」設置、初会合
10日 厚労省、保険証未着問題で事務連絡
11日 6万3468人(4/9現在)に保険証未着、厚労省が再度事務連絡、各地の医師会が相次ぎ「反対」表明(朝日新聞報道)
14日 福田首相、「説明不足を反省」
15日 832万人から保険料最初の年金からの天引き、「7〜8割の人は保険料下がる」としながら「正確な数字はいえない」(舛添厚労大臣)
17日 自民党「後期高齢者医療制度を考える会」設立
20日 山形で「天引きが苦」で心中か(共同通信)
21日 厚労省、都道府県への国の広報不足を陳謝、高齢者医療「評価せぬ」(「朝日新聞」)
22日 企業健保、高齢者医療費4300億円負担増
22日 厚労省が「長寿医療制度でここがよくなる!!」を作成
    障害者の強制加入問題で厚労相が改善を検討
23日 自民党山崎派が見直しを提言
24日 保険料天引きミス4万人、2億円超(「朝日新聞)
27日 衆院山口2区補選で与党候補大敗
28日 福田首相が舛添厚労相に点検を指示
30日 舛添厚労相「6月天引きまでに負担の増減調査」を約束