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自主・平和・民主のための広範な国民連合
月刊『日本の進路』2006年10月号

解体する社会保障―介護保険の現場から

看護師・ケアマネージャー  今村 まゆみ


 この三年間、各種年金保険料の引き上げや控除の縮小・廃止、定率減税の廃止など、勤労者と高齢者の家計を直撃する『実質増税』に加えて、医療制度、国民健康保険、介護保険法などが相次いで改正された。小泉構造改革は戦後の日本型社会保障の解体をすすめてきたが、いま現場はどうなっているのか。看護師たちが設立した会社で介護保険事業を担うケアマネージャーの今村まゆみさんに聞いた。
(聞き手:荒川区議会議員 斉藤ゆうこ)


相次ぐ法改正ですすむ社会保障の解体

□最近の社会保障を取り巻く状況をどう見ていますか?
■日本の社会保障がこんなに解体されてしまう、というのは本当に大問題です。安倍内閣に対する世論調査では「社会保障や年金を何とかしてほしい」という期待がありますが、実際には良くならずに更に解体がすすむでしょうから、国民はもっと怒らなければ、と思います。社会保障の中でも私が仕事上大きな問題と感じているのは、やはり医療制度改革、介護保険制度改正、そして障害者やその家族の大問題となっている障害者自立支援法です。
 医療改革では『リハビリの制限』が問題になっていますが、みずほ総研が「追跡調査」をし、制度自体の見直しになる可能性が出てきています。これはリハビリを利用する人の数が多かったこと、それと医師会の意見。やはり力があるんだな、と思いましたね。この件については先日四十四万人以上の署名を国に提出した、と報道されていましたが、他の分野でも、社会保障構造改革をすすめてきた結果どういう問題が起こっているのか、追跡調査をしてもらって、介護保険も障害者自立支援法も見直しをさせる、そういう力を国民が出していく必要があると思います。もう、みんな耐えられなくなっているんですから。

□障害者自立支援法はどうですか?
■障害者福祉を介護保険制度に一本化する方向だと思います。障害者も「自立」という名の下に責任を取らされる形です。『福祉』を捨て『商業ベース』に乗せた介護保険制度導入時と同じ「自己選択、自己責任」です。税ではなく、保険でまかなう形に持っていこうということでしょう。『措置』から『支援費』へ、そして『自立支援法』へと障害者の制度はめまぐるしく動いています。もう「障害者福祉」という考え方はないということですね。
 養護学校義務化や施設中心主義で隔離政策、半隔離政策を取ってきた国が、地域での受け入れ体制がないのに、急に「地域に帰りなさい」「働きなさい」「さあ、自分で選んで、自分で決めろ」と言い始めたのです。いきなり法律を変えこれまでの指導はなかったかのように「さあ、自立しろ」では、めざす方向性は良いとしても無理がある。地域での自立の準備が必要なのに。突然政策転換する行政の責任は重いな、と思います。

破綻する介護保険制度。『給付抑制』で「保険あってサービスなし」に

□昨年は介護保険法の『保険給付の抑制』を目的とした大改正がありました。どんな影響が出ていますか?
■介護保険は、今回の大改正で制度が破綻してきたことが良くわかります。もともと高齢者福祉の財源を国民から徴収するための法律だったと思いますが、今回の法改正で、5年半前の「全国均一の介護サービスの提供をすると共に自立を促し、家族負担を軽減する」という謳い文句すら完全に崩れ去ったと思います。しかも、国は『給付の抑制』と言ってはばからず、制限ばかりが目立ち、大幅に『保険外サービス』(自費)を拡大させました。これまで私たちがしてきた努力を「自立を阻害するから」と言って、ことごとく、あれダメ、これダメと。冗談じゃない。私たちが「自立をうながし、人生を取り戻してもらう」ために提供してきたサービスを『保険外』にしてしまえば、自立をうながすどころか悪化させることになります。『保険外サービス』は買える人だけ、お金次第ってことね。
 介護ベッドなどの福祉用具レンタルを例にとると、ベッドがあるから自分でトイレに行き、立ち上がることができたのに、今回の法改正で介護度の軽い人は「自分で立ち上がりなさい」と取り上げられてしまう。自治体の激変緩和策は、期限付き、所得制限付きで限界があります。「必要なら自費で買って下さい。『保険外』です」と。それでいて保険料は上がってるわけよ。みんな怒るよね。
 また、訪問介護のサービス量(回数や時間など)が制限されて大きな波紋になっていますが、訪問看護でも「保険事業は『居室』に限る」ということになりました。リハビリのために外を歩行することは『保険外』。まったく理解できないですね。下肢の筋力をアップさせ、閉じこもりから解放して社会性を拡大し、自立をうながすためにも心身のリハビリ効果はとても高いじゃない?それを保険対象からはずすだなんて!
 さらに今回は、これまでの『介護給付』を『新予防給付』と『介護給付』のふたつに分けました。介護度の低い人への『予防給付』は地域包括支援センターの単独事業にしたため利用者は混乱し、地域包括支援センターの方は利用者のケアプラン作成や訪問が追いつかず、パンク状態の所も出ています。
 『予防給付』なんてネーミングはいいけど、結局は自立を阻害するのではないかと現場では見ています。これまでケアマネジャーは状態変化に対応しながら、自立へ向けたプランをあれこれきめ細かく作ってきました。介護度の低い人程、智恵を絞ることが多かったのです。『予防』と称して介護度の低い人に必要な福祉用具とヘルパーさんの利用が大きく制限され、法改正に従順すぎる地域包括支援センターでは、これまでのサービスを「余分なサービス」であるかのように取り上げていますが、その結果、現場では落ち込み、閉じこもりになった利用者さんを何人もみています。こんなやり方では利用者は耐えらず、重症化させるだけのように思います。
 さらに、介護報酬で『生活援助』を『身体介助』より低く見ていることが大きな問題です。行為は違っても重要度に変わりはなく、特に『生活援助』における工夫は閉じこもりを改善します。ヘルパー教育にも問題があって、禁止ばかり。「窓拭いちゃいけない」とかね(笑)。それじゃ外の景色も見えないでしょう。今回の改正では「布団干しちゃいけない」ってなったのよ(笑)。「おとしよりを本当に元気にするためにどうするか」を考えず、対象療法しか考えていないと思います。

 社会保障構造改革とどう闘うか

□今後の見通しや世論づくりの方法について聞かせて下さい。
■介護保険は、もう『保険』の名に値しないと思います。保険料を払っているのに必要なサービスは受けられないんですから。自治体ごとのサービスの差も大きくなってきています。全国一律の保険制度として始めましたが、地方自治体の独自裁量で行う『給付の横出し・上乗せ』が違ってきて自治体間格差が拡大しています。市区町村の財政力と考え方次第で変わってくる訳です。
 社会保障費の拡大が言われていますが、一番増加しているのは生活保護だと思います。年金改革に合わせて『社会保障目的税』という名目の消費税増税もいずれ出てくるでしょう。弱者のための税を弱者から取るなんて、本当におかしいと思います。
 世論づくりが大事ですから、今後は利用者自身も声を上げ、介護事業者が連携して事をおこしたり、マスコミに訴えたりして、国民が誰かに頼るのではなく自分たち自身で行動し、一丸となって機運をつくっていくのが良いと思います。
□私たち地方議員も全国の地域から集まって、社会保障改悪にストップをかける超党派の厚生労働省交渉をやりたいと思っています。今日は忙しい中、ありがとうございました。